【REVIEW】一瞬の快楽なんかで満足したくはない──孤独を記録に残したFINLANDS『UTOPIA』
2018年に3月に結成5周年を迎え、BALLOND'ORとのスプリットEP『NEW DUBBING』やフル・アルバム『BI』をリリース。リリース・ツアーにおいて、渋谷クラブクアトロを含むワンマン・ライヴをすべてソールドアウトさせるなど、着実と全国に拡がっているFINLANDS。そんな彼女たちから早くも新作が届いた。初のEP作品となった今作『UTOPIA』は、ツアーを経て作られた曲や初期曲の再録など全4曲収録した、いまのFINLANDSを表す1作となった今作『UTOPIA』をFINLANDS大好きなOTOTOYスタッフによるレヴューを掲載!
FINLANDS初のEP『UTOPIA』独占ハイレゾ配信!
REVIEW : FINLANDS 『UTOPIA』
詩情ゆたかかつ、聴くひとの心にどこかに必ず跡を残す歌詞と歌声。中毒めいたキャッチーなギターリフとメロディー。それらを伴った楽曲と、確固たるスタンスで着実とその魅力が拡がっているFINLANDS。
2017年には"興奮"の意味が込められたミニ・アルバム『LOVE』をリリースし、興奮を形にしていくという、FINLANDSの信念やバンドとしての色が明確になった。2018年7月にはフル・アルバム『BI』をリリース。「わたしとあなた」「わたしと社会」「同居するふたりの自分」など対峙するさまざまな"ふたつ"を描いた作品となった。
このようにFINLANDSは、これまでの作品にきちんとコンセプトを提示し、「依存と共存」「興奮」「自身の二面性」…… といったように常にさまざまなものと対峙しそのなかの興奮や怒りを音楽にしてきた。
そんななか、FINLANDSにとって初のEP作品となった今作は、ヴァラエティ豊かでありつつもコンセプチュアルに収められ、EP作品としてとてもバランスのよい4曲が収録されている。ミドルテンポでダンサブルな「UTOPIA」では、出だしの〈温くて狭いユートピア〉というフレーズに、ただの楽園ソングではないことをここで突きつけられる。〈暗がりに 喜んで 交換しようか 口腔内〉と官能的かつ美しい、思わず恍惚と聴き入ってしまうような言葉の羅列と、キャッチーで軽やかなメロディーが合わさりとても心地よいバランスを感じる。そして切り裂くようなギターからはじまり、エネルギッシュに展開される爽快なナンバー「call end」では、展開的なベースラインとリズムがダイナミックな構成をつくり、とどまることなく喚き叫び最後まで歌い上げる。さらに、ライヴでもすでに披露されている「衛星」では"離れたくても離れられない"心情が感じ取れるようなベースのフレーズがキラリと光る。EP最後は、現在は廃盤となっている1stミニ・アルバムにも収録され、今回再録された「天涯」。バラードでまとめつつも歪んだ気持ちを独り叫び歌う塩入の歌声に切なくなりながらも魅せられてしまう。
ふたつの対峙するものを描いた『BI』から、今作『UTOPIA』はそのモードの延長線上にあるように感じた。〈わたしは幸せにしてほしいなんて こんな世界には一度も願っていない〉と「electro」(『BI』収録)で叫んでいるように、"温くて狭いユートピア"に浸って得られる一瞬の快楽なんかで満足する自分ではいたくないし、誰かで満たされるより自分で満足を作りだしたい。説明のついた綺麗なしるしで約束された時間を過ごすより、今をもっとそのまま喚いて叫んでいられたらどんなに楽しいか。
対峙するものにしっかりと向き合い自分で答えを見つけだすことは、自分で自分を確実に救うがそれは孤独な時間である。『BI』を聴いてわたし自身すごく重く孤独感を抱いていた。今作では、塩入自身も感じていたというその苦悩な時間すらも咀嚼し作品として形にし、記録を残した。その確固たるFINLANDSのスタンスに惹かれざるを得ない。
2018年の3月に行われた2デイズ・ワンマン・ライヴ〈記録博〉では「記憶ではなく記録として残したい」と語り、結成から5年間の記録を揃えたFINLANDS。これからFINLANDSの記録は、どんなものがどのように増え更新されていくのか。ともに記録を覗いて共有していけることを期待している。(text by 千田 祥子)