環境の変化によって寄り添い方がちょっと変わってきている
──7曲目“2歳の記憶“はドキュメンタリーな内容ですよね。
足立 : この曲には、すごく特別な想いがありますね。“2歳の記憶“は、以前拝見した、あるアーティストの方が、ライヴのMCで「皆さん幼いときの記憶ってありませんか? 僕はお姉ちゃんとの昔の思い出を憶えています」っていうふうに言っていて、それって本当にその人しか書けない歌だなって思ったんです。私も自分の実体験の曲を作りたいと思って。その日の夜、家に着いてから「あ、パパとの記憶について書こう!」と思って書きました。
──本当に実体験なんですね。
足立 : パパの姿と、床を濡らすくらい自分がただただ泣いたっていうその瞬間を憶えていて。それを振り返りながら2歳の頃のパパへの気持ちと、いま22歳になってこれまでパパへ想ってきた気持ちを色々自分のなかでも整理しながら書いた1曲です。
──楽器がピアノだけだから、歌詞がよりしっかり入ってきました。
足立 : ピアノを弾いていただいたのは同じ事務所の渡辺シュンスケさんですね。レコーディングのときに、部分部分で録るのもいいけど、一発に込めるっていうのがこの曲でできることなんじゃないかなって思って、これは一発録りで作りました。
──この曲はリアルなファースト・テイクなんですね。「たった一人の私のパパ」からのピアノの盛り上がりがすごくドラマチックですね。
足立 : シュンスケさんの技術と「ここの間奏はもうちょっと気持ちを入れたい」っていう自分の思いが入っていますね。トイ・ピアノがこの楽曲には使われているんですけど、小さいときの記憶を表現したかったんですよね。そこで、「トイ・ピアノがいいんじゃないの?」っていうのをシュンスケさんが提案してくださって。私もレコーディングにトイ・ピアノでも参加して、あの頃にタイムスリップする感じを表現できたかなと思います。
──実際にお父さんには聴かせたりはしました?
足立 : しました。音源をLINEで送ったんですけど、「ありがとう、聴いてみるね」みたいな感じだったんですけど、1時間後くらいに通知が来て、「涙が止まらないよ」って、「こうやって素直に言葉にしてくれて、素直に育ってくれてありがとうね」っていう話をしてくれて、それで私はもうお腹がいっぱいで、あとはもう求めるものはないです(笑)。すごく嬉しかったです。
──“ライオンの居場所“も家族との思い出をベースに書かれたんですよね。
足立 : これは家族への歌ですね。私はいま東京で過ごしているんですけど、実家の岐阜県に帰ると、なにもしなくても甘えられるし、すごく居心地の良い場所なんですよ。ライオンも野生にいたらすごく厳しい環境だと思うんですが、動物園にいたら、なにか体調が悪かったら助けてくれる人がいたりとか、食事は毎日出してもらったりとか、なんかそれって“実家に帰ったときの私“と”動物園にいるライオン“が似てるなっていうふうに思って。「弱肉強食の日々から離れてみれば」という歌詞で、家族のあたたかさを赤裸々に歌いました。
──「ライオンみたいだね」って言われたのも実体験ですか?
足立 : おじいちゃんに言われました(笑)。「似とるなぁ」みたいに(笑)。他にも家族がしてくれたエピソードも入っています。
──「みかんの皮に落書きと書き置き」がそうですよね。どれくらいの時期のエピソードですか?
足立 : もう常にそうですね。昔からずっと(笑)。
──なるほど(笑)。“ライオンの居場所“はハマ・オカモトさん、澤村一平さんが編曲ですね。
足立 : 本当に素晴らしい方々にお願いしました。ハマさんは、ご連絡先を知らなかったので、インスタグラムのDMで「ちょっとお力をお借りできませんか?」って送ったら「全然いいよ! やろう」って言ってくれて、そこからマネージャーさんにもお話をして進みました。忙しいなか、みんなお仕事終わってから、何度もビデオ通話して、「このテンポ感で作ってみたけど、これじゃ違う?」とか、「このギターの感じだとうるさいかな?」とか、そういうやりとりをしました。楽器のレコーディングにも参加させてもらったんですけど、私がそこに慣れてなくて、そんなとき「佳奈ちゃん、こうしてとかじゃなくて、好みで答えていいからね」って言って、「これ、どっちがいいと思う?」っていうふうに聞いてくれました。常に私が他のミュージシャンの皆さんと会話ができる空間を作っていただいたり、もうすばらしい方ですね。
──共作でいうと、遠距離恋愛をテーマにした“キミとなら“は、橋口洋平さんはじめ、wacciのみなさんと一緒に作られています。
足立 : この曲はいったん橋口さんが詞も全部書いてくださった上で、「佳奈ちゃん、これどう思う?」って私の意見も取り入れてくださるっていう作り方でした。私が言わせてもらうことはないんじゃないかって思いながらも、でも自分が疑問に思うところも言わせてもらったり、LINEでやりとりをしながら、橋口さんの世界を覗かせてもらった感じがします。でも、すごく私たちの世代に寄り添った歌詞で、高校を卒業して大学生になってちょっと離れてやりとりをしている感じの「そっちはどう? まあまあかな。楽しいけど。大変そう」ってやりとりのところも、「はぁー! さすがー! 」って思いました。
──様々な方が参加されているアルバムですが、最後の曲“雨の日は“は、ご自身でほとんどすべてを手がけられたんですよね?
足立 : そうですね。いつも通り自分ひとりでピアノの弾き語りで作ってみたら、制作チームのみなさんがすごく「良い!」って言ってくれて。こだわってナイロン・ギターっぽい音を入れたり、また新しい自分の扉を開けたかなと。
──ひとりで作るときの感覚と、ほかの人と作るときの感覚は違いますか?
足立 : どっちも楽しさがありますね。でもやっぱり新しい発見をする楽しさですかね。「これは絶対に自分が正解だ」っていう楽しさというか。なにをしても許される環境がひとりでやるところにはあるかなと思って。ひとりで作るのは「戦い」と言う人もいるんですけど、私は新しくこういうパターンでやってみたのが新鮮で楽しいのが勝った感じでした。
──“雨の日は“のテーマは“虹”ですね。
足立 : そうですね。突然出てくる感じが恋と似ていて、好きっていう気持ちが突然うまれたり、気づいたら消えていたり、そういうのが虹と似てるなと思って。実体験も入れながら、それだけじゃ物足りなさを感じたんでちょっといろんなことをプラスして描いてみました。
──今作には、全体的に寂しさに寄り添う歌詞が多いなと思ったんですよね。
足立 : もしも辛いって思っている人がいたとしても、その人たちに寄り添う音楽を作るのが私のなかのテーマでもあって。日常生活で使う言葉から歌詞を書くのと、人に寄り添った音楽を作るのはデビューからずっと変わらずやっていて、それがブレてないのがいいなって思っています。
──ちょっと前だと「応援します!」みたいな感じがあったと思うんですけど、いまのモードだと寄り添うみたいな感じに変わっていったのかなと思っていて。
足立 : 自分の環境の変化もあって、寄り添い方も変わってると思うんですよね。例えばデビュー当時は私が高校生だったので、応援ソングでも「自分が勉強するときにこんな言葉で寄り添ってほしい」って自分へのエールの歌が多かったんです。でも、そこからいまは一緒に暮らしている人に対してだったり、友達のなかで傷ついている子がいたらその子に寄り添いたいなって思います。そういうふうに環境の変化によって寄り添い方がちょっと変わってきている感じはあります。
──今後、足立さん自身がやってみたいことはありますか?
足立 : 今回音数を少なくしたのは、このアルバムではその“あたたかさ“の表現の仕方が正解なのかなと思って作りました。今作では、実体験をテーマにしていることが多かったりするので、今後は、1から頭で考えたファンタジーを作品に落とし込んでみたりとか、あとは音数を多くして、テーマパークみたいなものにしたりとか、また新しい自分の世界を開けていけたらなと思ってます。今作は大切にあたためて、こういう形も無くさないようにはしたいんですけど、「1から創造するっていう世界もきっと楽しいだろうな」と思っています。
編集:梶野有希
足立佳奈の『あなたがいて』のご購入はこちら
LIVE INFORMATION
「ADACHI KANA LIVE TOUR 2022~あなたがいて~」
2月26日(土)東京・shibuyaWWW
3月11日(金)大阪・umeda TRAD
3月12日(土)石川・金沢AZ
3月20日(日)東京・EX THEATER ROPPONGI
3月21日(月・祝)札幌・cube garden
3月27日(日)宮城・仙台MACANA
4月2日(土)広島・SECOND CRUTCH
4月3日(日)福岡・DRUM Be-1
4月8日(金)名古屋・DIAMOND HALL
足立佳奈 ディスコグラフィー
PROFILE : 足立佳奈
岐阜県海津市出身のシンガーソングライター。
2014年、LINE×SONY MUSICオーディションで12万5094人の中からグランプリを獲得し、2017年8月メジャーデビュー。Twitter・Instagram・TikTokなどのSNSフォロワーが計130万を超えるなど若者から幅広い支持を得ている。2021年2月には配信シングル「まちぼうけ」をリリースし、全国8か所をまわる「ADACHI KANA LIVE TOUR 2021~ Dear. ~」を完走。3月にはwacciとの初コラボ楽曲「キミとなら」を配信リリース。さらに4月7日にはテレビ東京系 ドラマParavi「理想のオトコ」オープニングテーマ「ノーメイク」を配信リリース。様々なタイアップ楽曲を担当しながら、8月30日自身デビュー4周年となる記念日に新曲「Film」をリリース。11月24日には約1年9か月ぶりとなる自身3枚目のオリジナルアルバム「あなたがいて」をリリース。
■公式Twitter:https://twitter.com/kana1014lm
■公式HP:https://www.adachikana.com/