2021/10/07 11:00

REVIEWS : 034 SSW──歴史を継承し、共有するということ(2021年9月)──岡村詩野

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手が新譜(約3ヶ月以内にリリースされたもの)を中心に9枚(+α)の作品を厳選し、紹介するコーナーです(ときに旧譜も)。今回は岡村詩野による9枚。『歴史を継承し、共有するということ』をテーマにさまざまなシンガーの作品をセレクト&レヴューしてもらいました。

OTOTOY REVIEWS 034
『SSW──歴史を継承し、共有するということ(2021年9月)』
文 : 岡村詩野

Moses Sumney / Sam Gendel 「Can't Believe It」

ブラック・ミュージックの新しい在り方を作品ごとに鋭く提示するモーゼス・サムニーと、ジャズの領域を超えてヴィヴィッドな作品作りで衆目を集めるサックス奏者/マルチ・インストゥルメンタリストのサム・ゲンデル。このふたりの邂逅がどれほど大きな意味をもっていることか。いまもっともハイブリッドなシーンが築かれているLAを拠点にするエッジーな存在同士であることはもちろん、この曲が宅録作業を原点に持ち、黒人ながらいち早く自らのヴォーカルをオートチューン使いで加工させたT-ペインのカヴァー……それも同じ米南部エリアであるニューオーリンズ出身のリル・ウェインと共演していた曲というのも重要だろう。オリジナルに倣いこのカヴァーでもモーゼスの歌はロボ声だし、エフェクトをかけて燻ませた音色のサムのサックスも明らかにジャズの規範からハミ出たもの。「越境しながら、歴史を継承していく」象徴のような1曲だ。

Sharon Van Etten / Angel Olsen「Like I Used To」

これはもう今年を代表する1曲であり、現在のUSインディーのたくましさ、そして女性の自発性のシンボルのような曲と言っていいだろう。近年は役者としての活動も多いシャロン・ヴァン・エッテンと、彼女の背中を追いかけてきたかのような一世代下のエンジェル・オルセンという、当代きっての人気女性シンガー・ソングライター同士、そして同じレーベル〈Jagjaguwar〉所属アーティスト同士の共演曲。フィル・スペクターのウォール・オブ・サウンド的な分厚い録音と、やはりちょっと懐かしい風合いのメロディが“かつての私のように”と繰り返される歌詞に輝きを与える。9月上旬、シカゴで2年ぶりに開催された「Pitchfolk Festival」のエンジェルのパフォーマンスの最後に「私の大好きな人を紹介するわ」と言って呼び込んだのがシャロン。そしてこの曲をふたりで披露し、最後はギターを置いて抱き合って、手を繋いで退場していく──その光景があまりに眩しく美しかったことは言うまでもない。

Big Red Machine『How Long Do You Think It’s Gonna Last?』

テイラー・スウィフトの昨年の2枚のアルバムのメイン・プロデューサーとして話題をさらっていったザ・ナショナルのアーロン・デスナーと、ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノン。イベント/フェス制作からレーベルに至るまで、このふたりは盟友というよりもはや“家族”といった方がいい関係だが、テイラーにまで波及した彼らの提唱する“コミュニティ・ミュージック”がオーガニックな感触の作風となって結実したのがこの最新作だ。前作(ファースト)は即興をとっかかりにしたジャスティン主導によるエレクトロニックな仕上がりだったが、ここではテイラーの去年の2作品と地続きのようなフォーキーな歌ものが揃っていて、そのテイラーやロビン・ペックノールド(フリート・フォクシーズ)ら参加者たちの近作との連動もうかがえる。他にもシャロン・ヴァン・エッテン、アナイス・ミッチェル、ディス・イズ・ザ・キットら仲間が勢揃いした“家族のアルバム”のような1枚だ。

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