Turntable Films、5年ぶりのアルバム『Herbier』──「アメリカ音楽」に魅了され続けたバンドが提示する新解釈

およそ5年という月日を経てニュー・アルバム『Herbier』をレーベル〈only in dreams〉よりリリースしたTurntable Films。京都のインディ・ロックシーンの先駆けともいえるバンドは、井上陽介(Vo/Gt)の東京移住により個々人での活動へとシフトチェンジしてきた。そんななか製作された今作は、アメリカ音楽に導かれてきた彼らがそれぞれの活動でのインプットから生まれた豊かなサウンドとグルーヴを、基軸となるカントリーミュージック、ブルーズに加えた、前作とも違う側面を魅せる作品となっている。3年半もの期間で製作されたという今作。その過程、そして収録曲で試みた実験的な部分について、バンドを追い続けてきたライター・岡村詩野によるインタヴューをお送りする。
時を経て編み出された、豊かなポップス作品
INTERVIEW : Turntable Films

京都生まれ京都育ちの井上陽介と谷健人を中心とする彼らが、2010年代以降の京都の音楽の現場をいったいどれほど盛り上げたことか。Homecomings、台風クラブ、本日休演... その後の京都を支えたインディー・ロックの活躍の前に、このバンドの存在があることを忘れてはいけないだろう。
Turntable Films。しかし、いまの彼らは「半分京都、半分東京」だ。ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文のソロ・プロジェクト、Gotchバンドのギタリストでもある井上は、現在東京でプロデューサー、コンポーザーとしても活躍。この夏、ソロ・ユニット、KENT VALLEYとしてアルバム『Momentary Note』をリリースしたベースの谷は、吉田省念やムーズムズといった仲間たちとともに京都にしっかり根を下ろした活動をしている(ドラムの田村夏季は本作の録音を最後に活動休止に入っている)。ふたりの環境がそんな状況ゆえ、定期的にスタジオに入ったりライヴをするチャンスは滅多になくなってしまっているが、どうやら遠距離活動だからこそ、緊張感をもって集中した作業ができたのかもしれない。先ごろリリースされた5年ぶりのニュー・アルバム『Herbier』を繰り返し聴きながら、そんな風に感じている。
井上がほとんどの曲を作り自らディレクションを担当。谷が作った曲"At the Coffee House"は谷のディレクションで... と、しっかりと曲に応じた方向性を施した9曲は、ライヴをやらなくなった状況を翻し、スタジオでどれだけのことを新しく試せるかを証明したような内容だ。トロピカリズモ時代のブラジル音楽のテイストある曲、クラウト・ロックのようなアレンジを視野に入れたような曲など、これまでのTurntable Filmsにはなかったタイプのアレンジ... それもリズムを再構築したような曲が先鋭的かつフレッシュな印象をもたらしている。井上の書く歌詞が英語詞中心に戻ったことも奏功し、ポップ・ミュージックとしてスマートで粋な風合いに結実しているのもいい。
Gotchバンドでの「同僚」でもあるthe chef cooks meのシモリョーやアチコ(ROPES)、坂本慎太郎と共同制作して音源をリリースした女性シンガー・ソングライターのmmm、ジャズ系シンガーの市川愛、鍵盤奏者の別所和洋(元Yasei Collective)、ライヴでのサポート・メンバーでもある岩城一彦らが参加。ホーン・セクションも曲によって登場しているし、英語詞の和訳を後藤正文が担当しているのにも注目したい。
それにしても洗練されたバンドになった。こんなにすばらしいアルバムをリリースしたいま、なかなか彼らのライヴが観られないのが本当に惜しい。だが、ライヴがなくても彼らは大丈夫だ。大丈夫というより、こういう姿がいまのTurntable Filmsだという手応えがここにある。
インタヴュー&文 : 岡村詩野
写真 : 山川哲矢
よく完成させたなと思いますよ、僕らも

──井上くんはいまは東京で、谷くん、田村くんは京都と離れています。田村くんは現在バンド活動休止中ですが、今回のアルバムにはしっかり参加しているわけで、今回はこうした遠距離活動でどのようにアルバムのレコーディングをやったのでしょうか? 正直、よく完成までもっていけたなあ、しかもここまでのものをよく完成させたなあというのが本音なんです。
井上陽介 : ねえ、いやほんまに。よく完成させたなと思いますよ、僕らも(笑)。制作に入ったのは3年半くらい前かな…… それこそGotchさんとかレーベルのスタッフの方々に「アルバム作らないの?」って言われて、じゃあ、もう一回作ろうかと。正直、アルバムを作るのって結構エネルギーいるし、気合いを入れてやらないとできないことだし……。でも、それならってことで、そこから曲を作りはじめた感じなんです。
──「“もう一回”作ろう」っていうのは、Turntable Filmsとして新しいアルバムを作ることを実は考えてなかったということですか?
井上 : う〜ん…… 次になにをやるのか? というイメージを僕自身はあまり持てなかったんですね。僕が京都にいた頃までは、ライヴはちょこちょこやっていたんです。イベントにお誘いいただいたりもしたし、自分たちで企画もしたし。でも制作ってあまり考えられなくて……。
谷健人 : たしかに、なにかきっかけがないと制作に対しては動かない感じでした。3〜4年前の話なのでどういうことを考えてたかあまり覚えてないですけど、前のアルバム『Small Town Talk』のツアーが終わって一段落したあとは、なんかそれぞれ違うことをやりたくなっていたのかな? …… メンバー各位、バンドから離れてそれぞれなにかをやる感じになっていましたね。
井上 : あと、僕が東京に引っ越してからもう4年になるんですけど、その頃から特にメンバーのスケジュールがなかなか合わなくなってて、ライヴもなかなかできなくなってたっていうのもあるかな……。
──作ることを決めてからの動きとしては?
井上 : ただ、そうやって周囲の方々に背中を押されて作ろうっていうことになってから考えたのは、僕としてはアルバム12曲入りとして、メンバー3人でそれぞれ4曲ずつ持ち寄ろう、みたいなイメージだったんです。後期ビートルズみたいに、それぞれの曲をそれぞれがプロデュースして面倒をみて自分で歌ったりもして……。それだとすぐできるだろうなって。というようなことを当時メンバーみんなで共有していたと思うんです。田村がどういう曲を作るかは全くわからなかったですけど、とりあえずそういうやり方でやろうよと。
──ただ、フタを開けてみれば、田村くんは活動自体休止になり、谷くんの曲はアルバム9曲の中で1曲(“At the Cofee House”)と……。
井上 : (笑)。
谷 : いや、これにはワケがあって(笑)。ひとつには制作途中で僕、事故で足を骨折して入院したんです。もう楽器弾ける状態じゃなくなって、曲を作るどころでもなくて……。
井上 : あの谷の骨折はこっちも痛かった。ただ、それより前から結構口酸っぱくして言ってたんですよ。「曲書いて」って(笑)。骨折は仕方ないですけど、今年からやってるKent Valleyになる前も、Kent Tani名義でソロを出してるじゃないですか。谷はちゃんと曲作れるんですよ。なのにTurntable Films用には1曲って…… ねえ、どうなんですかこれ、えらいことですよ! (笑)。
谷 : (笑)。まあ、そうなんですけど、僕としてはこのバンドにハマる / ハマらない、みたいなのを割といつも考えているんですよ。曲自体はたしかに作れるし、実際、今回のアルバムの作業の後半には追加で曲を書いたりもしたんですけど、やっぱりTurntable Filmsに合う曲っていうのをちゃんと出したくて…… その上で作った候補曲の中の1曲が“At the Cofee House”なんです。
井上 : まあたしかに、僕の方も試行錯誤をしていた時期でもあったんです。東京に引っ越してきて、いろんな作業をやったりするようになってからエンジニアリングについての知識、作曲方法、音楽理論とかも含めていろいろ勉強することが一気に増えて。学びながら作業をすることが結構大変だったんですね。ただ、大変ではあるんですけど、すごくやりがいのあることだったので、僕としても今回のアルバムに対してはこれまでとちょっと違うプロセスを踏んでいるのは間違いないんです。逆に言えば、僕もそうだし、谷もきっと曲ごとにしっかりとプロダクションを作っていくってことをやろうとしていたんですね。つまり、アレンジとかも含めて時間をかけようと思えばいくらでもかけられたし、前の『Small Town Talk』のときのようにバンドでちゃんとしっかり録音する、という縛りもないだけに、やるからには1曲1曲を丁寧にちゃんと完成させていくことを目指したかったんです。だからこそ、本当は谷と田村にも曲を書いてほしかったんだけど、待てど暮らせど曲が来ない(笑)。仕方ないから、じゃあもう1曲僕が…… みたいになって、結局こういう形になったんです(笑)。だから、ボーナス・トラック扱いになっている“Hollywood”だけは僕がまだ京都にいた頃に作った曲ですけど、それ以外の僕の曲は全て東京に移ってからですね。
──ただ、結果としてアルバムで谷くんの曲は1曲で、井上くんの曲がほとんどになったとはいえ、これまでのTurntabule Filmsにはない新しい領域の作品になったと思います。音にパースペクティヴな広がりはあるけど、いわゆるライヴありきのバンド・サウンドとは違う密室感がある。怪我の功名…… ではないですが、すごく意味のある重要な作品になりました。
井上 : ありがとうございます。それは今回、基本的に録音…… 特にドラムとベースはちゃんとした音響のスタジオで録ったというのもあるかな。これまでは京都の割と小さなスタジオで録っていたんですけど、今回は天井の高いアンビエンスがちゃんと聞こえるところで録音したくて。なので、計画を立ててそのスタジオでレコーディングするまでにちゃんとプロダクションを完成させていく必要があった。そういうプロセスも結構大変でしたね。結局、横浜のランドマークタワーのスタジオと、群馬の高崎にあるTAGOってスタジオでドラムとベースは録音しました。ただ、さあ、レコーディングって時になって、谷がちょうど骨折してしまって…… 松葉杖をついて新幹線に乗って東京まで来て…… そういうあれこれもあって時間がかかったというのもありました。
谷 : そうなんですよ、骨折してた時が一番ダメージが大きくて。正直、骨折がなければ曲ももう少し出せてたなとは思います。
──骨も折れたけど心も折れてしまったと。
井上 : (笑)。
谷 : いやもうほんとにそう。ただ、レコーディング作業自体はそこまでキツいわけではなくて。ベース・パートは自分で組み立てながら録音することができたので、割と録音自体はスムーズだったと思います。
井上 : レコーディングは大きく4回に分けてやったんです。1回目のレコーディングは2017年9月。2回目は…… いつやったかな?」
谷 : 2018年2月。
井上 : そうや! よう覚えてんなお前(笑)! で、3回目が2018年7月だった。でも、デモをしっかり作り込んだ時間は結構あったので、作業そのものはたしかにキツくなかった。曲を作りながらアレンジもして…… って感じのプロセスでした。で、4回目は2018年10月…… 結構細かい作業をやったかな。そこからはゲストの方の録音部分とかも含めて様子を見ながらでしたね。谷の作った曲に関してのゲスト・プレイヤーは京都の方なので、それは京都でやってもらって……って感じでした。
どうなるかわからないフレッシュな状態でいたかった

──さきほど、井上くんは、「エンジニアリングについての知識、作曲方法、音楽理論とかも含めていろいろ勉強することが一気に増えて、勉強しながら作業する形だった」と話してくれましたが、具体的にどういう内容を学んでいたのですか?
井上 : 勉強っていっても、基本的に自分がひとりで向き合うことなんですよね。だから理論的なしっかりしたものを学ぶっていっても、評論家の方が書いた音楽本とかで、リズムに関する解釈を一つ一つ立証していくようなことを自分の曲でやってみたという感じなんです。たとえば「ドラムのリズムをその解釈を使って動かしてみて、曲がどう変化していくか?」みたいな。だから、アルバムを作ってるっていうよりも、1曲1曲を試してるって感じでした。ただ、それを谷とかサポートしてくれるメンバーに伝えたりはしていないんです。「この曲はこういう解釈を試してみたんだけど……」ってそれを伝えちゃうのは野暮な気もしたし、そもそも決め打ちでそういうことを試していたわけではなく、あくまで実験するような形だったので、どうなるかわからないフレッシュな状態でいたかったんですよね。レコーディングに入ってからも微調整はしていたし。
谷 : そうやって陽ちゃんがいろいろ試したり、あとから少しずつ変わったりしていったところもあったとは思うんですけど、僕が一番テンションがあがるのって、演奏している時なんですね。なので、レコーディングでオッケー・テイクがとれた時が一番楽しいし、あがる。最終的にできあがったのを聴いて、少し微調整があったとしても、陽ちゃんが試したことが反映されていたとしても、その最初の録音の時のイメージとそこまで変わっていなかったんですよね。ていうことは、そうやって、いろいろやってみていった結果がこのアルバムなんだなって思うんですよ。
──なるほど。試行錯誤しつつの制作のプロセス自体がこの作品なんだと。
谷 : そうです。だって、作業中に要らないんじゃないかなと思えていた音もこうやってできあがった曲を聴くと、これでいいというか収まりがいいんですよね。それに、東京での録音で関わってくれたエンジニアの方々の仕事とかにはすごく感化されました。そういう部分も含めての今回の作品なんじゃないかなと思います。
井上 : 要するに、ディレクションを1曲1曲しっかり固めていきながら制作したってことなんだと思います。僕の曲はもちろん僕がディレクションして、谷の曲は谷がちゃんとディレクションする。そういうスタイルが今回のアルバムではハッキリしていて、ただ、その作業が僕の場合はかなり個人で勉強したり研究したことを試した形になったってことなんです。
──では、谷くんの書いた“At the Coffee House”に関してはどうでしょう? これは谷くんがディレクションをしたということですか?
井上 : そうです。ただ、その曲で僕は録音がかなりキツかった思い出がある(笑)。あれのギター、僕がもうめちゃくちゃハイ・ポジションでアコギを弾かされて。簡単なロー・コードを谷が弾くっていう。あれはキツかった〜!
谷 : あの曲は最初からあまりいじらないように、過剰にプロデュースしないようにしたいと思ってて。事前にみんなで集まって練習する時間もほとんどなかったので、リズムは極力シンプルで、その瞬間の雰囲気を大事にはしようと。音色や音像にはイメージしていたのがあったんですけど、そこにも極端にこだわらないようにはしましたね。
──イメージしていた音像ってどういう?
谷 : いやまあそれはね〜……。
──谷くんはこういう場であまり具体的な話をしないですよね(笑)?
谷 : まあ、具体例をいうと想像力が失われるんで。
──はははは。たしかにその通り。
谷 : 僕もいろいろこういう記事を読んだりしますけど、その立場としてインタヴューとかでそういう録音とかの具体的な話を読みたいかっていうとそうでもないんですよ。ていうか、“この音はどうやって作られているか”とか、そんなの当たっていても当たってなくてもどっちでもいいんですよ。聴いてくれた人が感じるままでいいというか。あと、ぶっちゃけ、どういう音を作ろうとしていたかとか、実際にどうだったかってあんまり覚えてないんですよ(笑)。ただ、誰かと一緒に演奏したり作業したりすると、何かしらの意味が備わる。それでいいというか。
──谷くんの曲に関していうと、サポート・メンバーでもある岩城一彦さんが参加してて、京都の吉田省念くんのスタジオで録音されています。つまり京都セッションになっている。では、そこにどういう意味があるということになります?
谷 : いや、岩城さんや省念くんとは仲がいいから(笑)。
井上 : (大爆笑)
谷 : この曲に合いそうな、曲が映えそうなメンバーに参加してもらおうという、本当にそれだけなんですよ。でも、それ自体が意味があると思うんです。結果として求める音が出てくるとも思うし。
勉強とか研究とか経験の裏付けがあるのが今回のアルバム

──最初から意味を持たせるのではなく、曲が自然と意味を表出させるということですね。
井上 : 僕はまた少し違う見方でディレクションするんですね。たとえば、今回のアルバムのボーナス・トラックとして収録されている“Pale Moon Rag”は、それこそ岩城さんと僕とが一緒にやっているユニットのPeg & Awlでの活動の中から出てきたアイデアだったりするんです。
──あれは、ライヴでは定番の“Welcome To Me”に連なりそうな、久々に初期Turntable Filmsらしいカントリー・タッチの曲ですね。
井上 : そうです。実際にあのテの曲がもう1曲くらい欲しいな、ライヴで続けてやれるような曲があるといいなと思って。それで、久々にああいう曲を作ったんですけど、発端はそれが理由だったとしても、曲の仕組みみたいなものはPeg & Awlで昔のアメリカのカントリーやフォークの曲をカヴァーしたりする経験から生まれたものなんです。昔のそういうアメリカのカントリーやフォークって実際はすごく複雑なコード展開だったりするじゃないですか。そうなると“Welcome To Me”を作った頃よりももっと巧みな技術が必要な曲を作ってみたくなった。で、そこにオルタナ・カントリー的な要素…… パンクっぽかったり、ロックっぽかったりっていうアレンジで聴かせるような展開で、簡単な2ビートにしてスウィングさせない。それが“Pale Moon Rag”なんです。岩城さんと一緒にいると、アメリカの音楽の歴史観を本当に熱心に話すし、ブルーズの話を深くしながら一緒に風呂屋にいくと喧嘩したり……(笑)。そのくらい結構ディープに考えたりするんですね。だから、“Pale Moon Rag”は一聴して“Welcome To Me”みたいなんですけど、そういう岩城さんとの体験が生きてるなとは思っていて。この曲に限らず、どの曲もそういう勉強とか研究とか経験の裏付けがあるのが今回のアルバムだと僕は思ってます。
──しかも、音に密室感がある。空間的な広がりはあるのに音が凝縮されてパッキングされているような仕上がり。それがすごく新しいと思いました。さらに曲調にもいくつか新機軸がある。たとえば、“A Day of Vacation”はジャズ・ロックのような、ちょっとトロピカリズモ時代のブラジル音楽のような手応え。こんな曲、いままでのTurntable Filmsにはなかったのに、音質も含めて全く違和感なく収まっています。
井上 : あの曲は実は3部作にしようと最初思っていたんです。ただ、全く関係ない3曲が合体しているわけじゃなく、起承転結みたいに美しい流れのあるものを作りたいと思ってたんですね。具体的にいうと、4拍子を3連で捉えて、それをまたパートごとに違うピースを入れ込んで成り立たせるってことを前半部でやりたかった。それをわかりやすくやるんじゃなくて、モザイクをかけてみる…… みたいなイメージですね。これ、Gotchバンドの“A Girl in Love”をみんなで合わせている時に、8を3つでとったルートでやったらおもしろいかなあって思いついて。それをこの曲で実践してみたって感じです。あと、ブルーノ・ペルナーダスを聴いてヒントになった部分もあるかな。ただ、さっき谷も話してたけど、エンジニアの古賀(健一)くんの影響も大きいですね。音像のことをいろいろおしえてもらったりとか……。インプットしていくものにいろいろ影響受けたって感じですね。あと、やっぱり本ですね。カタい音楽理論本っていうより、油井正一さんや中村とうようさんとかの本はすごく参考にさせてもらいました。
──2曲目“Disegno”はクラウト・ロックのような反復系ビートが新鮮ですね。
井上 : あれはコードをとりあえず変えない、ルートを1コにして、それでどこまで動かせるのか? ということにトライした曲です。リズムの拍をいろいろ試したり組みかせたりしている中でアイデアができた曲です。菊地成孔さんの本の中で、「ファンクはどこでストップしてループしても4小節で返ってくる、成り立つ」ってことが書いてあって。わかってはいてもハッと気づかされたんですね。1小節目からはじまっても2小節目からはじまっても同じっていう、あれを参考にして作った曲でもあります。
谷 : そういう話はぜんぜん事前に聞いてたわけじゃなくて。でも、この曲はそういうビートだって言われて「なるほど」ってなることはないんです。普段から割と僕はそういうことを考えることが多いし、頭で理解するより、曲の中でグルーヴって変わるものだと思いながらやってるから。そういう意味では、陽ちゃんがそういうことを試している曲でも、割とすぐ理解できるというか、結構すんなり入ってくるんですよね。逆に言えば、この曲に関して言えば、あまりリズミックな曲だとも思っていないってことなんですよ。
井上 : それ、すごくわかる。僕の中ではその2曲を含めた、2、3、4曲目はそういう意味でも繋がっていると言うか、一つの流れをとっているなと思いますね。
──ところで、前作で日本語歌詞にトライしましたが、今回はまた英語詞に戻っています。これはなぜなんですか?
井上 : Gotchさんには「日本語で……」って言われたりもしたんですけどね(笑)。実際、今回も日本語の箇所もあるんですけど、正直、日本語で歌詞書くの、難しいんです。譜割がとにかく難しい。自分の作った曲を日本語で歌うことも難しい。それが理由ですかね。
谷 : 僕は前(日本語詞)より違和感ないですね。僕自身、そもそも日本語の歌って聴かないんですよ。それってなんでなんかな? って思ったんですけど、言葉や文字が頭に浮かぶので、日本語が邪魔やなって、最近気付いたんです。つまり、音楽を聴いているのに音楽じゃないような感じ。そういう自分からいくと、英語で歌われる方が自然なんですよね。もちろん普段、日本語で話すし日本語の本読むし、ぜんぜんそこは抵抗ないんだけど、音楽に関していうとそこはちょっと違うなあってどうしても思っちゃうんですよ……。
──わかります。私も井上くんの英語詞が今回はこれまでになく違和感がない。なぜか? を考えた時に、井上くんのヴォーカルの声のキーが低くなっていることも一つの理由かな? って思ったんですよ。
井上 : お、よく聴いてる!
──そこは自覚的なんですか。
井上 : もちろん。これは自分の声をよく聴かせるキーを探して選んだ結果なんです。(Gotchバンドで一緒の)アチコさんにも言われて。もっと低いところで歌ったら? って。自分ではぜんぜん気にしたことなかったんですけど、言われてみれば、無理して高いキーを出すのも自分には合わないかなと思いはじめて。だから、これも試行錯誤した結果です。自分が思っているより低いキーの方が声の乗りがよくなるんです。なので意図的に低くしているんです。
谷 : 自分の声がハマるキーってありますよね。僕はそこにハマらなくても、抗って頑張ってる歌って結構好きなんですよ。だから、歌う人がこのキーで歌うって決めたなら、それが一番だと考えるんです。合ってなくてもそれが一番いい。僕自身も合うキーがあるだろうし、それが変わっていくこともあると思うんですけど、それも含めていまの陽ちゃんがそうやって試行錯誤しているのはよくわかります。
井上 : 今回のアルバムに参加してもらったmmmさんにもいろいろ教えてもらいました。このレンジで出したらこんな感じになるんやなって。それもレコーディングの現場でやりながら学んでいった結果なんです。これから鍛えていくとまた声域変わるかもしれないし。
──そういう意味ではフィジカルなアルバムでもある。Turntable Filmsがまだまだ変化していく余地を感じさせる作品でもある。
井上 : そうかもしれないです。いまとなっては遠距離でリモート制作するバンドも多いし、その中で違うことにトライできることもできるようになってきてるし。また試行錯誤を重ねていきながらやっていけたらいいなと思っています。
編集 : 鈴木雄希、津田結衣
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LIVE SCHEDULE
3rd Album『Herbier』Release Oneman Live
2021年01月31日(日)@表参道WALL&WALL
時間 : OPEN 18:00 / START 19:00
チケット : ADV ¥4000+1drink / Streaming ¥1500
※詳細は後日発表
PROFILE
Turntable Films
井上陽介(Vo&Gu) / 谷健人(Ba) / 田村夏季(Dr : 現在活動休止中)メンバーの地元である京都にて結成された3ピース・バンド。2010年2月にミニ・アルバム『Parables of Fe-Fum』でデビュー。
同年11月にライヴ会場限定アルバム『10 Days Plus One』をリリース、2012年4月にはファースト・フル・アルバム『Yellow Yesterday』をリリース。日本のインディーロック・シーンでの確固たる地位を獲得した。2013年8月からは、シャムキャッツとのスプリット・アナログ盤を携えての全国ツアーを敢行、共に大成功を収めた。そして2015年11月、セカンド・アルバム『Small Town Talk』を〈only in dreams〉よりリリースする。全曲日本語歌詞へとシフトし、カナダはトロントのソングライター / プロデューサー / エンジニア”Sandro Perri”(I am Robot and ProudやOwen Pallett、Grizzly Bear、Dirty Projectors等の作品を手掛ける)の手によりミキシングされ、マスタリング・エンジニアには”Harris Newman” (Wolf Parade、Vic Chesnutt、BRAIDS、Sunset Rubdown、Superchunkなど数多くの良質なインディーバンドを手掛ける)を迎えた。
2020年、5年振りにニュー・アルバムをリリースした。
■公式HP
https://turntablefilms.com/
■井上陽介 ツイッター
https://twitter.com/SubtleControl
■谷 健人 ツイッター
https://twitter.com/kentani11tf