灰色ロジックが辿り着いたストレートな表現─CD限定の初アルバムをリリース
高揚感と安心感、そして悲壮感。灰色ロジックが本日リリースしたアルバムを流しはじめると、そんな気持ちが自分のなかで少しずつ芽生えていく。まさに『see the sea』というタイトルのように、海をみたときと同じ気持ちになるのだ。本作に影響を与えた出来事のひとつに「釣り」があるという。灰色ロジックはこれまでも、日常を情景にし、それをロックへと変えてきた。それは本作でも変わらずバンドの根幹となっているのだろう。そして今回のリリースはCDのみ。これまでリリースしたEPとミニ・アルバムは配信しているが、CD限定にした理由とは。時代の流れには沿っていないかもしれないけど、その選択にもちゃんと意味があることを知ってもらいたい。
INTERVIEW : 灰色ロジック
アルバム作品にとって、最初に収録されている曲はその作品への入り口だ。リード曲とは別の角度から、その作品のメッセージを象徴する役割がある。灰色ロジックの初アルバム『see the sea』のトップを飾る“predawn”は、イントロから素晴らしい。あらかじめ抱いていた「好きなアーティストの新作」という期待をはるかに超えるギター・ロックが最初から聴こえた。そして驚くべきことに、同曲はイントロが50秒以上ある。この時代、ヒット曲はサビから始まることが多い。灰色ロジックのメンバーもそのセオリーは知っている。だが、彼らはあえてイントロが50秒以上もある曲を初のフル・アルバムへの入り口に選んだ。その決断に至るまでには、葛藤があったという。だが最終的に、自身がいいと信じた音を彼らは届けることにした。この勇気ある選択1つをとっても、灰色ロジックが自身と無垢に向き合ったのか伝わるだろう。改めて彼らを好きになる、そんなフル・アルバムがリリースされた。
インタヴュー・文:梶野有希
カメラマン:西村満
幸せになるとは限らないじゃないですか。それはそれでいいんだよと思うんです
──アルバムのタイトルやジャケ写、新しいアー写など、今回は“海”に関連するものが多いですね。
半田 : コンセプト感があるアルバムってすごく好きなんですよね。コロナ期間に読んだ村上春樹の『風の歌を聴け』という小説があるんですけど、それが海の街を頭の中でイメージできる作品だったんです。それで僕も「こういう世界観で曲を作ってみたい」と思って、海に寄せることにしました。そこからリード曲“see the sea”ができたり、色々なものがちょっとずつ動きはじめましたね。
──海をみると心が豊かになるのと同時に、悲壮感みたいなものが漂うのですが、本作を聴き終わった時も同じ気持ちになりました。
半田 : すごく分かります。自分でいうのも恥ずかしいんですけど、このアルバムを通しで聴き終わったとき、映画を観たような気持ちになったんですよね。喪失感みたいなものを感じて、それがめちゃくちゃ気持ちよくて。
深谷 : 今回のアルバムは、昼間よりも夕方や夜の方がしっくりくるよね。
半田 : うんうん。夜にひとりで聴いてほしい。そういう映画ってあるじゃないですか。夜ひとりで見たい映画とか。その感じでこのアルバムを聴いてほしいなって思っています。もちろん、好きなときに聴いてもらっていいんですけど、おすすめの聴き方としてってことで。
──今作は全曲を通して「夜明けから次の日の夜明けまで」を描いていると思ったんです。「夜が似合う」というのも、この流れが影響しているのかなと。
半田 : 正解です。伝わっていてとてもうれしいです。最初に話した通り“海”がひとつテーマとしてあって、本作の裏テーマには“夜明け“があるんです。ジャケ写も“夜明け“の海ですし、「夜明け前」という意味の“predawn”がアルバムの最初にきているのも、そういう理由で。それと去年の秋ぐらいから釣りを始めたんですけど、そのときにみる夜明けの景色が本当にきれいだし、海と夜明けのマッチングがいいなってすごく思ったんです。深谷さんとたまに一緒に釣りをしにいくんですけど、そういう景色を自然に共有できていたから、すんなり「海」や「夜明け」をモチーフにしようとなれたのかもしれません。
──最初の曲“predawn”のイントロを聴いたときから、絶対にこのアルバムは11曲全部いいんだろうなと思いました。
半田 : 嬉しいです。俺も「この曲を最初に持ってくるアルバムはいいものに決まってる」とすごく思っていて。自分たちのなかで、“predawn”がいい曲に仕上がったなという気持ちではいたんですけど、「これを1曲目に持ってきちゃって本当にいいのか」みたいな議論は結構あったよね?
深谷 : うん。“predawn”って曲自体もイントロも長いじゃないですか。俺はそこを気にしていたので、「これ本当にこの長さで収録するの?」という相談をしていたんです。すごく自分の好きな曲ですけど、色々なことを考えたときに、これでいいのかなって。でも、“predawn”を1曲目にしようとなった瞬間に僕も腹をくくったというか。余計なことは気にせずに純粋に音楽と向き合って、自分たちがやりたい形で、いいものを出したいと思ったんです。そこから、他の曲も自分たちがやりたいように向き合っていって、最終的にできた曲を並べたときに、「やっぱり“predawn”が1曲目だな」ってなりましたね。
半田 : “see the sea”きっかけで作ったアルバムだけど、“predawn”がすごくこのアルバムを救ってくれた気がするんです。イメージを固めさせてくれたというか。
──なるほど。“see the sea”はMVが公開されていますよね。映像と一緒に聴くと、また印象がガラッと変わりました。
半田 : MVを担当してくれた監督の飯泉翔太さんが「曲を聴いたときになにを感じたのか」という部分を大切に制作してくれました。なので、ストーリーに関して僕らはなにも意見を出していないんです。飯泉さんは俺らの曲を自分の作品としてちゃんと考えてくれるんですよ。灰色ロジックのMVなんだけど、でも自分が本気で挑む作品のひとつとして手掛けてくださるんですよね。千葉県の富津市で撮影していただいたんですけど、海で遠目から撮影している演奏シーンがめちゃくちゃ好きで。
深谷 : 特に曲の説明をしなくても、今作の「夜明け」とか「海」といったテーマを表現してくれていたので、飯泉さんにも僕らのイメージが自然と伝わっていたのだと思います。
──出来上がった映像をみたとき、どう感じましたか?
深谷 : 最後に主人公がいう言葉は、小説を読んでいるみたいな気持ちになってグッときましたね。
半田 : 僕はハッピーエンドな映画があまり得意ではなくて。人生って幸せになるとは限らないじゃないですか。それはそれでいいんだよと思うんですよね。
──ジャケ写も飯泉さんでしょうか?
深谷 : そうです。何枚か撮ってきていただいたなかから、僕らが選ばせてもらいました。
半田 : ジャケットの候補がバーッと出てきたときに、「これはこういうイメージです」って1個1個コメントが付いているんですよ。歌詞カードには写真がたくさん載っていて、そのなかに拡張器がポツンと写っている写真があるんですけど、そのコメントが「この拡張器が半田に見える」って書いてあって。僕はそれにすごいグッときちゃったんです。ぜひ歌詞カードにも注目してもらいたいですね。
深谷 : あと今回はプロローグとエピローグがあったり、“see the sea”と“eve”の歌詞の脇にはその曲を聴いたイメージで書いてもらった短編が載っているんです。自分たちのことを好きって言ってくれる自分たちの好きな人とアイディア出しながら、歌詞カードもこだわって作りました。
半田 : 今回サブスクでの配信はないので、CDで聴いてもらうことになると思うんです。でもそれは、「自分たちがCD世代だったから」という理由ではなくて。時代には合ってないかもしれないけど、僕らはアナログな部分が好きだし、そういう良さは他では補えないと思っているからなんです。
深谷 : 自分たちのいちばん見せたい形がこれなんだよね。歌詞カードとかジャケットとかそういうのを含めて、今回のアルバムの良さがいちばん活かされる形はCDだよねっていう。