2022/03/04 17:00

FUJI──継ぎ接ぎの翼が導くカタルシス


数多くいるアーティストのなかから編集部がグッときたアーティストを取り上げる新企画〈OTOTOY Search〉。連載〈OTOTOYの「早く時代がついてこい!」〉をバージョンアップし、ショートレヴューとインタヴューで若手アーティストをご紹介していきます。記念すべき第5回は昨年10月にEP『煌めき』のリリースをもって突如現れ、3月5日に〈幡ヶ谷フォレストリミット〉での自主企画〈Climax Angel〉を開催するFUJIにメールインタヴューを行いました。

REVIEW

文 : 津田結衣

茹だるようなコロナ禍の夏に制作されたというEP『煌めき』が昨年の10月にリリースされた。リリース時のFUJIの情報はAVYSSに掲載されたプレスリリースのみで、そこには「MineralやPenfoldのような90年代エモの影響」があるというふうに書かれていた。とはいえ、その音楽性は、マスロックの要素やアルペジオの多用というより、むしろストレートに響く歌とグランジを彷彿とさせる歪んだギターが主な部分を担っている。本人がインタビューで“「創作物で恥を吐き出したい」”とエモと作品の関係性を述べるように、カタルシスの受け口としてのエモの表現のあり方はこの作品に通徹しているものだ。鬱屈とした内に秘めた言葉が鋭いバッキングと共に吐き出されるときのザラついた快感が、『煌めき』を通して感じられる。

FUJIのカタルシスはまた、かつて居た場所での感情を反芻させ、取りこぼした言葉を紡ぐことで生まれているように思える。その要素は「教室」「校庭」といった歌詞のワードから十分に見られるだろう。しかし、制作において“自分と友達とを対話させながら作った”という今作には、過去を振り返るときに設定されるような仮想敵も偶像も登場しない。ひたすらに自身と向き合うプロセスを辿った内省の先にある解放。自身の過去に立ち返り、ちぎり捨てた翼を拾いあつめ、そして飛び立つ姿。作品が想起させる情景は、聴いたものを「あの日」に送り返し、そこから飛び立とうと踠くための空間へと導く引力をもっている。

MAIL INTERVIEW

10代の自分と友達とを対話させながら作った

──FUJIとしての制作をはじめたのはいつ頃でしょうか

2021年の10月にEPを出そうと決めてから、FUJIを始めました。僕自身の名義というよりはプロジェクトの名前のつもりです。

──FUJIと名乗る前からSoundcloudの活動をされていたそうですが、そのときはどういう音源をあげていたんでしょうか。

覚えてもいないくらい適当な名義でデモを上げて、後から聴き返しては消してを繰り返していました。colormalに影響され過ぎたJ-popを上げていた覚えがあります。

──自身で挙げられるようにMineralやPenfoldのようなミッドウエストエモの芳香がありつつ、メロディはそれよりもストレートだなと感じました。他にリファレンスがあれば教えていただきたいです。

メロディは自分にとって気持ちがいい符割りで歌えられれば良いので、結果的にJ-pop的なメロになってるのかもしれません。七尾旅人の『雨に撃たえば...!disc2』と麓健一の『美化』は曲の空気感においてかなり影響された作品です。 所謂初期エモのバンド群とはアプローチは違うんですが、「創作物で恥を吐き出したい」という点で近いと思います。

──特に“Ain’t no fear”はラップトップでのバンドサウンドという他の曲とはまた異なり、オートチューンのようなものも使われていますが何か参照したものはありますか?

オートチューンではなくてイントロでヴォコーダーをかけたコーラスを使っています。“Ain't no fear”にはリファレンスが特になくて、頭のなかのイメージそのままを形に出来ました。曲に必要とあらば特に抵抗なくデジタルクワイアでも何でも使います。

──『煌めき』を作りはじめたのはコロナ禍の夏だったとのことですが、パッケージとしてこういうものを作ろうと決めてから制作を始めたんでしょうか? 何か「これ」を表現したいという感覚があったのか、当時のことを教えてください。

2021年の夏から制作を始めました。初めからコンセプトがあった訳ではなく、SoundCloudにアップしていたデモをまとめようと思ったことがきっかけです。EPでも未発表の曲でも、「教室」「窓」「青」という割と自分のなかでは一貫したイメージの歌詞が出てくるんですが、それもEPに収録する曲をリストアップしたときに気づきました。 レコーディング中は10代の自分と友達とを対話させながら作ってました。教室が嫌いなのもそこで恥や憤りを覚えたのも誰かのせいにすることは絶対に嫌だったし、全部自責だと思っているのでそこは間違えないように作りました。なので、そういうイメージで聴いて欲しいと思ってます。聴き手の勝手といえばそうなんですけど。

この記事の筆者
TUDA

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[インタヴュー] FUJI

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