2021/06/29 18:00

Binker Golding 『Moon Day』

UKのシーンの中でも変わった活動をしているのがこのビンカー・ゴールディングス。トゥモローズ・ウォーリアーズ出身なのでシャバカ・ハッチングスやヌバイア・ガルシアらと同コミュニティだが、彼らのようなハイブリッドなサウンドではなく、ドラマーのモーゼス・ボイドとのビンカー&モーゼスでもやっているアコースティックなジャズのフォーマットでの即興の追求を様々なプロジェクトでやっていて、本作もその路線の音楽になっていると言える。自身のレギュラー・バンドでもUKらしいハイブリッドさをリズムなどに多少入れつつも基本的にはアコースティックのジャズだった。そして、新作はデレク・ベイリーやエヴァン・パーカー、ペーター・ブロッツマンやジョー・マクフィーなどとの共演経験があるイギリスのフリー・インプロ系のミュージシャンによるリズムセクションと組んだトリオで、サウンド的にはアメリカ的なスピリチュアルなジャズとフリージャズ、そして、イギリス的なフリー・インプロの両方が顔を出す即興モノ。コルトレーン系譜で吹きまくるジャズの時間もあれば、弱音や無音を使うようなインプロの時間もある。例えば、シカゴのインターナショナル・アンセム周辺からリリースされるものの中に地元のフリージャズとの交流や連続性が聴こえてくるものもあるが、本作も近年のトレンドでは光を浴びていない側の「イギリスのシーンに根付いているもの」に取り組んでいるという意味で、興味深い1枚だと思う。

Nubiyan Twist 『Freedom Fables』

近年のUKジャズのトレンドに沿ったサウンドの“UKで活動するアフロビート系バンド”というイメージのヌビアン・ツイストだったが、本作で少し印象が変わった。ハイブリッドな欧州型のアフロビートというのは変わらないが、そのサウンドの作り方がかなり変わっていて、冒頭の「Morning Light」や「Tittle Tattle」など、曲によってはプロダクションの比重が一気に増していて、ビートの質感や太さも一気に変わったし、音楽性の幅もかなり広くなった。僕は本作は黒田卓也がやっているようなサウンドをUKの感性で形にしているように感じている。「Morning Light」はネオソウル風だが、ホーン・アレンジにはロイ・ハーグローヴ~黒田卓也の系譜が聴こえてくるし、もうひとつのネオソウル曲「Buckle Up」でもホーンの使い方やヴォーカルの入れ方などにも黒田卓也を感じた。ビートメイカー的な発想でアフロビートを捉え直す方法論やソウルフルなサックスの起用もヒントになっているのかもしれない。歌ものの楽曲を増やして一気に洗練されたし、ジャンルの融合のさせ方がレベルアップしたのは間違いない。そこにUKらしいセンスが混じっているので、最終的には彼ら独自のサウンドになっているのが素晴らしい。

Tony Allen 『There is No End』

トニー・アレンの遺作が素晴らしい。ここでのトニー・アレンはフェラ・クティとアフロビートを生み出したドラマーとしての側面ではなく、近年ブルーノートなどに残していたジャズ路線でもなく、70年代末以降に行ってきた『No Discrimination』『Black Voices』やテクノのクリエイターらとコラボした作品群などの延長にあるドラムマシン以降のプロダクションにフィットするビートを叩くことができる職人的なドラマーとしてのトニー・アレンだ。サンパ・ザ・グレイトからスケプタまで、それぞれにスタイルの異なるサウンドをバックにパフォーマンスをするラッパーやシンガーをゲストに迎え、彼らの特異なスタイルに合わせたビートをトニー・アレンが叩き、それをベースに作られたトラックの上でゲストが歌うといった作りの11曲。トニー・アレンがいかに器用だったか、そして、トニー・アレンのビートがいかにトラックに組み込む際に使いやすいのか、がよくわかる見本市って感じでもある。

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