【BiSH】Episode70 アイナ・ジ・エンド「東京ドームに立ちたい」

全国19箇所23公演に及ぶグループ史上最長最大規模のホール・ツアー”NEW HATEFUL KiND TOUR”を完走し、そのツアー・ファイナル公演となったNHKホールで圧倒的なライヴを行った"楽器を持たないパンクバンド”BiSH。今年は紅白出場を目指す事をはっきりと宣言し、ますます勢いが止まらないBiSHに、11周目となるメンバー個別インタヴューを敢行。第1回は、アイナ・ジ・エンドの声をお届けする。
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リズム [NEW HATEFUL KiND TOUR]@NHK HALLリズム [NEW HATEFUL KiND TOUR]@NHK HALL
INTERVIEW : アイナ・ジ・エンド

〈NEW HATEFUL KiND TOUR〉のファイナル、NHK HALLでのアイナ・ジ・エンドのパフォーマンスは、歌はより丁寧にうたわれ、そしてダンスはよりアグレッシブで、本当に素晴らしいパフォーマンスだった。特にその日は、アイナとチッチが群を抜いてすごかったように感じた。各所から引っ張りだこのアイナ。忙しいにもかかわらず、それでもまだまだ成長が溜まることがないのは、根本的にパフォーマンスへの意識が、他のアーティストと違うように感じる。大阪城ホールのライヴにダンスの師匠がきたとのことで、学生時代にどのようにダンスに取り組んでいたのかについて深掘りしてみた。本稿は、アイナを知る上でとても大事なインタビューです。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 井上沙織
写真 : 大橋祐希
ある日家の前で歩けなくなって帰れなかった

──少し遡りますが、9月23日の大阪城ホールは素晴らしかったです。
アイナ・ジ・エンド(以下、アイナ) : 実はその日、パパとママの結婚記念日だったんですよ。ライブの発表前に「結婚記念日にプレゼントがあるよ」とだけ伝えていたんですけど、ちょうど発表のタイミングで私も大阪にいたので直接会って伝えることができて。ふたりが手を取り合って喜ぶ姿を見れて嬉しかったですね。
──ライブの出来はどうでしたか。
アイナ : その日の最大が出せました。あとスタッフさんがプロフェッショナルだなっていうのを痛感しました。前日の23時に1人で大阪城ホールを観に行かせてもらったんですけど、まだ組み立てていて。そういうのも生で見させてもらって、見えないところでこんなに頑張ってくれてる人がいるんだったら絶対いい日にしなきゃっていう思いが募ってました。
──大阪出身のアイナにとって、地元での大規模な公演に特別な思いはありましたか。
アイナ : 感慨深い日でしたね。ダンスの師匠と呼ばせていただいている尾沢奈津子先生がいるんですけど、自分に自信がなくていままでBiSHのライブに呼べていなかったんです。でも5年目にして初めて奈津子先生を大阪城ホールに誘って。「なんて言われるんだろう」「めっちゃ怒られんちゃうかな」とか思ってたんですけど、終わったら抱きしめてくれて、小声で「よかったよ!最高だった!あんたすごいわ」ってドラマの1シーンみたいに言われて泣いてしまって。やってきてよかったと思いました。
──ドキュメントの「GRUNGE WORLD」に映っていた方ですよね。
アイナ : 奈津子先生には、ダンスを習ってた頃ずっと怒られて育ったんです。私が根本的に人とずれていて本当にダメで。奈津子先生もそこを気にしていて、普通の生活に交われるように人間としての根本を鍛えられました。
──奈津子先生はどれくらい厳しい方なんですか?
アイナ : 上下関係に厳しくて体育会系っぽいところもあって、挨拶、掃除、お金の面、目上の人への態度とか、衣装への配慮とか、全てにおいて厳しかったですね。
──でも辞めなかったんですね。
アイナ : 奈津子先生の作る世界観は天才的で、その才能が好きだったんです。先生の言葉や瞬きを1回も見逃したくないと思うくらい、先生の動きをコピーしてました。精神的にはへこたれていたけど、好きだったので毎日レッスンには行けてましたね。高校1年生のときに奈津子先生がやってる自主公演に初めて出させていただくことになったんですけど、毎日厳しいリハがあって、ある日家の前で歩けなくなって帰れなかったんですよ。
──えっ!?家の前で力尽きたってこと?
アイナ : そうです。家の前で四つん這いになっていて。帰りが遅いと思って心配して家から出てきたパパが見つけてくれました。パパに「アイナとの思い出は?」って聞いたら1番にそのエピソードを挙げますね(笑)。でもあのときは生き切ってたからいつ死んでもいいと思っていたし、それぐらい頑張ってて。
──それだけ全力でやっていて、そのまま大阪で活動することは考えなかったんですか?
アイナ : ずっとダンスで生きていきたいと思っていたんです。奈津子先生から離れて、小さい小劇場とかで自分で思い描くダンスをやりたいなと思ってたんですけど、ダンスの相方に「アイナは歌の方がいいよ」って言われて。それから、大阪で頑張ったらかっこいい人にはなれるかもしれないけど、東京に行ったら見たことない世界が待ってるんじゃないかっていう気持ちだけで東京に来ましたね。実際に新しいことを知って、いろいろやってみようと思えて。

──大阪にいた頃、コンテストに出たりはしていないんですか?
アイナ : 1回だけ大阪のavexのコンテストで優勝したんですけど、決勝が東京で、そこでボロ負けしましたね。そのときの審査員がTRFのSAMさんで、発表が終わった後SAMさんに「何が悪かったのか教えてください」って聞いたんです。そしたら「やりたいジャンルは何なの?」って聞かれて「ジャズダンスです」って言ったら「基礎がなってないね。基礎はバレエとかモダンバレエ。コンテンポラリーじゃない。基礎がなってないのにそういうことしちゃダメだよ」って言われて。その通りすぎて相方と2人で号泣しながら夜行バスで帰りました。
──それってオーディションのとき履歴書に書いてましたっけ?
アイナ : SAMさんに怒られたことしか思い出になくて履歴書に書けなかったです(笑)。でもSAMさんのアドバイスのおかげでバレエを始めたりしました。
熱海の秘宝館に1人で行きました

──水曜日のダウンタウンでは豆柴の大群にダンスを教えていましたけど、WACKのグループの多くは、中野のheavysick ZEROから積み上げていくものがあって、追ってる人しか知らないドラマがありますよね。そんな中でTVの力で一気に人が集まっちゃう感じをどう感じていましたか。
アイナ : メンバー個々人の下積みはあっても豆柴としての下積みは何もないじゃないですか。だから大変だろうなとは思いますね。いまのWACKの事務所には鏡のある練習部屋があるんですよ。それすらも私はすごいなと思っていて。自分と比べるのはダサいですけど、スタジオ代が高くて借りられないから夜の公園で影を見ながらウェーブとかターンの練習をしてたんです。それこそ、東京でバックダンサーをやりたかったから宮下公園でやってたし、BiSHも「MONSTERS」の振り付けは宮下公園でやったし。
──そうなんだ!
アイナ : スタジオ代がもったいないから1回1回の練習が大切に思えたんですよね。それを考えると当たり前のようにスタジオがあると何かが欠落するんじゃないかっていう変な心配がありますね(笑)。豆柴にも「鏡があるということは人のいいところが盗めるから自分ばっかり見ない。なんでこの角度が人と違うのか、鏡があるんだから照らし合せて上手くなることをやろう。どんどん私からいいものを盗んでほしいし、悪いことも盗んで」ってダンスの面ではたくさん言うことがあるんですけど、それ以外は別に何も言えなかったですね。先輩面をしてもなと思って。

──大阪城ホールから〈NEW HATEFUL KiND TOUR〉までの間はどう過ごしていましたか。
アイナ : 熱海の秘宝館に1人で行きました。リンリンが静岡の子なので、もし静岡に来たら実家に寄っていいよって言ってくれてたんですけど、リンリンがいない状況で行くのも変かなと思って1人で秘宝館に行って帰りました。
──なんで秘宝館に?
アイナ : ルーヴル美術館とか行っても私アホだから絵のタッチがどうとか分からないんですよ。でも秘宝館なら自分も人間だし理解できることはあるかなと思って。めっちゃ面白かったです。売店のおばちゃんが激辛のカップラーメンを食べながら「ディープキスOK」みたいな看板を持ってるんですよ。目の前には電マとか大人のおもちゃがたくさん置いてあって、すごいカオスな売店で。なんかその人のことを思ったら、どんな生き方でも面白いかもって楽観的に捉えられるようになりました。
──なるほど(笑)。その他には何かありましたか?
アイナ : 山田(健人)さんとの出会いは私にとって大きくて。ジェニーハイも「リズム」のPVも撮ってくれているんですけど、作る世界観の組み立て方が独特なんですよね。「リズム」は自分の心情を吐き出すように作った曲でもあったから、人の口が動いているイメージだったんです。でも山田さんの作った映像は人間が涙を流すんじゃなくて部屋が涙を流してるように表していたりして。ジェニーハイのPVもそうなんですけど、感性が面白いなって思います。
次は自分から声をかけてみたい
──〈NEW HATEFUL KiND TOUR〉はどんなツアーになっていますか?
アイナ : TVを観てBiSHを知った人が最近多くて、そういう人たちも観て楽しいツアーにしたいなって思ってやってます。古くからきてくれているお客さんも大切だし、目を見るだけで名前も思い出せるし、心強くなれる存在ではあるんですけど、新しくきてくれた人にも好かれるBiSHになりたくて。
──具体的にはどんなことをしていますか?
アイナ : 一定のパフォーマンスができるように気をつけていますね。昔はアレンジをするのが好きだったので、声色とかブレスの位置とかいろいろ変えてたんですけど、いまのツアーはいつ観てもこの曲はいいって思ってもらえるようにちゃんと歌いたいなと思ってます。松隈さんに言われたんです。「スティングは昔からずっとアレンジをしなくて、みんなが求めているものを見せてくれる。でも大体のバンドやアーティストはそれに飽きてきて、アレンジを加えたり、コールアンドレスポンスをしたりするんだ」って。

──なるほど。
アイナ : 確かに、もし私が好きなジェシー・Jのライヴに行って聴きたかったフェイクの部分を変えられていたら、それはそれでいいけど、やっぱりあのフェイクを聴きたいと思うんじゃないかなと思って。ってことはみんなが思う「プロミスザスター」や「オーケストラ」をちゃんと歌い切りたいなって。ただ、いまのツアーがそうなだけで、例えばファンクラブの企画だったりライヴハウスは自由にさせてくれって思うから、好きなようにやってそれでファンの人が喜んでくれるんだったらいいかなと思ってやってます。
──ダンスの面でもそうですか?
アイナ : ダンスに関してはアレンジを入れちゃいますね。自分に振り付けをするのが苦手で、元々自分に振り付けがない曲が多いんですよ。「My landscape」とか、みんなで踊るところ以外は未だにずっとアドリブでやっていて。難しいですけど、ダンスは自然と滲み出てくるものだから、アドリブでやる方が自分らしくステージに立てるので未だに決めていないところも多いです。
──今後の展望はありますか?BiSHでも、アイナ個人でも。
アイナ : 明確に東京ドームに立ちたいと思うようになりました。あと個人的に、この前ジェニーハイさんとフィーチャリングしてFNS歌謡祭に出させてもらったときに、バンドっていいなって思ったんですよね。リハからがくっきー!さんがすごい面白い顔して前後移動したり、小籔さんがツッコミを入れてくれてたり、その中で(中嶋)イッキュウさんが「楽しみましょうね」って緊張をほぐしてくれたり、新垣さんは可愛い笑顔を見せてくれたり。こんなにバンドって面白いんだと思って。まあジェニーハイが面白かったのもあるんですけど、その面白さは経験したことがなかったなと。こういうことも経験したいなと思いましたね。今後もいろんな人とコラボしたいっていうのはあります。いままでの5年は声をかけていただいて一緒にやることが多かったので、次は自分から声をかけてみたいです。

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RELEASE INFORMATION
Live Blu-ray / DVD「And yet BiSH moves.」
2020.01.15 OUT!!
[初回生産限定盤]
Blu-ray+Live CD2枚組+PHOTOBOOK(100P)
それでもBiSHは開けているBOX仕様
¥10,000 (tax out) AVXD-92887/B~C
[DVD盤]
DVD
¥4,500 (tax out) AVBD-92888
PROFILE
アイナ・ジ・エンド、モモコグミカンパニー、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人からなる楽器を持たないパンク・バンド。BiSを作り上げた渡辺淳之介と松隈ケンタが再びタッグを組み、彼女たちのプロデュースを担当する。ツアーは全公演即日完売。1stシングルはオリコン・ウィークリーチャートで10位を獲得するなど異例の快進撃を続けている。