CROSS REVIEW 2 『PEOPLE』
『PEOPLE 1が極めてバンド的な理由とは。』
文 : 蜂須賀ちなみ
PEOPLE 1は未だ謎に包まれた存在だ。開示されているプロフィール情報は“東京を拠点に活動する音楽家Deu(Vo,G,B,Other)が、Takeuchi(Dr)、Ito(Vo,G)と共に結成したバンド“という一文のみ。楽曲には打ち込みやデジタルサウンドがふんだんに取り入れられていて、この一文がなければバンドだとすら分からなかったかもしれない。
2019年12月の活動開始以降、3作のEPを発表。ファンクやヒップホップ、ポップな歌ものからオルタナティブロックまでを縦断する音楽性は幅広い。ゆえにバンドの腹の底が見えない感じが否めず、だからこそ、いくらファースト・フル・アルバムといえども、PEOPLE 1というバンドの輪郭がここまで露わになるとは思っていなかった。インストトラックを除く13曲のうち6曲はEPにも収録されていた曲。EPの時点では、音楽家としての好奇心に身を任せるような曲調の幅広さに驚かされるばかりだったが、それら既存曲+初収録の新曲が意味を持って配置されることで、新たな物語を構築している。そしてその物語が、彼らの意思そのものであるように思えてならないのだ。
このアルバムは3つのブロックに分けることができる。「等身大じゃ殺されちゃう」(“怪獣”)≒ありのままではいられないという感覚から始まるのが第1ブロック。ヒリヒリとした質感のDeuボーカル曲とポップなItoボーカル曲を交互に配置し、2声が入り乱れる構成で表現するのは混乱であり葛藤だ。「ガソリンスタンドから飛び出せ」(“アイワナビーフリー”)、「国立府中から中央道とばせ僕ら惨めなハイウェイスター」(“ラヴ・ソング”)をはじめとした乗り物系モチーフ、「モーターサイクルダイアリーズ」、「スエリー(の青空)」(“フロップニク”)といった洋画タイトルの引用の影には“ここではないどこか“への逃走願望がちらついており、同時に、「またしても僕らガアアド ガアアド アンド ガアアド」(“アイワナビーフリー”)といったフレーズや、“フロップニク”といったタイトルは、逃走が叶わなかった現実を示唆させる。
では、何から逃走したかったのか。インタールード的に挟まれたインスト曲“PEOPLE2”以降の第2ブロックでは徹底して生きづらさが歌われているため、これは、個を守るための社会からの逃走の物語なのではと思わせられる。一口で生きづらさと言っても曲調や歌詞のテーマは様々。なかでも、実際に職場や学校で起こっていそうな、あまりにリアルな描写から始まる“東京”、失恋ソングとしても解釈できそうな“113号室”は普遍性も高く、Deuのソングライティング力の高さがうかがえた。
どこか不穏な雰囲気があった第2ブロックからの流れで聴くと、13曲目“エッジワース・カイパーベルト”は飛び抜けて明るく、視界が一気に開ける感じがあるため、これ以降を第3ブロックとしたい。かつて惑星に区分されていた冥王星は、発見以降、孤独な存在とされていたが、後に、その周囲にエッジワース・カイパーベルトと呼ばれる天体密集地帯があることが判明し、冥王星は孤独ではなかったことが分かった。勢いあるツインヴォーカルが歌うのは、孤独の終わり、仲間との未来の幕開け。エネルギッシュなアッパーチューンを経て、文字通り剥き出しの心を歌った“僕の心”が静かに始まる。“僕の心”で歌われるのは、「この僕の本当の心を/みんなにだって そう君にだって/分かるわけがないでしょう/分かるわけがないでしょう」という実感。しかし、コーラスを取り入れた温かな曲調、転調とともに展開するドラマティックな構成は“分かり合えなくとも、人と人は一緒にいることができる“的なメッセージを感じさせるものだ。そして、スタジオセッションをそのままパッケージしたような「バンド」がアルバムのラスト。まとめると、第3ブロックで描かれているのは、個と個の出会いと団結なのではないだろうか。
“バンド”には、「世界の終わりに立ち向かうなんて/僕にはカンケーないと思っていたよ」、「世界の始まりがこんな部屋だなんて/僕には想像もつかなかったよ」とある。そこから読み取るに、この物語は、生きづらさを何となく飲み込みながら過ごすのではなく、闘争することを選び、世界に立ち向かっていこうと決意するところで閉じているようだ。ここからが真のはじまりだと言わんばかりの幕引きは、ファースト・フル・アルバムとしてあまりにふさわしい。冒頭で彼らの音楽性を“バンドだとは分かりづらい“と書いたが、改めて考え直してみると、PEOPLE 1の場合、楽器を演奏する集団としてのバンドではなく、英単語“band”の原義=“帯状のもの“により近いところにある“一団“という名詞、あるいは“団結する“という動詞の方がその在り方に近いかもしれない。少数派を排斥し、全体を均そうとする社会に対し、個人としての尊厳を保つため、文化的・社会的な結びつきを持ついち集団として戦い、立ち向かっていくということ。そういった意思を持ち、団結しているという意味でPEOPLE 1は極めてバンド的だ。そしてこの戦いには、楽器が弾けるかどうかは実はあまり関係ない。つまり彼らは、“目を覚ませ“と私たちに向けて歌っているのだ。
蜂須賀ちなみ
文筆業(フリーランス)。邦楽ロック/ポップスのライティング・インタビューを中心に、音楽以外も執筆。音楽と人、MG、リアルサウンド、音楽ナタリー、SPICE、Billboard JAPAN、Skream!等に寄稿。いきものがかり公式noteなどアーティスト公式コンテンツにも携わる。
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