2021/12/08 16:00

Li Yilei 『之』

ロンドンを拠点とする中国出身のサウンドアーティスト/パフォーマー、リ・イレイの最新作。盛岡夕美子や冥丁、7FOの作品も送り出しているイギリスのレーベル〈メトロン・レコーズ〉からのリリースである。12世紀初期に徽宗が描いた花鳥画『竹禽図巻』をあしらったアルバム・ジャケット、「TAN / 潭」「CHU / 處」などと各曲のテーマを一言で言い表した曲名からも伝わるように、東アジアの美学をはっきりと反映した作品だ。決して伝統楽器を全面に押し出しているわけではないものの、「電子音楽による短歌」とでもいった感覚があり、吉村弘など日本人環境音楽作家からの影響も感じさせる。本作はパンデミック初期、上海に戻るなかで得られたインスピレーションが少なくない影響を与えているようで、ある種の不安と混乱も端々に影を落としている。リ・イレイ自身はノンバイナリーの音楽家であり、『Specimen』や『Unabled Form』といった過去の作品では自身のアイデンティティーと向かい合った作品を発表してきた。本作ではより多彩な音楽世界に自身の作家性を解き放っている。

食中毒センター 『Hakimakuri Olympic』

食品まつり aka foodmanの最新作『やすらぎランド』もまた、2021年のベスト・アルバムのひとつである。ロンドンの〈ハイパーダブ〉からリリースされた同作で食品まつりがモチーフとしたのは、お土産、道の駅、フードコート、パーキングエリア、アジフライ、民宿、スーパー銭湯といった日本列島のリアルなトピック。外向きの「Japan」を演じることなく、ありのままの「日本」を描写しようという彼の試みは、時には日本人自身が囚われがちな「日本的イメージ」をアップデートし、拡張するものでもあった。本作はその食品まつりと中原昌也によるユニットのフルアルバム。ふたりは2017年に東京・西麻布の〈SUPER DELUXE〉で初めて出会い、2020年8月に東京・幡ケ谷のforestlimitでレコーディングを決行。即興演奏とオーバーダビング/サンプリングを繰り返し、本作を作り上げた。記号性を剥ぎ取られた音とビートがのたうち回る全9曲。『やすらぎランド』が食品まつりの日常から生まれた民族音楽としての側面があったとすれば、本作もまたふたりの暮らしからこぼれ落ちた溜め息や愚痴、笑いのようなものなのかもしれない。

TEACHI 『ISLAND GORGE 2』

「島ゴルジェ」なる自身のスタイルを打ち出す沖縄在住音楽家、TEACHI。沖縄民謡や同地の儀礼音楽を切り刻み、ヘヴィーなトラックの上で展開する作風は2015年の前作でも披露されていたが、その第二弾がリリース。タムが連打される呪術的なビートはゴルジェの特徴のひとつだが、TEACHIのビートにはエイサーや沖縄の各種祭祀音楽をディフォルメしたような感覚があり、そこに新鮮さがある。GORGE.INに掲載されたインタヴューによると、TEACHI自身、大学時代にエイサー・サークルに入っていたそうで、そうした経験が活かされているのかもしれない。なお、こちらのインタヴューにおいてTEACHIはこんな発言も残している。「沖縄音楽というとオリエンタルな視座で扱われ、ワールド・ミュージックとして消費されがちなんですよ。そこには力を持つものが辺境音楽として文化搾取している視座が含まれてしまっていると思っていて」――クラブ由来の音楽を制作しているプロデューサーのなかには、こうした視座が抜け落ちている者もいまだ少なくない。確かな知性と沖縄在住者としてのフィジカルな感覚が同居した、ポスト・ワールドミュージック的な感覚も窺える作品である。

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