Haras 『Cogh』
インディペンデントなベッドルーム・アーティストが続々現れる関西より新星、HarasのセカンドEP『Cogh』がドロップ。ストレートに爽やかなインディ・ロック“2005”からそのテンションが続くことを予想すると、それはbonoboやFour Tetをおもわせるエレクトロニックな“忘れ物”で早々に裏切られることになる。フィールドレコーディングのうえにアブストラクトなエレピを折り重ねる“Prraca”、“Cogh”など、EPのなかでの幅の広さに驚かされるが、そこに突飛さはなく、あくまで生活の感触が根底にある何度でも聴きたくなる作品だ。表題曲“Cogh”のリミックスはLe Makeupが手がけていることからもシーンとの繋がりが垣間見える。
illiomote 『Teen Trip In the Future』
“HAPPY POP”を謳う二人組・illiomoteの新作EP『Teen Trip In the Future』。前作『SLEEP ASLEEP…。』はガレージ・ロックテイストのギターとポップネス溢れるトラックをベースに勢いに満ちた楽曲が収録されていたが、今作では自粛期間を経て新たなモードが加えられている。そんな今の気分を示す今作から聴こえるのは、1曲目“Intro”のアンビエントなトラックに始まる、ベッドルームでの白昼夢のような浮遊感のあるサウンドメイク。かと思えば一変、NYラッパー・Bohdiとのコラボ曲“Everybody Nice Guys”では、illiomoteらしいポップパンクなギターが掻き鳴らされ、BohdiのエモーショナルなラップとYOCO(Vo)のパワフルな叫びが全ての憂鬱を吹き飛ばすほどのエネルギーを放つ。そんな持ち前のパワーと2020年のムードが合わさった幅広い作品となっている。前作についてOTOTOYで行ったインタヴューで挙げられたA.G.Cook率いるレーベル〈PC MUSIC〉の影響もすでに今作には感じられ、その時々の自分たちの気分を昇華していくスタイルに今後の変化を早々に期待してしまう。
Yung Kiss 『Z-POP』
2020年のコロナ禍を生き抜くためのプロジェクト〈2021survive〉のメンバーKen truths(LUXY)とりんな(S亜TOH)によるユニット・Yung Kissのアルバム『Z-POP』。「自粛期間以降の生活の記録」だという今作は恒常的な絶望、そしてそれを片隅に押しやろうとする愛とノスタルジーが、ダンスミュージックのポップネスと1990年代のオルタナティヴ・ロックを彷彿とさせるリフの上で絡み合うような作品だ。1曲目“if the world would end in a minute”で「意味とかないがまだ俺は死にたくないから」とはじまり、最後の“Z-POP”で「tell me how to end this/we survive it」とエンディングを迎えるところから見ても、「2020年を生き延びよう」と集った二人は未だ生き延び方をわからずにいる。全体を覆う喪失感はあれど、それでも個々の生活にあった愛や希望、ゆるやかな日常も同時に描かれているのが今作で、その温度感は多くの人にとっての2020年に近しいように思う。自らを“Z世代のJ-POPデュオ”と名乗るYung Kissが与えられた記号としての“Z”や“J”を刷新し、生活ベースの世代感を伝える存在となる日も遠くないんじゃないか。