FINAL FANTASY シリーズ生誕25周年『FINAL FANTASY VINYLS』発売記念!
世界累計出荷数“1億本”を超える、日本が誇るRPGの金字塔「ファイナルファンタジー」(以下、FF)より、このシリーズを代表する作曲家、植松伸夫(うえまつ・のぶお)が初の完全監修・選曲をしたアナログ盤 『FINAL FANTASY VINYLS』が2012年11月28日に完全受注生産で発売した。ファンから人気の高い楽曲を中心に、植松伸夫自らが選曲し、FINAL FANTASYシリーズ生誕25周年を記念した、30cmアナログ盤5枚組。FINAL FANTASYの珠玉の名曲達を詰め込んだ超豪華保存盤BOXとなっている。
OTOTOYでは、その記念すべきアナログ・セットが完成するまでの様子を追いかけに、JVCマスタリング・センターへ取材を敢行。そこでは、日本屈指のマスタリング・エンジニア、小鐵徹(こてつ・とおる)と植松伸夫によるレコードにかける愛と、細部までこだわり抜く“プロ”の作業が繰り返されていた。
完全限定アナログ5枚組BOXが発売!!
FINAL FANTASY VINYLS
【販売形式】
12,500円(完全受注生産)
■30cmアナログ盤5枚組
■植松伸夫監修ブック・レット封入
■収録全曲のmp3ダウンロード・カード封入
FINAL FANTASY VINYLS official HP
【Track List】
「DISC GREEN」
01. オープニングテーマ(FF I) / 02. 反乱軍のテーマ(FF II) / 03. 赤い翼(FF IV) / 04. ファイナルファンタジーV メインテーマ(FF V) / 05. オープニング~爆破ミッション(FF VII) / 06. Liberi Fatali(FF VIII) / 07. この刃に懸けて(FF IX) / 08. いつか終わる夢(FF X)
「DISC ORANGE」
01. マトーヤの洞窟(FF I) / 02. 悠久の風(FF III) / 03. チョコボのテーマ(FF III) / 04. ファイナルファンタジーIV メインテーマ(FF IV) / 05. 4 つの心(FF V) / 06. ティナのテーマ(FF VI) / 07. Blue Fields(FF VIII) / 08. 萌動(FF X)
「DISC RED」
01. 戦闘シーン(FF I) / 02. 戦闘シーン1(FF II) / 03. バトル1~ファンファーレ(FF III) / 04. バトル1(FF IV) / 05. バトル1(FF V) / 06. 戦闘(FF VI) / 07. 闘う者達(FF VII) / 08. Don't be Afraid(FF VIII) / 09. バトル1(FF IX) / 10. ノーマルバトル(FF X)
「DISC PURPLE」
01. プレリュード(FF I) / 02. 街(FF II) / 03. 愛のテーマ(FF VI) / 04. はるかなる故郷(FF V) / 05. セリスのテーマ(FF VI) / 06. ティファのテーマ(FF VII) / 07. Fisherman's Horizon(FF VIII) / 08. あの丘を越えて(FF IX)
「DISC BLACK」
01. 戦闘シーン2(FF II) / 02. 最後の死闘(FF III) / 03. ゴルベーザ四天王とのバトル(FF IV) / 04. ビッグブリッヂの死闘(FF V) / 05. 更に闘う者達(FF VII) / 06. 片翼の天使(FF VII) / 07. The Extreme(FFVIII) / 08. シーモアバトル(FF X)
10月13日@JVCマスタリング・センターで行われたこと(text by 滝沢時朗)
言わずと知れた名作RPGファイナル・ファンタジー・シリーズ。その25周年を記念してリリースされたアナログ盤五枚組のボックスセット『FINAL FANTASY VINYLS』。今までCDやデータ配信で発表されてきた音源をアナログ盤にするにあたって、マスタリングという作業が必要になる。CDやデータでもマスタリングは行われているのだが、アナログ盤に最適な音にするために元の音源からまたマスタリングするのだ。作曲者の植松伸夫がそこに立ち会うということで取材をさせてもらった。
知っている人も多いかもしれないが、最初にマスタリングとはなにか簡単に確認しておこう。音楽の録音は主にギターはギターだけ、ドラムはドラムだけといったように複数のチャンネルに分けて録られ、それらの音に様々な処理を加えてマスター音源としてまとめるミックスという作業があり、そのマスター音源に最終的に音量や音圧などの調整を施す作業がマスタリングだ。
マスタリングの作業が行われたのは、神奈川県大和市にあるJVCマスタリング・センター。マスタリング・エンジニアは業界でも有名な小鐵徹だ。植松が立ち会った作業は、マスタリングした音を試聴用のラッカー盤(※1)で確認すること。ここでOKが出れば、ラッカー盤にメッキが施され、マスターディスクになる。試聴は小鐵が実際に作業を行なっているマスタリング・ルームで行われた。部屋の扉の手前にはマスタリングからレコードをカッティングするための一連の機材、部屋の奥には大小のスピーカーが並んでいる。部屋に入るとアナログ盤の匂いが漂ってきて、現場に来ているのだという感覚が強まってくる。
試聴したレコードは5枚の中でも物語のクライマックスを迎える戦闘曲を中心に選ばれているBLACKだ。まず、A面から「戦闘シーン2」(FINAL FANTASY II)、「最後の死闘」(FINAL FANTASY III)、「ゴルベーザ四天王とのバトル」(FINAL FANTASY IV)、「ビッグブリッヂの死闘」(FINAL FANTASY V)とファミコンからスーパーファミコンに渡る曲がかけられる。A面を聞き終わった植松からは「新鮮だね」の一言が。次にB面から「更に闘う者達」(FINAL FANTASY VII)、「片翼の天使」(FINAL FANTASY VII)、「The Extreme」(FINAL FANTASY VIII)、「シーモアバトル」(FINAL FANTASY X)が流される。冒頭の「更に闘う者達」のハード・ロック調のギター・リフから引き込まれ、プレイステーションからプレイステーション2の楽曲がかけられていった。試聴を終えると「お疲れ様でした」という挨拶を交わしあってから、植松から小鐵へ「結構イコライジングなどしてるんですか? 」という質問が早速投げかけられる。そして、小鐵の「一曲ごとに吟味してお化粧してます。」という受け答えから、マスター音源からどのように機材に取り込み、レコードとしてカッティングするか、また、カッティングすることにいかに工夫し、細心の注意を払っているかといった興味深い話が二人の間で交わされた。特に以下のやりとりは印象的だった。
小鐵(以下、K) : カッティングはそれぞれのつまみでレコードに掘る溝の太さとピッチを調整しつつ、音を聞きながら計器を見て切り込みます。リアルタイムで作業しますから、レコードの収録時間と同じだけ時間がかかりますね。
植松(以下、U) : すごいな。ここまでアナログだとは思わなかったですね。
K : 僕が使っているのはVMS80っていう1970年代のドイツのノイマン社製のマシンなんですよ。今はコンピューター制御のものも当然ありますが、こっちのほうがいいですね。マシンも非常にアナログで人間臭いものです。
U : やっぱり、アナログ盤はモノとしていいですね。今、カットするところまで全部手だっていうお話を伺うと、レコードって工芸品みたいに思えますよ。手で作っているっていうことが音に出るんじゃないですかね。大事にしなきゃって思っちゃうな。でも、CDになった時にノイズのなさにすごく驚いて、これはいい時代になったって思ってたんですよ。それで、何年もレコードから離れてて、久しぶりにレコードをかけてみたらものすごいショックだったんですね。音がクリアっていうわけじゃないんですけど豊かっていうかね。こういう音を子供の頃に聞いてたんだなって思って、針の出すノイズとか気にならなかったですね。
K : CDが広まってアナログも終わりかと思いましたけど、今ここにいらっしゃるお客さんはほとんどが若い方なんですね。彼らはアナログの音に興味があって、好きですって言ってくれるんですよ。それは嬉しいことですね。ビクターの玄関の前に石碑が立ってますけども、「原音探求」って言葉が刻まれてるんですね。元の音に忠実なレコードをということですけど、その意味ではアナログもいいと思っています。
このようにマスタリング・エンジニアの小鐵と、作曲者であると同時にいち音楽好きとである植松、それぞれのレコードへの思いがしばらく語り合われていた。非常に含蓄のある話でもっと聞いていたかったが、取材時間の都合で植松にアナログ盤を試聴した感想を伺うことに。ここはインタビュー形式で読んでいただきたい。
——アナログ盤を試聴した感想はいかがですか?
U : ファミコンの頃の音源をアナログ盤にしてどうなるんだろうな? っていうのは正直はじめはあったんですけどね。昔、ゲームの音楽を実際にこういうちゃんとしたオーディオでチェックしたほうがいいのか、家庭用の子供たちが遊ぶようなテレビのスピーカーから鳴らしてそれでモニターしながら作ったほうがいいのか会社で議論になったんですよ。結局、テレビに合わせようってことになったので、こういう大きいスピーカーでファイナル・ファンタジーの曲を聴くのは初めてで、すごく新鮮な気分ですね。それで、先程聞かせていただいて、ファミコンのPSG音源(※2)のチープな電子音が意外と魅力的に聞こえて不思議なものだなと思いましたね。
——一番最初に買ったレコードはなんですか?
U : シングルは小学生の時におじさんに買ってもらった『悟空の大冒険』ですね(笑)。自分で買ったのはElton John『Honky Château 』がはじめてです。中学生の当時は何枚も買えなかったので、持ってる数枚のLPを毎日毎日本当にすり切れるくらい聞いてましたね。あちこちで言うんですけど、今はCDとかmp3になって、デジタルのデータって便利は便利ですよね。音楽を聞きながらジョギングとかできますから。一方で、アナログ盤は一度プレイヤーにかけたら、針が飛ばないようにじっとしなきゃいけないわけですよ。ステレオの前でジャケットを眺めながら、片面終わるまで動かないで聞くわけですよね。曲を飛ばすにも傷をつけないように丁寧にピンポイントで針を降ろすっていう作業になります。そういう体験するかどうかで音楽に対する人間の感覚って変わると思うんですよ。アナログ盤を大切にすることでそこに入ってる音楽を大切にするっていう意識がどこかに働いてたんじゃないかなって思うんですね。今、みんなが音楽をないがしろにしてるとは言わないですし、良い悪いの話ではないですけど。
——これまで植松さんが作曲されてきた音源が収録されていて、それぞれ初期のファミコン時代から始まり、スーパーファミコン、プレイステーション(以下、PS)、プレイステーション2(以下、PS2)と順に進む構成になっています。それぞれのハードの時に作曲するうえでどのような制限や工夫があったのでしょうか?
U : ファミコンの時は使える音が矩形波2つとサイン波1つの3つだけだったんですね。ですから音色的には制限がありますよね。波形自体は限られてるんですけど、エンペローブで音の立ち上がりや消え方をプログラムで切っていました。色んな音色があたかもあるかのように色々試してた時代を思い出しましたね。不思議なのはちゃっちい音色しか出ないなと思ってたけど、今聞くとあれはあれで不器用だけど存在感のある面白い音色だなと思いますね。スーファミやPSになってサンプリング音源が使えるようになると、これでもうオーケストラっぽいこともロックっぽいこともできるなと思ったことを思い出しますね。スーファミの頃はサンプリング音源を使えるって言っても、同時発音数が8つぐらいで、オーケストラっぽい音楽をやろうと思うと足りませんでしたね。8つをやり繰りして、ここまではストリングスでいってたチャンネルを途中からトランペットに変えてとか、ティンパニーのところをシンバルに変えてとか半ば無理やりにそれっぽく聞かせようという努力の跡が自分で見えてました。PSとかになっちゃうと、もう音数も自由に使えますし、プログレっぽいことをやっていてここらへんで自分が解放されたんだろうなと思いますね(笑)。ただ、僕がやっていたのはゲーム音楽ですから、音楽単体で聴かせることを第一目的にしたいわゆる音楽とは違うわけですよ。どういうことかって言うと、まず、容量の制限がある世界なんですね。例えばフィールドを歩いて行って、バトル・シーンに入った時にフィールドの曲が流れて、次のバトルの曲が流れるまでに空白があったら遊んでる方がしらけるわけですよね。0コンマ何秒でも無音の状態があって音楽が始まるのと、すぐに始まるのって遊んでて全然違うわけですよ。そこでいい音色にすると容量が大きくなって読み込みに時間がかかりますから、すぐに音を出せるように圧縮するわけです。音色よりもゲームがスムーズにプレイできるような方法を、僕も含めた当時のスクウェアは選択したということですね。だから、音色単体で言うと他のメーカーさんの方が同じハードでも音色がいいものはいっぱいあると思いますね。そういうことを意識して作っていたなということも思い出しました。
——アナログ盤を買ってくださった方にメッセージをお願いします。
U : 若い世代の方がどのぐらいターン・テーブルを持っているかわらないですけど、もしアナログ盤で音楽を聞くことを体験したことのない方がいれば、ぜひお店かどこかでCDとアナログ盤の音を実際に聞き比べてみて欲しいですね。CDも充分いいんですけど、僕の個人的な感想を言うと、アナログの方が豊かで立体的で、音がおいしい感じがする。だから、まず体験して欲しいということがひとつ。それと僕が説教するようなことではないですけど、音楽を作ってる人って一生懸命作ってるわけで、その真剣さがステレオの前に20分座って伝わるのであれば、伝わるといいな。便利さはもちろんそれはそれでいいことなんですけど、物事が変わると必ず何かが失われるわけですよ。その失われた部分もおいしいですよ。
以上が植松の感想だが、最後に筆者の感想も書かせていただくと、試聴した『FINAL FANTASY VINYLS』はゲーム音楽の歴史を「音楽」に焦点を当てて体験できるものだと感じた。アナログ盤で聞くことによって、ファミコン、スーファミ、PS、PS2とよりクリアな音と長く複雑な編曲が可能になっていき、音を左右に振ったり、音をより立体的に配置できるようになる過程が聞いていてよくわかり、目の覚めるような思いがした。だが、もうひとつ感じたことはより複雑であることはよりいい曲であることと同じではないということだ。どの曲もその時の制限の中で最大限よくなるように作られた曲であり、そうして作られた曲は制限が逆に個性としてプラスになっている。単純に甲乙は付けられないのだ。懐かしいや新しい以上にここには音楽の秘密のひとつがあるように思える。
※1 : レゲエではダブ・プレートと呼ばれ、この状態でいち早くクラブなどでかけることが好まれている。
※2 : PSGはProgrammable Sound Generatorという電子回路の略称。
PROFILE
ファイナル・ファンタジー
日本のゲーム設計者、坂口博信によって作られ、スクウェア・エニックス(旧スクウェア)によって開発・販売されているRPGのシリーズ作品。CGアニメ、アニメでも展開されている。1987年に発売された『ファイナルファンタジー』を第1作とする日本製のRPGシリーズ。派生作品を含め様々な世界観を持った作品が数多く発売されており、シリーズ全タイトルの世界累計出荷本数は1億本以上(44作品)を数える。国内を代表するゲーム・シリーズの一つである。
SQUARE ENIX official HP
SQUARE ENIX music official HP
植松伸夫
1959年3月21日生まれ。ゲーム・ミュージック作曲家、株式会社DOG EAR RECORDS、有限会社SMILEPLEASE代表。高知県高知市出身。『ファイナルファンタジーシリーズ』の大半の曲を手掛ける。第14回日本ゴールドディスク大賞で、「ソング・オブ・ザ・イヤー」(洋楽部門)を受賞した。受賞作はフェイ・ウォンの「Eyes On Me」で、ゲーム音楽では初。また、2001年5月にはアメリカ「Time」誌の“Time 100 : The Next Wave - Music”という記事にて、音楽における「革新者」の一人として紹介された。