ウ山あまね 『hiuchiishi』
神様クラブでの活動やコンピレーション・アルバム『???』への参加などで近年頭角を現したプロデューサーのニュー・シングル。A.G.Cook率いる〈PC Music〉周辺とも呼応するノイジーで過剰なエレポップでありつつ、“長谷川白紙以降”とも言えるイノセントな現代J-POPのメロディセンスが存分に発揮された1曲。立体的な音像やピーキーながらも偏りを感じさせないバランス感覚、トラップの手法なども取り入れたサンプリングの審美眼など、どこを切り取っても“今”を体現した極上のポップナンバー。次世代のデファクト・スタンダード的な例としても楽しめる。
自動式(Automatic)『MARUS』
ゆるふわギャングなどのプロデュースで知られるAutomatic待望のソロ・リリースは、予想外の全曲ボーカロイド仕様。Y2KなテンションのCGキャラクターをアバターとして擁立し、現代のバーチャル感覚をサイケデリックに描く。それでいてトラックはオルタナティブ・ロックを意識した雰囲気、リリックは非常に青々しいテンション。全体的にかなり凝ったサウンドでありつつも、それを全く感じさせないポップネスに溢れている。 ハイパーポップ以降のオルタナティヴ感覚が存分に詰まった全9曲は、音楽ファンに限らず、数多くの人の心へ届きうる可能性を持つ。視界が急にクリアになるような、開かれた感性のアルバム。
quoree 『鉛色の街』
日本のインターネット・ミュージックを牽引し続ける名門〈Maltine Records〉からリリースされた3曲入EP。こちらも自動式と同じくボーカロイドをフィーチャーしたもの。AOTQ『magical gadget』やKamui『YC2』など、2020年以降より改めてバーチャルな質感の声が脚光を浴びているように思える。ハイファイとローファイの差し引きが絶妙な、情報量の多いトラックが、逆に合成音声が持つメロウな感傷を浮き彫りにする。デビュー作とは全く思えない、ある種の余裕すら感じさせる内容。