2021/04/20 18:00

REVIEWS : 021 VTuber(2021年4月)──森山ド・ロ

毎回それぞれのジャンルに特化したライターがこの数ヶ月で「コレ」と思った9作品+αを紹介するコーナー。今回はVTuberをメインに活動するライター、森山ド・ロが登場。様々なジャンルにまたがったVTuberによる楽曲のなかから、9作品をセレクト。


OTOTOY REVIEWS 021
『VTuber(2021年4月)』
文 : 森山ド・ロ

咲乃木ロク 『MIDARE咲』

ヒップホップを基調とした音楽性の中で、この業界でここまで音楽的に自由な作品は数少ない。ヴァーチャルの世界でラップをメインに活動する咲乃木ロクの1st EP『MIDARE咲』は、実に器用だと感じた。ジャンルレスな作品は世の中に数多く存在しているが、トラックメーカーや客演のスタイルに合わせながら、自身の表現は崩さない。客演陣と絶妙に親和性を生み出す器用さと、自身がラップもすれば歌も歌えるという器用さ、それがEPを通して上手く表現されている。トラックメーカー陣が作り出すポップな楽曲から2ステップまで、ビートに対し反抗的なヴァースを蹴れば、後半にはズレのないメロディを優雅に歌いこなす。”踊れる”を主体に完成された楽曲の隅々まで、アーティストとしての器用さとベーシックなヒップホップの音楽性、そして客演陣とのケミストリーを体現できる作品だと感じた。

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富士葵 『シンビジウム』

“キミの心の応援団長”という旗を掲げる、VTuber業界でも屈指のボーカリストとして長年活動する富士葵。そのキャリアで積み上げてきた経験とそこから芽生えた自身の新たな成長を表現した挑戦的な2ndアルバム『シンビジウム』。

ポップで軽快なバンド・サウンドで聴くものの感情に直接触れるようなメッセージ性、弾むような高揚感と、楽曲を通して伝わるポジティビティを歌詞やコンセプト、自身の力強く明るいボーカルで表現してきた1st アルバム『有機的パレッドシンドローム』から、2年の歳月を経て、まるで大人の階段を登ったかのような変化を『シンビジウム』から感じ取った。 ジャンル的な変化と音数も増え、ボーカリストとしてのテクニカルな成長が楽曲を聴くことで体感できる。その中で伝わる神妙さと優しさが彼女のエッセンスなんだと気づかされる作品だ。

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BOOGEY VOXX 『Bang!!』

デビューして早1年、待望とまで言われたBOOGEY VOXXの1stアルバム『Bang!!』には、優雅なヴィクトリーロードを練り歩いた痕跡が1つもなかった。パワフルなボーカルCiとラップ担当のFraの2人で形成されたBOOGEY VOXX。とにかく歌いこなすことに長けた2人が、個人勢として見せる最高級の作品を一枚目から作り出した事実は変わらないだろう。未だ音楽というジャンルにおいて未熟なVTuber業界の中で、甘えを一切許さない楽曲がびっしりと、ある意味狂気的に詰め込まれている。ダンス・ミュージックという基盤にスキルフルなメロディやラップが軽やかに走る傍、客演陣を殺さずに溶け込むアウトサイダーな一面、そして個人勢というある意味自由な立場をフルに活かしたメッセージ性やジャンルに、もはや包容感を感じてしまう。業界のアンセムの1枚ではあるが、単なる英雄録にはさせないという尖った印象を受けた作品だ。

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エンゼル 『YORU』

IDMに妖艶なボーカルが妙にマッチしたエンゼルの新EP『YORU』は、独創的な世界観とアンニュイな歌詞が変則的なストーリーとなって展開されている。楽曲ごとに変貌する声色とフローは、エンゼルという本質を視聴者側に真っ向から受け止めさせようとはしない。どれもがエンゼルであり、どれもがエンゼルだとは感じさせない表現、「YORU」から「downtown」の変貌から見えるように、物事に合わせて変貌する心情を、幻想的な音楽とは思えないほどダイナミックに表現している。癖になるリズムと、音を奏でるような歌詞とフローが細部まで作り込まれており、時折ヒップホップなアクセントで全曲通して飽きさせない仕組みが施されている。IDMと言っても、日常に溶け込むようなチルアウトなサウンドで、朝・昼・晩の時間帯を通して楽曲を楽しめるクオリティに仕上がっている。

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ぼっちぼろまる 『GARAKUTA』

2016年から数多くのオリジナル楽曲を世に送り出し、業界における音楽系のパイオニアとして活動してきたぼっちぼろまるが1stアルバム『GARAKUTA』をリリース。今風なロックサウンドを言葉選びや楽曲を通して物語を演出し、ぼっちぼろまるという圧倒的な調味料でオリジナリティを表現しているアルバムは、まさに彼の集大成と言うべき作品になっている。アルバムを通して、ダイレクトすぎない甘酸っぱい恋愛ソングが今回並んでいるが、どれも不器用でがむしゃらな恋の叫びが印象的。ここまで絶妙な表現ができる要素として、圧倒的な経験なんかよりも、不器用な感情表現と、愛くるしくも軽快なロックサウンドとのギャップが聴くものに恋愛の苦しさや愛しさを伝えているように思う。人によっては感情とは裏腹な言葉たちが素直さを否定しているようにも見えるが、恋愛における予測不可能な感情こそがよりリアルで素直なんだと、アルバムを通して改めて気づかされた。

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緑仙 『It'sLie』

にじさんじ所属の人気ライバーとして活動する緑仙の1stEP『It'sLie』。VTuber楽曲大賞で全体9位にランクインした「イツライ」を皮切りに、緑仙のアーティストとしてのポテンシャルを最大級に引き出した渾身の作品が並んでいる。耳にスッと溶け込むような甘い歌声、それでいて荒々しく棘のある力強い歌声たちの応酬。激しいものからゆったりとした楽曲まで、まるで別人のような声色の変化で自分を彩っていく表現力、忠実に光と陰を曲ごとに演出する様をアルバムを通して感じ取ることができる。最後に収録されている「君になりたいから」は、これまでの雰囲気を一掃したシンプルな素の緑仙が全面に出されており、「イツライ」との高低差に驚く。様々な変化で楽しませつつ、緑仙と言う人物像が浮き彫りになった観測的な作品だと感じた。

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樫野創音 『カワイイガールオルタナティブ』

ここ数年、精力的な活動でオリジナル作品を作り上げていく樫野創音の新EP。持ち前の軽快なギターサウンドにアンニュイな歌い方で、相変わらずの心地よさを表現している。華やかでキラキラとした日常を渇望するのではなく、平凡な日常を季節感や習慣を通した小さな幸せの発見を樫野創音らしく綴っている。夜だったり雨の日だったり、聴く側の環境を選ばないようなメッセージが詰め込まれており、それでいて心地よさという要素に対して強い一貫性があるわけではない。時間の流れや心情の変化に合わせてギターの音も激しくなっていく。気づくと最初のリズムでゆったりとしたギターサウンドに戻ったり、作品を通して遊び心も散らばっており、同じ目線で語りかけるような樫野創音の変わらない心地よさが今回も楽しめた。

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まんじゅう 『月と公園』

優しいギターの音色と、芯に響くようなメッセージで聴くものの感情を揺さぶるような楽曲が詰まったまんじゅうのEP『月と公園』。SSWだから表現できる、独り言のようでいながら、同時にどこか訴えかけてくるような楽曲が優しく並んでいる。ふわっとしたサウンドに、優しい歌声で語りかける楽曲に対して、その真意はやたらと人間味があって、吐露しているような印象を受ける。そのせいか、夜に聴くと寂しくもなり、隣にいてくれるような感覚にもなってしまう。飛び抜けた事象を大げさに歌うのではなく、誰しもが起こりうる些細な悩みや葛藤を”優しさ”というギャップで埋め尽くしてくれる。楽曲自体は静かで落ち着く反面、汲み取るほど騒々しく不思議な感情になってしまう魔法のような楽曲が詰まった1枚だ。

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Mori Calliope 『Your Mori.』

荒々しくもスキルフルな印象を与えた前作のEP『DEAD BEATS』から約半年の月日が流れ、彼女が新たに作り出した新EP『Your Mori.』は前作の印象とは少し変わった気がした。畳み掛けるようなラップに、キャッチーなフックで馴染みやすさを演出した前作に比べ、よりメロディアスな楽曲が並び、ストリート感が高貴なものになっている。細かい韻の踏み方に、早口かつ語尾にメロディーラインが混ざった絶妙な歌い方は健在で、それにプラスアルファ、彼女自身の歌のスキルが曲にアクセントを加えているような印象を受けた。英語と日本語を上手く組み込ませ、英語がわからなくても楽しめるスキルはあいも変わらずだが、リズミカルな歌い方によって、歌詞を音の一部として捉えて聞いてしまう現象が今作ではより多く感じ取れた。

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[連載] BOOGEY VOXX, Mori Calliope, ぼっちぼろまる, まんじゅう, エンゼル, 咲乃木ロク, 富士葵, 樫野創音, 緑仙

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