2021/09/21 19:00

REVIEWS : 031 ダンス / エレクトロニック(2021年9月)──佐藤 遥

毎回それぞれのジャンルに特化したライターがこの数ヶ月で「コレ」と思った9作品+αを紹介するコーナー。今回は、OTOTOYが注目するライター、佐藤遥によるダンスものやカッティング・エッジなエレクトロニック・ミュージックを中心に9枚セレクト&レヴュー。

OTOTOY REVIEWS 031
『ダンス / エレクトロニック(2021年9月)』
文 : 佐藤 遥

LI YILEI 『之 / OF』

中国出身ロンドン在住、サウンド・アーティスト、LI YILEIのアンビエント・アルバム。2020年3月末、ビザが切れ中国へ渡った際に考えを巡らせた「時間」がテーマになっている。ホテルでの隔離生活を経て、LIはあるアイデアに辿り着いたようだ。それは、時間が感情を生み出し感情は時間の一部である、つまり時間と感情は「OF」の関係にあるというもの。フィールドレコーディングで流れる時間を記録、アナログシンセや古琴などで感情を音に昇華、両者を重ね合わせることで、その関係性を時計に見立てた12曲で表現している。ジャケットの宋第8代皇帝の作品や、曲中の中国の伝統楽器が物語っているのは、今この時間も広大な時の流れの最中にあるということらしい。煌びやかで繊細なサウンドと、深呼吸を促すメディテイティブな世界観は冥丁やOCAを輩出した〈Métron Records〉からのリリースというのも納得だ。緊張や不安に光と希望が垣間見える、現代のオアシス的作品。

Koeosaeme 『Annulus』

Koeosaemeはサウンド・デザイナー、リュウ・ヨシザワによるソロ・プロジェクト。3作目の本アルバムも、アンダーグラウンドなエレクトロニック・ミュージックに特化した〈Orange Milk〉からのリリースだ。1作目のバランス感覚と、2作目のコラージュ手法を洗練させたうえに、本アルバムには東南アジアの民族音楽から得たインスピレーションが加わっている。オーガニックな楽器や音声と電子音が掛け合う、スティーヴ・ライヒやジョン・ハッセルを経由したようなハイブリッド・ミュージック。アルバム・タイトルの『Annulus』は「輪」のこと。曲名は全て数字だが、月/日/年/時間にも見えて、だとすると過去も未来も混在している。そして本作は各楽曲のトーンが揃っているため通してひとつの楽曲に聴こえる。つまりこの作品は、過去と未来の輪ということなのかもしれない。「遠い未来に作られる予定のドキュメンタリーのための音楽でもある」とのことだが、むしろ未来で作られた曲が現在に届いたかのよう。

Koreless 『Agor』

コアレス、待望のファースト・アルバム。ポスト・ダブステップが興隆していた2011年に「4D」をリリースし、フォー・テット、ジェイムズ・ブレイクに続く才能として期待が寄せられていた。ひとつのことを続けるのが苦手だという彼はベース・ミュージックから距離を置き、本作『Agor』(ウェールズ語で「開く」という意味)で、2ステップの要素を忍ばせながらも、モダン・クラシック、ダンスフロアとベッドルーム、境界を軽々と切り開いてみせている。彼の作品はどれも壮大でメランコリック。これは出身地バンガーの物悲しくメランコリックな空気や、大きな山が並ぶ壮大な景色が影響しているそう。とくに本アルバムは、『Yugen』での幽玄さを引き継ぎ、ヴォーカル・サンプルやアコースティック楽器も取り入れており、より一層エモーショナル。しかし制作は至って精密で、音同士の接続に計算機を使うほどの完璧主義。コアレスの作品には自然の美しさと数学的な美しさが合流している。

TOP