斎井直史「パンチライン・オブ・ザ・マンス」 第24回──YamieZimmer『Arsonist Under』

あけましておめでとうございます! 今回で連載2周年を迎えた斎井直史「パンチライン・オブ・ザ・マンス」本年度も何卒よろしくお願いいたします! 昨年末はアリアナ・グランデが昨年惜しくも亡くなってしまったマック・ミラーに捧げた1曲「thank u,next」を取り上げました。新年度一発目となる今回は現在20歳のビートメイカー/ プロデューサー、YamieZimmerをピックアップ。ANARCHYが新プロジェクトとして立ち上げた〈1%〉からリリースされたばかりのアルバム『Arsonist Under』を中心に彼とその仲間たちのセンスとスキル、フレッシュさに満ちたその魅力に迫ります。
第23回 YamieZimmer『Arsonist Under』
2019年になりました。昨年はドレイクやトラヴィス・スコットを代表例として、ヒップ・ホップが昔のポップやロックがいたメジャー・シーンを開拓した事を何度も感じました。しかし、自分は1年を振り返ると数曲しかすぐに名前が出てこない。まるでアウトレットを楽しんで歩き回ったものの、結局大した買い物をしなかった時のような心境に緩〜く悩んでいたのですが、YamieZimmerの『Arsonist Under』で単なる自分のチェック不足だという結論に至りました! 度々目にしていたこの名前、恥ずかしながらしっかり聴いてなかった事を懺悔します(汗)。
横浜の20歳のプロデューサーであるYamieZimmer。彼自身はSki Mask Slump GodやRonny Jを代表とするサウス・フロリダのシーンからの影響を受けていると語っています。
ディストーションのかかった低音からその影響は容易に聴き取れますが、個人的にYamieZimmerのサウンドは更に無機質で音数が少なく、リック・ルービンが手掛けた作品に通じるシンプルさを感じます。
そしてYamieZimmerの仲間達であるLeon Fanourakis、SANTAWORLDVIEW、Bank.Somsaart、Donatello達。彼らのラップがYamieZimmerの持つサウンドをより引き立てています。
自慢げにクソネタ着火 どうせキマらないパセリの葉っぱ
と、音漏れのような汚ったない音からフェードインする「Sick Type」を聞いた瞬間、今作への興味は確信に変わりました。細かなパンチラインが倍速で敷き詰められた言葉の上に並び、センスのあるアドリブがパっとタイミング良く入る。沢山の歌詞と、歪んだ音を聴いているはずなのに、不思議と無駄が無くてスタイリッシュにすら感じます。
振り返ればこの3年程のラップは、パンクやグランジの影響が強かったり、R&Bみたいに歌心が豊かな作品が豊作で、ラップというジャンルが自由に広がりをみせていく様子が楽しかった。それは時に、ジャンルに捕らわれないというドヤ顔が見え透いてしまう程に。
だからこそ、ドヤる暇もない言葉数の多さとスキルの高さから、まっとうなラップを久々に聴いた気持ちになりました。懐古主義でもなければ、自由すぎもしない、まっすぐな今の若いラップ。イントロが無かったり、1曲が2分も無い事も、自分へのショック療法として効果抜群。そうそう、ヒップホップってこうだよ!
そして最後に触れたいのはその声。全体的に低めのトーンでズバズバと捲し立てるラップの中、一際耳に残るのがDonatelloとSANTAWORLDVIEWのアジア人らしい平たい声。リズム感豊かなラップと若い言葉遣いも相まってフレッシュだから何度でも聴けちゃいます。
この曲はアルバム未収録ですが、Donatelloの良さが際立つ例。実は彼が別名義で出していた過去曲と聴き比べると、昔からここまで豊かなリズム表現をしていたわけではなさそう。YamieZimmerに話を戻すと、彼はプロデュースは指示も厳しいらしく、Donatelloのセンスもそのディレクションや仲間達との切磋琢磨の賜物かと思うと、今後のリリースに更なる期待を抱いてしまいます。既に注目が集まってますが、今後の彼らのリリースがとても楽しみです。
斎井がSpotifyにて公開中のプレイリスト「下書きオブ・ザ・マンス」はこちら
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