これで僕らが売れなかったらダサいですけど、そういう売れ方をしたいわけじゃないので
――歌録りはどうでした?
岩瀬:他の作業をしてたら時間がすごい押しちゃって、帰る予定だった23時までに歌録りが間に合わなかったんですよ。それで「このまま深夜まで延長して歌っても良いし、別日に改めて歌うのでも良いしどうする?」と話し合いになって。みんなの空気感がまとまっていると思ったので、どうしても歌いたかったんですよね。そこで「1回歌うので、僕の声的にイケそうだったら、今日やっても良いですか」と言って、歌ってみたら良い感じだったので深夜3時くらいまで歌ってましたね。あんな夜中までやったのは初めてだった。
境:しかも歌詞が決まってなかったんだよね。
岩瀬:そうだ!そもそも歌詞もタイトルも決まってなかったんだ。「どうすんの?」に関しては、エンジニアの兼重さんが「すごい良い歌詞だね。タイトルもどうすんの?で良いんじゃないか」と提案してくれて決まったんです。だけど「灯」の方は何も決まってなくて「ただ、指針があった方が良いと思う」と兼重さんに言われて。そこからみんなをブースの外に出して、僕1人だけ残って考えていたんですよ。最初は他にも候補があったんですけど「優しさを言葉に置き換えるなら、何が良いんだろう」と考えて考え抜いて、やっと浮かんだのが「灯」でした。そもそも歌詞も決まってないところが多かったんですよ。
境:あの時のメモを写真に撮って、今持ってるよ。
岩瀬:本当に!ちょっと見せてよ。何これ!?汚なっ!
――ノートに文字がぐちゃぐちゃと書いてあって、とてもじゃないけど読めないですね。普段もこんな感じで歌詞を考えるんですか。
岩瀬:そんなことないです。だけど、どうしてもここで歌詞を書かなきゃと思って、時間もなかったし、思いついたワードをとにかくノートに書いてましたね。
境:先ほど、岩瀬が「この曲は自分で書き切りたい」と言ったじゃないですか。その空気はみんな感じてて。今までだったら、すぐに助け舟を出していたと思うんですけど、今回は岩瀬1人を追い込んだレコーディングだったというか。
岩瀬:兼重さんが良いと言ってくれた意見を僕は信頼しているんですね。タイトルを「灯」にします、と言った時に「良いじゃん!」と言ってもらえて、そこで初めて肩の荷がおりました。あと「灯」ってワードを入れたいけど、随所には入れずに1箇所に入れたいと思ってラスサビにだけ入れたのを思い出しました。いやぁー、本当に長かった。色々と忙しないから忘れていたけど、このレコーディングは本当に大変だったな。
よこやま:本当に大変だったよ。
岩瀬:たった2曲なんですけど、ライブをやってなかったことも大きいかったですし、みんなの縦ノリも感じられなくなってて。それに久しぶりに曲も作らないといけないし、タイアップは僕らだけの作品ではないし。レコーディングの時間はないし、歌詞はまとまってないし、タイトルも固まってないし。
境:岩瀬の偉いところだなと思うのがーー変に頭の良い人だと、とりあえず決められるものはサクサク進めていくと思うんですけど、岩瀬はグレーゾーンのまま自分の中で抱え込むことができるタイプなんです。それで自分の中で練って、最後の最後まで「もっとこうした方が良いんじゃないか」みたいな判断が出来るところが良いんですよね。
岩瀬:うん。歌詞もタイトルも音も全部満足した形で作れましたね。
――今作を聴いて改めて思ったのが「とけた電球は感性だけじゃなくて緻密なアプローチでポップスを作れる人たち」ということなんですね。特に「灯」に関しては、大衆に届く音楽をかなり計算して作ったんじゃなのかなって。
岩瀬:正直、不安は不安なんですよ。さっきも言ったように、ライブという分かりやすい場所があれば僕らの熱量が伝わると思うんですけど、それをする機会がないので不安はあって。とはいえ僕が2曲とも好きなので、大丈夫だって自信はあるんですけど……届き方を考えると、「灯」は同世代もそうですけど、それ以上に自分よりも若い子に響いてほしい。恋の歌がいっぱいあるじゃないですか。そんな中、僕の世代で愛を歌うのは中々ないと思ってて、それが僕の強みだなと「灯」を作って思ったんですよね。
境:愛を歌える声だしね。
岩瀬:そうそう。ちゃんと優しい声も出せるし。なんか「灯」を聴いて、優しい心でちゃんと人を愛する大事さを知ってほしいですね。
――人を愛する大事さ。
岩瀬:愛を持って人に対して接することの素敵さみたいなのが、25歳の僕も多少は分かってきたので、そういうのを僕より下の世代の人に届いてくれたら嬉しいと思います。逆に、僕よりも上の世代の人は「まだ若いな」と笑ってくれたら、それはそれで嬉しいです。「どうすんの?」に関しては、あえて恋の曲を歌ってるんですよ。あんまり恋を歌いたくないと言ってた僕が。だけど、これはこれで真逆に振り切りたかったのがありますね。恋が始まるワクワクを僕が納得する形で歌詞に落とし込めた。別に、恋をしてなくても楽しめる曲だと思うし、恋をしている人は無我夢中で走り出してくれたら良いなと思いますね。
境:先ほどの話ですけど、多分僕らって意外と計算がそこまでないと思うんですよ。別に、ドラマのタイアップだからみんなに届ける曲をやる必要はなくて。僕ら4人の柱になっているのは「J-POPが好きだ」というところ。特に、岩瀬のポップスに対する感覚を3人が信じているんですね。岩瀬が大丈夫なら問題ないだろう、と。なので計算をするほど頭がよくないと思いますね(笑)。
岩瀬:うん。計算してたら、もっと変わりますよ。例えば「どうすんの?」みたいな曲調だったら、TikTok映えする歌詞とかリフレインが作れるし。僕らが計算高いバンドだったら、そういう万人ウケとかSNSウケするメロディとか歌詞にする。もっとカタカナの繰り返しできるフレーズを入れると思うんですけど、別に僕はそんなの考えてなかった。いや、もちろん頭によぎりましたよ。この時代だしTikTokウケするような方法もあるかもって。だけど、もしその曲が跳ねたとしても、僕自身がそういう音楽を求めてない。これで僕らが売れなかったらダサいですけど、そういう売れ方をしたいわけじゃないので。めっちゃ古い人間かもしれないですけど、正統に曲だけでのし上がりたいと思っているから、計算はしてないですね。ただ、僕は良い音楽を作りたい。
境:これはこれで、ものすごい僕らの美学なんですよ。歌詞のことを岩瀬が言ったのは、すごく大事なところだと思ってて。もっと具体的な事象とか、固有名詞とか、そういうのが今っぽい歌詞だと思うんですね。で、岩瀬もそれは分かってて。でも僕らがやりたいことは、そうじゃないんですよ。
岩瀬:そうだね。そこを狙うんだったら「渋谷」とか「原宿」とか入れるだけで、だいぶテンションが変わると思うし。
境:今って、誰もが経験したエピソードを話す時代じゃないと思うんですよね。「これは彼の話なんだけど、キュンとする」みたいな。そこじゃないんですよね。
岩瀬:まあ、僕の中ではこれが正しいっていう美学がちゃんとあるので。それに共感してくれる人が増えることが嬉しいですね。一瞬だけじゃなくてずっと聴いてもらえる曲を作りたいです。
編集 : 西田健
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PROFILE
神奈川県出身。
2012年5月、高校のマンドリンクラブで出会ったメンバーで結成する。
心に響く歌詞とメロディ、即興的で中毒性の高いライブ演出が注目を浴びている。
2018年11月29日リリースの1stEP「STAY REMEMBER」の収録曲「覚えてないや」が話題に。
2019年には3月1日には3度目となるワンマンライブを過去最大規模となる渋谷TSUTAYA O-WESTで開催。
着実にその知名度を広げている。
【INFO】
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