海の絶望感みたいなところを書きました
──それ最高ですね。制作についても聞かせてください。制作環境はどんな感じだったんでしょう。
リズム隊とか他の楽器に関しては、ほとんどリモートでやらせてもらいました。今作でもドラムを叩いてくれている神谷洵平くんのアルバム『Jumpei Kamiya with…』に参加させてもらったときに音源をお互いに送りながら作っていったんですけど、その過程がおもしろかったんです。こういうやり方でも完成するんだなという発見があったし、そのやり方が自分に向いている気がしたので、今回は自分の作品でもやってみようと。
──リモート制作がどうして自分に向いていると思ったんですか?
単純に出不精で...(笑)。あと自分の家のオーディオ環境や、イヤホン、ヘッドフォンでもじっくり聴けますし。1時間くらい散歩した後にもう1回音源を聴こうとか、何回も聴きなおしながらゆっくり答えを出せるのがいいなって。
──デモはどのように?
歌とギター、ドラムやベースなど、色々軽く打ち込んだデモを自分で作っています。6曲目“Canopus”と12曲目“The Bell”に関してはプロデュースをRayonsさんにお願いしました。
──ラフミックスもご自分で?
そうですね。もらったデータを元にまた自分でギターやヴォーカルを重ねていって、全部揃ったらラフミックスみたいなものを自分で作っています。それをまとめてエンジニアの佐々木優さんに送って、やり取りしながら今作は仕上げていきました。
──“ Here We Go Again”は、最初におもしろいノイズ音が入っているけど。
ネットのフリー素材を見つけて、すごく温かみのある音だと思って自分で入れました。この曲はすごく遠い未来に地球から脱出した宇宙船が宇宙を漂っているようなイメージで作ったので、古いようで新しい感じがあって。このノイズ音は、たぶんヨーロッパの古い機材から出ている音のような気がするんですけど、それが曲のイメージにもあっているなと思ったんです。
──自宅で全て完結するということは、満足いくまで永遠にやり続けることができちゃうわけですよね。スタジオみたいに時間の制限がないので。それって大変じゃないですか?
そうなんですよね…。めちゃくちゃ録りなおしてます(笑)。「これも入れようかな」というアイディアも無限に出てきちゃうし。たしか去年の夏か秋頃にデモができて、ミュージシャンの方からベーシックを録って送ってもらったのが、暮れくらいのことで。なのでデモができてからメンバーに共有するまで時間がかかったんですけど、この空白は他のデモを作ったり、具体的な曲のイメージとかアレンジを考えていました。そしてメンバーから戻しがあったら、そこからさらに自宅で歌とギターを調整していくっていう。長い過程でしたね。
──ヴォーカル録りにいちばん苦労されたのはどの曲ですか?
“Ocean Is Another Name for Grief”かな。技術的にはそんなに難しいというわけでもないんですけど、感情の乗せ方とか… なんか難しかったんですよね。抒情的というか、さらっと歌ってしまうのはすごく勿体無いなって。最後まで「これでいいんだろうか」と思いながら歌っていました。
──これはどういう世界観?
タイトルを直訳すると「海は悲しみの別名」という意味で。それで「海は悲しみを表すもう一つの言葉」と言っている人は他にいるのかなと思って調べてみたんですよ。そうしたら「悲しみは海ではないからすっかり飲み干せる」というロシアのことわざを見つけて。わたしの詞とは反対のことを言っているんですけど、その考え方もおもしろいなと思って。でもやっぱり私は「海は悲しみ」だと思うんです。
──海をみながらそう思ったんですか?
そうですね。昔は新潟に住んでいたので、日本海にいることが多かったんです。だから海は静かな場所というより、荒れ狂っているイメージが強くて。そういうのも影響している気がしますね。海はすごく綺麗だけど、深くて怖くて汚いところでもあるじゃないですか。そういう海の絶望感みたいなところを書きました。