CROSS REVIEW 3 『THE ZOMBIE』
『エモーショナルな歌唱と引っかかりの強い言葉で聴き手を巻き込んでくれる』
Text by 高岡洋詞
アイナ・ジ・エンドの名前と、彼女がBiSHのメンバーであること、ソロ活動もしていることは知っていたし、チラチラと耳にしたこともあったが、ちゃんと聴いたのは初めて。何人もの同業者がこぞって絶賛していたので、ちょっと「まかせた!」的な気分になっていた。よくないですね。いい機会をいただいたのでじっくり聴いてみた。
15曲にイントロダクション的なSE「ZB1」とボーナス・トラック「残って」を加えた17トラック。アレンジは亀田誠治と関口シンゴが3曲ずつ、Shingo SuzukiとGiorgio Blaise Givvnと河野圭がそれぞれ2曲、Shin Sakiuraと加藤隆志とAxSxEが1曲を手がけており、オルタナティヴ・ロックからポスト・パンク、ファンク、スカ、EDMなど(もっと混淆的だがざっくり形容)、スタイルはバラエティに富んでいる。
まず印象に残るのは個性的なハスキー・ヴォイスとリズム感のよさ。高音で張ってもうるさくないし、低音は迫力満点で、殺伐を歌ってもギスギスしない。3拍子の使い方がうまい。演技的にエモーションを込めても軸がぶれず、歌唱力の確かさがうかがえる。メロディもその声や歌と不可分な関係にある感触。作詞も音響とリズムを大事にしているようで、発語時に舌が快い言葉を選んでいるように聞こえる。
例えば「はっぴーばーすでー」「Sweet Boogie」には歌うたびに変わりそうなワン・テイクのノリがあるし(実際にどんなレコーディングをしたのかは知らないが)、「ロマンスの血」のメロディには譜割で遊んでいるような楽しさが横溢している。「ZOKINGDOG」の犬の咆哮や「誰誰誰」の巻き舌、“ぞ─────ン”(「ロマンスの血」の《損》)や“いダ─────い”(「Retire」の《痛い》)の長音、「家庭教師」で「ここ!」というところで決まるフェイクなどなど、意味以前の音響的快楽も満載。エモーショナルな歌唱と引っかかりの強い言葉で聴き手を巻き込んでくれるから、あたかも自分が歌っているかのような気になって、とても気持ちがいい。
これだけ芯の強い歌と曲があればアレンジャー諸氏も気遣い無用……というわけでもないだろうが、「勘違いべいびー」「Retire」「残して」「彼と私の本棚」「ワタシハココニイマス for 雨」など、歌と競い合うようにアグレッシヴな音色やアンサンブルをぶつけた曲が多く、アイナもその対峙を楽しむかのようにいきいきと歌っている。
とくに気に入ったのは6分21秒と最長尺の「ペチカの夜」と、アルバムで初お目見得した新曲「神様」。前者は河野圭がザ・ポリスがレッド・ツェッペリンになっていくようなアレンジを提供したストーリーテリング曲で、関口シンゴ編曲の後者はピアノとストリングスが鮮やかなワルツと、いずれ劣らずドラマチックな曲で、けれん味満点のアイナ一流のパフォーマンスと相性が完璧だ。ライヴで聴いてみたい。
ライヴで聴きたいといえば「残して」とそのアコースティック・ヴァージョン「残って」もそう。どちらにもそれぞれの魅力があって甲乙つけがたいが、とくに後者の後味は格別で、便宜上ボーナス・トラック扱いにはなっているが、全体の流れからするとこの曲がないアルバムは考えられないぐらいの聴き応えがある。
メロディにも歌詞にもパフォーマンスにも椎名林檎の影響は濃厚だが、声と節回しにオリジナリティがあるし、それを認めたからこそ椎名も『ミュージックステーション』で彼女をフロントに立てたのだろう。「Retire」ではニュー・ウェイヴ風のアレンジのおかげもあり、戸川純まで先祖返りしたような感触もあった。これまでの態度を反省して前作『THE END』も聴いた。今後は注目していきます。
高岡洋詞
神奈川県横浜市生まれ。日本三景・天橋立のそばのド田舎で育ち、大学進学とともに上京。『ミュージック・マガジン』編集部を経て、現在はフリー編集者/ライターとして活動中。
編集 : 西田 健
アイナ・ジ・エンド総力特集、インタヴューはこちら
アイナ・ジ・エンド総力特集、「10のキーワード」はこちら
前回の特集記事はこちら
LIVE INFORMATION
AiNA THE END "帰巣本能"
会場:大阪城ホール
日程:2022年3月17日(木)
open/start 17:30/18:30
【通常チケット】 指定席 ¥8,000(税込)
※全て電子チケットとなります。
年齢制限/ 未就学児童入場不可
詳細はこちら↓ https://ainatheend.jp/news/detail.php?id=1095936
アイナ・ジ・エンド ディスコグラフィー
BiSHの個別インタヴュー連載 最新記事はこちら
BiSH ディスコグラフィー
PROFILE : アイナ・ジ・エンド
“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー。 全曲作詞作曲の1st AL"THE END"を2021年2月3日にリリースし、ソロ活動も本格始動。
PROFILE : BiSH
アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、モモコグミカンパニー、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・D からなる“楽器を持たないパンクバンド” BiSH。
2015年3月に結成。5月にインディーズデビュー。2016年5月avex traxよりメジャーデビュー。
以降、「オーケストラ」「プロミスザスター」「My landscape」「stereo future」等リリースを重ね、横浜アリーナや幕張メッセ展示場等でワンマンを開催し、ロックフェスにも多数出演。