2016/02/29 11:50

暗闇のなか、深淵を覗かせたピアノと残響だけの世界──渋谷慶一郎、ソロ・コンサートDSD配信

渋谷慶一郎

2015年12月26日、青山にあるスパイラルホールにて開催された渋谷慶一郎のピアノ・ソロ・コンサート「Playing Piano with Speakers for Reverbs Only」。同年9月に行った完全ノンPA、アンプラグド公演「Playing Piano with No Speakers」の確かな手応えを受けて、"ピアノの生音はそのままに、残響のみをコントロールすることでピアノと空間の関係を新しく作ることができるのではないか"という発想のもとに本公演が生まれた。

さらに、『サウンド&レコーディング・マガジン』誌プロデュースのもと、本公演をDSDで収録。演奏された18曲が一つの作品として完成、OTOTOY独占で配信がスタートする。配信形式は5.6MHz DSDと24bit/96kHz PCM音源。その記念インタヴューとして訊き手に國崎晋(『サウンド&レコーディング・マガジン』)が立ち、渋谷慶一郎に迫った。

渋谷慶一郎 / Playing Piano with Speakers for Reverbs Only
【配信形態 / 価格】
[左]5.6MHz DSD+mp3 : アルバム 2,800円(税込)
>>DSDの聴き方

[右]24bit/96kHz(WAV / ALAC / FLAC) / AAC : アルバム2,800円(税込)
>>ハイレゾとは?

【Track List】
01. When Attitudes Become Form 〜 For Death 〜 Our Music
02. J.S.Bach BWV1056-2 Largo 〜 Time and Space 〜 Mother Song
03. Arnold Schönberg Kleine Klavierstücke Op.19-1 Leicht, zart 〜 Johannes Brahms Intermezzo Op.118-2 〜 Blue Fish 〜 Ballad 〜 Sacrifice
04. Ran Across the Bridge 〜 Spec 〜 Heavenly Puss 〜 Open Your Eyes
05. For Maria
06. Memories of Origin
07. My Foolish Heart

INTERVIEW : 渋谷慶一郎

左から、渋谷慶一郎、國崎晋(訊き手)

会場がピュアな残響に包まれた時、そこににわかに立ち現れたのはピアノという楽器のまさに核そのものである。反射して舞い降りる残響は、アイコン化された昨今のピアノからやるせなさを洗い落とし、本来備えている音色の深度をありのまま観客に聴かせたに違いない。あの夜、「Playing Piano with Speakers for Reverbs Only」において更新されたピアノと空間の関係は、これからどのような展開を見せるのか。新たな実験はまだその幕を開けたばかりである。

インタヴュー : 國崎晋
構成&文 : 稲田真央子
取材写真 : 雨宮透貴 / コンサート写真 : Kenshu Shintsubo

鳴っている音の中に自分自身が入っているという感覚になった

──今回ライヴ収録したコンサートは、2015年9月にソノリウムで行ったコンサートが発端になったものと聞いています。ソノリウムと言えば『ATAK015 for maria』へつながる音楽葬が行われた会場ですが、なぜ、あのタイミングでソノリウムでコンサートをやろうと思ったのですか?

去年、生まれて初めてピアノをもう少し上手く弾けるようになりたいと思ったんです。こう言うと「それはテクニカルな意味じゃなくて」とかなんとか普通は言うんですが、テクニカルな意味でも今より引き上げたほうがいいと思ったのと、そうすれば本番での自由度をもうちょっと上げられるんじゃないかと思ったんです。ほとんどは自分の曲を弾くわけだから、曲に対する確固としたイメージは既にあるんだけど、そこからどう逸脱するかが重要で、そのときの自由度を上げたいと思ったんですね。

──その逸脱をソノリウムという現場で実際に試してみようと?

そうです。あの会場は『ATAK015 for maria』を作るきっかけになった場所だから、一度原点に戻って、自分の演奏を見直したいという思いがあったのと、それとはまったく別に、ライヴでのディレイに対する違和感を解消したいという思いもあったんです。いろんなシチュエーションでピアノを弾くんだけど、そういう会場で生まれるディレイがずっと前から気になっていたんですよ。

──ディレイというのは、生音として聴こえる自分が弾いたピアノの音に、モニター・スピーカーからの音、そして会場向けのスピーカーからの音が遅れて鳴ることによって生じる音のことですよね?

うん、あと会場自体に響いている音もあるから、コンサートの時は4種類の音を聴きながら弾いているような感じで、どれも少しずつタイミングが違うから気持ちが悪い。それは1990年代にMIDIを触っていた頃のレイテンシーと似ていて…… 僕はレイテンシーがすごく気になるタイプなんです。だからソフトシンセはいい。今でもハードのシンセはMIDIで動かすよりもオーディオで手弾きして取り込むことの方が多いです。

──MIDIの場合も気になっていたし、生ピアノをPAがある会場で弾く時も違和感があるということですね。

そうですね。そのディレイに対する違和感の解消と、もう少しピアノが上手くなりたいという思いは僕にとって密接な気がした。なのでまずは全てを取っ払ってからやりたいと思ったんです。

──だからソノリウムではPAも使用せず、まさにすっぴんの状態でコンサートを行ったと。

衣装に着替えもしないし、そのまま来て自分の思ったように何曲か休憩まで一気に弾いて、休憩終わった後にまた一気に弾いておしまい。だから楽屋もいらないくらいでした(笑)。

──実際にそのやり方を試してみて、手応えはどうでしたか?

手応えはすごくあったし、発見もありました。自分が弾いて、鳴っている音の中に自分自身が入っているという感覚になったんです。

そもそも『ATAK015 for maria』を作った時に一番アンチだったのはクラシック・ピアノのレコーディングなんです

──ちなみに、ソノリウムでコンサートを行った時点で、年末にスパイラル・ホールでコンサートをやることは決まっていたんですか?

何かをするということだけは決まっていて、何をやるかまでは決まっていない状態だったと思います。

──ということはソノリウムでのコンサートに手応えを感じたからこそ、さらにバージョンアップさせて行こうということで今回のコンサートに繋がっていったわけですね。

そうですね。今度はソノリウムでのようなイレギュラーな形ではなく、普通にPAを使って、そういうコンサートができないものかなと思ったんですよ。

──スパイラル・ホールでは2013年にもコンサートをしましたよね。あの時はピアノがホールの中心にあって、それを取り囲むようにスピーカーが配置され、音が放射状に放たれていました。

あれはコンピューターの中にピアノがあるようなイメージだった。要塞の中でピアノを弾いているような、電子音の中にピアノがあるという試みと、今回のようなピアノ中心の試みは、それぞれ並走している部分があるプロジェクトなんです。

──去年リリースされた『Live in Paris』というライヴ・アルバムも、コンピューターとピアノの組み合わせという意味では、2013年のスパイラル・ホールでのコンサートの延長線上と解釈していいのでしょうか?

そうですね。『Live in Paris』で1つの形として完成したから、そこからレベルアップするには、コンピューターの方ももちろんだけど、僕自身ピアノがもう少しうまくならないとまずいなという課題が見えたんです。だから腱鞘炎になりかけるほど練習したという(笑)。

──今回のスパイラル・ホールでは、生音はPAせずに、マイクが拾った生音を元に作り出された様々なリヴァーブが何層、何列にも分かれて空中の16チャンネルのスピーカーから会場に向けて出されるというなかなか珍しいセッティングでした。

重要だと思ったのがピアノのソロをやる意義なんですよね。僕はピアノの音楽の聴き方として2種類あると思っていて、1つがピアノのメロディーやフレーズがいいよねという聴き方。もう1つがピアノの音色自体…… “トン"って弾いた一音の中に広がる世界を味わうという聴き方。その“トン"っていう音色だけの現代音楽もあるけど、それは僕にとってはあまり面白くないんです。また、それとは真逆で、最近の音楽をリサーチしているとデジタル・ピアノのチープな音を意図的に使うのが世界的に流行っている…… アップルミュージックのキャンペーンのファレル・ウィリアムスからゲスの極み乙女。まで、あらゆる音楽に使われている。それってアイコン化されたピアノだなと思うんですよ。

──アイコン化されたピアノというのはどういう意味ですか?

80's、90'sのリヴァイバルという側面もあって、ピアノという記号性やニュアンスが欲しい時は、常にデジタル・ピアノというかシンセ音源のピアノが使われるようになっているということです。音の通りもいいしミックスでいくらでもレベルは上げられる、それこそMIDIも使えるという。そういう時代にピアノ・ソロで何かやるなら、メロディーやフレーズだけじゃなく、ピアノ自体の音色の深度や密度をがっちり提供しつつメロディやハーモニーのような時間管理でも満足させないと、最早やる意味がなくなってきていると思うんです。ペラペラした感じの音をコンサート会場でスピーカーから出してお客さんに聴かせても、音色自体の世界は提供できない。そういう思いもあってこのセッティングにたどり着いたんです。

──PAは使わない、でも、普通にホールで行うようなクラシックのコンサートでもない?

はい。そもそも僕が『ATAK015 for maria』を作った時に一番アンチだったのはクラシック・ピアノのレコーディングなんですよね。まるでホールで聴いているのを再現するかのように、リヴァーブごと録って、空間自体をマイキングするというやり方にすごく抵抗があった。そんなのは嘘だから。グレン・グールドの音源がどうして良いのかっていうと、初期の頃はオンマイクでピアノがハンマーに当たっている音だけを録ってるような感じで、音楽自体のコアが本当に迫ってくるからだと思うんですよね。それは意図的じゃなくて、当時の技術ではそれしかできなかったからなんだけど、とはいえ演奏の息づかいはリアルだしバッハの音楽とその録音方法がたまたまマッチしていたっていうのもある。だから、今回はエンジニアの金森祥之さんにピアノの音や響き自体が失われないPAの仕方があるかどうかを相談したら、ほぼ即答でピアノの音自体は大きくしないで、リヴァーブだけ拡散すればいいんじゃないかって言われた。

──とても面白い発想だったと思います。ピアノそのものを拡声するスピーカーを置かずに、ピアノから遠ざかるようにリヴァーブ専門のスピーカーを並べる…… とはいえスパイラル・ホールは広い会場で、お客さんも400人近く入れるわけですから、音量的に生音が伝わるのか不安はなかったんですか?

ありましたね。でも今回やってみて、実感として1,000人以内は生音が届くと分かった。音量が足りないということはないと思います。

気持ち良かった。あまりに気持ち良くてリハで弾きすぎて疲れちゃったくらい

──今回、ピアノはフルコンサート・タイプのスタインウェイを運び込みましたね。

タカギクラヴィアというレンタルピアノの会社にある、モデルDというスタインウェイの中で一番大きいものを借りました。僕はそのピアノがすごく好きなんです。グランドハイアットでタエアシダのファッション・ショーをやった時も、相対性理論とSHIBUYA-AXで競演した時もその個体を借りました。

──どこが気に入っているんですか?

弾いている時の鍵盤の深さとかタッチもすごくよくて、ある種のスタインウェイにありがちなキンキンしたような感じもないのと、モデルDは巨大な木を弾いているような叩いているような感覚になるんですよ。原初的な感覚というか。大きいピアノは、特にライヴで弾いている時、ナナハンみたいな大きいバイクを乗りこなしてるような感覚になるんです。操縦してる感じがある。だからライヴ中に疲れてきたり、力を入れると負けるわけなんです。力を抜いた状態で弾きこなすという。

──コンサート当日のセッティング中に、蓋を外すかどうか相談をされていましたが、結局外しましたね。

蓋ってちょっと拡声器的な役割があって、今回ピアノはワンサイドに置いたから、お客さんに対して音を大きくするっていう意味で、つけるのは仕方ないかなって思ってたんですよね。でも結局つけなくていいってことになりました。僕は外している状態の方が好きなので良かったです。鍵盤の上にある蓋も外してて、全く蓋がないピアノはそれだけですごくモニターしやすい(笑)。

──リハの時、初めて今回のセッティングで弾いてみてどう感じましたか?

気持ち良かった。あまりに気持ち良くてリハで弾きすぎて疲れちゃったくらい(笑)。リヴァーブにある種の理想的なショート・ディレイがかかっているように聴こえて、しかもそれがナチュラルなものだからすごく良かった。20代の頃、生まれて初めてコンシピオ・スタジオっていうプロのスタジオでエンジニアの田中信一さんにピアノを録ってもらったときを思い出しました(笑)。遅れてくるような感覚でもなく、余韻が一番弾きやすい具合に残っていて、モニター・スピーカーも必要ない。

リバーブの生成を担当した金森祥之氏のブース。
ローランドRSS-303、ヤマハS-REV1、ソニーDRE-S777といったリバーブが用意され、横のヤマハDM-1000によって天井からつるされた16chのリバーブ用スピーカーへと、絶妙に調整された残響成分が送り出された

──一度天井に昇った音が反射して、余韻として遠くに落ちていくような感じでしたね。確かにリハで客席にまだ人が入っていない時に聴いた響きはすごかったです。

本当にそうでしたね。やっぱりお客さんが入ると音が吸われるから、前半の出だしは結構リバーブが止まったりしました。でもそれ以降は金森さんが修正をかけてくれた。やってみて思いついたんだけど、お客さんが5人だけというようなプレミアム・コンサートをしてみたら贅沢だけど、音吸わないからきっといいですよね(笑)。

──本番での演奏はメドレーのように何曲も繋がっていましたが、事前に演奏する曲目は全て決めていましたか?

前半はこの一塊、後半はこの一塊っていうことだけ決めていて、その場で挟み込んだりしました。

──ご自身の曲だけではなく、ブラームスやバッハの曲も弾いていましたよね。それはどういう意図で?

コンサートの場合、何を弾くかよりもどう弾くかということの方が、僕にとっては大事なんですよね。だから必ずしも自分の曲や、お客さんが聴きたいと思っている曲を弾くというサービスが大事だとは思ってないし、かといってクラシックを再解釈するようなことをやりたいわけでもない。言ってみれば音符は1つのフィルターに過ぎないから、ピアノだけで音楽や空間を成立させる時に、そこで選ばれる曲は代替可能ということを証明するような感じかもしれない。

──その時々でフィルターを選んで、その差異に関係なく、自分を届かせるようにすると?

そう。例えば、以前パリで杉本博司さんの展覧会があって、僕も音楽を担当したんだけど、杉本さんは自分自身の作品の横に、それと関係があると思われる骨董品や巨大な隕石を一緒に展示していたんですよ。それって、ある作品を見てくださいということではなくて、空間そのものを展示するという考え方ですよね。コンサートも空間だから、そのやり方は音楽にも転用できるなと思った。

DSDは極端に言うと超ナチュラル志向な世界があるけど、俺は美しい嘘だったらいいってタイプだから

──そういうコンセプトも含めて、いいコンサートだったと思います。今回、私が録音のプロデュースを請け負ったのですが、そもそもなぜ私に?

DSDで録るんだったら、サンレコしかないなと(笑)。

──渋谷さんはご自身でレーベルもやっているわけで、すべてのディレクションをすることも可能だと思うのですが、それを誰かに任せるというのはなぜですか?

最近僕は何もかも自分でするより、能力がある人の力を借りて、いいものを作る方がいいなっていう考え方になってきているんです。特に國崎さんとは音の好みも共有しているから任せられた。DSDって極端に言うと、会場の観客のざわつきすら生々しくて良いっていう超ナチュラル志向な世界があるけど、僕はそれにはちょっとついていけないし國崎さんもそうだと思う。俺は美しい嘘だったらいいんじゃないっていうタイプだから(笑)。

──必要な嘘もありますよね(笑)。今回、録音を依頼されたとき、瞬間的にポストプロダクションはしたくないなって思ったんです。それでエンジニアリングを葛西敏彦さんにお願いして、ベストなAというミックス、さらにそれを基準としたアナザーなBという、2種類のミックスを作りましょうという提案をしました。念のためにオフマイクだけのものも押さえ、収録後、渋谷さんにはミックスAとオフマイクの2つを提出しました。

マイクはDPAでしたっけ?

──DPAの4011という単一指向をオンに、4006という無指向のものをオフに、それぞれステレオで立てました。今回のコンサートは空間が完成されていたから、それを捻じ曲げて収録する意味がないと感じたので、そのままの音が録れるDPAを選びました。

ピアノの近くにステレオでセットされているのがDPAの単一志向性マイク4011。写真には写っていないが、ピアノの真上、5mほどの高さに、同じDPAの無指向性マイク4006が2本つるされた。写真ではスタインウェイのピアノは蓋が付いているが、本番では外されている。

いろんなやり方がありますが、やっぱり一番いいのはDPAかなと僕も感じましたね。本当に耳と最小限の機材があればできるんですよね。特に耳がすごく大事。『ATAK018 Soundtrack for Memories of Origin』と『ATAK019 Soundtrack for Children who won't die, Shusaku Arakawa』は、自分のスタジオでEARTHWORKS PM40っていうマイクだけで録音したんですが、普通だったらそこで、プロのホール・レコーディングとの差がすごく出ると思うんだけど、傾向は違うにしても『ATAK018 Soundtrack for Memories of Origin』の音の方がホール・レコーディングした『ATAK015 for maria』より好きっていう人もいるくらいだった。特に女の子はその傾向が強い気がしている…… よりオンマイクで音が近いからじゃないかとか思ってるんですけど。

──今回の配信にあたっては、録ってきた音そのままでなく、マスタリングも行いました。録音を担当した葛西さんから「商品にするには全体にレベルのばらつきがあるから、できればマスタリングをしてほしい」と言われましたので。

マスタリングというか、トータルコンプについては、僕は清水靖晃さんから学んだことがあるんですよね。以前靖晃さんと東京芸術劇場でコンサートをした時、やっぱり金森祥之さんにDSDで録ってもらって、当時DSDは超フレッシュな技術だったから、それをどう生かすかが大事で、録ったあとに聴いてみたらDSDってだけでいいなと僕は感じたんですよね。でも、ミックスダウンの最中に靖晃さんが「トータルコンプを薄く入れたら多分もっと色っぽくなると思う」って言ったんですよ。戸惑ったけど、入れたら確かにそうなった。

──あの音源『FELT』はすごくいいですよね。世界的に見ても、ダウンロードサイトでDSD音源を配信するという試みは初でした。そこで学んだことが今回にも繋がっているんですね。

あの時の経験があって、今回も何か少し足りないと感じたら、音圧を出すんじゃなく、音の密度を少し高めるためにトータルコンプをかけることが正解だなとわかりました。

──今回の配信は、DSDの5.6MHzとMP3の組み合わせ、そして24bit/96kHzの2種類ですが、渋谷さんはDSDで最初に録っていたらその後PCMやMP3に変換してもその良さは残るという考え方ですよね。

よく言っているのは、DSDで録ってからMP3の320に変換したものと、96kHzで録ったものを96kHzをそのままで聴くのだったら、前者の方が僕は音がいいと思う。

──最初にAD変換する時に色々と決まってしまっているのではないかという考え方ですよね。

はい、そうです。

──自分が関わっていてこういうのも変ですが、音もいいですし、とてもいい作品になりましたね。

うん、嬉しいです。『ATAK015 for maria』からちょうど10年くらいの、2018〜19年にまたピアノ・ソロのアルバムを作ろうかなと思っているので、それまでに技術的なアップデートも含めて、幾つかこういう配信アルバムを出していきたいと考えています。

──今後の活動についてもお聞きします。『THE END』に続くオペラの第2弾はどれくらい進んでいるのですか?

取り組んでいる最中だけど、アンドロイドで長尺のオペラを作ることに技術的な壁があるから、まずアンドロイドとコンピューターかオーケストラか分らないけど、歌曲というかボーカルが入るパフォーマンスをやる方向です。色々、欲が出てきていて、例えばAIをアンドロイド自体に入れたら、毎回即興で自動的にジェネレイトされた歌詞を歌うことも可能かなとか、そこにさらにメロディーの即興性も組み込んでみたいとか。

──完成はいつ頃になるのでしょう?

来年か再来年ですね。他にもエリック・サティが関わったオペラ『パラード』が来年で100周年なので、それに関連した公演を今年の5月にパリでやることになっています。それはアンドロイドの話と少し繋がっているんですよね。

──すっかりパリがベースという印象ですが、実際パリと日本の活動はどのくらいのバランスなんですか?

それぞれ1カ月ずつ行き来している感じです。今回は日本で久々にポップなプロデュースの仕事もあるので、2〜3カ月いる予定です。今度J-WAVEの新番組のオープニングの曲を担当するし、ある商業施設の音楽を施設ごと担当することになっていたり、最近はJR東海の「そうだ、京都に行こう」のCM曲もやったかな。

──本当にエネルギッシュでいいですね。これからのプロジェクトも楽しみにしています!

働きすぎですけどね(笑)、がんばります。

渋谷慶一郎 過去作

keiichiro shibuya / single file project vol.1〜8

2009年12月25日26日にラフォーレ・ミュージアムにて開催された渋谷慶一郎のピアノ・ソロ・ライヴ「for maria concert version Keiichiro Shibuya playing piano solo」のライヴ音源を全8曲、独占配信。

keiichiro shibuya / ATAK015 for maria

渋谷慶一郎、初のピアノ・ソロ・アルバム。研ぎすまされたピアノの音色が、複雑な自然現象と遜色なく、あるいはそれを上回った情報量で構築された。


Sound & Recording Archive

渋谷慶一郎 / THE END Piano version

渋谷慶一郎が2012年末より新たに取り組みはじめたのは、世界初のボーカロイド・オペラ「THE END」。今回配信するのは、そのなかから2曲。渋谷がピアノ・ソロでお送りする「時空のアリア」と「死のアリア」だ。SONYが満を持して発表したDSD対応のハンディ・レコーダーPCM-100にてオンマイク、オフマイクで録音したそれぞれの2バージョンを収録。テイクは同じのため、純粋にマイク位置の違いを聴き比べることができる。その差は歴然。PCM-100の性能や2バージョンの違いを感じつつ、異なる一面を見せる作品だ。


清水靖晃+渋谷慶一郎 / FELT

文化庁主催の東京見本市2010 インターナショナル・ショーケースの一環として、池袋・東京芸術劇場 中ホールで行われた公演の記録。ともにアコースティックと電子音楽を行き来しつつ先鋭的な音楽を作り続けるアーティストだが、このコンサートが初顔合わせ。バッハを下敷きに、演奏家同士のセッションというよりは、作曲家同士がひとつの音響空間を作り上げていくようなパフォーマンスになっている。


Sound & Recording Premium Studio Live シリーズ

レコーディング・スタジオでの一発録りをライヴとして公開し、そこでDSD収録した音源を配信

INO hidefumi + jan and naomi / Crescente Shades

“Premium Studio Live”第9弾。ローズ・ピアノの名手として知られるINO hidefumi、そしてGREAT3のベーシストでもあるjanとnaomiによるフォーク・デュオが奏でたのは、きわめてメロウでドリーミー、ときにアシッドな香りすら漂わせる極上のアンサンブル。オリジナル曲はもちろん、Crosby, Stills, Nash & Youngや大瀧詠一のカヴァーなど、ヴァラエティ豊かな10曲を収録。

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AFRA+滞空時間 with KEN ISHII / sukuh-psy 祝祭

“Premium Studio Live”第8弾。ガムランをはじめ様々な楽器を操るユニット滞空時間、そして日本を代表するヒューマン・ビートボクサーのAFRA、さらにはスペシャル・ゲストとして"テクノ・ゴッド"ことKEN ISHIIが参加し、タイトル通りの祝祭空間を作り上げた。西洋と東洋、伝統と革新、アコースティックとエレクトロニックを自由に行き来する異色のトランス空間を、DSD & ハイレゾでリアルに追体験してほしい。

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大野由美子+AZUMA HITOMI+Neat's+Maika Leboutet / Hello, Wendy!

“Premium Studio Live”第7弾。サウンド & レコーディング・マガジン主催「Premium Studio Live Vol.7」の模様を収録。大野由美子(Buffalo Daughter)、AZUMA HITOMI、Neat’s、Maika Leboutetの4人がシンセサイザー・カルテットを結成し、名曲のカヴァーやメンバーそれぞれのオリジナルなど全10曲を1発録り。世界で初めてコンピュータが歌った曲として知られる「Daisy Bell」、ウェンディ・カルロスによるモーグ・シンセサイザーでの演奏が有名な「ブランデンブルク協奏曲第3番」(バッハ)、言わずとしれたクラフトワークの名曲「Computer Love」など、電子音楽の歴史をなぞるような選曲にも注目だ。

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Cojok+徳澤青弦カルテット / QUANT

“Premium Studio Live”第6弾。Kcoと阿瀬さとしによる2人組ユニットCojokとチェリスト徳澤青弦が率いる弦楽四重奏を、音響ハウスSTUDIO 1に招いて行った際の記録。阿瀬がコンピューターやギターを使って繰り出すエレクトロニックなサウンドと、カルテットによる繊細かつアグレッシブな演奏とが解け合う中、Kcoのボーカルがスタジオに高らかに響き渡る。さらにはそこにゲストとして登場した屋敷豪太と根岸孝旨の2人による強力なリズム、権藤知彦のエフェクティブなフリューゲルホーンのサウンドも加わり、ダイナミックな音像が立ち現れていく様はまさに圧巻。

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青葉市子+内橋和久 / 火のこ

“Premium Studio Live”第5弾。クラシック・ギターの弾き語りで独特な歌世界を展開する青葉市子と、アルタードステイツやソロで即興演奏を展開するギタリスト内橋和久の2人を、サウンドバレイA studioに招いて行った際の記録。内橋がエフェクトを多用したエレキギターや、“ダクソフォン”という木製の薄い板を弓やハンマーで演奏する楽器を使いさまざまな音色を鳴らす中、青葉の透明感のあるボーカルとギターがくっきりと浮かび上がる。この日のために2人で合作した「火のこ」では、観客が割るエアーキャップの破裂音で“火の粉”が飛び散る様子も演出。後半からはゲストとして小山田圭吾も参加し、ドラマティックな即興演奏やsalyu × salyu「続きを」のカバーを披露。

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マイア・バルー+アート・リンゼイ / ambia

“Premium Studio Live”第4弾。ピエール・バルーを父に持つ東京生まれパリ育ちのシンガー&マルチミュージシャンであるマイア・バルーと、アメリカ生まれブラジル育ち、DNAやアンヴィシャス・ラヴァーズでの活動で知られるアート・リンゼイを招いて行った際の記録。アートが繰り出すノイジーなギターと、マイアの声そしてフルートの息づかいが、粒子のようにきめの細かいサウンドとなって流れていく。それぞれの持ち曲を交互に演奏しつつ、そこに即興的な絡みが入ることで、元曲とは色合いを異にした魅力が生じていくさまはとてつもなくスリリングだ。

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大野由美子+zAk+飴屋法水 / scribe

“Premium Studio Live”第3弾。バッファロー・ドーターの大野由美子と、その公私にわたるパートナーであるエンジニアのzAk、そして美術や舞台芸術の分野での活躍で知られるアーティスト=飴屋法水の3人を招いて、ST-ROBOにて行われた際の記録。リハも行わない完全即興という、まさに予測不能な状況の下、大野がMinimoogやスティール・パンで繰り出す音を、zAkがリバーブ/ディレイで加工して場内をフィードバック音で満たし、飴屋は画びょうのついたギターを手の平でさすったり、バイオリン・ケースのファスナーを開け閉めしたりと、ハッとするような音を出してアクセントを付けていく。楽音が極端に少ないにもかかわらず、全体の流れに紛れもなく音楽を感じてしまう不思議に陶酔感のあるセッション。
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原田郁子+高木正勝 / TO NA RI

“Premium Studio Live”第2弾。クラムボンの原田郁子と、映像作家としても活躍する高木正勝の2人を招いて行われた際の記録。会場となったのは東京・市ヶ谷のサウンドインスタジオBstで、天井高のあるスタジオに2台のグランド・ピアノ…… STEINWAYのフルコンサート・サイズとセミコンサート・サイズを設置。良質な響きの中で、原田と高木がそれぞれ自由にピアノを弾きながら、お互いの作品を変奏し合うようなセッションが繰り広げられる。原田の力強いボーカル、高木の繊細なボーカルそれぞれの魅力を存分に味わうことができるほか、飛び入りで参加したOLAibiを交えてのリズミックなパートも聴きもの。
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大友良英+高田蓮 / BOW

“Premium Studio Live”第1弾。東京・一口坂スタジオ Studio 1に、即興演奏家として名高い大友良英と、マルチ弦楽器奏者である高田漣の2人を招いて行われた際の記録。EBOW E-Bow Plusを使って生成されたアンビエントなサステイン・サウンドや、アコースティック・ギターやスティール・ギター、さらにはパーカッションやターンテーブルを使ってのノイズ、そして電子音など、さまざまな音源によって繊細かつ濃厚なサウンド・スケープが描かれていく。一発録りだけではなく、3台のKORG MR-2000Sを同期運転させ、ピンポンによるダビングも敢行。スタジオの機能、そして居合わせた観客の力も存分に借りつつ、極上の音世界を現出させた。
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PROFILE

渋谷慶一郎

音楽家。1973年生まれ。東京芸術大学作曲科卒業。2002年に音楽レーベル〈ATAK〉を設立、国内外の先鋭的な電子音楽作品をリリースする。代表作に『ATAK000+』、『ATAK010 filmachine phonics』など。

2009年、初のピアノ・ソロ・アルバム『ATAK015 for maria』を発表。2010年には『アワーミュージック 相対性理論 + 渋谷慶一郎"』を発表。以後、映画「死なない子供 荒川修作」、「セイジ 陸の魚」、「はじまりの記憶 杉本博司」、「劇場版 SPEC~天~」、TBSドラマ「SPEC」など数多くの映画音楽を担当。2012年には『サクリファイス 渋谷慶一郎 feat.太田莉菜』、『イニシエーション 渋谷慶一郎 + 東浩紀 feat.初音ミク』を発表、コンサート 『ジョン・ケージ生誕100年記念コンサート One(X)』をプロデュース。同年、初音ミク主演による世界初の映像とコンピュータ音響による人間不在のボーカロイド・オペラ「THE END」を山口情報芸術センター(YCAM)で制作、発表。初音ミク、及び渋谷慶一郎の衣装をルイ・ヴィトンが担当し、斬新なコラボレーションが話題を呼んだ。2013年5月、東京・渋谷のBunkamura・オーチャードホールにて、「THE END」東京公演を開催。同年11月には、パリ・シャトレ座にて「THE END」パリ公演を大成功させ、大きな話題となっている。また同時に『ATAK020 THE END』をソニーミュージック、およびソニーミュジック・フランスから発表。2014年4月、パリのパレ・ド・トーキョーで開催された現代美術家・杉本博司の個展に合わせて、杉本とのコラボレーション・コンサート「ETRANSIENT」公演を開催。同年10月には、昨年THE ENDパリ公演を開催したシャトレ座にて、ピアノとコンピュータによるソロ・コンサートを開催。

2015年7月にはソニークラシカルより『ATAK022 Live in Paris Keiichiro Shibuya』を発表。9月には完全アンプラグドのピアノソロ・コンサート「Playing Piano with No Speakers」を2日連続で開催。イタリアを代表するブランドであるエルメネジルド・ゼニアの「メイド・イン・ジャパン」プロジェクトのために書き下ろしの楽曲を提供、同ブランド主催のイベントでもライヴ・パフォーマンスを行うほか、キャンペーンのモデルもつとめた。10月にはTAE ASHIDAの2016年春夏コレクションのショー音楽を担当し、ライヴ出演した。11月にはパリ・テアトルサブロンにおいてダンサー、コンテンポラリーアートとのコラボレーションによる公演「Le Labyrinthe Intangible」に出演。12月、日本でのピアノソロによるコンサートツアーを敢行。年末には青山スパイラルホールにてピアノ・ソロ・コンサート「Playing Piano with Speakers for Reverbs Only」を行った。

2016年1月にはパリ・コレクションでPIGALLEのショー音楽を手掛け、ライヴ・パフォーマンスを行った。2月には、JR東海のテレビCM「そうだ京都、行こう。」に楽曲を提供。また、MEDIA AMBITON TOKYOのオープニングライヴ「Digitally Show」をプロデュースし、自身も出演するほか、昨年末に青山スパイラルホールで開催したピアノ・ソロ・コンサートのライヴアルバムが高音質配信で発売される。

>>ATAK Official HP

イベント情報

サウンド&レコーディング・マガジン×スパイラルホール×OTOTOYによるハイレゾ・フェズ

2016年3月11日〜13日にかけて、東京・青山にあるスパイラルホールにて「HIGH RESOLUTION FESTIVAL at SPIRAL」を開催します。

音楽の聴きかた、楽しみかたが多様化する現在、アーティストやレコーディング・エンジニアから「スタジオで聴いていた音にもっとも近い」と評され、オーディオ機器/ファイルフォーマットの一大潮流となっているキーワード「ハイレゾ」。

「HIGH RESOLUTION FESTIVAL at SPIRAL」は、機器の展示販売、トークイベント、試聴会、さらにはライヴレコーディングなどを通して多角的に「ハイレゾ」の魅力とその「いま」を体感できる3日間です。


HIGH RESOLUTION FESTIVAL at SPIRAL
開催日 : 2016年3月11日(金)〜2016年3月13日(日)
営業時間 : 11:00〜20:00(11日のみ17:00よりスタート) ※イベントの開催などにより若干の変更があります。
入場料 : 無料 ※ライヴ・レコーディング観覧には別途チケットが必要です。
場所 : スパイラルホール(ホール&ホワイエ)ほか
〒107-0062 東京都港区南青山 5-6-23(スパイラル 3F)

オフィシャルサイト : http://highresofes.com

この記事の筆者

[インタヴュー] 渋谷慶一郎

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