プロジェクトのデビューを飾る7インチ3部作
こうしてスタートしたURBAN VOLCANO SOUNDSは、同名のレーベルを舞台に宣言通り3枚の7インチをリリースする。ファーストが2016年の7インチ。A面には本アルバムの1曲目でもある、哀愁を帯びたKEN KENのトロンボーンによるブギー・チューン「そして、カーティスは途方に暮れる」。LIVE LOVESなどで活躍、最近では下北沢と三茶を結ぶスポット、メスカル好きの聖地とも言える場所になっている万珍酒店を切り盛りしている、MIYAがギターで参加している。そしてB面にはストーナー・ロック・バンド、CELEBS のリーダーでギタリスト、Keiによるギター・インスト「Havana Club」(Ottmar Liebertによるフラメンコ・ギターのカヴァー)が収録されている。
UVSとしてリリースされたこれらの作品は、それぞれ全く違ったルートで制作がスタートしたのだという。こうした部分が結果的に本作のバラエティ豊かなUVSのサウンド・スタイルを形成する要因にもなっているのではないだろうか。
KEN KEN : 「そして、カーティスは途方に暮れる」は、もともとカーティス・メイフィールド「Tripping Out」、あの曲の「ツッテッツテッテ」っていうベースラインのリズムが好きで、いわゆるレゲエの定番“リディム”みたいにいろんな人のあのリズムの曲を集めてて…… Deavid Soulのリリパとかで、そのリズムの曲だけでDJやってたんだよね。「だったら……」ってあのリズムで作ってくれたハッチのオリジナル・トラックが元になってる(笑)。
Hacchi : 「Havana Club」は、Keiちゃんの「レゲエの7インチを出したい」みたいなところで作っていたんだけど、「カーティス」と、7インチ・シングルならもう片面の楽曲がいるよねというところで持ってきて。ほぼトラックとしてできあがっていたものをケンケンとアイディアを足して完成させた感じかな。
KEN KEN : だからUVSのスタイルが定まってないところもあって、1枚目の7インチだけクレジットが「KEN KEN & Urban Volcano Sounds」と「Kei & Urban Volcano Sounds」になってるんだよね(笑)。そして第2弾のロボさんとの曲は7~8年前にたまたま下北であったロボ宙さんと飲んだところからスタートしてて。スリック・リックのあの曲をモチーフにして、ふたりで曲を作ろうってなったんだよね。そのときはなんとなくでHacchiに仮トラックをお願いして、当時すでにロボさんにはそのトラックを渡してたんだけど、最終的にロボさんのリリックも含めて仕上がったのが2年後。UVSの話をする前に作った曲だけど、UVSがスタートして、最初の3枚のうちの1枚で出そうと。
第2弾はロボ宙によるスリック・リック“Hey Young World”(1st『The Great Adventures Of Slick Rick』収録)のカヴァー(ロボ宙の2019年の15年ぶりのアルバム『Scrappin』にも収録)と、B面にはIchihashi-dubwiseによる同曲のダブ・ヴァージョンが収録されているアルバム未収録)。
ある種のUVS以前からあった既存曲をふたりでブラッシュアップすることで完成していったこれらの楽曲、お聴きのようにアルバムの流れのなかにあっても本プロジェクトの楽曲としてもちろんほぼ違和感はない。故にその後のUVSの方向性を示した作品ということでもある。例えばハッチのトラックメイクということで言えば、やはりDeavid Soulとくらべても「UVSの音」であることがわかるだろう。具体的に言えば、前述のように80年代リヴァイヴァル的なサウンド感を内包している、クリアでエレクトロニックなサウンドのディスコ、ブギー。
KEN KEN : “80年代的”というのはちゃんと話してないけど共通認識としてあったと思う。ハッチがそういう音をやらせたら良いのは前からわかってたから。
Hacchi : 俺もそういう話をした記憶はないけど、自分に声をかけてきたのはそういう音がやりたいということかなと。明確にコレというよりも、昔自分が他で作った音も含めて、とにかくケンケンに聴いてもらって、このユニットにあうかなというやつを提案して決めていくという。
KEN KEN : 「これだったらいけそう」ってベーシック・トラックをそこから選んで、ふたりでアイディアを足してハッチのスタジオで組みあげてみるという制作スタイルだよね。
Hacchi : 逆に言えば、ケンケンがコレじゃないってなったらUVSとしてはなしになるという感じかな。ふたりそれぞれがハマるのかどうかだよね。別に作業自体が綺麗に半々にはならくてもいい。「UVSの音」というふたりの納得というか了解があれば、どっちが作ろうがどっちでもいいんだよね。「カーティス〜」とか、UVS以前にわりとほぼできてた曲がアルバムのなかにあってもしっくりきてるし。
キラー・トラック「さめた気分のブギー」
そしてリリースされた3枚目のシングルでこうした制作体制がUVSのスタイルとして結実し、アルバムへと至るひとつの分岐点となったようだ。寺尾聰的なダンディズムと近藤真彦のヤンチャッぷりを行き来する、ケンケンのヴォーカルが絶妙な和モノ歌謡テイストを醸し出すレゲエ・ブギー「さめた気分のブギー」。B面にはアルバム未収録となっている西部劇映画『The Alamo』のメイン・テーマ"The Green Leaves of Summer"のインスト・カヴァーを収録している。
KEN KEN : 「さめた気分のブギー」は、当初トロンボーンのインスト曲だったんだけど、しっくりこなくてトロンボーンの場所を入れ替えたりしたんだよね。歌入れるつもりなかったんだけど、前半に歌を置いた方がいいという感じなって。ちょうど7インチ・プレスの締め切りも近いからどうしようか考えてたら、歌詞も含めて歌がすっとできちゃったのよ。それを「実は歌もあるんだけど」ってハッチに言って録ってみたらあの曲ができて。7インチに入ってるのは、たしかいわゆるファースト・テイク。
Hacchi : 3枚目の「さめた気分のブギー」は本当にUVSとしてゼロから作った最初の曲。1枚目とか2枚目みたいにすでに手がけてたトラックの貯金もなくて、当初ケンケンとディスコ・レゲエみたいなのやろうってところからスタートしたんだけど、ほとんどできたところで何故か急にやめる事になり………。それは最終的にアルバムの「Disco Santos」になったんだけど(笑)。そこから締め切りも迫っているのにノーアイデアだったのでUVSの曲で唯一焦って作った曲が「さめた気分のブギー」。
焦りのなかでインターネットを徘徊し、そのヒントを見つけたのはまさに偶然だったようだ。
Hacchi : 凝ったコード進行とかにすると絶対間に合わないと思いシンプルかつ良い感じになるやり方ないかなぁと。2日程ほとんど寝ないで自分のライブラリーとサウンドクラウドを聞きまくってヒントを探ってしていて。これならいけるかもというのが、名前を覚えてないけどサウンドクラウドで見つけた確かブラジルの方のAORっぽい打ち込みの曲。ほぼワンコードながら女性コーラスで展開作っている作りの曲で、ダンス・ミュージックではなくAORでこの作りはその時の自分にとってなかなか新鮮で、この作りなら短時間でいけるかもって事ですぐにケンケンを呼んで方向性の確認を取りました。曲調というより、曲の構造をプレゼンしたって感じだったけどすぐにオッケーをもらって。そこからは早くて。
KEN KEN : まさに「できちゃった」という感じなんだけど、やっぱりいままでの他のシングルとは違う気持ちでできたという曲だよね。この曲ができて俺のほうからアルバムを作りたいって言い出して。それまではひとまず7インチ3枚の連続リリースは決まってたけど、アルバムを作るというところまでは決まってなくて。このシングルができてよりアルバムをつくりたい気持ちが強くなった。