衝撃的な表現をすることで開けられる風穴はある
──“口にだして”はウィットに富んだリリックで聴いていて面白いのですが、僕は個人的に気恥ずかしさも感じてしまうんですね。ともすれば、この曲で女性らしさを安売りしているのではないかと思う人もいるかもしれません。でも、振り返ればAwichさんのアルバムには必ずエロスがありますし、過去にエロスをテーマにした短編映画まで撮られていたりされますよね。そうなると、そこまで一貫してエロスを表現し続ける動機が何から湧くのかが気になるんです。
エロスの要素は小さいときから書いていた詩のころからずっとあって、エロい人にも興味がありましたね。性行為は全動物がやってるのに、人間だけが意味を与え、拒否感や魅力を強く感じる。それは何故だろうと高校生くらいから思っていて、いまもそうです。かといって私はセックスを全員がおおっぴろげにするべきとも思ってないけど、世の中はそれこそ「女性がエロスを見せちゃ安売りになる」とか「こうあるべき」という押しつけが、特に女性のエロスに対しては強いんですね。それに対して、衝撃的な表現をすることで開けられる風穴はあると思っていて、「その規制意味ある?」っていうことを提議したい。そんな曲です。
──“Heartbreak Erotica”、“口に出して”、“どれにしようかな”、“Follow Me”と続く流れは、どれもエロスが根幹にある曲ですが、母親でありながら性の表現をするのは、簡単ではない思うんです。しかし、Awichさんはそれを自然に貫けるのは、愛娘のトヨミさんの存在も大きいのかなと思ってまして。
私は娘が5歳くらいのときにセックスについて教えていて。そのときも「好きな者同士なら、なんで裸見せると思う?」と私が聞いたらトヨミは「裸が綺麗だからでしょ」って答えたんです。だから私も「そうだよ」って。それで終わりなんですよ。
──トヨミさんのエピソードは曲やインタビューに多く登場しますが、若くして既に達観してますよね!
そう! 1回「人間何回目?」って聞いたことがあって、「うーん、6回目」って(笑)。
──Awichさんとトヨミさんのような親子関係を築くには、どうしたらよいのでしょうか。
私たちは究極的な話をすることが多いんですよ。「学校行きたくない」「だったら行かなければどうなるかやってみようよ」とか。「おじいちゃんとおばあちゃん嫌い! 」「じゃあ死んだ方がいいかな?」とか、根本的な話ができるんです。旦那が亡くなったころに周りがトヨミに「お父さんは遠いところにいったよ」みたいに隠そうとしたけど、それも止めてくださいと。お父さんは死んで、もう一生会えないって教えて、トヨミには先に現実を理解してほしかった。子どもって大人よりも真実に対しての順応力があると思うんですよ。大人が「セックスはだめ」「人の死は悲しい」と自分の固定概念を押し付けて嘘をついたり隠したりする。だけど、子どもは絶対にオープンなんですよ。そうして子供は自分で道を切り開いていけると私は信じてる。もちろんケンカもいっぱいするんですけど、コミュニケーションを透明にして、完全に心を開きあっている。それがいいのかなー。まあ天才だしな、あいつ(笑)。
──根本から話し合うことで、一緒にゼロから考えるんですね。他にも楽曲の質問をさせていただきたいのですが、1曲目“Queendom”を聴いた瞬間、ZORNのアルバム『新小岩』を思い出しました。どちらも出自をストレートにラップしてから〈日本武道館〉にも触れたり、アルバム・タイトルと同じ名前の1曲目で、2曲目への溜めを作るようなビートですし、共通項が多いんですよね。“Wonder Infinity”はおそらくリモートでの共演かとおもいますが、ズバリZORNさんの存在を意識されますか。
もちろんです。ZORNさんは日本武道館を先にやった先輩ですし、すごいって思うからか見ずにいられない。私は良いか悪いか、「AwichとZORNではスタイルが違う」っていわれてもあんまりわからないんですよ。説明されるとわかるけど、私はZORNさんをかっこいいと思うし、ああいうラップもしてみたい。“家庭の事情”とかも聞いててカッコイイと思うし、完全に先輩として勉強させていただいてますね。