Dan Wilson 『Vessels of Wood and Earth』
ジャズ・ギターが面白くなってるって話はジュリアン・ラージやパスクァーレ・グラッソの作品を聴けば納得ですが、彼らの面白さはオーセンティックな部分もかなりあること。パスクァーレ・グラッソにいたってはかなりビバップなので、新しい部分もありつつ、チャーリー・クリスチャンとかを聞く耳でそのまま聞ける部分もあるのが面白いところ。ジャズにはそういった“古くて新しい”ミュージシャンを聴く楽しみもある。
ダン・ウィルソンというギタリストを知ったのは2019年のクリスチャン・マクブライドの来日公演。それ以来、注目していた。
僕はウェス・モンゴメリー~ジョージ・ベンソンもしくはグラント・グリーン的なソウルフルでファンキーなギターが好きなんだが、その系譜のギタリストの新譜ってのはあまりないのは少し寂しく思っていた。ネオソウル系のアイザイア・シャーキーや、UKのオスカー・ジェロームにはそういった要素は聴こえていたとはいえ、アメリカのジャズ・シーンでも現在の技術を持ちつつ、ソウルフルな演奏もするギタリストがいたらどんな感じになるかなと思っていた。ひとつ前の世代だったらマーク・ヒットフィールドみたいなポジションといえばわかりやすいか。
なので、ダン・ウィルソンを聴いたときには胸が躍った。そして、帰宅中に発見した彼の自主制作盤『To Whom It May Concern』を聴いて更にテンションが上がった。ここに収録されているスティービー・ワンダーのカヴァー「Another Star」を聴いてもらえばその理由はわかると思う。これDJやるときにかけたい!と即思ったりもした。
新作もその期待を裏切らない好盤で、スティーヴィー・ワンダーの「Bird of Beauty」、ジョン・コルトレーンとマーヴィン・ゲイを繋いだ「After the Rain / Save the Children」、マーヴィン・ゲイの「Inner City Blues」とカヴァー曲もいい感じ。「Save the Children」は以前、ハープ奏者のブランディー・ヤンガーもカヴァーしていた曲で、今また意味を持ち始めている曲だってことも見えてくる。
ファンキーなんだけど、コンテンポラリーで、その中間具合も素晴らしく、クリスチャン・マクブライド、ジェフ・ワッツ、クリスチャン・サンズらのそのいい塩梅のツボを外さない演奏もいい感じ。ジャズ・ファンの喉の渇きを潤す1枚ですね。
Andrew Cyrill 『The News』
アンドリュー・シリルといえば、セシル・テイラーとも共演していたフリージャズのドラマーの大御所みたいなイメージがありますが、近年はECMのレコーディングに参加しているイメージが強いかなと。2016年のベン・モンダー『Amorphae』に参加して以降は、自身のリーダー作『The Declaration Of Musical Independence』、ワダダ・レオ・スミスとビル・フリゼールとの連名の『Lebroba』と続いて、『The News』は4作目。近年はECMのサウンドに完璧にフィットしています。
そして、重要なのがECM以前に起用されていたダヴィ・ヴィレイジェスの2012年の傑作『Continuum』。ダヴィとベン・ストリートが生み出した奇妙な音像がすさまじい2010年代現代ジャズの怪作ですが、ここでもアンドリュー・シリルのドラムが聴いています。
で、『The News』はこれぞ2010年以降のECMサウンドって感じですが、ここに『Continuum』でも組んでいたダヴィ・ヴィレイジェスとベン・ストリートが参加しているのが鍵になっています。その3人+ビル・フリゼールの編成で、ほとんどの局面でビル・フリゼールがビル・フリゼールのパブリック・イメージでもあるフォーキー/カントリー風味のアメリカーナっぽさみたいな演奏をしていなくて、どちらかというとフリゼールのNYアンダーグラウンド的側面が出ているのがダヴィ&ベンのサウンドと噛み合っているのが面白いところ。
という感じですが、このアルバムの聴きどころは録音の良さとアンドリュー・シリルのドラムの美しさだと思います。ちょっとだけいいヘッドフォンで、もしくはオーディオでがっつり鳴らして冒頭の3曲を聴くと、そのシンバルの音色に耳をもっていかれます。もう音楽の構成がどうとかどうでもよくなるくらいに。一度、ハイレゾで聴いてみたいアルバムです。