2021/09/22 17:00

んoon 『Jargon』

お噂はかねがね状態だったが初めて聴いた。知性とユーモアが横溢しているが、音楽の捉え方の自由度が破格で、ときにバンドのフォーマットさえ逸脱する。思い出す音像は多々あるものの「○○っぽい」と名指しすると大事なものを取り逃がしてしまいそうだ。ノイズ、プログレ、J-POP、R&B、ジャズ、非西欧など、メンバー4人が持ち寄ったであろう古今東西の多種多様な語彙と文法が、曲ごとに異なったバランスで立ち現れる。淡々としているが歌メロはキャッチー。考え込むより流れに身を委ねるように聴きたい。ちなみに再生時に操作を誤って変なショッピングサイトの動画が同時に流れたのだが、不思議に違和感がなく、音楽の一部と思ってしばらく聴いてしまった。委ねすぎである。

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竹原ピストル 『STILL GOING ON』

言わずと知れたギター侍の新作。ピースフルなラヴ・ソング“なにもしないがしたい”、トーキング・ブルースの“あっかんべ、だぜ故郷”、ラッパー顔負けのライミングで圧倒する“ギラギラなやつをまだ持ってる”(「still going on」と「尽きぬ闘志を」で踏んでいる)、テーマに合わせた旅する楽団調の“きーぷ、うぉーきんぐ!!”など魂の入った曲が並ぶが、圧巻はモハメド・アリのボクシング・スタイルの形容に由来する“Float Like a Butterfly, Sting Like a Bee!!”だ。曲名がサビの歌詞に出てくるのだが、♪フロォ~トライクアバタフライィ~と、完全に、堂々と、胸を張ってカタカナ。おまけに次のフレーズで長文踏みもしている。ダンスホールっぽい大サビも楽しい。

Creepy Nuts 『Case』

そんな竹原を敬愛するふたりの2ndフル・アルバムは、東京で成功した地方出身者の感慨を率直に綴った“のびしろ”を扇の要にした土俵入り構造。「夢にまで見たイカしたHard Day's Night」を楽しみつつ「盛者必衰だろ長くは続かない」と自制する“Lazy Boy”と、来し方を振り返ってしばし感慨に耽るも「ハッピーエンドのその先を見に来た」とすぐ前を向く“土産話”が両端を固め、どこまでいっても醒めたふたり(特にR-指定)らしさ全開の出来である。俺は普通だから技術を磨くしかなかった、と羞じらっていたRにも歌うことができてよかったねと思っていたら、「『書く事がねぇ』嘆いてた人生/振り返るだけで歌になってる」と先手を打って自己言及。さすがだ。

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この記事の筆者
高岡 洋詞

フリー編集者/ライター。 近年はインタヴュー仕事が多いです。 https://www.tapiocahiroshi.com/

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