2012/03/02 00:00

平均年齢21歳の4人組ガールズ・インストゥルメンタル・バンド、虚弱。が、デビュー・アルバム『孤高の画壇』をリリース! 先週よりフリー・ダウンロードで展開していた「哲学者の論破」をはじめ、本作からはポップ/ロックの新たな地平を切り拓こうとする彼女たちの確固たる覚悟が感じられます。そんな本作に刺激され、OTOTOYも彼女たちを次なるステップへ押し上げるべく最大限バック・アップする覚悟を決めました! 音楽評論家、岡村詩野による渾身のレビューと併せて、彼女たちの音に込められた強い意志を感じ取ってください。

1週間先行配信開始! HQD(高音質)音源で

虚弱。 / 孤高の画壇

【アルバム楽曲紹介】 01. 哲学者の論破 / 知識人は実に雄弁に語った。"沈黙は金、雄弁は銀なのだ"と。
02. egoist / 利己主義者の青年の隣で、利己主義者であった少女は涙を流した。
03. コスモナウト / 宇宙(ルビ:そら)を見上げて何を問う。若者達は、形面上の星々へと旅だってゆく。
04.terra / 哀しみの集合は森羅万象を成し、母なる"terra"へと帰着する。
05. 網膜における抽象画 / 目を閉じると、吸収しきれなかった光の結晶達が踊っているのが見える。
06. nennen / 私は彼を、『名もなき存在者』を名付けよう。
07. saying his prayers / 己の正義を貫く為に悪を演じた者へ、祈りを捧げる。
08. nil -piano version-
09. affection(初音ミクをフィーチャー)

【アート・ワーク】
「神の子供」や「カフカ」などで知られる漫画家、西岡兄妹が担当。

実に示唆的で挑発的な1枚

この実に立体的で熱気溢れるアンサンブルのほどはどうだろう。すべての楽器がくんずほぐれずで絡まり合うことで、ゆるやかなグルーヴが滲み出ているこのアンサンブルを。ベースとドラムが低音を支え、その上で鍵盤とギターが… といった定型の図式に決して従わない、もっとフレキシブルにというものを捉え直していくようなこの柔軟な演奏。まるで、いくつかの素材をミックスさせた液体をザックリと撹拌させた後、静かに沈殿していくのを眺めているかのような。少なくとも筆者はそんな感覚でこのバンドの作品に向き合っている。

ディレクター : 篠田利隆
ディレクター : 篠田利隆
ディレクター : 小林大祐
ディレクター : 小林大祐

虚弱。というバンドの存在を知ったのはもう2年ほど前のことになる。その頼りなさげなバンド名にロウ・ファイ風の脱力感を覚えつつも、実際はまったく正反対のファットな畝りを導く超絶テクニックに支えられたグループだと知り、俄然興味を持った。おまけにメンバーは全員女の子、しかも、結成されたのは07年、彼女たちが高校生の頃だという(現在、それでもまだ平均年齢21歳)。

とはいえ、主に90年代後半以降、ポスト・ロックの隆盛から変拍子を巧みに取り入れたようなインスト・グループがやたらと誕生していることに対しては、筆者は本音を言うとやや懐疑的なところがないわけではない。適度にタメを作って、ブレイクを挟みつつ、一気にバーン! といくような展開が、前衛的に見えて実際はいかに様式美であることかと。この虚弱。というバンドがどういう背景から生まれてきたのかはわからないし、初期のデモ音源を聴くと、そうした一連のポスト・ロック・ブームの中から誕生してきたと思しき微笑ましい模倣を今も感じないわけではない。だが、ここに届いた9曲入りデビュー・アルバムは違う。演奏の激しい撹拌後の沈殿で何が見えてくるのかを聴き手であるこちらに問うてくるような、実に示唆的で挑発的な1枚だ。

では、そこから筆者は何を見るか――。スティーヴ・アルビニやバストロを思い出させるようなジャンクな感触が満載のダーティーなギター・サウンドと、マハビシュヌ・オーケストラやウェザー・リポートのような複雑で大胆なコード・チェンジ、サティやグールドにも手を伸ばしたような静謐な鍵盤の音色とを同居させること自体、まずはかなり強引な行為ではある。だが、そんなミスマッチから見えてくるもの――それは結局のところ、ポップ・ミュージックに振り切ろうとする意志だ。鈍い軋み音をたてながら回転し、その結果手足がいくつかのオポジットな方向に引っ張られてしまった彼女たちは、あるいは、その遠心力の大きさをそのままポップ・ミュージックのエネルギーに置き換えようとしたのではないか。

すなわち、こうした分裂スレスレの作業ゆえに起こった遠心力こそがポップ・ミュージックを切り開く起点になるだろうことに彼女たちは気づいたのではないかと。もちろん、その作業自体はまったくたやすいものではない。これから立ち塞がる壁も多かろう。だが、強靭な精神力をも手に入れようとしている今の自分たちに、それでも“虚弱”という名前を与えている彼女たちは、この道で活動していくことに対しいくらかの覚悟とミッションを背負い始めたのではないかと思う。その自覚を感じ取れた筆者は、だからこそ、この若き女性戦士たちの意気に大いなるエールを送りたくなったのだ。名前は腰抜けっぽいが、決して腰掛けな連中などではない。だから、もっとタフになれ。サヴァイヴしていけ。待ち受ける大海原は、あなたたちが思ってるよりもきっと優しい。

(text by 岡村詩野)

虚弱。ワンマン・ライヴ決定!

2012年7月11日(水)@渋谷WWW
OPEN : 19:00 / START : 19:30
前売り : 2,500円(+1D) / 当日 : 3,000円(+1D)
チケットぴあ : 【Pコード : 168-876】http://t.pia.jp/
電話予約 : 0570-02-9999
ローソンチケット : 【Lコード : 76198】http://l-tike.com/
イープラス : http://eplus.jp/
ACT : 虚弱。

虚弱。PROFILE

平成生まれの女子達による、病的且つどポップなインストゥルメンタル・バンド。メンバーは壷内佳奈(ギター)、新井深雪(ベース)、まにょ(ドラム)、海野稀美(キーボード)の四人組。2007年、壷内、海野と同高校のメンバーで虚弱。を結成。2008年秋、幾度かのメンバーチェンジを経て新井、まにょが加入。本格的に活動を始める。2009年に1stDemo『kabetosogy』をリリース。同年、閃光ライオット関東決勝大会に進出。2010年には2ndDemo「donguribouya」を発表。ポスト・ロックを基調としながらも、その概念を打ち破るほどポップな楽曲を特長としている。デビュー前から既にライヴでの支持層が非常に厚く、2011年にはZAZEN BOYS、the telephones、NATSUMEN、unkie、LOSTAGEらとの対バンを果たした。

kilk records official site

この記事の筆者
岡村 詩野

音楽評論家/ 音楽メディア『TURN』(turntokyo.com)エグゼクティヴ・プロデューサー/ 京都精華大学非常勤講師/ オトトイの学校 内 音楽ライター講座(https://ototoy.jp/school/ )講師/ α-STATION(FM京都)『Imaginary Line』(日曜21時〜)パーソナリティ/ 『Helga Press』主宰/ Twitterアカウント ▶︎ @shino_okamura / Instagram ▶︎ shino_okamura

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