Arturo O’farrill 『...dreaming in lions』
NY最高のラテン・ジャズ・ビッグバンドのアフロ・ラテン・ジャズ・オーケストラを率いて活動している名作曲家アルトゥーロ・オファリルが少しだけ人数を減らした10人編成のアフロ・ラテン・ジャズ・アンサンブルで録音した新作。大作志向で凝りまくっていたこれまでのサウンドから、少し削ぎ落とされたサウンドになっていて、そのグルーヴだけでも楽しく聴けるアルバムに仕上がった。シンプルなグルーヴの魅力を前面に出した楽曲も多く、コズミックなジャズ・ファンク「Despedida: Ensayo Silencio」や軽やかなフュージョン「Dreaming In Lions: How I Love」のようなDJでかけたくなる曲があったかと思えば、リズムがどんどん切り替わるややこしさをグルーヴさせるさまに心躍る「Dreaming In Lions: Scalular」があったり、〈ブルーノート〉に移籍したから発表できたのではと思えるような曲が随所に。ちなみにトランペットソロで大活躍のAdam O'Farrillと、本作の強力なリズムの要でもあるドラマーのZack O'Farrillはふたりともご子息。超強力なファミリー・アルバムでもあります。
Remy Le Boeuf 『Architecture of Storms』
前作『Assembly of Shadows』も年間ベスト級だったジャズ作曲家レミー・ル・ブーフのラージアンサンブルの新作。個人的にはインディーロック好きのジャズ作曲家のイメージがあり、楽曲の中で随所にミニマルなピアノが入っていたり、生楽器のアンサンブルだけでエフェクトっぽい音使いを模してみたりするので、最も馴染みやすいラージ・アンサンブルの作曲家だとも思っている。わかりやすいのはボン・イヴェール「Minnesota, WI」のカヴァーで、原曲ではシンセやホーン、ストリングス、ヴォイスなどを重ねたプロダクション比重の大きいサウンドで、エフェクトもミックスもかなり施されているが、それを生楽器のアンサンブルで鳴らすために微かにずらして鳴らすユニゾンや不協和音、ヴィブラフォンなどを駆使したり、管楽器奏者が奏法そのものを工夫したり、通常のビッグバンドとは異なるギミック的なアイデアがたくさん入っているのも聴きどころ。「The Melancholy Architecture of Storms」では前半部はミニマル・ミュージック的なサウンドのクラシカルなアレンジで、そこからサックス・ソロが始まると一気にインタープレイにフォーカスが移り、全体のムードがジャズに切り替わっていくように感じられるのが面白い。終始美しい聴こえる美しいピアノは日本人ピニストの加藤真亜沙。前作に続き、彼女のピアノの貢献度が絶大。
Johnathan Blake 『Homeward Bound』
上記のアルトゥーロ・オファリルなど、実力派が〈ブルーノート〉と契約する事例が増えていますが、ついに現代最高峰のドラマーのジョナサン・ブレイクまでもがリリース。〈ブルーノート〉だからか、アルト・サックスのイマニュエル・ウィルキンス&ヴィブラフォンのジョエル・ロスの同レーベルの若手コンビに、ピアノはダヴィ・ヴィレージェス、ベースにデズロン・ダグラスと今、最も刺激的なメンバーが集結した上に、そのすさまじいクインテットにより、これまでジョナサンが自身のリーダー作品でも見せてきた作曲家としての素晴らしさが存分に発揮された彼の新たな代表作が生まれたかと。ハイブリッド云々関係ないど真ん中ストレートなコンテンポラリー・ジャズですが、その質が高すぎて、手放しで喝采せざるを得ないアルバムに。ジョナサン・ブレイクの名前で動画や画像を検索してみてもらうとわかるんですが、すべてを腰の少し上の高さに水平に並べた変則的すぎるセッティングのドラムセットを、力の抜けたしなやかな動作で叩くあの軽やかなショットが目に浮かぶようなジョナサン・ブレイクのスウィングがあまりに心地よい。そして、そのリーダーの軽やかさを共有する繊細な演奏を繰り広げる4人。これもブルーノート・マジックの賜物なのでしょうか。