
ラッパー / プロデューサーのGIVVNと、DJ / トラックメイカーのtee-rugの2人による新世代ヒップホップ・デュオ、LowPassのセカンド・アルバム『Mirroz』がリリース。ファースト・アルバムでも独自のヒップホップ・センスを発揮した彼らの新作をチェックすると共に、異様な世界観で表現されているミュージック・ビデオもご覧あれ!
LowPass / Mirrorz
【販売価格】
mp3 : 単曲 200円 / アルバム 1,500円
【TRACK LIST】
01. All Over / 02. Mirror Mirror / 03. Skip / 04. Spinning Wheel(Sotomawari) / 05. A Prophet / 6. UQTZD Radio 03/01/13 feat. Contrastiv / 07. Milkshake feat.N.A.R.E / 08. Spinning Wheel (Uchimawari) feat. Ryohu / 09. Yesterday / 10. Coulda' Woulda' Shoulda' feat. Punpee / 11. Peff Pt.2 / 12. Nightfly feat. Maliya / 13. Day For Night / 14. Nos Dias
その言葉選びにオリジナリティがある
2011年、「Ruff」のビデオを皮切りに彗星のごとく現れた若き東京の2人組、LowPass。彼らのセカンド・アルバム『Mirrorz』をチェックしただろうか。2011年に前作『Where Are You Going?』でしっかりとその足跡を残した彼等。リズム感たっぷりにラップをしつつも、どこか一歩引いて物を見ているようなGIVVNの世界観と、DJ / ビートメイカーのtee-rugによる怪しい音使いのバウンス感あるビートは今作『Mirrorz』でも健在だ。今作はP-Vineからのリリースというだけでなく、ベテラン、ライムスターから、話題のニューカマー新人KID FRESINOまでを手がける、illicit tsuboiが録音 / ミックス作業を担っている。極めつけにマスタリングは、オアシス、マイケル・ジャクソン、リアーナやレディー・ガガなどが使用した、あの英国の有名スタジオ「メトロポリス」で行ったという。前評判からして、かなり期待が高まる『Mirrorz』。ここまで気合の入った環境でセンスに富む2人が出す作品というのだから、聴く前からこちらも構えてしまうのだが、封が切られると予想と真逆の内容だった。シーンの中の知名度や制作環境肩が変われども、肩に力をいれることなく自分たちが気持ちよく踊れる音楽を追求したかのような、ブレのない1枚だったのだ。初めてソウルやファンクを聴いた時のように、一聴しただけだとアッサリした印象を持つかもしれない。しかし、そうではない。
tee-rugがグルーヴィーなビートをループさせ、その上でアドリブを楽しむかのように縦横無尽にラップするGIVVN。アルバムは序盤から後半までBlack Milkを彷彿とさせる(注 : 1)中毒性の高いループが特徴的なtee-rugのビートも相まって、GIVVNのリズミカルなフロウはとても際立っている。前作よりもさらにtee-rugのビートは規則的なリズムをループさせているのだが、よく耳を傾けるとサンプルの奥で鳴っているドラム、特にキックがありえない位置だったりするあたりが、彼のセンスと懐の深さをうかがえる。流石、自らをUQTZT(アンクヲンタイズド)(注 : 2)と銘打つだけはある。太いベースとドラムを基調としたビートはさもすれば単調で自己満足的な音楽に陥りがちだが、ループ・サウンドを飽きさせないのが、GIVVNのアティテュードと、パンチ・ラインの多さだ。とくに意味のないワード・プレイにしても、その言葉選びにオリジナリティがある。ファースト・アルバムで使ったワードを所々で引っ張ってきたり、子供っぽいギャグも敢えてアドリブ的に使うGIVVNはそれだけで曲のスパイスなのだが、全体的に妙に聞き手の先を読んだかのようなフレッシュに響くから気持ちいい。それら言葉選びのルーツはヒップホップよりも自然体の自分なのだろう。

「Milkshake」でも参加しているN.A.R.E.(元QN)にしてもそうだが、若くして多才っぷりを発揮していることよりもこのアティテュードこそが、実は新世代と括られる所以ではないだろうか。ヒップホップのマナーに沿った自己主張をスポーツの様に競っているアーティストが大多数の中、そんな風潮を尻目に流し、リアルな口調で自分の音楽を組み立てている彼らは、ビッグ・マウスなラッパーに比べると他にはない親近感を持てる。また彼のフロウはリズミカルなので一聴して気がつきにくい点もあるが、リリックを英語で誤魔化すことは無い。そうしてループしているtee-rugのビートを右脳で楽しみながらも、GIVVNの言葉で左脳に意識を引き戻される感覚が楽しくてヘビー・ローテーションしてゆく。それが意図したものかは解らないが、その過程でリスナーが自分なりに解釈の余白を塗りつぶして楽しめるはずだ。
後半、ファンクのグルーヴを感じさせる「Coulda' Woulda' Shoulda' Feat.PUNPEE」から徐々にアルバムの空気が変わってくる。音だけでなくGIVVNのラップも魔術的な中毒性を持つ「Peff Pt.2」。そして、筆者が個人的に心奪われたのは僭越ながら初めて見る名前であるMaliyaがフューチャーリングされている「Nightfly」だ。彼女はセクシーな声でソウル寄りメロディーから入り、気怠いラップ調の歌い方との間をいったりきたりする。このヴォーカルがこれまでのアルバムのカラーを一気に変え、続く深夜の首都高を想像させる音使いの「Day For Night」を経るからこそ、ラストの「Nos Dias」でのGIVVNの優しくもセクシーなコーラスが最高に引き立つ。GIVVNのコーラスも今作の聞き所で、これもまたメロディーだけでなく内容も噛み締めたくなるような日本語のリリックで素晴らしい。『Interludes from "Where Are You Going?"』の「S.H.I.T」でもGIVVNは素敵なバック・コーラスめいたヴォーカルを聴かせてくれたので、今後は他のアーティストの作品への参加を密かに期待しよう。(text by 斎井直史)
注1 : 米デトロイトを代表するプロデューサー / ラッパー。現在のデトロイトのシーン及び東海岸のスタイルを牽引しているラッパーのプロデュースや、J Dilla亡き後のSlum Villadgeへ楽曲提供などを行っていた。硬い印象のドラムと、ソウルやファンクを多くサンプリングした作品が多い。
注2 : 音を打ち込むタイミングを、BPMから割り出されたタイミングに補修することがクオンタイズであり、そのクオンタイズ機能をオフにした状態を意味する。クオンタイズ機能を使わないことで、不規則なズレを打ち込むことが出来る。GIVVN自身のレーベル名がUQTZT Production(アンクヲンタイズド・プロダクション)。
RECOMMEND
ECD / The Bridge - 明日に架ける橋
ECDの15作目となる新作アルバムが完成! 前作同様ECDと鬼才illicit tsuboinoタッグによるいつも以上な極太ビートを基本に、日常をユーモアを交えて切り裂くリリック。巷じゃTRAPなんて音楽が流行ってるようだが、数年前からECDがやってたことでしょ!
THE OTOGIBANASHI'S / “TOY BOX”
2012年5月にYouTubeで公開されたPV「Pool」や、「Closet」が様々なアーティストや幅広いリスナー層から支持されたTHE OTOGIBANASHI'Sのデビュー・アルバム。doooo(Creative Drug Store)によるプロデュース楽曲を中心に、Poolを手掛けるあらべぇ、VaVa(Creative Drug Store)やRiki Hidaka、そしてOMSBがプロデュース参加。その例えようのない世界観は「OTG'Sらしさ」でしかない。フレッシュな音楽は、いつも人々の理解を越えた所から現れる。
>>THE OTOGIBANASHI'Sの特集ページはこちら
GAMEBOYS × JZA / 1.5
GAME BOYSのスタイルはハードでもナードでもなく、彼ら曰く IT'S MO DORIなSTYLE(いつもどおり)。キャッチーなキャラとは裏腹に、日常の中の悲喜交々を時にシニカルに時に自虐的でユーモラスな視点で切り取っていく。客演には親交が深いCOBA5000(XENTRYX KOGAI UNIT)とTONAN(ROCKASEN)、スクラッチにDJ LAN、ARTWORKに13&BULLSとCASTが担当し、千葉勢が集まった柏のクラシック・アルバムとなった。
PROFILE
LowPass
2010年、東京でラッパー / プロデューサーのGIVVNとDJ / トラックメイカーのTEE-RUGによって結成される。同年、『The Direction E.P.』を無料配布し、その名が東京のヒップホップ・シーンで密かに広まる。2011年にファースト・アルバム『Where are you going?』を発表。同作には、QN、SIMI LABのOMSBらが参加。さらに、2012年には、ファーストに収録されなかった楽曲をまとめた作品集『Interludes from“Where Are You Going?”』をインターネットで無料配信。GIVVNはインディペンデント・レーベルUQTZD(アンクヲンタイズド)を主宰し、QNと結成した映像制作集団、DEADMAN FILMSの中心メンバーとしても精力的に活動している。DEADMAN FILMSはこれまでに、SIMI LAB「UNCOMMON」、THE OTOGIBANASHI'S「Closet」、QN「Better feat.RAUDEF,MARIA」などのミュージック・ヴィデオの制作を手がけている。GIVVNはOMSB「HULK」のミュージック・ビデオの監督を務めた。