それを利用するしないはその人たちの自由
──そのクライマックスがアンコール1曲目“アホな友達”での“黙唱”だと思うんですけど、あのアイデアはどこで?
マコイチ : 直前の通しリハで「お客さんもふくめてみんなで手話をやってもらったらいいんじゃない?」というアイデアがなんとなく出て。
ペン子 : 事前に説明をしてから、入ろうかなって話になりました。
仲原 : “アホな友達”の動きをコーラスのふたりがやってたんですよ。その感じが良かったので、せっかくならお客さんも巻き込んでみるか、というくらいの軽い気持ちでした。
マコイチ : “黙唱”っていう単語もその場でたまたま出てきただけです(笑)。ライヴ当日までは「手話の人たちがいるからみなさん覚えてください」っていう教科書的な頑なさにはなりたくないという意識はあったので。特殊なケースとしてやってる感じじゃなくて、もっとナチュラルに当たり前のこととしてやりたかった。だから当日まではちょっと固いかな? とも思っていたんですが、やってみたら想像よりも自然な空気でお客さんも盛り上がってたから、スッといけた気がしますね。
──新しいダンスの振りを覚えたくらいの感じになってましたね。
ペン子 : みなさんがやってくれてたんで。
マコイチ : 「アホな友達 泣けた!」ってツイートが流れてくる日が来るとは(笑)。
──ライヴが終わってみてすこし時間が経ちましたが、いろんなフィードバックがあったんじゃないですか?
マコイチ : 見にきてくれた人は「映像がついているかのように感じた」とか言ってくれましたね。ただ一方で、今回は初めてやってみただけだし、実際にろう者のかたに見ていただいてどうだったのか、そういうフィードバックは僕らも分かってない。
仲原 : 実際(ろう者のかたが)どれだけ見てくれたかってことも分からないですしね。
マコイチ : やっぱりこちらだけが「良かったね!」と盛り上がって終わるだけにしたくないとはずっと考えていました。否定的なニュアンスではないけど、率直に「どれくらい需要あるの?」って意見もあったし。ただこれは需要のあるなしで決めることじゃないから。ガラガラのバスも昼間には走っているけど、需要があるなしで言ったらそのバスを走らせることができなくなるわけなので。別に僕らは公共事業でバンドやってるわけではないけど、(今回の試みは)こちらが選択肢を用意しておくことであって、それを利用するしないはその人たちの自由ですから。今回の車椅子スペースとかもそうだし。
仲原 : だけどその選択肢が存在しないと、利用することすらできないわけだからね。
マコイチ : ろう者のかたが音楽イベントに行って楽しむことがあるってことは知ってたんですけど、ただ我々だけがこれをやって盛り上がるというよりは、もっと手話通訳付きで見たいアーティストやライヴが他にいっぱいあるんじゃないかなと思うので、これが段々スタンダードになって選択肢が広がることになるといいかな。何十年か後には「(昔は手話通訳は)思い出野郎とか一部のライヴにしかなかったんだよ」「マジで?」みたいな感じになったり。
──ペン子さんからしても「こういうやりかたができるし、やった」という結果を残していく気持ちも強かったということですよね。
ペン子 : そうですね、1番最初にthe HIATUSのの武道館で手話通訳をやろうとなった時も、矢野顕子さんが「アメリカのフェスで手話通訳をつけたのがいいな」ってTwitterで呟いていて、矢野さんが細美(武士)さんに「あなたこれ素敵よ、やってご覧なさいよ」というふうに言ってくれていて、そこから話が始まって私のところに話が来てということだったので。必要とされてやれるチャンスがあるならやってみたいなっていうのはずっと思っています。
マコイチ : バンド側も費用とか準備期間とかいろいろあるし、誰しもがいますぐできるわけではないだろうけど、チャンスがあるのならやってみるといいし、取り敢えず今回は課題もまだまだあるけれど、ある程度の成功例がひとつできたのは良かったかなと思ってます。他の人も「これだったらやってみようかな」と思えるぐらいになったんじゃないかな。
──いちばんよかったのは、手話が入ることでさらに楽しくなったことですね。僕らはろう者ではないから伝わり方は想像するだけだけど、もし(ろう者で)見た人がいたら歌っていることの意味はわかったわけで。それは僕らではできない場所に届ける行為でもあるからうらやましい、と思いました。記事を書いたから読めばわかるってことではない。
マコイチ : ライヴにおいて歌詞の内容だけじゃなくて、誰が歌っているかってことが大事なように、手話通訳の皆さんも歌詞を踏まえて、それぞれのスタイルで同じステージから表現してくれることで、想像以上に一緒に演奏しているんだという実感がありました。最近“君と生きてく”っていう曲をリリースして、歌詞を書いているときは手話通訳のことは考えてなかったんですけど、今回のライヴを通して、歌詞の中で〈高い壁の向こうに〉って言ってるその“壁”って、自分の外というよりは中にそれぞれが作ってしまうものなんだなってことを改めて思ったし、〈真夜中のコーラス隊〉なんてまさに通訳の人たちのことじゃんと。メロウすぎるかなと思ってMCでは言いませんでしたけど。
──今回のライヴでは、バンドもお客さんも「いいドアのノックの仕方を覚えた」という気がします。実際にろう者のかたの心のドアをノックできたかは分からないですけれど、みんなが気にして、自然に意識していくことが第一歩だと思うので。だからはこれはやり続けるしかないことなんでしょうね。日本のフェスとかは手話通訳がマストとかになってもいいわけで。そういう試みの第一歩だと思いました。
マコイチ : そうですね。今回で何かが達成できたとは思わないし、まずこちらが学びながら実践するスタート地点に立ったのかなと思います。そして、もちろん僕らがやったから偉くて、導入しないイベントが悪いっていうことではないと思います。それだけは言っておきたいです。コロナ禍でもあるし、みんな大変な状況だし、こういうことに興味はあるけど余裕がない人もいると思うので。ただチャンスがあるならやってみるのはおすすめです。
仲原 : マコイチがMCで言っていたけど、手話通訳に興味があれば僕らに連絡してくれたら協力したいなと思ってます。ただ、僕らだけで広めていくのは無理なこともたくさんあるので、国が社会保障の一環として、どんな人でも楽しめる環境づくりに力を入れて欲しいなとも思います。
──そこはオープンソースでいきましょう、と。最後に、来年以降、思い出野郎のライヴでまた手話通訳を体験できる機会はありそうですか。
マコイチ : そうですね……。やりたいですけど、(ペン子たちが)「またこいつらか」みたいになりませんかね(笑)。
ペン子 : お誘いをお待ちしてます(笑)。
マコイチ : 「あの揃いのジャージ着たくないな」みたいな(笑)。
ペン子 : ないですないです(笑)。
編集補助 : 津田結衣
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