2020/10/29 18:00

駸々と奏でる京風オルタナティヴ──電子てろてろ

数多いるアーティストの中からOTOTOY編集部がライヴハウスやネットで出会い、ビビッときた、これはもうオススメするしかない! というアーティストを取り上げるこのコーナー。読んで、聴いて、彼らのパフォーマンスを観てほしい。損はさせません。 そんな絶対の確信とともにお届けする、第21回。

第21回 : 電子てろてろ

今回紹介するのは、現役大学生3人で結成された電子てろてろ。くるりが在籍したことでも有名な立命館大学の軽音サークル〈Rock Commune〉出身のバンドだ。

ある日、別のバンドを目当てにYouTubeの配信ライヴを観覧していると、対バン相手として電子てろてろが登場。聴いてすぐ、楽曲や歌声の素晴らしさに耳を奪われたのだが、それ以上に彼らの醸し出す空気感が強烈だった。楽曲の底で沸沸と滾るエネルギーに反して、落ち着いた表情のステージングと、その冷静さを破ろうとするバンドの爆発感。また、意図的なのか無意識なのか、3人が3人ともその爆発感を外に出すまいと、内に留めようと葛藤しているように私の目には映った。

ライヴ終演後、すぐに検索を掛けてみると京都のバンドであることが発覚。京都在住の私としては大いに合点がいった。雅で悶々としたこの街の空気が確かに、あの日のステージでも流れていたからだ。シューゲイザーのような大きく激しい空気を纏いながら、昭和文学風な歌詞で乗りこなすフォーキーで優しいメロディーと、見事な音の間隔のアンサンブル。最新と伝統をゆるりと吸い込んだ、京都の風吹く音楽を電子てろてろは鳴らしていた。

そんな彼らにサウンドの秘訣から京都の街、さらには注目の同世代バンドについてメール・インタヴューで語ってもらった。OTOTOYでも配信されている楽曲と合わせてぜひ、お楽しみください。

悶々と爽やかに、古都から聴こえるニュー・サウンド

MAIL INTERVIEW : 電子てろてろ

──バンド結成の経緯について教えてください。

木下 : 立命館大学の軽音サークル〈Rock Commune〉で木下(Gt)と石田(Dr)の2人体制で2017年に結成、翌年に澤井(Ba)が加入して現在の3人体制となりました。

──ドラム・ヴォーカルという編成も特徴のひとつだと思います。みなさんそれぞれの楽器との出会いについて教えていただけますか?

木下 : 中学生のときに、母方の実家から母のアコースティックギターを持って帰ってきたのが始まりです。最初はパンク・ロックが好きで、とにかくジャカジャカ鳴らす楽しさでギターにのめり込んでいきました。

澤井 : 中学3年の終わり頃に、兄の持っていたベースを触り始めました。

石田 : 幼稚園の頃、父がドラム、母がピアノを私に習わせたいと揉め、2人がジャンケンをして父が勝ちドラムを習うことになりました。

──それぞれ影響を受けた音楽を教えてください。

木下 : ジム・オルークの『Eureka』のサウンドに憧れています。独特で複雑な楽器の重ね方と、根底に流れるフォークっぽさや人懐っこいメロディーが合わさって表現される情景が好きなんです。他には くるりやWilcoなど、あたたかさと実験性が同居している音楽に強く惹かれて、影響を受けています。

ジム・オルーク “Hotel Blue”
ジム・オルーク “Hotel Blue”
  

澤井 : 最近はシック、スティーヴィー・ワンダー、チャカ・カーンなどを聴いています。R&Bやファンク、ソウルには、ベースを弾く上で自分が求めている出したい音や、グルーヴ感みたいなものが詰まっているので好きです。

チャカ・カーン “I'm Every Woman”
チャカ・カーン “I'm Every Woman”
  

石田 : 中山うりさんのような、日常と非日常の境目を表現した歌詞や、自由で洗練されたリズムに心惹かれます。特に“蒼いアジサイが泣いている”の歌詞が涼しくて好きです。あと、就寝時はFamiliar Wildをよく聴いています。アート・ワークも曲もすっきりと綺麗で、かつ独特な雰囲気もあって聴いていて癒やされますね。

──電子てろてろの音楽として意識しているサウンドや、影響を受けたアーティストを教えてください。

木下 : 国内外のオルタナティヴ・ロックや、フォークの要素を取り入れたバンド・サウンドを意識しています。歌を聴かせたいという思いがあるので、過剰にもシンプルにもなりすぎない、メロディーを際立たせるアレンジを心がけていますね。そういったアレンジとして、くるり や ハンバートハンバート、SUPERCARなどに影響を受けているかなと思います。

──電子てろてろが作る音楽を言葉で表すとしたら?

石田 : “透明感のある未練”かなと思っています。実際は綺麗なものばかりじゃないはずなのに、過去の出来事を現在の自分から振り返ると、まるで全ての記憶が透明で純粋なことのように思えてしまう。でも、その出来事が記憶の中で美化されていることも分かっているから結局、綺麗な思い出であって欲しかったという思いだけが存在してしまう、みたいな。そんな過去への“透明感のある未練”を体現した音楽だと思っています。

“よくある話”
“よくある話”
  

──作詞作曲やバンドのアレンジなど、楽曲制作はどのように進めていますか?

木下 : 石田が歌詞とメロディを一通り作って、僕がコードを付けています。編曲はバンドで演奏しながら考えていますね。一度レコーディングした曲も、3人で演奏するライヴを想定したアレンジを模索しながらライブ毎にちょっとずつ変えています。

──初めて耳にしたのが“ピンと”と“青と白”の2曲でした。この2曲はどのような楽曲ですか?

木下 : “青と白”は、サビの「携帯電話」という歌詞に呼応する、リバースディレイをかけたギターやエレピの音が特徴的かなと思います。対して、“ピンと”は全体的にドライな音で仕上げています。冬の乾燥した澄んだ空気のイメージの音ですね。

“ピンと”
“ピンと”
  

石田 : “ピンと”という題には、冬の寒さによって「ピンと」張りつめた空気と、だれかに心奪われてその人だけに「ピント」を合わせていこうとする二重の意味を掛けました。また、“青と白”の青は未熟とか未発達、白は純粋さやタバコの色という意味が込められています。子ども以上大人以下という曖昧で不安定な時期に、純粋な子どもでありたいという思いと、タバコに象徴される大人になりたいという思いが拮抗して葛藤する様を描きました。

“青と白”
“青と白”
  

──「君の服は外の匂いする」など文学的で情景鮮やかな歌詞がとても素敵です。作詞をする際にはどのようなことを考えていますか? また、影響を受けた本や詩などはありますか?

石田 : 個人的に曲を聴くときには、音以外の感覚を歌詞から想起できた方が心地良いので、できるだけ触感や香りなど聴覚以外の感覚を表現したいと考えています。本では、星新一さんや夢野久作さんの作品に影響を受けました。星新一さんの作品では、特に『冬の蝶』の婦人が着ていた蝶の服の美しい描写や明るさから一転した、暗く寒々しい部屋の描かれ方が好きです。それから、夢野久作さんの『月蝕』冒頭の「鋼のように澄み渡る大空のまん中で月がすすり泣いている」の擬人法や、『雪の塔』や『雨ふり坊主』で用いられる言葉の繰り返しや語感に影響されているかもしれません。

──爽やかなアンサンブルはもちろん、風鈴を揺らす風のような透き通った歌声に耳を奪われました。歌うという活動を始めたのはいつ頃ですか?

石田 : 中学の軽音学部に入ってからです。そのときからバンドでドラム・ヴォーカルをしていたのですが、歌がとにかく下手で自信がなくて、その拙さをドラムの音量でかき消そうとする演奏ばかりしていました。でも、歌声で心を動かせる人の歌を生で聴いたときから、歌うことに対する意識が変わったかもしれません。歌の上手下手より、感情が伝わることがいちばんだと思えるようになりました。

──これから、どんな音楽を作っていきたいですか?

石田 : “嫌じゃない雨“みたいな音楽を作っていきたいです。雨で周りの音がかき消されたときに、自分の内面にそっと潜る感覚があるんです。晴れの日ほど明るくなくても、むしろ明るくないからこそ、癒やされたり前向きになれたりするんですよね。だから、聴いてくれた方が自分自身に寄り添うことができる雨みたいな音楽が作れたら良いなと思っています。

──関西のバンド・シーンで交流の深い同世代のバンドや、注目しているバンドについて教えてください。

石田 : 同じサークルの先輩バンドのsushiと、後輩バンドの猫戦です。sushiは歌詞やメロディーの良さはもちろんのこと、切なさや喜びで心臓をぎゅっと掴まれるような、心にダイレクトに響く音楽が魅力的なバンドです。

sushi “下り線”
sushi “下り線”
  

猫戦はサウンドが心地よく、アート・ワークも素敵で、どこか懐かしさを感じる夢みたいな音楽を聴かせてくれます。自分の入ったサークルにいちばん好きで尊敬できるバンドがいること自体稀だし、それが2バンドもいるなんて奇跡的だなと思います。それに、sushiと猫戦に関してはサークルの先輩後輩関係なく、どんな出会い方をしても絶対好きになるだろうなと確信しています。

猫戦 “鶴”
猫戦 “鶴”
  

──京都の街並みはバンド活動にどのような影響を与えていると思いますか?

木下 : 京都は学生が多く、喫茶店やライヴハウスも多いので、それぞれがそれぞれの好きなことに取り組む光景が身近にある街だなと感じています。それぞれの好きなことが続いた結果として、いまの京都が成り立っていると思うので、様々な人や物から影響を受けながら自分たちも好きなことをしていいんだな、と自然に感じることができていますね。また、鴨川など自分の内面に向き合える静かな場所が沢山あり、街全体が落ち着いた雰囲気なので、自分たちのバンドも浮つくことなく、マイペースに活動できているのかなと思います。

──みなさん現役の大学生とのことですが、これからの人生で音楽とどのように関わっていきたいと思っていますか。

澤井 : 大学を卒業してからも今と何も変わらず、ずっと音楽は聴くし、ベースもずっと弾いていると思います。

石田 : 音楽は繋がりたいと思ったときに、いつでも繋がれるものであって欲しいです。環境や社会の変化によって、音楽ができない状況になるのは悲しいので。

──目下のバンドの夢や目標を教えてください。

石田 : いままであまりライブをしてこなかったのですが、沢山の人に聴いてもらえるように動きたいと考えています。あとは、1stアルバムをリリースできたので、次はシングル、EPなどを作りたいです。これまで作ってきた曲も、これから作っていく曲も地道にアレンジをしながら、さらにより良い曲にしていけるよう頑張ります。

PROFILE

電子てろてろ

くるりも在籍していたことで知られる立命館大学の軽音サークル〈Rock Commune〉にて、2017年に結成。爽やかなアンサンブルと、昭和文学的な悶々とした歌詞世界ののコントラストが美しい現役大学生3人からなるバンド。1stアルバム『青い惑星、白い月』配信中。

【公式ツイッター】
https://twitter.com/den4106106?lang=ja

この記事の筆者
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[インタヴュー] 電子てろてろ

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