Text by 西田健
2020年に結成10周年を迎え、さらなる高みへと登ろうとするBRADO。彼らが今回創り上げたアルバム『Joyful Style』は、BRADIOがこれまでのあゆみのなかで培ってきた、ソウルフルでファンキーな楽曲群の中に、タイトル通り音楽の「楽しさ」や生きることへの「喜び」を感じることができる作品だ。10年という決して短くない活動期間のなかには、きっとピンチや人知れない努力もしてきたことだろう。そんな彼らが、音楽に対して「楽しい」という境地にたどり着き、誰しもが未来に不安を抱えるこの時代に「Joyful Style」というタイトルのついた作品をリリースすることには大きな意味がある。
まず、1曲目の“Time Flies”は、彼らが活動してきた10年を総括しながらも、これからも楽しんでいこうぜという曲だ。大山聡一によるギターのカッティングはファンキーかつタイトなのだが、それでいて気張らずに肩の力を抜いているような感じを受ける。この曲をアルバムの頭に置くことによって、BRADIOの今のモードを体現しているのではないだろうか。しかし、その一方で、“幸せのシャナナ”や“Be Bold”といったパーティー・チューンからは、「これからもやんちゃにイキっていくぜ!」という気迫を感じる。酒井亮輔が産み出す縦横無尽に跳ね回るベースラインに、ド派手なホーン・セクションを重ねた楽曲は、彼らの得意技だ。これもまた、この10年でたどり着いたBRADIO流の「楽しさ」の表現の一つなのだろう。
また、BRADIOというバンドの最大の魅力は、バンドの顔でもあるボーカリスト・真行寺貴秋の声である。デヴュー当時からの武器としてきた、パワフルかつソウルフルな歌声は今作でも存分に発揮されている。打楽器のように響く彼のシャウトは、リズムにバチッとハマり楽曲にグルーヴを加える。しかし、真行寺のボーカルとしての魅力は力強さだけではない。今作に収録の“Switch”では、ファルセットによる歌唱を全面に押し出し、表現の幅を見せている。力強さと柔らかさを絶妙なバランスで使い分け、心を揺り動かす。さらに、彼のボーカルの特徴として、歌詞が聞き取りやすいという点が挙げられる。メロディーに乗った歌詞の一音一音がはっきりと言葉になり耳に届いてくる。これは、彼自身が作詞を担当し「しっかりメッセージを伝えるということ」を大切にしているからではないだろうか。
そして、BRADIOが伝えるそのメッセージとは、一体なんなのか。それはきっと「愛」なのだと思う。今作のなかでひときわ際立つ壮大なバラード“愛を、今”は、ラヴソングではあるが、これは単なる恋愛の歌ではない。ひとりひとりに寄り添うような、優しく繊細なリリックで、聴く者の胸を打つ。続く、“ケツイ”は現代社会で苦しい想いをしている人に対しての応援歌だ。真行寺貴秋の「うた」と「ことば」は、人々が抱える不安な気持ちをそっと包み込むように心に届く。
BRADIOは、昨年からはじまったコロナ禍において、多くのアーティストと同様にツアーが中止に追い込まれ、活動の制限を余儀なくされたバンドだ。誰もがどのように動くのが正解かわからないこの時代。彼らは少しでも多くの人に音楽を届けようと、配信でのライヴを行い、YouTubeに動画をアップするなど、家にいても楽しめるコンテンツを提供してきた。タンクトップ姿の真行寺が“Fitness Funk”を歌って踊る動画がアップされているが、これは星野源の“うちで踊ろう”へのアンサーなのだと思う。外出自粛期間中でも楽しんでもらおうという想いで作られた、彼らなりの「愛」なのだ。「楽しさ」で全ての人々を笑顔にしていく、これが今作『Joyful Style』で伝えたかったBRADIOの「愛」なのだ。
さらに驚くことに彼らの愛は人間だけに向いているわけではない。このアルバムの最後の曲“アーモンド・アーモンド”は、歌詞をしっかり読んでいくと、本当にアーモンドに対する愛を歌っていることがわかる。こういうファニーな部分も持ち合わせているのが、BRADIOというバンドの強みでもある。一瞬「アーモンド?」と思うかもしれないが、真行寺の愛の言葉は非常に真摯だ。BRADIOは、老若男女、さらには人を超えて、全ての生きとし生けるものへ「愛」を伝えようとしている。10年を超えて活動してきた彼らだからこそ、「愛」や「楽しさ」を伝えることに説得力や意味がある。このアルバム『Joyful Style』は、きっと多くの人に届くことになるだろう。そして、彼らが届けた「愛」が人々の心に寄り添っていくことを願っている。
西田健
1990年生まれ。熊本出身の九州男児。2019年までイベント業界で働きながら、福岡親不孝通りにてJ-POP、アニソンをメインにDJ活動を行う。その後上京し、OTOTOY編集部にてアイドル、アニメ関連を中心に担当。映画、深夜ラジオが好き。
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