2020/09/26 16:00

東京の新たなシーンの胎動──WOOMANの自主レーベル・コンピが捉えるいまの空気を体感せよ

2020年7月ライヴハウスが配信にいそしむころ、WOOMANの自主レーベル〈Herheads〉と〈KiliKiliVilla〉のもとコンピレーション作品『Destruct Tapes #1』がリリースされた。本コンピをコンパイルしたのはかつてチルウェイブ / ドリームポップのシーンでプレイヤーとして活動しつつ、〈Cuz Me Pain〉(レーベル / イベント)でカセット / レコードを自主制作していたメンバーが一転してはじめたロックバンド、WOOMAN。彼らが共鳴する新しい世代のバンドたち、WaaterUsThe CabinsNEHANNPsychoheadsを集めたコンピには彼らをとりまく、いま最も刺激的なロック・シーンの空気が詰まっている。そして「ライヴができない」というバンドにとってはかなり厳しい状況下でこのような作品が、しかもカセットテープという形でリリースされたことの意味は大きいと思う。7月にフィジカルリリースされたコンピのOTOTOY先行配信がはじまるこのタイミングで、作品が切り取る新たなシーンを部分的にでも捉えるべく本鼎談を決行した。

〈KiliKiliVilla〉 : CAR10やLEARNERS、NOT WONKなど国内のアンダーグラウンドから生み出されるパンク、ハードコア、ギター・ポップのリリースを行うレーベル→HP
〈Cuz Me Pain〉 : WOOMANのメンバーと現在CVNとして活動する佐久間らが運営していたレーベル / イベント。2010年代はじめに、Jesse RuinsやHotel Mexico、möscow çlubなど海外のインディ・シーンに進出するバンドが多数存在し、のちのYkiki Beat、DYGL、Cairophenomenonsに影響を与えた存在である。
〈SPEED〉 : UsとWaaterがFORESTLIMITにて主宰するデイタイムのパーティー。最近はPsychoheadsやYuzuhaのリリースやMV製作を行うレーベルとしての活動をはじめている。2019年の10月に第1回を開催し、2020年3月には集大成となる深夜パーティー〈MAX SPEED〉を〈中野heavysick ZERO〉にて開催。ライヴ出演にはNEHANN、Psychoheads、lIlI、YUZUHA (from YEN)、Gokou Kuyt、愛染 Eyezen、RY0N4、Lil Soft TennisDJにはDJ HONEYPANTS、EUREKA (Negative Cloud) 、JACKSON kaki、Kotsu (CYK)、T R A S H 新 アイヨシが迎えられ、ジャンル・シーンを超えた熱狂の一夜を実現させた。

OTOTOY先行配信中!

『Destruct Tapes #1』がリリースされるきっかけとなった、WOOMANの自主企画〈Destruct Session #1〉こちらのライヴレポート に書いたように「新しいロックシーンのはじまり」を予感させる一夜だった。彼らはニューウェイヴ〜グランジ〜ニューレイヴと時代を跨いだロックを再解釈する態度を持って共鳴しているように見えるが、今回のコンピのアーティストも出演している、UsとWaater主宰の〈SPEED〉(パーティー / レーベル)での熱狂はそれだけではおこり得ないほどである。 バンドによるロック・サウンドに加え、玉名ラーメンをはじめとする気鋭のアーティスト、ハウス/テクノのDJなどシームレスにジャンルを行き来するアクトが揃い、そこに若者たちは集っている。いま最も注目に値する、この突然変異的に現れたかのように見えるこのコミュニティは、果たしてどのように生まれたのか?本鼎談を読み進めていくとわかることだが、そこには彼らが共通してもつ「いかに美学を突き通し楽しくいられる場所を作るか、ということを試行錯誤するピュアな精神」がある。

今回の鼎談に参加してもらったのは4人。まずは本コンピをコンパイルし、Jesse Ruinsのメンバーとして、ここで取り上げるシーンの前段とも言える2010年代の東京で活動をしてきたWOOMANのYYOKKE(Vo/Gt)、2015年以降からSUPER SHANGHAI BANDとして活動していたUsのKen Truths(Vo)と、比較的活動歴の長いこのふたりの経験が生む視点をヒントに、昨年の2019年から活動をはじめたThe Cabinsのseven(Gt.)、NEHANNのKuwayama(Vo/Gt)の4人の鼎談を。下北沢や吉祥寺にはチェーン店が立ち並び、渋谷を象徴する公園の前には警備員の姿が。そんな東京でインディペンデントに活動することを試みる彼らは一体、何におもしろさを見出し、葛藤し、反発しているのだろうか。

インタヴュー&文 : 津田 結衣
写真 : 西村 満

INTERVIEW : YYOKKE(WOOMAN) Kuwayama(NEHANN) Ken Truths(Us) seven (The Cabins)

左からYYOKKE(WOOMAN)、Kuwayama(NEHANN) Ken Truths(Us) seven (The Cabins)

わかりきったことをやってもおもしろくない

──それぞれ最初の出会いは覚えていますか?

YYOKKE:いまいる3組とはじめてライヴが一緒になったのは、去年の8月にWaater企画の〈Waater Park Vol.2〉に出たときでした。やってることはバラバラだけど志をがっちり持ってる人たちがいまの東京にいるんだなと、感動したのを覚えてます。それより前に当時SUPER SHANGHAI BAND(以下、スーシャン)をやってた吉村君(Ken Truths)にWOOMANの物販で絡まれたのを覚えてる。そのあとUsをはじめたのは知らなかったんだけどね。それより俺はこの三組がどうやって出会ったのか聞きたいな。

〈Waater Park〉:Waaterが〈Daydream Kichijoji〉にて開催する自主企画。Vol.1にはWaater、Zeami、Yodocolts、Ms.Machine、JIV。Vol.2にWaater、NEHANN、The Cabins、Us、WOOMANが出演した。今回取り上げるバンドのコミュニティを語るには欠かせないイベントである。

Kuwayama:出会う前に、俺は吉村のことを一方的に知ってました。5年前に高円寺のサウンドスタジオドム(以下、ドムスタ)でやってたスーシャンのイベントに行ったことがあって、東京にこんなシーンがあるんだって。Luby Sparksとかが出てましたね。

Ken Truths:それ1回目のときじゃん、来てたんだ!みんなが本当にちゃんと打ち解けたのは〈Waater Park Vol.2〉 だよね。

Kuwayama:そうだね、井之頭公園で打ち上げしてたらすごい雨が降ってきて、深夜に皆で裸踊りしてた。あれはなんだったんだ。

──〈Waater Park vol2.〉は〈Destruct Session〉と同じメンツが出ていましたよね、その日がキーポイントになったんですね

Kuwayama:SoundCloudでよくチェックしてたThe Cabinsとか、勝手にライバル視してたのに一緒にライヴ出はじめたら仲良くなったしね。

seven:そうだったんだ。でもライバル視してたバンドと仲良くなるのはわかる。

──4バンドそれぞれ音楽性は違いますが、いまの活動の元になるリファレンスを教えてもらえますか。

Kuwayama:中学2年のときに、1990年代シアトルのグランジ・シーンを好きになって聴いていて、スピリットはそこから来てると思います。音楽性としてのリファレンスは、主に現行のポストパンクかな。2018年くらいにWaaterが活動しはじめたのを見て衝撃を受けて、自分も何かやりたいなと音楽を漁っていたらいまの形に辿り着きました。

──sevenさん個人はパンクから音楽に陶酔していったんですよね

seven:イギリスのファッションから入って、それと結びついたパンクシーンの音楽はずっと好きです。あとバンドを進めていく上では、やっぱりThe Beatlesの活動が及ぼした影響っていうのは個人的に大きいですね。The Beatlesは自分のなかで確固たるルーツとして確立してるけど、意外とこの世代で聴き込んでる人って多くないのかもって最近感じてて。彼らは作品ごとにアプローチを変えてくるし、僕はアートとして捉えてます。

──1990年代のグランジやオルタナはどうですか

seven:音楽として事後的に取り入れた形ですが、The Cabinsの影響源としては大きいと思います。皆好きですし。

──Usとしてはどうでしょう?

Ken Truths:Usをはじめるときは、リファレンスより先にスタンスについて考えました。それはWaaterがいたことでかかったですね。彼らは”ロックンロールはもともと不良の音楽だった”ってことを強く意識していたし、既存の下北沢のシーンとは別のところから出て来たオルタナティヴな存在だったから。サウンドの面でいうと、ロックの現場で見たときにどれだけ感じられるかというところが好きなので、音の厚みを追求しつつそれをポップにやろうとしています。

──個人名義での活動はどうですか

Ken Truths:自分のなかに宿ってる感情をできるだけ表現することが結局ポピュラーミュージックに繋がるんじゃないかなと最近考えていて、ソロでは歌詞を日本語で書いてます。昔のJ-POP、例えば宇多田ヒカル、Def Tech、ORANGE RANGEとかを改めて聴き返した結果、音楽をやるのであればできるだけ自分の感覚をたくさんの人と共有したいと思いはじめたんです。

──なるほど、YYOKKEさんはどうでしょう。もともとチルウェイブと呼ばれる音楽をやられていたんですよね

YYOKKE:音源を流して同期するライヴやラップトップで完結する音楽への情熱が薄れていって、今度は感情的になれる音楽をやりたいなと思ってはじめたのがWOOMANだったんです。20代の頃に聴いていたロックからいろんなものを参照して引用して、変なものになればとやってます。2000年代中盤のUKインディ、90年代後半のゲット・アップ・キッズ周辺のエモ、ザ・タフ・アライアンスなどのエレクトロ・ポップ等、ジャンルの異なる自分の好きな音楽を掛け合わせたらどうなるんだろうって。実験的な部分で自分たちが聴きたい音楽をやるというのが一番にあります。

seven

Kuwayama

Ken Truths

YYOKKE

新しいカルチャーが生まれるための場所が必要

──共通して重みのあるロック・サウンドがリファレンスにあるんですね。他にもジャンルでいえば近しいバンドは都内にいると思うんですが、特に惹かれ合ってる部分はなんなのでしょう

seven:意外性とか、気持ち悪さ、驚きがあるバンドに惹かれます。わかりきったことをやってもおもしろくないし、わからないことが僕にとってはおもしろいんですよね。

Ken Truths:型にのっとってないのがいい。あとシンプルに、ここにいる人たちはステージを見ててかっけえな、と思う瞬間がある人たちなんです。そういう人たちとは一緒にいることで互いにアップデートされていく。ひとりきりじゃできないことなのでそういう意味での仲間意識は緩やかにあると思いますね。

seven:結果的につるんでるけど、ガードを張ってるわけじゃなくて。おもしろいバンドがいたら声かけていきたいよね。

Ken Truths:あとは連絡取り合わなくても同じ場所で遭遇することが多いじゃん、そもそもそういうことなのかも。

Kuwayama:遊び方が似てるのはあるかもしれない。

──YYOKKEさんがJesse Ruinsをやられていた頃はどうでしたか

YYOKKE:三宿Web、渋谷Homeや閉店したけど渋谷Echoや梅ヶ丘Fabricaとか、みんなが集まる場所はあったね。遊びにいく先々で見る人は信用できるな、みたいな。

Kuwayama:信用できるっていうのは大事ですよね。

Ken Truths:それこそ去年まではバンド界隈でそういう場所が本当になかったんですよね。スーシャンとかWaaterは頑張って作ろうとしてたんですけど。それがちょうど去年出てきたこの辺のバンドを見たときにいけるなと思って、〈SPEED〉をはじめたんです。

──場所の話でいうと、みなさん共通して〈下北沢THREE〉、〈下北沢BASEMENTBAR〉に出ることが多いですよね

Kuwayama:THREEは確かに多いですね。

Ken Truths:少なくともここ三年くらいは英語で歌うバンドは必然的にあそこに出るイメージがある。

seven:ちょうどいいライヴハウスが少ないね。

Kuwayama:メンバーが高円寺に住んでて、中央線沿線でやりたいんですけど全然ない。

Ken Truths:俺らでライヴハウス作りたいよね、パトロン探そう。

YYOKKE:みんなは場所って重要なの?10年前くらいは洋楽から影響受けてるインディ・ロックバンドは渋谷、原宿の方でやった方がお客さんが来やすいっていうことがあって。新宿に行くとまた客層が変わる、みたいな住み分けがあったんだよね。

Kuwayama:イベント自体のよさが土地によるところはあるかもしれないです。パーティーもライヴも渋谷とか下北の方がやる側としても気合が入ります。

──ちょっと都心から外れて〈幡ヶ谷FORESTLIMIT〉(以下フォレスト)はどうですか

〈幡ヶ谷FORESTLIMIT〉 : 渋谷の秘境、幡ヶ谷に位置するアーティスト・ランのアートスペース・ライヴハウス。その場に赴かないと知ることができないような、東京のリアルアンダーグラウンドシーンをいち早くフォローする場所である。→HP

seven:フォレストはほんといいところですね。

Kuwayama:行くだけでワクワクします、場所自体にパワーがある。

Ken Truths:最後の砦だよ。毎週水曜にやってる〈K/A/T/O MASSACRE〉(カトーマサカー)とかたまに遊びに行くと信じらんない人が出てたりしてね。〈SPEED〉はずっとフォレストでやってるし、あそこしかないなと思います。

YYOKKE:加藤さんに声かけられたんだっけ?

Ken Truths:自分たちで提案しました。もともとおもしろい箱だなと思っていて、いざ自分たちでパーティーをやろうとなったときに他の選択肢はなかったです。

YYOKKE:フォレストと〈SPEED〉はめちゃくちゃ合ってる。彼らがここ数年の流れを変えつつある気がします。

〈K/A/T/O MASSACRE〉 : フォレストにて毎週水曜日、必ず行われるパーティー。ジャンル、国籍関係なく古着屋NOVO!がセレクトするアーティスト、DJが出演。毎週水曜日の開催はおそらくもう300回目を迎えるほど続いており、エネルギーと狂気と愛にみちあふれている...

──混沌としたものを受け入れる場所という印象が強いです

Kuwayama:本当にカオスで刺激的ですね。

YYOKKE:加藤さん(〈K/A/T/O MASSACRE〉の主宰)がすごくて、ちゃんと文脈を掘ったうえで、なんで〈カトーマサカー〉に呼びたいのか意味を持ってオファーしてくれるんです。みんながその場でやるべきことをわかった上で参加するからおもしろいことになるんだと思う。

Ken Truths:それがあるからこそ、アーティストにリスペクトされるイベントだし。アーティストへのリスペクトもすごい。

YYOKKE:スタッフの人の熱意が伝わってるからこそいい箱なんだろうね。

Ken Truths:活動期間が短いバンドがノルマとかわからずにお金だけ飛んでしまうみたいな、無駄な時間を過ごさないためにも、フォレストのような新しいカルチャーが生まれるための場所が必要だなと思いますね。

YYOKKE:なにも生まれないブッキングのイベントに出るんじゃなくて、自分たちでやったり熱意のある人とやると充実度が違うからね。

Ken Truths:それはスーシャンの時に痛感しました。Usはブッキング誰も呼んでくれなくて友達の誘いだけなんですけど、むしろそれを目指してはじめたところがあります。

Waaterと出会って、こいつらとならできるなと思った

──FORESTLIMITで開催してる〈SPEED〉はいま集まってるバンド以外に、ハウスやテクノのDJもいたりして、それこそ混沌としたイベントですよね

Ken Truths:下北沢THREEにもContactにも行くお客さんって結構いるはずなのにそこを掛け合わせたイベントってあまりなくて、ただただ音楽が好きな人が集まるいけてる場所がなかった。SPEEDはそのフロンティアに向けて発信しているので、ライブハウスともクラブとも違った独自の熱狂を持っているんだと思います。

Kuwayama:客層が本当いい。来る人も本気で遊びに来るので、演奏してる側もアガります。

──〈SPEED〉のようなコミュニティの構想の元になるシーンはありますか?

Ken Truths:イギリスであったニューレイヴっていう、電子音楽とバンド・サウンドが混ざったムーブメント。クラクソンズとかレイト・オブ・ザ・ピア、その辺が大好きで。みんな蛍光色のジャケット着ていてファッションにも繋がりがあった。あとデヴハインズがやってたTest Iciclesも好きで、実はUsのギターふたりと打ち込みの編成はそこから着想を得ました。

──スーシャンのとき開催されてた〈ZONE〉もそのモチベーションはあったんでしょうか

Ken Truths:〈ZONE〉ではもともと〈SPEED〉みたいなことがやりたくて。海外ではバンド単位でもフィーチャリングとかが当たり前になってきてたんで、その流れを東京でも作りたいなと思って。Group2とか気の合うバンドの人たちと一緒にやってイベント自体はうまくいったんですけど、共同企画というので終わってしまった。それからWaaterと出会って、こいつらとならできるなと思ったんですよ。「天才てれびくんの曲でオアシスみたいな曲があるんだよ」って勧めてきたり、そういう変な音楽の聴き方してるし、信頼してます。

〈ZONE〉:Ken TruthsがSUPER SHANGHAI BANDとして活動していた際に、Group2、Yüksen Buyers House、I Saw You Yesterday、Coughs、LADY FLASHと共催したイベント

──YYOKKEさんの体感的に、ニューレイヴやグランジの音楽性を感じさせるコミュニティってこれまでにありましたか

YYOKKE:それこそニューレイヴが出て来た時期あたりに、東京でニューレイヴに近いことをやってるアーティストは本当に少なかった。しかもその数少ないバンドも結局セルアウトしてメジャー路線になって解散してしまうみたいな。あと、インディ・ロックのコミュニティだと、2010年代中盤に〈CONDOMINIMUM〉周辺のYüksen Buyers HouseやDYGLが出てきて。そこからちょっと空いて、最近はシティポップと呼ばれる人たちが多く出て来てたよね。

〈CONDOMINIMUM〉:Cemeteryが2015年ごろ始動したイベント / コミュニティ。コペンハーゲンのレーベル〈Posh Isolation〉に魅了された仲間とともに立ち上げられ、DYGLやCairophenomenonsなどと東京のシーンを築いた。(Ken Truthsいわく、インディ・キッズの憧れだったとのこと)

Ken Truths:ミツメ以降に出て来た人たちはその流れにありましたよね。

──さらに遡ると、京都のmöscow çlub、Hotel Mexicoとかに辿り着くんでしょうか

YYOKKE:その周辺は当時僕にとってNEHANN、The CabinsやUsのみんなみたいな関係性だったんだよね。今回コンピに参加してもらったバンドを見ると、ちゃんとカルチャーの文脈を汲んだ上で自分たちなりの解釈で新しいことをやる世代がしっかり出てきたなと思います。僕の感覚では5年周期でそういう人たちが出て来てるので2025年くらいにまた新しい人たちが出てくるのかも。

──みなさんの音楽性やスタンスに刺激を受けてバンドをはじめる人だって出てくるでしょうしね

Ken Truths:すでにPsychoheadsも、バンドをはじめる前はWaaterのMVをめっちゃ見てたとかいってたし。

YYOKKE:もう出て来てるってことか。今日はいないけどWaaterはかなり核になってるんだね。

それぞれの美学をどう捻じ曲げられずに共有していくか

──The CabinsのEPに書かれてた「私たちはただ、少数の仲間と強く結びつき、ひっそりと生き抜いてゆかねばならない」というステイトメントはコンピに参加しているバンドに共通してる感覚なんじゃないかなと思いました

seven:ここにいる方々はバンドなり個人なりで美学をどこかに持っていて、それらをどう捻じ曲げられずに共有していくか模索しているんだと思います。内的な美しさみたいなものを自分は感じていて、アクの強い感覚を持った人同士が集まって、形になりつつあるのがこのシーンなのかなと。

YYOKKE:別にいいと思って貰わなくても、どっちでもいいと思いながらやっているところはある。聴かせる人を特定して、わからせてやろうというものではなくて勝手に作ってるみたいな。純粋に正直に作ってるからこそ、内なる情熱が秘められているのかもしれない。あとみんなどこかしら孤独な部分はあるだろうし、それを楽しんでるんじゃないかな。

seven:孤独を楽しんでるからやれてるというか、むしろ孤独だとは感じてないのかもしれないです。

Kuwayama:確かに孤独だとは思ってないな。

Ken Truths:バンドの音楽ってアートとしての意識が強くて、だからこそある種突き放すような部分がある。俺はこれまでバンドもやって来たし、最近ではソロとS亜TOHのりんなとのユニットYung Kissをやっていて、バンドじゃない曲の作り方もやって来たんですよ。それを経てみると、バンドの音楽を作ることって内面的なものだったと思う。

YYOKKE:なにかの記事で読んだ「アートというもの自体、勝手にやっているからアートなのであって、誰かを対象にした時点でアートではない」という話を思い出しました。"勝手にやってる”って不純なものが混ざらないので、結果一番美しいんですよね。

──ロックカルチャーの文脈から美学を持っているバンドが、いまの東京でコミュニティになっている状況はすごく夢があるなと感じます。それぞれの意図が歪曲されないように伝えるための手段も持っているし、東京にいる若い世代がロックに傾倒していったら最高だなと。傍目では思うしその可能性を十分に秘めているなと思うんですが、やってる側としてはどうですかね

seven:ひとつの理想像ではあります。ただ、東京は資本と結びつきすぎているので、東京でアーティストをやること自体すごく難しいなと感じています。理想としては、SNS等のメディアの力を使いつつ、ロックの美しい形を損なわずに伝えて広めていきたいんですけどね。

──YYOKKEさんが今回コンピをカセットというフィジカルでリリースしたのは、いまある流れを後に残したいという想いからですか?

YYOKKE:ライヴの企画自体は、シンパシーを感じる人達と居心地のいい場所でライヴをやりたいからやってたんですけどね。カセットを作って流通させて、配信まで何ヶ月もかけて、ホームページを作ってインタヴューを掲載して…… と手間をかけてやることで、流れていくものをできるだけ留めておきたかった。文脈やストーリーまで知ってもらえるようにしたかったんです。

Ken Truths:今回のコンピってある種時代に逆行する方法じゃないですか、でも一番求められてた方法だと思う。フィジカルでのリリースって強烈に記録することができますもんね。いつの時代になっても音楽がある以上は形として残るもの、フィジカルの作品は必要なものだし。

YYOKKE:音楽好きであれば、みんな形としての作品を残したいはずだからね。レーベルの代わりになれるようなAVYSSとかのメディアがあるいま、自分たちのレーベル〈Herheads〉に何ができるのかな、というひとつの答えを見つけたいという個人的欲求もありました。昔僕が一緒にやってた人たちは時代が違って、海外リリースができるタイミングがあったけど、国内のメディアには全然取り上げられなかった。それがあったから“風化していく“ことがすごく嫌で。だから僕はいまこういうことをやってる感じですね。

──なるほど。ちなみに第2回の開催は考えてますか?

YYOKKE:〈Destruct Session〉を配信でやろうかなとも考えてるけど理想的な形が見えてこないので、『Destruct Tapes #2』を出してしまうのもいいのかなと。とりあえずデモを送ってみて欲しいですね。コンピだけじゃなくて、バンド単体でもレーベルから出したいなとは考えてます。

──ライヴハウスでライヴやること自体難しいですもんね、他にこれからの展望があれば教えてください

seven:The Cabinsは自主企画を連続でやることが決まってて、来月開催する〈PANTHER〉ではロックとハウスを融合したイベントにしようと試みてます。個人的には、DJの活動を増やしていきたいです。

Kuwayama:アルバムを作る予定があるので、リリースしてフェスに出たいなとは思ってます。この先の状況によるのでなんとも難しいですけどね。

Ken Truths:10月3日(土)に〈SPEED 0〉を配信でやります。あとは、営業再開したクラブや野外レイヴに遊びに行ったことでポストコロナでの現場のあり方を感じて、11月にも新しい動きを画策しています。

YYOKKE:〈SPEED〉がいっかい「ゼロ」になる?

Ken Truths:SPEEDっていう概念が一回ゼロになるってことですね。ゼロから再構築して、全く新しい一日を11月に行うという感じです。人生変わりますよ。

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LIVE SCHEDULE

■〈SPEED 0〉
20/10/03(土) Start 19:00
Venue / Internet
Entrance / 1,000
Live
Waater、NEHANN、Psychoheads、yuzuha
DJ
JACKSON kaki 、TRASH 新 アイヨシ
VJ
Mt.Chori
Directed by JACKSON kaki
Produced by Speed

■TILL DAWN
2020/10/06(火) Start 19:00
Venue / @LIVEHAUS_
Door / 2,000JPY+1drink

LIVE
Ms.Machine、NEHANN、VINCE;NT
DJ
Hi-Ray
Limited 40 people
reserve:rocky@livehaus.jp

■〈PANTHER〉
2020/10/16(金) 開場/開演18:00
恵比寿BATICA
¥2,500(+D)
予約→p.u.b.rsv@gmail.com

<LIVE>
The Cabins、No Buses、American Dream Express
<DJ>
EUREKA
Astma
seven

PROFILE

WOOMAN

YOSUKE TSUCHIDA、YUJI ODA、YUUKI YOKOYAMAによる3人組ロックバンド。2014年に結成。2015年に入りライブ活動を本格化、60sサイケ~80sパンク、90sロックとユーモアをクロスオーヴァーさせたサウンドはシーンにおいて異質の存在感を放つ。2016年に自主レーベル〈HER HEADS〉を設立し、1stカセットEP『WOOMAN』を経て、1stアルバム『LOST LOVE』を発表。2019年に2ndアルバム『A NAME』をリリースしている。
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NEHANN

2019年2月結成、平均年齢23歳。Joy DivisionやBauhaus、The Cure、Echo & the Bunnymenといった80年代ポスト・パンクの美学を正しく受け継ぎながら、90年代グランジ~オルタナティヴ以降のセンスをちりばめた現在進行形のアンサンブルを奏でる5人組バンド。2019年12月から3ヶ月連続〈Milk Porridge〉を開催。2020年9月にはレーベル〈BLACK HOLE〉より7インチ『TEC 7』をリリース。アルバムのリリースも予定されている。
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The Cabins

DYGL、No Busesに続く世界基準のUSサイケ、ポスト・パンクバンド。Masami(Gt/Vo)とseven(Gt)が高校時代に組んだバンドに、Vincent(Ba)、Hibiki(Dr)が加わり現体制に。2019年3月から本格的にライブでの活動をはじめると、“Boy Persona”のリリース・イベントを兼ねた初の自主企画イベント〈P.U.B.〉開催や、No Buses、scenes、踊ってばかりの国などとの対バン、2020年1月Kroiとの共同企画〈J.C.T.〉の開催など精力的に活動を行う。5月には新EP『I Remember Everything』をリリース。
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Us

Waater主催の〈Waater Park〉出演が決まってから結成されたという3ピースロックバンド。メンバーはKen Truths(ex SUPER SHANGHAI BAND)、TRASH 新 アイヨシ(Yüksen Buyers House)、Akiyama(Waater)の3人。ニューレイヴ・シーンのTest Iciclesから着想を得たというギター2本、打ち込み、ボーカルという構成でロックの新しい形を模索する。また、Waaterとともにパーティー/レーベル〈SPEED〉を主宰。
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この記事の筆者
TUDA

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Gi Gi Giraffe──軽やかに奏でられる宅録インディ/ブルースロックは誠実さから生まれる

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OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.48 何も考えずに音楽を聴いたっていい

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この記事の編集者
TUDA

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[インタヴュー] NEHANN, Tō Yō, Us, WOOMAN

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