REVIEW 1 『Shuttle Loop』
『アイモカワラズのマナーで、ユーモラスに示される矜持』
文 : 高岡洋詞
メジャー・デビューから4年5か月、前作『ドリーム銀座』からは3年4か月ぶりのフル・アルバムだが、ドラムンベースとスラッシュ・メタルを掛け合わせたようなトラックに乗って全力疾走する冒頭の表題曲から「最CORE」「よっしゃっしゃっす〆」「184045」といった「サ上とロ吉用語」連発。すっかりうれしくなってしまった。
生まれ育ったドリームハイツと地元・横浜のヒップホップ・シーン。フッドへの愛着を揺るがぬバックボーンに、サ上とロ吉が20年を超える活動のなかで生み出してきたローカルな言い回しの数々は、間違いなく彼らの強みである。久々だな、聴いてみるかとなにげなく耳を傾ければ、アイモカワラズの言葉でアイモカワラズのアイデアとスピリットをアイモカワラズのマナーで歌っている。何年ご無沙汰しても会えば昨日の続きみたいに話せる気のおけない友人のような親しみと安らぎは、彼らの最大の美点のひとつだ。
元気よくブチ上げる曲は前述の“Shuttle Loop”ぐらい。トラックはメロウなミディアム揃いで、リリックもやるせなくブルージーだ。ユーモアももちろん健在で、 “RAW LIFE”の鎮座DOPENESS、レゲエ・ナンバー“MONEY” の漢 a.k.a. GAMI(スキット“?????”の「サイプレツ」は何度聴いても笑える)、“万華鏡”のKEN THE 390にTARO SOULと、戦友たちの力も借りて見事に“おもしろおかしく”展開させている。
40年も生きていれば己のポテンシャルにも見極めがつく。苦い経験だってたくさんあるし、おいしい思いも多少はしている。イヤでも思慮は深まり、価値観が変わり、背負うものも増えてくるから、若い人たちのように「カネを稼ぐ」「あいつはダサい」「でかいことやる」と強気に言い切ってばかりはいられない。〈見るとやるのじゃ全然違う / 夢見てたカネ稼ぐB BOY / 現実は理想よりしんどい〉(“184045”)とこぼすこともあるし、目標が〈稼いだ証? 首元のゴールド〉から〈よりも出来るだけ伸ばすゴールを〉(“STANCE”)に変わってくるのも自然なことだ。
それでも両の拳を構え直して〈皆んな知ってる最後の魔法 / 『破壊と再生』まだ出来るだろ?〉(同)とか〈何が咲くかは分からないけど / 手の中の種を植えよう〉(“おもしろおかしく”)とヒップホップの可能性にあえて身を投じてゆくさまには、〈いろいろあるよ いろいろね / ハー そんなこたあ どうでもいいじゃねえか〉(“いろいろ節”)の植木等イズムにも通じるやけっぱちエネルギーがみなぎっているし、〈見てきた世界はちっぽけだから / 幾つになってもふざけるのさ〉(“COCOLO”)の謙虚な宣言にはどうしたってグッときてしまう。もともとやたらとボーストするタイプではないが、頭が高くも腰が低くもなることなく、素直に、たくましく歳を重ねているなと思う。
アルバムは9曲目の“NICE DREAM”からポエトリー調の10曲目“少年・オン・ザ・DRM”でノスタルジアと仲間への思いに収斂し、最後の “184045” でZZ PRODUCTIONとともに再び外へ、未来へと向かっていく。〈理想なんてほころんだけれども / この生き方は金よりも尊い / 今じゃ誰もが知ってんだろ / そう184045〉のくだりは “RAW LIFE” で鎮座DOPENESSが歌う一節〈横浜ドリーム皆んなが知ってる〉と呼応し合っている。こうした控えめな、しかしだからこそ素直に受け入れられる矜持の表明が、アルバムのそこここに現れる。収縮と拡張、緊張と弛緩、クイックとスローのドラマチックなダイナミズムは、トラック選びの的確さとともに、これまで数々の名作をものしてきたサ上とロ吉のアルバム作りのうまさを証明している。
高岡洋詞
神奈川県横浜市生まれ。日本三景・天橋立のそばのド田舎で育ち、大学進学とともに上京。『ミュージック・マガジン』編集部を経て、現在はフリー編集者/ライターとして活動中。
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