2021/12/08 16:00

Joyul 『Earwitness』

ある日、韓国インディー・シーンの顔役であり、筆者の友人でもあるパク・ダハムからいつものようにDMが送られてきた。「僕のレーベルの新作です。時間があったら聴いてみて」というメールに書かれたリンクをクリックしてみると、自身の歌声やフィールドレコーディング音源を散りばめたディープなアンビエントが流れ出した。ジョユルは韓国のソウルを拠点とするアーティストで、本作はパク・ダハム主宰の〈ヘリコプター・レコーズ〉と〈サイキック・レベレーション〉の共同リリース作品となる。幽玄なアンビエント・フォークにはグルーパーあたりと共通する感覚があり、アキツユコやフィラデルフィア在住の韓国人アンビエント作家、ルーシー・リユらによるリミックスにも聞き応えがある。……と、ここまで書いて、ジョユルが2019年にアルバム『A Treasure Ship』をリリースしていたシンガー・ソングライターだったことに気づいた。同作はアコギ一本で静かに爪弾かれる現代アシッドフォーク作品だった。この新作にも当時の面影はあるものの、新たなアンビエント・アーティストのデビュー作と捉えることもできるだろう。

250 『Bang Bus』

ポンチャックは韓国の中高年のあいだで親しまれてきた高速の大衆ダンス音楽。15年ほど前までは韓国を代表する音楽というと「K-POPとポンチャック(というか、イ・パクサ)」と断言する人も日本では少なくなかったが、現代ではほとんどいないだろう。一方、現地では若い世代によってポンチャックの再解釈が行われているようだ。250(イオゴン)はNCT127やf(X)、BoAらの楽曲を手がけてきたプロデューサー。イーセンスやビンジノらと共にレーベル/マネージメントのBANA(Beasts And Natives Alike)に所属しており、メジャー/アンダーグラウンドの垣根のない活動を展開している。この曲は2022年2月にリリースを予定しているデビュー・アルバム『Ppong』のリードシングルで、BPM160の高速リズムに乗って人懐っこい旋律が乗った現代版ポンチャックである。ユーモラスでレトロなムードたっぷりだが、疾走するビートには現代ダンスミュージックとしてのモダンな魅力も宿っている。一足先にデビュー・アルバムも聞かせていただいたが、こちらも素晴らしい内容。注目すべき逸材のデビューである。

本作品をOTOTOYにてロスレス音源で購入

Pal Hwang Dan 『2013​-​2021 Seoul』

韓国のソウルを拠点に活動するパルファンダンの新作は、ロンドンのチャイナボットから。2013年以来住んでいるというソウルをテーマとする作品だが、彼自身はソウルのベッドタウンである安養市育ち。そのため、ソウルという大都市に対する微妙な距離感が本作全体のトーンを決定している。どこか人を食ったようなシンセポップが全16曲に渡って展開されているが、そこには都市生活者としての孤独と不安も見え隠れしている。また、パルファンダンはインダストリアルやK-POP、アニメーションに触発されており、普段はCMやビデオゲームのサウンドトラックの作曲家としても活動しているという。そうしたバックボーンはどこかノスタルジックなシンセ使いからも感じることができる。なお、チャイナボットはこの2021年も数多くのアジア系アーティストの作品をリリースし続けており、ベトナムのピルグリム・レイドによる『Anna Agenda』などアジア産エレクトロニック・ミュージックの傑作を連発している。

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