存在感次第で大きく印象が変わる
──では、それぞれの曲について聞かせてください。まずは、1曲目の“ボクとキミの道しるべ“。
ニラジ : さっき言っていた「チャールストン」というキーワードは共有されていたものの、僕としては「古い感じのサウンドにしたいのか、今風なサウンドのなかでチャールストンの時代の匂いが感じられればいいのか、どっちなんだろう?」という疑問があって、ソラちゃんに質問したところ、「どっちでもいい」とのことだったので、とりあえず1回録ってみたんです。で、最初は2000年以降のサウンドにしたんですけど、4曲揃った時、他3曲もわりと攻めちゃったので、この曲をあんまり綺麗にしすぎると流れがよくないなあと。そう思ったので、ちょっとずつ音を汚していって、90年代、80年代、70年代……と古い感じに持っていきましたね。
イズミカワ : 最初に録ったのがこの曲だったんですけど、録る前にフジケンさんがすごく練習してくれていたんですよ。私はキーボーディストなので、曲を書くとコードが難しくなりがちで、ギタリストの方が苦戦してしまうという……。
──しかもこの曲のギター、裏でかなり細かく動いていますしね。
イズミカワ : そうなんですよ。だからちょっと申し訳ない気持ちがあったんですけど、ソロはさすがのフジケンさん節で、「ソラちゃんこんな感じでいいかな?」ときかれた時、「バッチグーです!」って答えちゃいました(笑)。
ニラジ : ミュージシャンのみなさんは「この作品をどうやって形にしていこうか」とすごく真剣に考えてくれていましたし、僕から見た印象ですが、すごく冷静な方々でしたね。だけど「やっぱりこの曲はこのスネアを選んでよかったですね!」とか「このベースも、これくらいいなたい感じにしてよかったですね!」とか、そういう会話で盛り上がったりはして。そういうところで僕もめちゃくちゃテンション上がっていました。
──2曲目の“日常的存在証明“は、マイナー調でスピード感のある曲ですね。随所に挿入されている無機質な声がちょっとシュールで印象的でした。
イズミカワ : 前に楽曲提供のために書いた曲がモチーフになっているんですけど、この曲も“Continue”と同じくネットの世界のことを書いているんですよ。だからこの声は、いわゆるネット民の声(笑)。
ニラジ : なるほどね(笑)。
──イントロ~Aメロにある連符系のピアノリフもスリリングですね。
イズミカワ : 元々打ち込みで全部作っていたんだけど、「これを生でやったらどうなるかな?」「いや、絶対に生で弾くんだ」「多分この3人だったらできるんだろうな」というところからはじまっていて。で、実際にやってみて、「はい、できました!」という曲です。
ニラジ : この曲はスネアの音ですべてが決まっちゃう感じですよね。スネアがずっとロールをしているので、そこさえ決まっちゃえば、歌とスネアで自然とグルーヴができるんじゃないかと。そう考えてスネアにいちばんこだわりました。それ以外に関しては、音をどう汚していくかという発想でしたね。
──3曲目の「あなたの近くにいていいかな」はバラードで、イズミカワの歌とピアノにバンドが寄り添っているようです。
イズミカワ : この曲、実は物議を醸しまして。私は1番はほぼ弾き語りで、あとから他の楽器が出てくるのがいいと思っていたんだけど、ドラムのマスケさんから「もっと早くからリズムが出てくる方がいいんじゃない?」という意見をもらって。「私はこれでいいと思うんだけどな」「僕はこうした方がいいと思うけど」みたいな感じで、一瞬、いい意味でバチッとなりました。結局、私の意見が通ったんだけど(笑)。
ニラジ : ははは。
イズミカワ : こういう楽器の数が少ない曲っていちばん難しいですよね?
ニラジ : いや、この曲はそんなに大変じゃなかったですよ。僕としては、日本武道館のような、どこか広いステージでソラちゃんたちが演奏しているところをイメージして。それをミックスで再現したかったんです。ステージの広さを表現するためにはなにを変えるかというと、ドラムの音なんですよ。ドラムって基本ステージのいちばん後ろにいるじゃないですか。ファンの人からいちばん遠いところにいるから、その存在感次第で大きく印象が変わる。だからスネア一発にしろ、音が空間に残る長さを細かく調整しながらサウンドを作っていきました。でも、それ以外は特殊なことはやっていないですね。
イズミカワ : でもストリングスを入れる場合、本来ならバイオリンとビオラとチェロと……という編成になると思うけど、この曲は、バイオリン2本しか入っていないじゃないですか。そこをまとめていくのが多分難しかったんじゃないかと思ったんですよね。
ニラジ : ああ~。ストリングスに関していうと……普通バイオリンがふたりいる場合、ひとりがファーストのパート(主旋律や高音域)、もうひとりがセカンドのパート(ハモりやファーストより低い音域)を弾くケースが多いんですけど、そうではなく、最初にふたりで一緒にファーストを弾いて、そのあとセカンドをふたりで一緒に弾いてほしいという提案はしました。それでもローが足りないと感じたセクションでは、さらにオクターブ下を入れてもらったんです。そういう技を使って厚みを持たせたので、ビオラやチェロがいなくても、そんなに軽くは聞こえないようになっていると思うんです。