
OTOTOY presents 「VANISHING POINT vol.2」 ライヴ・レポート

前回の「VANISHING POINT vol.1」から約半年。ヒップ・ホップ、アイドル、更に漁師(!)など、ジャンル・レスでバラエティに富んだ内容であった前回とは打って変わって、今回はDUBというテーマの下に3バンドがそれぞれのDUBを引き連れてフロアを盛り上げてくれた。OTOTOYの主催する「オトトイの学校」の中の「シギー吉田のライヴ写真講座」受講生たちによる写真と共に、熱狂の一夜を振り返りたい。

バックスクリーンいっぱいに枝野官房長官の記者会見の様子が流れ、無言のメッセージを叫びながら始まったのはあらかじめ決められた恋人たちへ(以下、あら恋)だ。

音が鳴りだした瞬間、僕の体は本能的に踊りだしていた。周りを見渡すと観客はみんな海中植物のようにゆらゆらと揺れている。あら恋の作り出す音楽には、体の全てをあずけて踊れるという絶対的な安心感があるのだ。それは、ダビーでストイックなリズム隊のグルーヴ、ピアニカの叙情的なメロディー、フロアに伝線していくテルミン、そして熱狂的にダンスし続ける池永正二(鍵盤ハーモニカ & Track)、全てが圧倒的にエモーショナルであるからだろう。「Back」の演奏中に自身のPVを大きく映し出したり、「ラセン」の途中に身体全体でジャンプをしながら踊り狂っている彼らを見ていると、ライヴで観る彼らは疑いも無く視覚的だということが分かる。

紙袋で作ったマスクを被って、少しおどけた様子でステージに現れたのは、日本におけるDUBの第一人者、こだま和文(from DUB STATION)だ。

ざわめきの中でダブ・ワイズされた太くて艶のあるトランペットのサウンドが会場に響き渡ると、観客の声はピタリと止んだ。DJ-YABBYの織りなすトラックから聞こえてくる低音に体を任せて、僕の体はまた踊り始める。

あら恋の時の様な激しいダンス・ビートとは異なった贅沢な沈黙の中で、観客の体はゆらゆら揺れている。ここに来て改めて、渋谷WWWの低音の強さに驚かされた。リディームというかけ声で始まった「なまはげ」にこだま和文の強い祈りを感じたのは、僕だけではないだろう。

「いや、今日は本当に最高の夜ですね」蔡忠浩(Vo/Gt)の心底楽しそうな笑顔が、この言葉を輝かせた。この日のラストを飾るというのにも関わらず、とても落ち着きを見せて入ってきたメンバーの表情には頼もしささえも伺えた。


昨年末にリリースした5枚目のアルバム『ULTRA』から「Go Symphony!」が鳴りだして、観客の誰よりも楽しそうに演奏する彼らをみていると、僕も少しでもその輪の中に入りたくて、同じビートで踊りたくなる。だからだろうか。ラストの色彩豊かな「GOLD」が鳴り終わると、フロアには感動と名残惜しさが同時に漂って、誰からでもなくアンコールの拍手が聞こえてきた。

アンコールではbonobosのメンバーを中心に、こだま和文、あら恋からは池永正二が登場。完全に酔っぱらっているこだま和文を交えて楽しそうに話すステージを見ているとこちらまで幸せな気分になって、フロアにはゆったりとしたムードが流れた。

MUTE BEATの「キエフの空」が始まるとムードは一転。鋭いサックスのメロディーを主体に迫力のある低音が身体を揺らす。チェルノブイリ原発事故の2年後に作られたこの曲が、今またフロアに鳴り響いている事に彼らの覚悟を感じた。

続いてLouis Armstrongの「What a Wonderful World」ではサックスとピアニカの2つのリードが掛け合って、美しく僕らの耳に溶けていった。何があっても「このすばらしき世界」で僕らは生きているのだ。言葉よりも遥かに強いメッセージで、彼らはそれを教えてくれた。渋谷の人ごみを縫うように歩いてきた事も、少し急なスペイン坂にため息を吐いて登った事も忘れて、耳に残る良質なダブ・ミュージックに心酔しながら帰路についた。(text by 鰐川翔伍)


OTOTOY presents VANISHING POINT vol.2
2012年5月20日(日)
会場 : 渋谷WWW
主催 : OTOTOY
特集ページ : https://ototoy.jp/feature/20120401
出演者の配信音源はこちら
あらかじめ決められた恋人たちへ / CALLING
「あらかじめ決められた恋人たちへ」としては初めてのバンド編成でのレコーディングに臨んだ作品。「VANISHING POINT vol.2」での「ラセン」の熱演は、フロアを狂騒の渦に巻き込んだ。初聴でも入り込める懐の深さと中毒性が同居した、あら恋の最高傑作にして、他に類をみないアーバン・ダンス・ミュージックの誕生。
あらかじめ決められた恋人たちへ / ラッシュ
「あらかじめ決められた恋人たちへ」初のライヴ音源。フェイクメンタリー(モキュメンタリー)の手法により、、09年2月13日の金曜日に開催された公開ライヴ・レコーディングの素材を「LIVE=生活」のコンセプトの元に再構築。荒くてタフな「あら恋ライヴ」をパッケージしたベスト・アルバム的ぶっといライヴ盤。
MUTE BEAT / STILL ECHO
こだま和文が参加していた伝説のダブ・バンドMUTE BEATの名盤「STILL ECHO」がデジタル・リマスターで再発!! 1987年5月にそれまでリリースされた12インチ・シングル三部作をまとめた実質的なファースト・アルバム。Augustus Pabloが参加した「Still Echo」のMelodica Mixはもちろん、今回は新たに12インチ・アナログ盤でしか発売されていなかった朝本浩文作「Sunny Side Walk」と増井朗人作「A Stairwell」も追加した究極のセレクション。全曲デジタル・リマスタリングを施し原音が驚異の復活。
bonobos / Go Symphony!
「VANISHING POINT vol.2」で、彼らのステージのオープニングを飾った新たな代表曲! 結成10周年を越え、様々な音楽を吸収し続けてきたbonobosが生み出す全く新しいbonobosの形。 レコーディング、ミキシング・エンジニアにはtoeの美濃隆章! 新たな10年への幕開けを飾る記念すべきシングル! カップリングにはDE DE MOUSE、Serph、によるREMIX、更には「星の住処」のOORUTAICHI REMIXを収録!
bonobos / ULTRA
結成十年目にしてたどり着いた遥かな境地は、ロック史上かつてない程のスケールで奏でられる、凄まじくシンフォニックな音響の新大陸!太陽や星、火や水や土風、ミツバチに岩魚に鹿にクジラ、さらには大根やオクラまで、荒々しく生まれ、鮮やかに逝く、あらゆる生き物達の生と死に向かい合った圧巻の詩世界! 「VANISHING POINT vol.2」では、10分を越える「あなたは太陽」で会場に太陽をもたらしてくれました。