2021/08/18 16:00

REVIEWS : 028 グローバル・ベース(2021年8月)── 大石 始

“REVIEWS”は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手が新譜(基本2〜3ヶ月ターム)を中心に9枚(+α)の作品を厳選し、紹介してもらうコーナーです(ときには旧譜も)。今回はライター、大石始による10枚。前回非常に好評だった、アジアや中東、南米、アフリカなどなど、全世界でさまざま地域の音楽と結びついた強力なダンス・ビート〜ベース・ミュージックをセレクト。題して“グローバル・ベース”。

OTOTOY REVIEWS 028
『グローバル・ベース(2021年8月)』
文 : 大石 始

Rey Sapienz & The Congo Techno Ensemble 『Na Zala Zala』

1990年代末から2000年代初頭にかけてコンゴ民主共和国では第2次コンゴ戦争が巻き起こった。1999年、同国北東部のブニアではイトゥリ紛争とも呼ばれる激戦が繰り広げられ、多くの住民が住む場所を奪われた。レイ・サピエンツはそのブニア出身。十代でラッパーとして活動を始め、プロデューサーたちと仕事をするためウガンダのカンパラを訪れていた際にイトゥリ紛争が巻き起こり、そのままカンパラに居着いたという人物だ。カンパラではエクスペリメンタルなダンスミュージック・シーンが存在しており、近年世界的な注目を集めているが、レイ・サピエンツはその中心的レーベル〈ハクナ・クララ〉の設立メンバーのひとりでもある。〈ニゲ・ニゲ・テープス〉からのデビュー作となる本作は、ダンサーやパーカッショニストらとのグループ名義の作品。極限まで音数を減らしたヘヴィーなビート、ダンスホール・ディージェイの影響も滲ませる歌唱、全体を覆うダークで呪術的なムード。カンパラのアンダーグラウンドで起こっていることを生々しく刻み込んだ、現行アフリカ産エレクトロニック・ミュージックの重要作だ。

Mawimbi 「Bubbling」

〈マウィンビ・レコーズ〉は2013年にパリで設立以降、アフリクワやオニパなどヨーロッパ拠点のアフロ系ユニットの作品をリリースしてきた。クラブDJ視点からプロデュースされた音源はアマピアノなどアフリカの現行エレクトロニック・ミュージックと共振しつつも、パリやロンドンに息づくミクスチャー文化の最新型を表現したものであった。本作はマウィンビ名義では初のフル・アルバム。冒頭曲「Fôli Kadi」ではマリの歌い手であるファティム・クヤテが参加しており、彼女の歌唱とコラなど伝統楽器の音色を中心に置きながら、節度のあるダンス・トラックに仕上げている。同じくファティム・クヤテが参加する「Ngana」では故トニー・アレンのビートを使用。メジャー・レイザーの最新作にもフィーチャーされていたレソト出身のシンガー、モレナ・レラバと南アフリカのスポーク・マサンボを招いたクワイト調の「Malume」もいいが、「El Caribe」ではコロンビアのゲットー・クンべが参加していたりと、そのネットワークはヨーロッパ~アフリカに留まらない。「Afro-Electro」という謳い文句はちょっと垢抜けないが、それ以外はヨーロッパならではの洗練された魅力に溢れた作品である。

Dj Baba 『Positive Vibes』

南米ベネズエラの首都、カラカスでは1990年代から“ラプター・ハウス”と呼ばれるゲットー・ベース・ミュージックの文化が息づき、やがてそれは“チャンガ・トゥキ”という名で呼ばれるようになった。もともとはカラカスのごく一部の地域で親しまれていたが、クドゥロにも近い高速ダンス・ミュージックであることから一時期はブラカ・ソン・システマがチャンガ・トゥキを採り入れたりと、国外でもその存在が知られるようになった。DJババはそんなラプター・ハウス~チャンガ・トゥキのオリジネイターのひとり。「This is C0c41n」ではひたすら「ディス・イズ・コケイン」と連呼されていることからもわかるように、ゲットーの快楽と結びついた享楽的なベース・ミュージックを展開している。チャンガ・トゥキはジューク/フットワークと同じように現地のダンス・カルチャーとの繋がりも強いようで、ダンスの機能性を追求した高速リズムが圧倒的だ。なお、ベネズエラは政情不安と社会経済の混乱により、500万人以上もの人々が故郷を追われたといわれる。そうしたなかで『Positive Vibes』と題された作品集を出す意味についても考えたい。

El Remolón 「Asimétrico」

ブエノスアイレスのデジタル・クンビア・シーンにおいて最初期から活動を始め、『Pibe Cosmo』〈ZZK〉などの重要作をリリースしてきたエル・レモロン。近年はエレクトリック・フォルクローレの中心的レーベル、フェルティル・ディスコスを拠点にコンスタントな作品リリースを続けてきたが、いよいよ同レーベルからのフルアルバムの登場である。〈ZZK〉時代の作風よりもディープなムードを強めており、現在のエレクトリック・フォルクローレにチューニングを合わせてきた感のある作品だ。ポル・ナーダをフィーチャーした「Que Ballen」あたりにはレバハダ(ピッチを落としてクンビアのレコードをプレイするDJスタイル)を思わせる酩酊感もあり、聴き進めるうちにズブズブとハマり込んでしまうような中毒性がある。サン・イグナシオなどフェルティル・ディスコス周りの面々も多数参加しており、2021年におけるエレクトリック・フォルクローレの決定版ともいえる1枚だ。

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