2011/07/23 00:00

INTERVIEW

関西の音楽シーンの中でも常に独自の展開を見せる京都において、明らかに異質な存在感を放つインストゥルメンタル・ロック・バンド、pasteur(パスツール)。彼らがこの度Sleepwell Recordsより待望の1st Album『5/0wΣave (スロウウェイブ)』(4曲入りなんと45分! )をリリースする。

前作にも見られた鋭いリフと重厚なリズム。それにフルートやサンプラーなどの楽器が加わり、世界観に奥行きを持たせている。そして「夢遊病者」という今回のアルバムのテーマを徹底して追求することで、今作『5/0wΣave』では彼らにしか出せない様な壮大なサウンドを生み出した。今作をリリースするにあたってどのようなドラマがあったのか、フルート、サンプラー、シンセサイザーのAkihito Abe、ドラムのDaisaku Hishinumaに話を聞いた。

インタビュー&文 : 白土徹

pasteur / 5/0wΣave
OTOTOYの京都コンピレーション『All Along Kyoto Tower(京都タワーからずっと)』にも収録されたインストゥルメンタル・バンド、pasteur。ファースト・アルバムとなる今作のコンセプトは「夢遊病者」。現実と夢の間を遊行する人間の心象風景を、ギター2本、サンプラー、ベース、ドラムのみで言葉を用いず描写する。深層心理に訴えかける奇妙かつ壮大な音のアンサンブルをお楽しみください。

【TRACK LIST】01. wddo - cradle / 02. a dim light / 03. noctambulist (egersis/loop -the- loop/return to terra/parahypnosis) / 04. tranquilize shelter


夢か現実かわからない場所を行き来するイメージ

――では、まずpasteur結成のいきさつを教えてください。

Akihito Abe(以下、A) : 坂本くん(kazuma Skamoto/G)とは過去に何度かバンドを組んでいたことがあって、彼から「インスト・バンドをやりたい」と誘われて、しばらくは牧野(Yuya Makino/G)と3人で活動していました。リズム隊は最初の頃は入れ替わりが激しくて… 菱沼くん(Daisaku Hishinuma/D)が加入して、サポートに菱沼くんのもう一つのバンドで演奏していた黄瀬くん(Tomohiro Kise/B)に入ってもらっていて、彼を正式メンバーに迎えて今の5人が揃いました。
Daisaku Hishinuma(以下、H) : 僕はずっと黄瀬くんと一緒にやっていたので、pasteurでは他の人とリズム・セクションを組みたいなあと思っていたのですが、黄瀬君が腕利きなもんで、結局また彼とやるハメになってしまいました(笑)。

――まずインストゥルメンタルありきでpasteurが結成されたわけですが、結成当時から現在に至るまで、音楽性の変化はありましたか?

A : 基本的に今と変わってないですね。個人個人の音楽性の違いはあっても、やりたいこと、やってることに変化は無いです。ギタリストが必ずしもギターを弾かなければいけない、ドラムはドラムだけ叩いていればいい、ではなく、その楽曲にあった演奏をする、リズム・マシーンが合う楽曲ならばドラムは叩かないでもいい、シンセが必要ならばギタリストが演奏してもいい、という柔軟なスタンスの下、当時から今まで活動を続けています。
H : メンバーそれぞれの意見・アイディアを尊重する。可能な限り試す。一度構築したものを壊す勇気を持つ。このへんがこのバンドのコンセプトのような気がします。

――今作のリリースはどのように決まったのですか?

A : それが不思議なんです。僕らは本当にマイ・ペースですごくゆるい活動をしていたんです。ライヴも関西でしかやったことなくて(笑)。リリースの話がきたのは突然ですね。今のレーベルの方が京都までライヴ観に来てくれて、そこで声掛けていただきました。

――今回リリースする『5/0wΣave』は「夢遊病者」というコンセプトが非常に色濃く出た作品になったと思うのですが、その手応えはありますか?

H : コンセプトに関しては相当意識して作りました。個人的にはすごいものを作ってしまったという感じです。

――そもそも、何故「夢遊病者」なんでしょうか?

A : このメンバーになって初めてライヴで演奏したのが「sleep walker」というこのアルバムのコンセプトの元になった曲で、これは坂本くんが考えたコンセプトなんです。夢か現実かわからない場所を行き来するイメージで、元々は4部構成で30分ぐらいありました。アルバムの話をいただいた時に「新しい曲でいこう! 」という意見もあったんですが、「「sleep walker」を形にしたい! 」ってメンバーの一人が言ったんです。この曲はライヴで演奏しなくなっていて、気になっていながらもずっと後回しにしていて… 「ほな、この機会にこの曲を軸にしたアルバムを作ろう! 」とメンバー一致で決まりました。一人の人間が眠りにつく少し前から、起き上がり、再びベットに戻って眠るまで、そしてその後の心象風景をひとつのアルバムで表現しようとして、ライヴの時より構成や展開をかなり大胆に変更して完成させました。

――今回のアルバムを紹介する上で、4曲45分という構成に触れざるを得ないんですが(笑)。

A : もしかしたら聴く人を混乱させてしまうアルバムかもしれませんね(笑)。今までの曲は、一曲一曲のフレーズ、構成、展開がストレートに表現されていて、簡潔に言うと「聴きやすい」ってイメージかな? 今回の作品は、前作よりもシンセの音色の量も格段に多いし、イントロ部分のクラシックでアンビエントな展開、複雑な構成など、おそらく1回や2回聴いただけでは「なんのこっちゃよくわからん! 」ってなると思うんですよね。なので、今までの僕らの音源を聴いていただいている方には、良い意味での「裏切り」もしくは「混乱」を感じさせるかもしれません。
H : 前作のEPには世間の皆様に少しでもpasteurを知ってもらえたら、という趣旨があったのですが、今回こそ、より忠実に自分たちを表現できたかなあと思っています。アルバム全体のコンセプトも含め、こだわりに満ちた、こだわりだらけの聴き手にはあまり優しくない作品に仕上がってしまいました。でもこれは狙い通りですけどね。

――そもそも、自分たちがどう見られるかって部分をあまり気にしてないですよね。

H : それはほとんど意識していません。作品を作る時は聴き手のことは考えないで作っています。制作過程においてそういったことはむしろ邪念であって、ただひたすら没頭すればよいと思っています。でもライヴは違っていて、一回一回が真剣勝負で、限られた時間、空間の中で僕らの魅力を存分に伝えないといけない。そのためにはライヴにおいても何か一定のコンセプトのようなものも必要かなあ、と思いますね。僕らの曲は一曲一曲の時間が長いので、ライヴ全体を通して間延びしないよう、メリハリをつけないといけない。見られ方にはこだわりませんが、見せ方は大切かもしれません。でも今回こんなややこしい作品を作ってしまい、ライヴのハードルが確実に上がったので、今から怖いです(笑)。

全員で構築、解体を繰り返す

――今、ライヴの話が出ましたが、アルバムの3曲目「noctambulist」(30分の大作)をライヴでやるのはどういう風に考えてるんでしょうか?

A : アルバムとライヴは別物と考えています。アルバムはあくまでひとつの形でしかないですし、ライヴでは当然完全再現できないとこもあるんで。今試行錯誤してる最中ですが、ライヴではアルバムと違う表現でいい。むしろ違う形のほうがおもしろいと思っています。なので、練習している中で出てきた新しいアイディアとかフレーズを積極的に取り入れて、ライヴをする度に少しずつ変わっていたり、大胆に変えてみたり… 毎回決まりきった演奏をするのも面白くないので、音源として完成していても常に試行錯誤してライヴに望むようにしています。ライヴを観にきてくれた方が「あっ、この展開今までと違う! 」とか思っていただいたらうれしいですね。

――8月から始まるツアーで色々と試していこうという感じでしょうか。

H : そうですね。ライヴで3曲目だけをやって終わったり、その中でも一部分をやってそのまま別の曲につなげたり、全く違う構成やったりとか。やり方は無限大ですね。考えたらキリがないくらい。

daisaku hishinuma(drums)

――こういった曲作りはどういった形でやられてるんでしょうか? キング・クリムゾンやフランク・ザッパの影響が強く感じられるのですが。

H : 主にギターの2人か阿部さんがデモ音源や断片的なアイディアを持ってきますね。それを全員で構築、解体を繰り返し、3歩進んで2歩下がるようなスピードで仕上げていくので、1曲を完成させるまでにかなりの時間を要します。クリムゾンやザッパに関してはギター2人が影響されているのかもしれませんね。
A : 彼ら2人の音を母体にして、それを僕のパートが邪魔することなくサポートして、トータル的に良い楽曲にするように考えています。
H : 身内が言うのもおかしいですが、うちのギター2人はかなり個性的だと思うんですよ。僕はたまに2人の音の絡みをずっと聴いていたくなるんですよ。だから、彼らを邪魔することなく自己主張することを心がけていますね。

――2人の音にどのように関わって曲を作っていくのでしょうか?

H : リズム隊はギターの2人に寄り添うような感じですね。リズムに関するアイディアも元ネタ提供者の意図をなんとか汲もうと努力はします。ただここに至るまでには紆余曲折ありまして… 加入してしばらくは考え方の違いや音楽的な隔たりがあって、このまま続けてもうまくいかないのでは? と悩みました。

――じゃあ、音楽的な隔たりは制作する上でやりながら解消していった感じですか?

H : はい。その悩みよりも、「pasteurの音楽っておもろいなあ」って気持ちが勝ってしまったのと、その違いや隔たりが逆に強みになると思ったからですね。そして僕らの間をうまいこと繋げてくれた潤滑油として阿部さんの存在は大きかったですね。

Akihito Abe(flute/sampler)

――そういう各メンバーのエッセンスをできるだけ取り入れつつ、バンドとして形にすることで今のpasteurが出来上がったという感じですか?

A : 僕らは一人でも欠けたらだめだってことはメンバー全員で認識しているし、曲を練れば練るほど良い状態に仕上がっていくので、こうやって作品になるのだと思っています。が、その中でも各メンバーをビビらせたら勝ち! みたいなのはありますけどね(笑)。
H : ひねくれ者で人見知りのええ大人4人に認められたら、もうそれは世に放ってもええでしょ!

このアルバムのイメージをライヴで置き去りにしたい

――最近だと今回のアルバムリリースの他にもOTOTOYの京都コンピ『All Along Kyoto Tower(京都タワーからずっと)』にも参加されていましたね。

A : はい、アルバムの1曲目の「wddo - cradle」で参加させていただきました。

――で、京都ってかなり特殊な場所というか結びつきが非常に強いじゃないですか。今回Sleepwell Recordsからリリースしたのも、ギターの坂本さんの友人のブログ(音楽情報サイト「大正おかん座」)でプッシュされていた事がきっかけだとお伺いしたんですが。

H : 結びつきはかなり強いような気がします。

――そういった部分もこういうオリジナルな楽曲をやって行く上で反映されていると思いますか?

H : いや、それは正直よく分かりませんが、地元の僕らでも京都はちょっと異質な場所だと思います。それに僕らあんまり友達いないんですよ(笑)。

――(笑)。洋邦問わずインスピレーションを受けたアーティストを教えて頂けますか?

A : Battles、Tortoise、Flying Lotus辺りですね。
H : 阿部さんが挙げたのと、個人的にはThis HeatやSonic Youthなどは自分にとってはあらたな発見でしたね。pasteurというフィルターを通して初めて聴くことができました。

――リリース後には大阪、名古屋、東京、福岡、広島、最後は京都というツアーも控えていますが、どういったライヴをやっていこうと考えていますか?

A : 僕らの意識も少し変わってきていて、演奏だけじゃなく視覚的な部分を意識していきたいですね。
H : 先ほども言いましたが、このアルバムが出来てライヴをやるのが怖いぐらいだったんですけど、アルバムを聴いて観に来てくれた人がライヴを観てさらに違う魅力を発見してもらえたら万々歳ですね。苦労して作ったこのアルバムの持つイメージを、ライヴで置き去りにできたら最高です。

――個人的にはワンマンでこのアルバムぶっ通しで再現ライヴやったら面白いと思うんですけど。

H : 実はツアーの最終日でそれに近い企画を考えています。でもどうなるかなあ… 楽しみにしておいてください!
A : アルバムはあくまでひとつの形でしかないので、アルバムを素材としてとらえてライヴでは色々なトライをしていきたいですね。

――最後に、今後はどのように活動していきたいですか?

A : 精力的にライヴをして、どんどん新曲も作って、それを形にしていきたいですね。今までの曲もアレンジし直してまた新しい形で披露できたらいいですね。
H : もうその繰り返ししかないですね。あまり欲張らず、なだらかな成長を遂げていきたいです。

神経に訴えかける構築された音

LITE / For all the innocence

本作はBOOM BOOM SATELLITES/DJ BAKUのエンジニア/共同プロデューサーの三浦カオル氏を迎えて3年振りとなる国内レコーディングを敢行。「For all the innocense」(=すべての無垢な者たちへ)は、人生においての命題でもある「人間と動物の関係性」についてをコンセプトに掲げ制作。70年代のプログレ、80年代のニュー・ウェイヴを彷彿させる独自のシンセ・サウンドと、ジャズ、テクノ、ミニマル、アフリカン・ビートなどのダンス・ビートを取り入れたリズムが、今までの有機的なバンド・サウンドと融合を果たし、ポスト・ロック以降の、真の意味でのポスト・ポスト・ロック・サウンドを鳴らし、今までのLITEサウンドの定義の超越に成功した。

MimiCof / RundSkipper

nobleレーベル作品で人気のmidori hiranoによる新ソロ・プロジェクトMimiCof、待望の1stフルアルバム! flauでの作品やJan Jelinekとの活動で知られるEl Fog藤田正嘉がヴィブラフォンで参加、また、Carsten Nicolai(Alva Noto)と共にraster-notonの創設者で電子音響のパイオニアFrank Bretschneider(aka KOMET)、今や時のクリエーターSerph、大注目のネット・レーベル分解系レコーズを主催するGo-qualia、最新作「an4rm」が非常に高い評価を受けているFugenn & The White Elephantsの4組がリミキサーとして参加、素晴らしいアルバムが完成しました!


Oba Masahiro / Still Life

アコースティックな音色と電子音が絶妙なバランスで混ざり合い、どことなく懐かしくも耳に新しい音を生み出すOba Masahiro。美しく繊細な響きの中でふと温度の無い世界を連想させる今作は、10年代のクロスオーヴァー・エレクトロニカ・シーンを象徴している。リスニングは勿論のこと、ダンス・フロアで放つ圧倒的な存在感も必見。

pasteur『5/0wΣave』release tour!!!

2011年8月7日(日)@大阪club vijon
w / IROTTO+ / ハイテンションセックスガール / shule And christmas / シリカゲル / and more
2011年8月12日(金)@名古屋UP SET
w / Ringo coaster / FU-MU / THE SWiTCHERS / and more
2011年9月9日(金) @渋谷O-NEST
w / LAGITAGIDA / OVUM
2011年9月11日(日) @福岡Kieth Flack
w / talk / and more
2011年9月12日(月) @広島CAVE BE

pasteur PROFILE

Tomohiro Kise(bass)
Kazuma Sakamoto(guitar)
Daisaku Hishinuma(drums)
Akihito Abe(flute / sampler)
Yuya Makino(guitar)

京都出身、ギター×2、ベース、フルート/サンプラー、ドラムの5人組インストゥルメンタル・バンド。2005年9月結成。幾度かのメンバー変更を経て、2007年6月より現在の編成に。これまでにMY WAY MY LOVE、8otto、MONO、モーモールルギャバン、などといった個性派バンドとの共演を経て現在に至る。ツイン・ギターを中心にしたアグレッシヴなサウンドを放つ反面、フルート/サンプラーによる叙情性のある奇妙な世界観を魅せ、ベース、ドラムによる変拍子でエグいリズム隊。と、二面性ならぬ三面性、四面性をも持つバンドである。

pasteur official site

[インタヴュー] pasteur

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