2014/09/06 18:54

ネオ・ゴシックなデイドリーム・ポップスーーアート・ロック・シーンの中核、ブロンド・レッドヘッドによる4年ぶりのアルバムが完成

1993年から現在に至るまで、いわばニューヨーク・アート・ロック、オルタナ・シーンの中核を担ってきたブロンド・レッドヘッド。日本人女性ヴォーカル、カズ・マキノと双子兄弟アメデオ(Gt)とシモーネ(Dr)の3人によって生み出されるのは、郷愁にかられるようなメロディーと、ノイジーな音選びが同居する、まるで白昼夢のようなサウンド。そんな彼らによる4年ぶりのフル・アルバム『Barragán』をこのたびリリース。結成当初のノー・ウェイヴ・サウンドをちらつかせながら紡がれる、いびつで、ナードなデイドリーム・ポップスを、レヴューとともにお楽しみください。

Blonde Redhead / Barragán
【配信形態】
ALAC / FLAC / WAV / mp3 : 単曲 205円 まとめ購入 1,543円

【Track List】
01. Barragán
02. Lady M
03. Dripping
04. Cat On Tin Roof
05. The One I Love
06. No More Honey
07. Mind To Be Had
08. Defeatist Anthem (Harry and I)
09. Penultimo
10. Seven Two

一生迷い込んでもいい、美しい音世界

ヴァンパイア・ウィークエンドやダーティー・プロジェクターズなど、現在活躍している数々のバンドを輩出してきたニューヨークの地。そんなニューヨークのインディー・ロック・シーンを20年に渡り引っ張ってきたバンド、それがブロンド・レッドヘッドだ。メンバーは日本人女性のカズ・マキノ(Vo / Gt)と双子の兄弟アメデオ・パーチェ、シモーネ・パーチェの3人。そうブロンド・レッドヘッドのヴォーカルは日本人が務めているのだ。結成当初は日本人ベーシストのマキ・タカハシが在籍していたが、間もなく脱退、代わって同じ日本人のトーコ・ヤスダが加入するも、ほどなくして脱退し、以後3人での活動を続けている。元メンバーのトーコ・ヤスダは現在イーノンや、フジロックでの公演も記憶に新しいセイント・ヴィンセントのメンバーとしても活躍している。気にしてみると日本人アーティストがメンバーにいる海外のバンドは意外と多い。DNA、ディア・フーフ、ザ・ゴーチーム、カン、ザ・ティアーズ、フィーダー、アソビセクス等。まだまだたくさんいるが、こうやって日本人アーティストが海外で活躍しているのを見ていると、同じ日本人として誇らしく思える。ちなみにブロンド・レッドヘッドという名前は、上記に挙げたバンド、DNAの楽曲名が由来となっている。音楽性も、初期はDNAのようなノー・ウェイヴを模したノイジーなポスト・パンクであったが、そこから次第にサイケデリック色を強め、現在のドリーム・ポップなサウンドに至る。彼らの音楽を一言で説明するのは難しい。ポスト・パンクであり、サイケデリックであり、エクスペリメンタルであり、ドリーム・ポップであり、アート・ロックなのである。彼らは90年代、00年代、10年代と、目まぐるしく変わるミュージック・シーンの中を駆け抜けて、徐々に音楽性を変えながらも揺るぎない美意識を持ち続け、今なおニューヨークのインディー・シーンで変わらぬ存在感を放っている。

Blonde Redhead - 4AD Session
Blonde Redhead - 4AD Session

そしてそんな彼らの4年ぶり9作目となる新作「Barragán」がリリースされた。幽玄なサイケデリック・サウンドで、夢の中を徨うかのようなドリーム・ポップを奏でた前作と前々作。そして今作は、言うなれば夢のその先。まだ完全に醒めきってない私たちの目に映るのは、異国情緒溢れる官能世界だ。序盤は、憂鬱気味に奏でられるギター、カズ・マキノの甘美なボーカル、エクスペリメンタルな音のテクスチャーによって作り出されるミステリアスな世界感。中盤になり突如となく畳み掛けられるノイジーなサウンド。その音で一気に叩き起こされ、徐々に輪郭を増してエモーショナルになる音。そして目にするのはまた別の世界。全く先の読めない躁鬱気味な展開に翻弄され、ラストに気づいた時には、また夢の中に誘われる。まるで今作は迷い込んだら抜け出せない異世界の迷宮のよう。渦巻くサイケデリックな世界はノイズによって、また深く深化していく。近年の幽玄で甘美なサウンドと初期のノイジーなサウンドが交わったことで、生まれた世界が夢のその先なのだ。本作で彼らは歩んできた20年間をしっかりと反映させ、また新たな境地を切り開いてみせた。開催はまだ未定だが、本作を引っさげた来日ツアーが楽しみだ。彼らの音の中になら一生迷い込んでもいい。きっとそこは、とても美しい世界なのだから。(text by 吉野敬一郎)

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Stephen Steinbrink / Arranged Waves

アリゾナ出身のSSW、Stephen Steinbrinkによる7thアルバム。ヨ・ラ・テンゴのような、良い意味での生暖かさ、マック・デマルコのような揺れ動くサイケデリアなどがパッケージされた白昼夢ポップス・アルバムは、ブロンド・レッドヘッドの今作と直結するような、ずっと浸っていたい雰囲気に包まれている。

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強烈なヴィジュアルとサウンド・スケープとともに突如として現れ、様々な音楽シーンで話題になっている歌姫、FKAツイッグスによる待望のフル・アルバム。ブロンド・レッドヘッドのようなローファイさはないものの、ゴシックかつ、重厚なシンセ・ワークは、アート・ロック・シーンにも接続できるようなサウンド・スケープ。

>>FKA twigs特集ページはこちら

PROFILE

ブロンド・レッドヘッド

1993年に日本人の女性カズ・マキノと、イタリアはミラノ出身の双子兄弟アメデオとシモーネを中心に結成、NYアート・ロックの中核を担う3ピース・バンド、ブロンド・レッドヘッド。バンド名はアート・リンゼイの原点と言えるバンド、DNAの曲名からとられた。ソニック・ユースのドラマー、スティーヴ・シェリーがプロデュースしたデビュー・アルバムが絶賛され一躍脚光を浴びた。その後アルバム・リリースを重ね、地道にファン・ベースを増やし、あのレッチリが "フェイバリット・アーティスト"と公言しツアーの前座にも抜擢。2011年には渋谷O-EASTでディアハンターらと共に行った「4AD evening」イベントにて、堂々のヘッドライナーを飾るなど、ジャズ・ロックからノイジーな退廃的ドリーム・ポップまで包括するマルチ・レイヤーのサウンドと、特徴的な美麗で強烈にエモーショナルな世界観で、ここ日本でも高い人気を誇る。本作『バラガン』は約4年ぶり、通算9枚目となるスタジオ・アルバム。

この記事の筆者
吉野 敬一郎

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[レヴュー] Blonde Redhead

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