logic1000 『You’ve Got the Whole Night to Go』
シドニー出身、現在はベルリンを拠点とするDJ歴10年の気鋭プロデューサー。カリブーなどへのリミックス提供でも活躍し、フォー・テットもその才能を評価している彼女の最新作は、まるでクラブでの時間を切り取ったようだ。M1は導入の役割を担ったトランス。リズム・ターンのループにのって浮遊感のあるシンセやヴォーカル・サンプルなど音数が増えていき、次の曲への期待が高まっていく。M2はその期待に応えるアンセム的なハウスで、エモーショナルなメロディーが聴こえた瞬間にドバドバと快楽物質が溢れ出る。スネアのグリッチが心地いいM3はリスナーをクールダウンさせ緩急を作り、最後M4はヒプノティックなテクノ。途中から入る金物や上昇感のある電子音など音の抜き差しが秀逸だ。そして全て夢だったかのようにフェードアウトしていく。日々の退屈さを打ち破るポジティブな現実逃避的作品であり、まだ見ぬパンデミック収束後のパーティへ希望を感じる作品。忘れかけていたクラブで汗まみれになって踊る感覚を思い出した。
Loraine James 『Simple Stuff』
Loraine Jamesは北ロンドンのアーティスト。本作は、UK名門〈(ポスト)ダブステップ〉レーベル〈Hyperdub〉より6月リリース予定のアルバム『Reflection』からのリードシングル。変則的で散発的なリズムと共に、彼女が "I like the simple stuff, we like the simple things/What does it bring? “と淡々と呟くように繰り返す。どことなく虚無感を纏い、不安を煽るエクスペリメンタル・ミュージック。彼女は黒人でクィア女性というアイデンティティーも持ち合わせており、この楽曲で社会は未だ平等ではないということ表現しているよう。幼い頃からマスロックに始まり、グライム、ジャングル、ダブなど多くの音楽を吸収してきた彼女が、R&Bを聴いたり日々感情と向き合った結果として、一昨年のアルバム『For You and I』に収録の「London Ting // Dark as Fuck」で見せた攻撃的なアプローチとは異なる方法をみせている。
Ulrich Schnauss & Jonas Munk 『Asteroid 2467』』
ベルリン出身Ulrich Schnaussと、リリース元の〈Azure Vista Records〉オーナーでもあるデンマーク出身Jonas Munk、4年ぶりの作品。春にリリース予定の共作アルバムからシングル用に編集した「Asteroid 2467」と限定シングル「Afterglow」を収録しており、この2曲で完結した作品となっている。彼らの音楽はエレクトロゲイズと称されることが度々あるが、本作はアンビエント・ミュージックの要素を抽出したような仕上がりに。「Asteroid 2467 - single version」は物悲しくどこか懐かしいメロディと、その場を包み込むような深いリバーブが温かな空気を作り上げる。続く「Afterglow」では、ディレイがかかり浮遊感に満ちたギターフレーズが終始繰り返され、風や波の揺れと似た心地よさを感じるのだ。今までのエクスペリメンタルやテクノの側面、またシューゲイザーとは異なる、スピンオフ的で、精神的な安らぎをもたらすアンビエント・ミュージック。