2021/11/22 18:00

音楽ライターが選ぶ今月の1枚(2021年11月)──兵庫慎司

カルチャーの前線で活躍するキュレーター達が厳選した音楽をデジタル配信し、アーティストの音楽活動をサポートするサービス〈FRIENDSHIP.〉の新譜から、ライターがおすすめ作品を毎月セレクトし、レヴューするこの企画。第2回目を担当する音楽ライターは、DI:GA ONLINE『とにかく観たやつ全部書く』連載中、他メディアでも多くの執筆をおこなう兵庫慎司。彼が選んだ11月の注目作は、熊本発のギター・ロックバンド、Mercy Woodpeckerのファースト・アルバム『光をあつめて』。またレヴューアーティストと合わせて聴きたい10曲もライターの兵庫慎司が選曲しました。あわせてお楽しみください。

REVIEW : Mercy Woodpecker 『光をあつめて』



文:兵庫慎司

リスナーとしては、中学1年でRCサクセションやARBを聴き始めた頃からだから、40年。音楽雑誌の編集・ライターとして働き始めてからは30年が経つので、歌とギターとベースとドラムで音楽が成り立っている、国内のロック・バンドの歴史に関しては、40年くらい前から現在までの、時代ごとの流行りや特徴や流れは、だいたいのところは、把握しているつもりである。

たとえば、ザ・ブルーハーツの登場で、それまでお化粧してダイエースプレーで髪を立てていた、日本中のバンド小僧たちが、ボーカルは坊主頭&ギターは頭にバンダナ、スリムなボロボロジーンズで、曲のテンポを倍にして、ピョンピョン飛び跳ねながら歌いはじめた、とか。

「まんまストーン・ローゼズ」「まんまニルヴァーナ」「まんまレディオヘッド」なバンドはいたが、「まんまオアシス」なバンドは、全国区でデビューしたレベルでは、意外といなかった。アレンジ・曲調はオーソドックスな昔のロックで、ただただメロディが良くて歌が強い、というあのスタイル、シンプルすぎて真似できなかったのかもしれない、とか。

90年代中盤からのメロコア/インディー/AIR JAM系ブーム大爆発の時代は、パンクっぽいバンドは「おまえら歌詞日本語じゃん、英語で歌わなきゃダメ」とライヴハウスのオーディションで落とされるくらい、その影響力は大きかった、とか。で、その「英語マスト」を、GOING STEADYなどの先駆者が「日本語」に置き換えたところで、2000年前後の青春パンク・ブームが勃発した、とか。

ASIAN KUNG-FU GENERATIONの「君という花」の大ヒット以来、メジャー・シーンもライヴ・ハウス・シーンもその後数年にわたって「四つ打ちにあらずんばバンドにあらず」くらいの按配になった、とか。

ASIAN KUNG-FU GENERATION - 君という花(Official Music Video)
ASIAN KUNG-FU GENERATION - 君という花(Official Music Video)

2007年にデビューした9mm Parabellum Bulletの衝撃は、当時のライヴハウス・シーンにおいて、実は絶大なものがあった。時代を逆行させてラウド・ロックをメタルに戻した感のあるサウンドも、V系の匂いもするドラマチックな歌メロも、演奏に支障をきたすほど暴れまくるステージ・パフォーマンスも。特にギターの滝善充のアクションは、時代を「滝以前」「滝以降」で分けられるくらい、日本中のライヴハウスにフォロワーを出現させた、とか。

9mm Parabellum Bullet - Discommunication(Official Music Video)
9mm Parabellum Bullet - Discommunication(Official Music Video)

ポップなメロディでやわらかめなギター・サウンド、歌詞は真摯なラヴ・ソングで、「歌い手の(もしくは視聴者)の彼女」みたいな設定のかわいい女の子が、延々と映り続けるミュージック・ビデオ、という現在の王道のパターン、最初にそれをやったオリジネイターは、やっぱりback numberということでいいのかしら、とか。

繋いだ手から - back number(Official Music Video)
繋いだ手から - back number(Official Music Video)

あと、BUMP OF CHICKENに関しては、そのような「バンプの登場後は──」みたいな規模じゃなくて、いつの時代も「あ、バンプ好きだな」というバンドがデビューし続けている、くらいの、普遍的な影響の与え方である、とか。

以上、前置きがやたらと長くなってしまったが、2016年に熊本で結成され、このたびはじめての全国流通作品であるファースト・アルバム『光をあつめて』をリリースする、Mercy Woodpeckerというバンドについて。

ちょっと資料を観たり、ちらっとMVを眺めたり、パッと音源を聴いてみたりした段階では、「ああ、いまどきのバンドね」「現在進行形でライヴハウスに来る10代20代の子が好きそうね」「人気出そうね」という感じなのだが、じっくりと、全曲、細部まで聴くと、「ちょっと待て」となるのだ。

ここまで書いてきたような、日本のギター・バンドの各時代のいろんな要素が鳴っていて、それらの組み合わせ方のセンスが絶妙、というか。音楽的にこんなことをやったバンドは存在しなかった、とまでは思わないが、その取捨選択とアウトプットの方法において、ここまで冴えたことがやれるバンドはそうそういなかったのでは、と、言いたくなるというか。

──「楽曲や詞のセンスは初期のBUMP OF CHICKEN、RADWIMPSや[Alexandros]を彷彿とさせる」

『光をあつめて』のプレスリリース(宣伝資料)のプロフィール欄の最後には、そう書かれている。確かにどれの影響も感じるし、なんにも間違ってはいないが、それだけじゃなくて、もっと雑多でもっと膨大で、もっと混沌としていて、もっとおもしろい、ということを、付け加えておきたい(なので、下のプレイリストからは、その3バンドはあえて外した)。

とにかく、どの曲も「お、そう来た!?」とか言いたくなる。でありながら、どの曲も、実験的でわけわからん、みたいな音楽とは対極で、非常にキャッチーで極めてコンパクトでもある。何かの拍子に大化けする可能性を感じる。

それから。ここまで僕が延々と書いたことを、もし当のメンバーたちが呼んだら、「はあ?」としか言わないと思う。ただ自分たちがかっこいいと思うものを作ったら、たまたま僕のようなやつが聴くとそんなふうに楽しめる作品にもなった(もちろん他の楽しみ方もいっぱいある)のだと思う。

なので、気にしないでください、と言いたい。むしろ「そうなんです、そういう狙いで作っているんです」とか言われるよりも、無作為であった方が、より、今後の可能性も感じられるし。

Mercy Woodpeckerと一緒に聴きたいアーティスト10組

SUPERCAR「PLAYSTAR VISTA」
GOING STEADY「もしも君が泣くならば」
NUMBERGIRL「ZEGEN VS UNDERCOVER」
ASIAN KUNG-FU GENERATION「未来の欠片」
ELLEGARDEN「Salamander」
ストレイテナー「Melodic Storm」
9mm Parabellum Bullet「Discommunication」
syrup16g「生きているよりマシさ」
空想委員会「ビジョン」
佐藤千亜妃「Who am I」

WRITER PROFILE:兵庫慎司

広島出身東京在住、音楽などのフリーライター。DI:GA ONLINEで『とにかく観たやつ全部書く』、KAMINOGEで『プロレスにまったく関係なくはない話』を連載中。

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■ブログ:shinjihyogo.hateblo.jp
■DI:GA ONLINE連載『とにかく観たやつ全部書く』https://diskgarage.com/digaonline/zenbukaku

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