この子だったらカンパネラのハンドルを握らせても進んでいけそう
──Dir.Fとはどれくらいの時期に出会ったんですか?
詩羽 : 今年(2021年)の6月くらいですね。私が同じ大学の先輩と作った映像をインスタグラムに載っけていたんですけど、それを観てくれたつばさレコーズのインターンの人からDMでスカウトの連絡が届いて、事務所に行くことになったんです。
──事務所では、どういう会話をされたんですか?
詩羽 : 私がどんなことをやってきたかの話がメインでした。ちょっとだけ「音楽やる?」くらいの質問を受けて、そのときは「やりたいですね」くらいでした。できることはなんでもやりたいタイプなので、成功するか失敗するかは置いておいて、チャンスがあればやってみたいなと。
──水曜日のカンパネラの話はいつ頃、聞かされたんですか?
詩羽 : それから、Dir.Fと会って3回目くらいのときに「水曜日のカンパネラというものがあるんだけど、コムアイさんが辞めるかもしれないので、新しいヴォーカルをやりませんか?」って言われて、本当に2秒くらいで「やります!」って答えました。
──即答だったんだ。水曜日のカンパネラって前任がいるわけじゃないですか。全然気にならなかったんですか?
詩羽 : 実際、その日家に帰って、ひとりで考えてみたときに「あれ? 思ったよりもデカい話だったのかもしれないな」って不安にはなったんですけど、楽しみの方が大きかったです。とりあえず自分のなかでうまく切り替えるためにも、コムアイさんにしか分からないことがたくさんあるなと思っていたので、その日の夜に「コムアイさんに会っておきたいです」ってDir.Fに連絡しました。
Dir.F : さすがに、コムアイの後にいきなりひとりで背負うっていうのは、大変だろうなっていうのもあったので、遅かれ早かれ会ってもらおうとは思っていたんです。でも、詩羽本人からコムアイと会いたいっていう気持ちを先に伝えてくれたので、すぐにコムアイに「いいなと思う子が見つかったので、この子で水曜日のカンパネラを続けていきたいと思う」と連絡して。コムアイからも「いいですね、信じ切れる人とやるっていうやり方は変わらないですね」って言ってくれて。その1週間後ぐらいに、最初3人で話して、途中からはコムアイと詩羽だけで話してっていう会を作りました。
──Dir.Fにとって詩羽さんの魅力的な部分はどこですか?
Dir.F : カンパネラには、自我は大切なんですけど、おもしろがって一緒にやってくれそうだなっていうのが大事なんです。コムアイに近いノリとか、そういうフットワークの軽さが彼女にはあったし、逆に芯もある。それは話し合いのなかで確認できたから、この子だったらカンパネラのハンドルを握らせても、ちゃんと進んでいけそうだなと思ったんですよね。あといちばん大切なのはシンプルですが「また会いたいな」と思えるかの魅力が重要でした。これは主観的な感覚なのですが僕がスカウトする上で1番重要にしている感覚です。
──10月27日には、新曲の“アリス”、“バッキンガム”の2曲がリリースされますが、楽曲をつくるにあたって、ケンモチさんは彼女の声質をどんな風に感じていたんですか?
ケンモチ : コムアイとほぼ真逆に位置するような声質を持っています。まず、芯が本当に強いですね。結構ベースを鳴らしたり、BPMが早かったりしても埋もれないんですよね。コムアイのふわふわした角のない声で単語量の多いラップを作ることに慣れていたので、こんなに隙間なく詰まっちゃう感じに聴こえるんだなとか。あとは、歌が上手いんですよね。作るときは「これ、カンパネラっぽいのかな」とか、自分のなかでカンパネラらしい調味料の配合をいろいろ考えていました。その素材に対して、どう調理したらあのカレーの味になるのかなみたいな。
──でも、もうコムアイのときの味はできないですもんね。
ケンモチ : あれはあれでできないですね。もうハヤシライスですね(笑)。カレーを目指すのはやめて (笑)。
──“アリス”はどういう気持ちで作られたんですか?
ケンモチ : “アリス”は詩羽と出会ってから作った曲ですね。“バッキンガム”は、いままでのファンの方が「これこれ!」って言ってくれるんじゃないかなという作りになっているので、“アリス”は、そこと違う路線を見せたいなと。
──歌詞はどうやって作っていったんですか。
ケンモチ : 最初に3人で“アリス”っていう代材だけ決めて、いちどアリスの物語を読み返したんですよね。そのなかで、どうでもいいところにフォーカスを当てるっていうのが僕の作り方で、なんでもない日に呑気なお茶会やってるような人たちがいるじゃないですか。「なんでもない日バンザイって、いまの時代いちばんいいことじゃん」と思って。そういうニュアンスで歌詞を書きました。
──“アリス”という題材はどこからでてきたんですか?
詩羽 : 私からですね。いろんな人名があるなかで、自分となかなかくっつくものってないけど、アリスってなんとなく小さな少女だし、自分のなかの子どもっぽさとかもいいなっていうのがあって。良くも悪くも素直な自分と重なるのかなと。
──“バッキンガム”はどういう曲ですか?
ケンモチ : 実は前からやってみたいなって思って作っていたものですね。この曲は、カンパネラがお得意としていた羅列系の歌詞なんですけど、世田谷区に給田っていうところがあって、「こんなおもしろい地名、いままでの生きてきてなかで知らなかった!」と思って作った曲です。住んでいる人からしたら、なんじゃいっていう感じなんですけど(笑)。
詩羽 : ここに視点を当てるのはおもしろいなって思いました。でも、変だなって思いましたね。
ケンモチ : 読めない地名とか、焼き肉のホルモンの部位一覧とか常にネタを探しているんですよ。そのなかで給田というのを最近知ったんで使いたかった感じですね(笑)。