『やがて君になる』に寄り添った彼女の歌声──安月名莉子「君にふれて」ハイレゾ配信開始

2018年10月より放送中のTVアニメ『やがて君になる』。仲谷鳰による原作コミックスは累計70万部を超え、その切ない内容に心を奪われる読者が続出している。そして待望のアニメ化となった本作のOPテーマを歌うのが、安月名莉子だ。OTOTOYでは、デビュー・シングルとして「君にふれて」をリリースした彼女にインタヴューを敢行。彼女がギターを持ち、歌い始めるまでの経緯や『やがて君になる』への想い、そして自身の今後の目標などについても語ってもらった。彼女の記念すべき1歩目を、このインタヴューと共に読み解いてみよう。
安月名莉子デビュー・シングル「やがて君になる」OPテーマ「君にふれて」
INTERVIEW : 安月名莉子
高校生の女の子同士の恋心を繊細に描いたアニメ「やがて君になる」。その世界観を見事に切り取ったボンジュール鈴木作詞・作曲によるオープニング曲「君にふれて」において、あたたかく瑞々しい歌声を披露しているのは、安月名莉子という新人アーティストだ。
安月名は幼少よりミュージカルなどの舞台に立ち、役者の経験なども経ているが、大学進学を機にシンガー・ソングライターの道に進んだ異色の経歴の持ち主。その際には覚悟を決めて、高価なアコースティック・ギターを購入したという。いったいどんな人物なのか。
まるでアニメのオープニング映像とシンクロしているかのように、色とりどりの花が飾られた池袋のバーで、これまでの歩みや音楽への思い、そして「君にふれて」についてなど、本人にたっぷりと語ってもらった。まだデビューしたばかりの彼女の魅力に、ぜひとも触れてみてほしい。
インタヴュー&文 : 前田将博
写真 : 黒羽政士
自分の言葉で伝えたい
──安月名さんは、幼少期から音楽が身近にあったそうですね。
物心ついた頃から、おうちで歌って踊っていたみたいです。小さい頃のビデオがあるんですけど、テーブルの上に立って「イッツ・ア・スモールワールド」を歌っているんですよ。たぶん、それが一番最初に歌っていた曲だと思います。あとお母さんがピアノの先生をやっていたので、私も幼い頃から音楽に触れていました。
──歌うことが好きだった。
ずっと好きでしたね。小学校くらいから「セーラームーン」や「おジャ魔女どれみ」みたいな女の子ヒロインのアニメを見ることが多かったので、アニソンも歌っていました。あとは舞台が好きで、ミュージカルの曲もたくさん歌っていましたね。
──歌手を志す前は、役者としてミュージカルやテレビなどに出演されていたそうですね。
母がもともと舞台鑑賞が好きで一緒に連れて行ってもらっていたので、私もキラキラした世界に憧れがあったんです。それで小学校2年生から高校まで、ずっと舞台をやっていました。
──ミュージカルでも歌う機会は多いですよね。
そうなんです。ミュージカルって歌とダンスと演技があると思いますが、そのなかでも歌うことが一番好きでした。まわりの人からも歌を褒めていただくことが多くて、歌1本でやっていきたいと思うようになりました。あとミュージカルも同じように台本があり、演じるのももちろん好きなんですけど、自分の言葉で伝えたい気持ちもあって、高校を卒業するときに、シンガー・ソングライターとして活動していこうと決めました。

──その頃に好きだったアーティストも、シンガー・ソングライターの人が多かった?
YUIさんとか、弾き語りをされるアーティストさんにすごく憧れていましたね。一番影響を受けたのはKTタンストールさんというスコットランド出身の方です。ギター、ピアノ、ドラムと全部自分で演奏するんですけど、それがすごくかっこいいんですよ。
──それで弾き語りをやっているんですね。
あと大きかったのは、家入レオさんの「Shine」という曲があるんですけど、音楽番組で歌っているのを見たときに感動して。ちょうど自分が大学1年生で夢に向かって熱い気持ちになっていた頃で、夢に対する前向きなメッセージとか、壁にぶつかっても大丈夫だよっていう同世代のレオさんの言葉を、ダイレクトに共感したんです。なので歌詞は、家入レオさんの影響もすごく受けていると思います。
──大学に行ってから、具体的にはどのような活動をしていたんですか?
曲の作り方もわからなかったので、大学とは別に音楽学校に通いながら音楽理論を勉強していました。ギターも大学1年から本格的にはじめましたね。
──ライヴもやっていたんですか?
今まで、アコギ一本で多いときには1カ月で5~6本くらいライヴハウスに出たり、たまに都内の路上で弾き語りをしたりしていましたね。それこそ池袋駅の西口とかでもやっていたので、近くを通ると「あ、ここ!」って懐かしくなります(笑)。歌手として人前で歌うことに慣れていなかったので、とにかくいろんな場所で歌うことを意識して、場数を踏んでいきました。その場によって空気も感じ方もまったく違うので、もっとやらないとなと思います。

常に成長を実感できているので、音楽がずっと好きでいられるのかもしれない
──音楽1本でやろうと決めたときから、プロになろうと思っていた。
はい。小さい頃から舞台をやってきたおかげか、負けず嫌いなところがあったので、最初からデビューするのが目標でしたね。とことんやろうって決めたので、大学1年のときにヴィンテージの高いギターを買いました(笑)。逃げ場をなくそうと思って。
──お店の人も驚いたんじゃないですか?
おじちゃんの店員さんが「こんな若い子がヴィンテージを買うの!?」って驚いてて、その言葉もうれしかったですね。
──そのギターはいまも使っているんですよね。
ライヴ用は別にあるんですけど、レコーディングでは使っていますね。大事なギターになっています。

──自分の歌を届けられる自信はあった。
変な自信はあったんですよ。でも大学を卒業したての頃は、結構まわりの意見に左右されることもありましたね。こうやってみたらとか、こういう歌い方がいいんじゃないかとか、いろいろ言われて惑わされちゃってました。それに正解はないと思うんですけど、もっとちゃんと自分を持って、自信を持ってがんばっていかなきゃなって。
──ライヴの集客はどのくらいだったんですか?
当時は自分のお客さんがゼロのときもたくさんあったので、苦しかったですね。でもその場に聴いてくれる人がいる限り歌いたい気持ちは変わらなかったので、辞めようとはまったく思わなかったです。(しばらく沈黙)……いま、その頃を思い出しちゃってました(苦笑)。
──心が折れそうになることもあった。
歌に自信があったぶん、納得がいかないライヴをしてしまったときは、すごく心が折れましたね。パフォーマンスや音のこととかで悩むことが多かったんですけど、最終的には前向きなので、引きずったりはしないんですけど。悩んでる暇があったら行動に移して、それが合ってなかったらまた悩んでって繰り返しで、また新しい発見があって。それで常に成長を実感できているので、音楽がずっと好きでいられるのかもしれないです。
──当時の曲には、そのときの葛藤なども込められている?
その頃は、そういう自分自身の内面から出る気持ちを結構ストレートに曲に書いていましたね。自然が好きなので、星を例えにしたりすることも多いです。ライヴでへこんで考えながら歩いていた帰り道に、暗い道で星を見ながら、ふと思ったことをそのまま歌詞にしたり。感情は変わるけど、星の位置やいつも見ている風景はそのままだし、ちゃんと帰る場所もあるし、家族も待ってくれているなって。
──いまは曲の題材も変わってきている?
だんだんライヴを重ねていくうちに、お客さん側の立場の曲というか、元気を与えられる前向きなものも書けるようになりました。あと最近は自分にないもの…例えば浮気とかドロドロした世界をテレビでやっていたら、それを曲にして自分で歌うことにも、すごく楽しさを感じています。もともと演じることが好きでしたし、歌ってこんなにたくさん表現できるんだって。そうやって書くものはどんどん変わっていきましたね。

いかに物語に寄り添えるかを考えながら歌いました
──どういう経緯でデビューが決まったんでしょう。
とあるアニメ作品の主題歌を歌う人を探しているという話をいただいたので、レコード会社の方に自分の音源を聴いてもらって、オーディションで選んでいただきました。
──ではアニメのオープニングというのが決まっていた。
そうですね。子どもの頃にアニソンを歌っていた思い出があったので、乗り気でした。「ONE PIECE」とか「ドラえもん」とか、いままで自分が聴いていたアニソンって、イントロを聴いたとたんに名場面が蘇えるようなものばかりだったですし、自分が歌ったことのないような楽曲にチャレンジできるっていう、ワクワク感が大きかったですね。
──デビューが決まったときに、どっきりを仕掛けられたそうですが。
あれは驚きましたね(笑)。音源を聴いていただいた1~2週間後くらいの面談だったので、期待はしていたんですよ。でもいままで舞台のオーディションとかで悔しい経験もたくさんしてきたので、ダメだったときの心構えもしていました。実際に行ったら、スタッフの方が暗い雰囲気で出迎えてくれつつも「デビュー」「おめでとう」と書いてあるTシャツを着ていたことに気づかず、最初は本当に落とされたと思っていましたね。だから短時間で考えることがたくさんありすぎて、まっしろになりました(笑)。
──アニメ「やがて君になる」は女の子同士の恋愛の話ですが、安月名さんもTwitterに「感情移入できる場所が多すぎて」と書かれていました。
はじめて見たときは、もう絵がきれいすぎて、すごくキラキラした世界だなって思いました。感情移入というのは、それぞれの登場人物に共感できる部分がいっぱいあるんです。主人公・小糸侑の「好きって気持ちがわからない」というのも、初恋に近い感情というか、誰にでもあると思うんですよ。これが本当に好きってことなのかなって。あと七海先輩のストレートな感情表現は憧れるし、登場人物それぞれに光る部分があるんです。
──それぞれの感情がすごく繊細に描かれていますもんね。
あと女の子同士の恋愛だからこそ、面倒くさい部分が見えてきたり。小糸ちゃんが小悪魔的な部分を出してきたりとか。
──その世界観を、そのままボンジュール鈴木さんが曲にしています。
原作もすごく好きなので、ミュージカルを演じていたときみたいに、物語を演じているような気持ちで歌わせていただきました。だから胸が苦しくなる瞬間もあるんですけど、それもふくめて楽しかったですね。歌詞も、ここは第何話のこの部分のことかなって照らし合わせながら、いかに物語に寄り添えるかを考えながら歌いました。
──レコーディングは順調でしたか。
はじめてのレコーディングだったので、緊張もありましたが、すごく楽しくできましたね。これまで歌ったことのないような高い音程もあったので、どうしたらエモーショナルに歌えるか、事前にいろいろ試してから臨みました。それもあって、想像していたよりも早く終わることができたので、もっと歌いたいくらいでした。
──カップリングの「rise」では作詞もしていますよね。
カップリングに決まる前からあった作曲家の濱田貴司さんに提供いただいた曲なんですけど、それに歌詞を載せました。大きい地球とか、いまここにいる自分をテーマにした壮大な内容になっています。共作のRUCCAさんにも助けていただいて、より美しく、相手に伝わる表現にしていただきました。
──壮大ですが、とても爽やかな楽曲ですよね。
そうなんですよ。最初のアレンジはバラードだったんですけど、歌詞ができてから、軽やかで前向きな明るいアレンジに変わりました。バラードをイメージして書いたのでどうなるんだろうって思ってたんですけど、すごく美しい曲にしてくださいました。
──シングルとは別にOVA『Re:ゼロから始める異世界生活 Memory Snow』の挿入歌「Memorise」も歌われていますが、この曲もまた違ったタイプの曲ですよね。アコースティック基調なアレンジで、安月名さんの声の良さがすごく伝わってきます。
これはもともと自分が好きで聞いている洋楽に近かったので、歌っていてすごく楽しかったです。ただ全英語詞で、発音がすごく難しくて、レコーディングでは苦戦しました。あとライヴではアコースティック・ギターで弾き語りをしているのですが、どれも奏法が全然違うんですよ。「rise」はジャカジャカのストロークだけど、「Memorise」はアルペジオでめちゃくちゃ難しくて、全部チャレンジでしたね。
──ゆくゆくは安月名さんが作った曲も、アニメの主題歌に起用されることがあるかと思います。
そうなりたいですね。でも今回、自分では作れない素敵な曲を提供していただいて、新しい自分を発見できたっていう感動がすごくあったんです。だからこそ、もっとアニメを見てくれる方や、作品に寄り添った歌を歌えるような研究していきたいですし、自分でもそういう曲を作れるように努力していきたいなって思います。まずは目の前にあることをコツコツ、自分を見失わないように、がんばっていきたいですね。
みなさんの前で歌っているときが一番幸せを実感できる
──ライヴも引き続き、どんどんやっていきたい。
みなさんの前で歌っているときが一番幸せを実感できるので。いつかワンマン・ライヴもやりたいですね。
──やってみたい会場はあります?
そうですね…夢は大きくなので、東京ドームがいいですかね! 大きいところしか思い浮かばない(笑)。
──いちばん広いところですね! 東京ドームでライヴを見たことがあるんですか?
ももいろクローバーZさんを見ました。実はアイドルもすごく好きなんです(笑)。がんばってる姿を見ると、心を打たれるんですよね。この前、解散しちゃったんですけど、ベイビーレイズさんとかもすごく好きです。

──ではいつか、彼女たちと同じステージに。
はい。私の夢です!
──最後に「君にふれて」を聴く方へメッセージをお願いします。
「君にふれて」が流れるオープニングの映像に、いろんなお花が使われていて、最初は自分でもわからなかったんですけど、そこに深い意味が込められていたりするんです。そのなかでも私が一番好きなのが、最初に出てくる青いエリンジウムって花です。色味も大好きなんですが、花言葉を調べたら「秘密の恋愛」とか「秘めた恋愛」っていう意味で、鳥肌が立ったんですよね。そういうところまで深く考えて作られていて、ほんと素敵だなって思いました。あとまだ出ていないシーンの話も歌詞に込められているので、そういう部分もふくめて、オープニングの映像や「君にふれて」は回を重ねるごとに味を増していきますし、楽しんでいただけるんじゃないかなって思います。
──物語が進んでから改めて曲を聴いたら、また印象が変わるかもしれないですね。
そうですね。歌ってる私自身も、自分のなかから出てくる感情がどう変わっていくのか、すごく楽しみです。

『やがて君になる』主題歌『君にふれて』&『hectopascal』両作品ハイレゾ配信中
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『やがて君になる』 EDテーマ「hectopascal」もハイレゾ配信中!
今回、取材場所としてご協力頂いたのは『HANABAR』さん
HANABAR
住所 : 〒171-0021 東京都豊島区西池袋3丁目30-6
電話 : 03-6874-5459
営業時間
Lunch Time : 平日 11:30~15:00 (L.o.14:30) / 土日祝 11:30~17:00 (L.o.16:30)
Bar Time : 全日 18:00~24:00 (L.o.23:00)
URL:https://www.hanabar.tokyo/home
PROFILE
安月名 莉子

12月3日生まれ。
幼少よりミュージカルやTVへの出演を通し、役者としての表現を学ぶ。
大学進学と同時に自身の思いを形に残すためシンガーソングライターとしての活動を開始。 2018年10月放送TVアニメ『やがて君になる』のOPテーマ「君にふれて」でメジャーデビュー。同時に『Re:ゼロから始める異世界生活 Memory Snow』の挿入歌「Memories」の歌唱に抜擢される。
卓越したギター演奏と寄り添う声で、こころを歌い上げる。
ふと、その声が聞きたくなる。
【安月名莉子 公式HPはこちら】
https://www.azuna-riko.com/
【安月名莉子 公式Twitterはこちら】
https://twitter.com/azuna_riko