“気持ちよさ”の追求はオリジナリティの洗練へ──STEPHENSMITH、『ESSAY』ハイレゾ独占配信

福岡にて結成し、現在都内を拠点に活動中のトリオ・バンド、STEPHENSMITH(スティーブンスミス)がニューアルバム『ESSAY』をリリースしました。OTOTOYでは、前作の配信限定シングル3作品から約半年でのリリースとなった今作の独占ハイレゾ配信を実施。バンド感を全面に押し出した前作から一転、今作ではストリングスやシンセ・サウンドも大胆に取り入れ、進化を確実に感じさせている彼らに今作が生まれるまでの経緯や、自身が考えるSTEPHENSMITHの音楽について語ってもらったインタヴューをお届けします。わずか半年の期間で一体どれだけのものを吸収して来たのか、そしてそれをここまで多彩な方法で昇華した底の深さを想像すると、今後のさらなる活躍を期待しないほうが難しい! 2018年も終盤に届いたこちらの『ESSAY』を聴かずして年は越せませんよ。
ニューアルバムついにリリース! ハイレゾ独占配信『ESSAY』
INTERVIEW : STEPHENSMITH

「いまのSTEPHENSMITHには、静かな熱気がある」と、最近の彼らのライヴへ足を運べばいつもそう思った。R&Bやブラック・ミュージックを昇華しながら奏でる自分たちの音楽を“スロウタッチ”と謳い、活動を続ける彼らの新アルバム『ESSAY』は、そんないまのSTEPHENSMITHの熱気が凝縮し閉じ込められている作品だ。
大胆なアレンジやキーボードも新たに加えた今作では、サウンドの面でも大きな変化を感じ取れるが、気がつけば体が揺れ、気がつけばその音に耳をかたむけ、そのうちジワジワと全身に熱を帯びた心地よさが広がる。ああ、間違いなくこれがSTEPHENSMITHの魅力だ。
彼らに今作について話を聞いてみると、彼らの音楽が生み出すまでの過程や自分たちの音楽についても語ってくれた。ひたすら自分自身の内側に目線を向け、現状に満足することなくオリジナリティを研ぎ澄まし続ける彼ら。その熱量がこの作品から多くの人へ広がると、信じて疑わずにはいられない。
インタヴュー&文 : 伊達恭平
写真 : 小林弘輔
3人の音だけで聴き応えのあるものを作りたい
──今回は『ESSAY』というアルバム・タイトルですが、これはもともとなにかテーマがあったんですか?
TARO (以下 : T) : 最初は『ESSAY』というのは決まってなくて、あとから決まりましたね。
CAKE (以下 : C) : まずアルバムを作ろう、という漠然とした流れがありました。音源になってないデモ状態の曲とかもたまってたので、どれから片付けようかなっていう状態でしたね。そのなかでアルバムとしてひとつコンセプトは必要なんじゃないかという話も出てきて、そのタイミングで『ESSAY』という言葉が思い浮かびました。
T : 僕らはもともと福岡で活動していたので、東京と福岡というのがアルバムのなかで繋がってる感じがありますね。
C : まず、福岡で作った曲と、上京中の曲と、東京で作った曲みたいにわけて。そこから収録曲を選んだので、自分たちの時系列みたいなのを感じれるんじゃないかと思います。
──前回の7インチはサックスなども取り入れつつバンド感が全面に出ている印象でしたが、今回はストリングスやキーボードなどが大胆に入っていますよね。こういうアレンジを導入しようと思ったきっかけとかはありますか?
C : 前回は一発録りみたいな感じだったので、その反動ということではないけど今回は一旦好きなように、手の込んだものにしたいという気持ちがありました。ちゃんとした音源作りもしたことがなかったので、これからのことを考えたらアレンジの勉強にもなるだろうし、慣れておきたい、みたいな考えもあったかな。
T : 「どこまでやっていいんだろう」みたいな許容範囲とかも、これから徐々に理解していくんだろうなと。今回はそういう部分での収穫もあったと思います。
──ということは今回のレコーディングは今までとは違った?
C : 違いましたね。反省点も出てきて、ちゃんとしようって思った(笑)。
──たとえば?
C : ギターもベースもドラムも、もっとこだわって音作りしたらよかったなって。理想はアレンジもキーボードとかも控えて、3人の音だけで聴き応えのあるものを作りたい。そのためにもひとつひとつの音の粒がハッキリした状態にして、合体するだけで伝わるぐらいのものにしたいなって感じました。今回はアレンジで聴く人の意識をあえて散らした側面もあるから、改めて本来の自分たちの目的がハッキリしましたね。あとは曲作りだけじゃなくて、アレンジも念入りに準備をした方が納得のいくものができるなと思ったかな。
OKI(以下 : O) : 僕らの音楽はドラムとベースがものすごい強調されるので、ベースはフレーズや音の長さとかをもっとこだわるべきだなと感じましたね。
T : 僕は「フラットな関係」のドラムはループで作って。あとは「紫陽花」は冷めた雰囲気の曲なので、「手放せ」や「欲しがり」みたいな曲との温度差を意識して演奏するようにしました。具体的に工夫した部分は結構あるんですけど、最初に鳴ってる音を聴き返してみると、少し混沌としてる感じもあったので、まず音を録るということへの意識がフワッとしてたなと気づきましたね。自分がこの曲に対してどういう音が鳴らしたら気持ちいいのかとか、それは僕とOKI君がもっとふたりで意識しなきゃいけない部分だなと思いました。

自分たちが聴いていて気持ちいいと思えるか
──レコーディングは前回に引き続き葛西(敏彦)さんと一緒にされていますよね
C : 前回もだけど葛西さんがいっぱい提案してくれて勉強できたことが大きかった気がする。
T : 3人とも優柔不断なところがあるから、迷って行き詰まった瞬間に葛西さんが「一旦やめて次行こう」とかそういうことを言ってくれたし。わりと和やかな雰囲気でやらせてくれましたね。
C : 「デコルテ」って曲のエフェクトとか、音作りのアレンジは葛西さんがいろいろやってくれて、めっちゃカッコよくなったなというのはありますね。ブリブリな感じにして意外な攻めかただったけど、すごいしっくりくるミックスになりました。葛西さんのミックスが終わってできたものを聴かせてもらったときに、めっちゃかっこよくて笑ってしまったのは覚えてる。録り終わったものをエフェクトで変えてみたいな、こういうアレンジの仕方もあるんだなって思いましたね。
──新曲の「デコルテ」や「欲しがり」は、今までにない雰囲気が出ていると感じたんですけど、この曲を作ったきっかけとかがあれば教えてください
C : どっちもパパッと作った感じはあるんだけど。まず「欲しがり」はちょうど音源を作ろうって話が進んでいる段階で、なんか煮詰まってはいないけど悩んでいたときにできた曲ですね。最初にビートとベースを思いついて、バイト先ですぐトイレに入ってケータイのGarage Bandで打ち込んだんですよね。次の日はスタジオだったので、デモにギターと適当に歌を加えて、スタジオに行って3人であわせて録音しました。それをミーティングで出したら「よし!」ってなって(笑)。そのときはちょうどフックになるようなものがなくて悩んでいた感じもあったんだけど、この曲があって、このアルバムのメインになる曲がハッキリした。わりと勢いで作った感じなのでそれもあってスピード感が出たのかなと思います。もともとデモの時点ではゆっくりに作ってたんだけど、ライヴのノリを考えるとスピード感があったほうがいいのかなと思って、早めのアレンジに変わりました。その部分では、今後のSTEPHENSMITHの方向性をいろいろと広げられる曲にはなったのかなって思います。
──デモの段階では、いつもの曲とは違うなと思ったりはしなかった?
T : いや、いつもと違うとは思いました。最初のライヴとかでやったのを聴いたら、けっこうテンポも遅いので、アレンジも早くなってると思います。でもあの曲をやってみて「あ、早い曲もやっていいんだ」というか、それで「STEPHENSMITHっぽくないな」っていうことにはならないと思いました。あの曲はあの曲で自分たちっぽいし、それは発見だなと。
──個人的には“スロウタッチ”というバンドのテーマやこれまでの曲からも、ゆったりとした空気感というか、そういう部分にSTEPHENSMITHっぽさを感じていたんですけど、自分たちではそのSTEPHENSMITHっぽさの部分はどういうところにあると思いますか?
T : スタジオであわせて「これはライヴでできるな」と思った瞬間はもうSTEPHENSMITHっぽい。デモを作ってスタジオで実際に合わせても「なにか違うな」ってことが多くて、そういう曲は多分STEPHENSMITHでやる曲じゃないんだろうなと思います。こればっかりは感覚でしかないんだけど(笑)。
C : 自分で作っといてだけど、曲に対してこの人とは合わないみたいな(笑)。STEPHENSMITHではないなみたいなのがある。歌と楽器のノリが平行移動してる感じが大切なんだろうけど、それがちょっとでも噛み合ないと、うーんってなる感じです。直感的な何かがあるんだろうね。
T : 合わないときはみんな浮かない顔するもんね(笑)
──YouTubeに投稿しているデモ音源は、音源化の前にライヴでやってたりもしますよね。
C : デモに関しては、まず僕がイメージを整理したいから作っている部分があります。デモの時点でわりと自分のなかでは完成してて、普通に人にも聴いてもらいたいなっていう好奇心もあるから投稿しているんですね。YouTubeにアップしたあとでふたりにも聴かせるので、結果としてふたりはリスナーと同じタイミングで聴くことになる。それをふたりがどうアレンジするかというを過程を見てほしい部分もあります。聴いたお客さんがたまにライヴのあとで「デモより速かったですね!」って言ってきたりして、そういうのはおもしろいなって思うし、違いを感じてくれると聴くのも楽しくなるだろうし。そういう点ではポジティヴに捉えていいのかなって思います。
──ライヴだとそのデモ音源とアレンジが違うことも多いと思うんですけど、それはTaroくんとOKIくんがアレンジを加えている部分が強いんですか?
C : これがまた難しい話なんですよね(笑)。
T : アレンジを加えているというよりは、一旦そのままスタジオで演奏してみたときに出てくる違和感をなくしていく感じかな。デモだと色んな音が入ってるけど、3人でやると「なんかおかしいぞ!?」ってなるので。
C : どうしてもハマらないパズルがあって、これがいちばん課題な気がする。でも、それを技術とか、才能とかでねじ伏せたいみたいなのもありますね。全員の音をそこまでするかっていうようなことで、うまくまとめたいというストイックさというか。
──今回の曲たちは、3人とも「ハマった」と思えた?

C : 自分たちが聴いていて気持ちいいと思えるかというのは、まずひとつの目的ではありました。反省点もあったから、それを達成できたかどうかはいまの段階ではなんとも言えないけど、目指したものにはなっています。
──自分たちが演奏していて、気持ちよくなる瞬間とかってありますか?
C : 僕は歌を歌ってるからひとりで勝手に気持ちよくなってます。そこらへんはみんな理想があるだろうし、そこに追いつこうとやってるので。
T : 広いところでたくさんの人に見てもらえてるというだけでまずは気持ちいいですね。ただそれは外からの気持ちよさで、本当は3人で演奏することで気持ちよさが生み出せるというか、そういう部分を目指してます。なのでもっと気持ちよくなれるはずっていう気持ちはありますね。
O : この前のライヴでお客さんから歓声とかがよく聴こえてきて、そういうときは嬉しいし気持ちも高揚することもあります。演奏だと、自分の立ち位置的に、CAKEは横顔くらいしか見えないけど、TAROは顔が見えるので、ふたりは今なにを考えているのかなとか。ちょっと今楽しそうな顔してるなっていうのを見たりしながら気持ちよさを感じてるかもしれないですね。気持ちよさはTAROが言ってたように、まだ外的、視覚的な要因が大きいと思います。」
──STEPHENSMITHの音楽において“気持ちよさ”は大切ってことですよね。
C : ブラック・ミュージックとか好きで、そういうアーティストの動画とかを見るとみんな上手いんですよ。そういうのを見て音楽をやってきたので、やっぱり理想がそこになってますね。そういう人たちって気持ちよさそうに演奏しているので、そこに行きたいなって思います。それを体現していくようにみんなでがんばろう(笑)。
T : OKIとかCAKEが気持ちよさそうになってるのを見て僕もテンション上がるけど、それって人任せだなって、自分のことをそう感じるかな。自分が気持ちよくなれば、他の人も気持ちよくなるっていうのがないといけないと思う。
O : みんながそれぞれ気持ちよくなって、他のふたりの姿を見てさらに気持ちよくなっていうことだもんね(笑)。

ここは絶対通過点でしかない
──いまブラックミュージックやR&Bからの影響を公言しているアーティストは結構多いと思います。STEPHENSMITHもそういう音楽からの影響を宣言しているなかで、今のシーンや他のアーティストに対して感じているものはありますか?
C : 僕はR&Bって歌がいちばん大事だと思ってます。目標というか希望としては歌で誰よりも上手いって言われたい。そこがまずいちばん大事だと思ってる。今の“R&B好きですバンド”の人たちは、“歌がそんなに上手くなくてもできるぜ感“がある気がしてて、そこは生温いんじゃないかって思ってます(笑)。あとは3人にこだわってやってるって部分を見て欲しいし、そういうバカみたいにストイックにやってる感じは誰にも負けてないから評価してほしいって思うかな。あと、僕はもともと兄にブルースを教えてもらって、それがギターを弾きながら歌うっていうことが幹になってる感じはあります。だからブルースの精神はずっと持ち続けたい。
O : 僕は他のアーティストを聴いてても「いいな」と思いますね
C : それは思うよね。
O : iriとかめっちゃ好きだし。
T : 自分がやってる立場としては、全然違うものとして聴こえてる気がするけど、それは意識してないってことなのかな。逆に意識してしまうと寄っていってしまうので。
C : 他の人にあまり興味を示さないと。それもあるね。
T : 内に内に目線を向けて、自分たちを掘り下げていけば勝手におもしろいものができるだろうし、あんまり周りを気にする技術もないんですね。やっぱCAKEの持ってる個性というか、言葉の使いかたは個性的だと思うし、このままやり続ければ同じようなものが生まれることは絶対ないから、周りのこととかはあんまり考えてないですね。
C :自分たちのことをもっと突き詰めればいいんだろうなって思います。いまはR&Bの流れがあるかもしれないけど、そこにたまたま僕らがいるだけで、ここは絶対通過点でしかないし。僕らはやっとこれからがスタート地点になるだろうし、今、音源を出したのもそういう意味があると思ってます。自分たち以外の動きに揺るがされたりはしないと思うかな。
──今回はMVの撮影とかアレンジの部分も含めて、いろんな人たちとアルバムを作っている印象があったので内側に内側にというのはすこし意外でした。
C : でも関わる人が増えたっていう実感はすごいあるから、そういう人たちとのバランスを取る必要があるという認識はあるかな。
──そういうバランスを取りつつも、今後も自分たちの根底を突き詰めていくっていう部分は変わらない?
C : もっと削ぎ落として、もっとストイックにやっていきます。
──楽しみにしてます! 最後に今後の展望などがあれば聞かせてもらえますか?
C : 僕は、もっと柔軟に人の言葉とかを捉えられるような人間性を身につけたいという目標がありますね。もっと柔軟に物事を考えられるようになったら、新しい音楽も作れるし、人との関わりも増えていくだろうし。そうすればチャンスがもっと増えるかもしれない。大きいライヴ・ハウスに出るとか、もっと知ってもらいたいとか漠然とした展望はあるけど、それを実現するために柔軟な人間になりたい。人として成長したいなって思いますね。
O : いろんな人に知ってもらいたいってことは前から変わってなくて。CAKEが自分の人間的なとこを話してたので、僕もそれに合わせて話すと、とにかく疲れやすい体質なんですね(笑)。
全員 : (笑)。
O : 筋トレして筋肉もつけていきたい(笑)。あとは自分の時間ができたときは、楽器を弾いて音楽を聴いて、いろいろ分析しつつ、いろんな人に聴いてもらうためにCAKEの作った歌を引き立たせるフレーズやベースプレイを磨いていきたいと思います。
T : 僕は次の音源をすぐ作りたい。今回もいろいろできたけど、次はまた今回とは全然違う雰囲気になりましたねって言ってもらえるくらい挑戦したものができたらいいな。それはなるべく早くやっちゃいたいです。

STEPHENSMITH過去のインタヴューはこちらから
●“スロウタッチ”と標榜された音楽──STEPHENSMITHのメロウ&グルーヴィーな佇まい https://ototoy.jp/feature/2017092003
●STEPHENSMITHが生み出す艶やかな“隙間”──3週連続配信リリース https://ototoy.jp/feature/2018052303
LIVE
〈WWW presents “dots”〉
2018年12月19日(水)@渋谷WWW
OPEN 19:30 / START 20:00
Act : STEPHENSMITH / AAAMYYY
ライヴ詳細はこちらから
〈Release Live “Essay”〉
2019年2月8日(金)@TSUTAYA O-nest
OPEN 18:00 / START 19:00
Ticket : adv. ¥2,000
※チケットは2019年1月5日(土)より発売
●Ticket Info.
SOGO TOKYO : http://sogotokyo.com/
PROFILE
STEPHENSMITH

CAKE / Vocal & Guitar
OKI / Bass
Taro / Drums
2013年、福岡にて結成。
オルタナティヴな感性でコンテポラリーR&Bをブルージーに表現するトリオ・バンド。「リンゴ音楽祭」、「CIRCLE」などグッドミュージックオンリーなイベントに軒並み出演。 2018年5月の配信SGリリース、その7inch化「 豪雨の街角 / 手放せ」に続く最新リリース、ニューアルバム『ESSAY』12月5日発売。
【STEPHENSMITH OFFICIAL HPはこちら】
http://www.breast.co.jp/stephensmith/
【STEPHENSMITH 公式Twitterはこちら】
https://twitter.com/steve_s_info