PEARL CENTER 『Orb』
元PAELLASのMATTONとmsd.、Pistachio StudioやMimeで活躍するTiMT、YOUR ROMANCEのinuiからなる4人組の1stフル・アルバム。カテゴライズするならロック・バンドなのだろうが、形にこだわらず「いい曲ならいいじゃん」と多様なアンサンブルを楽しんでいるかのような柔軟性が印象的。シティ・ポップとして聴ける“Orion”や“NEVER TOO LATE”から、“Hula Hoop”“clouds”のR&Bっぽさ、“baby don't cry”のアコースティック・サウンドまで幅広いが、一貫しているのは80年代シンセポップを思わせる楽天的な叙情性と、どこまでも人なつっこいメロディ。バンドの中心はファルセット使いも巧みなヴォーカルの優しさと色気で、微かにジェンダー感が揺れるあたりも現代的だ。
クレイジーケンバンド『好きなんだよ』
カヴァー・アルバムがちょっとしたブームになっているが、歌謡史が体に染み込んだ世代はやはりひと味違う。“モンロー・ウォーク”“ルビーの指環”“プラスティック・ラブ”といったスウィートなシティ・ポップに誘われ、しゃれたお店で1杯2杯。“よこはま・たそがれ”“空港”あたりでいつの間にか煙草臭いスナックにいることに気づく。たまに手を離して外の空気を吸わせるなど(愛の)さざなみに翻弄されて、ラスト2曲、ノヴェルティ風味の“アフリカ象とインド象”と小野瀬雅生の低音がセクシーすぎる“あまい囁き”でもうメロメロという仕儀だ。昭和40年代の薄暗い裏通りもバブル期のキラキラ表通りも知り尽くしたハンサムなオヤGたちの手際には凄味さえ感じる。
山村響 『town』
ぜったくんと同じトキチアキのイラストをフィーチャーしたジャケットが気になり、ふと聴いて惚れ込んだ。失礼ながら声優であることさえ後から知ったが、歌手活動は2013年から、曲作りは十代からしてきたそうで、このEPも全曲自作。チップ・チューンとヒップホップの風味が効いた“はじまりのまち”とシティ・ポップ調にデュエット相手の西山宏太朗がピタリはまった“Rudder”(ちなみに西山のデビューEPのタイトルは『CITY』)を両極に、歌とラップを自在に往来する浮遊感満点のベッドルーム・ポップは、なるほどぜったくんに通じるものがある。アレンジャーは調べきれなかったが、セルフ・プロデュースの前作『Suki』(これも傑作)を聴く限り本人も関わっていそう。
大和田慧『LIFE』
今回は7~9月の新作から9作品を選んだが、6月リリースながら先月耳にしたアルバムを加えたい。MONDO GROSSOへの参加やNHKみんなのうたに“まどろみ”を提供するなど実績十分のシンガー・ソングライターで、恥ずかしながら本作で知った次第。コロナ禍のなか自宅録音をベースに制作、大野雄二からmillenium paradeまで幅広い現場で活躍するキーボーディスト宮川純のプロデュースは、アリサ・フランクリンやキャロル・キングに憧れていたという大和田の古風な持ち味にバランスよくコンテンポラリーな要素を加味し、率直で温かみのあるソウルフル・ポップを作り上げている。WONKの荒田洸がコ=プロデュース、モノンクルのつのだりゅうたがベースで参加した“Seasons”のネオ・ソウル風味は珠玉。