
お父さんお母さんが見て微笑んでくれるバンドでいたい(一ノ瀬)
一ノ瀬 : 3組とも考え方は違うんだけど、ライヴをやるときは盛り上げるぞって部分が出てくる訳じゃないですか。V/ACATIONとか、いつ行ってもすごくお腹いっぱいにしてくれるし、いつも最高なんですよ(笑)。だから、最終的にはやっていることは一緒なんじゃないですかね。
キシノ : 乱暴に言えば、お客さんから見て、聴こえ方って近いとは思ったよ。V/ACATIONは今回音源を聴かせてもらって、ギターが単音でヘロヘロにやっている感じとかは手法の点で俺らも近いと思ったし。たぶんハードコアとかパンクを知らずに、お客さんが試聴機で聴いたら近く聴こえちゃうかなって思ったりした。
一ノ瀬 : 並みいる競合をみれば、同じ方かなっていうのは思います。そう広く考えたら同じジャンルになるのかなって。
波多野 : 一緒だと思われたとして、どう感じる?
キシノ : 俺はイヤだよ。
波多野 : 俺もすげえイヤ(笑)! 一緒にすんなよってのはあるんだよ。それはそうじゃん、お互い。
一ノ瀬 : それはそうですね。

波多野 : 今回の企画の話をもらって、ここの並びに俺がいるって思われているんだって知って複雑な心境だったし、わかってねえなって思ったんだ。OTOTOYは俺に何をさせたいんだろうって。西澤君と二人でバンドについてどう思うって聴かれたら、すげえ言えるんだけどさ。メールで今回の企画について、2つのテーマをもらったじゃん。一つはメイン・ストリームに何を投げかけているか、もう一つはパンクはどこから生まれるかっていう。後者のほうはさっきの話なんだけど、前者に関しては俺の中のメイン・ストリームなのね、二組とも。
一ノ瀬 : ええー。まだまだいますよメイン・ストリーム(笑)。
波多野 : 快速東京はすごくメイン・ストリームだと思っているんだよね。だから質問を投げかけられたときに、どう思うかって言われても、どうも思いませんよってことしかなかったの。さっき話してたみたいに、友達に向けてやって、ただ音楽を続けていくって決めているからさ。その意味で、快速東京は多くの人の前で勝負するといいと思うんだ。一ノ瀬君がこの間アメリカ・ツアー行ったってなったら嬉しいしさ。
一ノ瀬 : そこまでいかないですよ。正直今の話を聞いていたら、僕らのやっていることはメイン・ストリームに入るんでしょうね。人づてに自分たちの知らないライヴに呼ばれることも増えてきてますし。
キシノ : 快速東京が外向きっていうのはすごいわかるんだよね。変な言い方だけど、V/ACATIONとthe morningsの音楽って、お客さん側が初見で見た時に、ちょっと違うなとか好みじゃないなとかあると思うけど、快速東京は単純にすごく楽しそうな感じがする。ハードコアをベースに、ストレンジなことをやっているんだけど、それがスッと入ってきやすいところはあるのかなと。

一ノ瀬 : メンバーとよく話しているのは、お父さんとかお母さんにCDを渡せるバンドでいようって。
全員 : (笑)。
波多野 : 俺も渡したよ(笑)。
一ノ瀬 : お父さんお母さんが見て微笑んでくれるバンドでいたいってのは、このバンドに関してはすごくあって、母が見にきたときに顔がもげそうだねって言われましたけど(笑)。
波多野 : 俺はひたすら恥ずかしいですね。CD出したから、出しましたって感じ。
一ノ瀬 : 快速東京は、なんかかわいいんじゃないですかね。
波多野 : 何それ(笑)?
一ノ瀬 : いや、パンクって括りに入れてもらえるのは本当におこがましいと思ってて。すごく好きなだけに。そこまで僕らは主張とか持っていないんですよ。
波多野 : パンクを突き詰めると、選択肢がそれしかなくなるんですよ。だから一ノ瀬くんの考えには違和感を感じる。でもそれは快速東京を否定するってことじゃなくて、そういうところでお互いやっているんだってことでいいと思うし、それとは別に友達でいればいいんだと思う。

一ノ瀬 : ほんと、そう思うし、僕らが一緒にやらせてもらってすごく嬉しかったんです。話してみたらすごくみんなやさしかったし。
波多野 : うちはカジュアルですから(笑)。
――そういう意味でも、Less Than TVって一つの目標になるレーベルですよね。何かに縛られていないし、何かを否定するだけってこともないし、自由で波多野君の言っていることを体現しているレーベルだよね。
キシノ : パンクっていうと俺の中ではすごく形骸化したものなんだけど、Less Than TVはそうじゃなくて、そこなのかなって。
波多野 : そこなんだよ! リリースされているバンドに共通項ってあるんですよね。俺はそれがすごく好きなんですけど、強靭な強いもので1本芯が通っている。それが新しいものが入ってくる土壌になっているのかなって思う。
キシノ : 今のを聞いてて納得した。うちらがパンクで括られることには違和感があるんだけど、変わっていくみたいな部分は共感するな。みんな現状維持っていうバンドじゃないと思って、これをやったら次は新しいことをやろうって。Less Than TVとかはいつも新鮮な音楽をやってて、これをやったら次はこんなのあるのっていうのがいいよね。
俺たちは絶対的に違うんだよ(波多野)
――いま、若い人たちにとってのリアルな音楽が、パンクよりもヒップホップなんじゃないかって意見があります。確かに、10代後半~20代前半でパンクスって人はあまり見かけなくなってしまった印象がある。そこで訊きたいのが、なぜこの3人はこういうハードコア・パンクに近い音楽をやろうと思ったのか?
一ノ瀬 : 選択したんじゃないと思うんですよ。最初からこれしかできなかったんですよ。
キシノ : ヒップホップとかも聴いてきたけど、たまたまギターを弾いていたってことしか理由がないんです。この前MOROHAとOTOTOYの企画で、リアル・ヒップホップの人たちとやったんですけど、びっくりしたんです。新宿MARZの外で一息ついていたら、恐い格好の人が入ってきて、パンクの人よりこえーと思って(笑)。実際やったら、すげえかっこよかった。だけど、ヒップホップって形とかスタイルの部分も強いと思うんです。極端にいえば「YOー」とか…。
波多野 : ちょっと間割っちゃうかもしんないけどさ、この前ライヴ・カルチャーがクラブ・カルチャーに負けたかどうかって話になったんだけど、それは勝ち負けでは全くないと思う。俺たちの周りでいくとISEHARA KAIDO BOYSってラップ・グループは同世代で仲いいし、ちょっと上ではサイプレス上野とロベルト吉野とかとたまに対バンするし、もっと上見ればキミドリとかアルファベッツとか大好きだし。やっている側としては、そこに分け目はないんだよね。ただ、クラブの盛り上がり方に対してライヴ・ハウスが盛り上がっていないことに関しては、すごく思うところあるけど。
一ノ瀬 : 多分だけど、音楽ってジャンルで対になっているわけじゃないから、すごく悪い言い方をすればセールスの問題だけ。僕らの企画にKOCHITOLA HAGURETIC EMCEE'Sのサボさんがやっているホームランチョップに出てもらったこともあるし、MOROHAとも一緒にやらせてもらったりとか、ヒップホップはかっこいいし、ラッパーもラヴだし。
波多野 : いいね(笑)!
一ノ瀬 : そんなに戦ってもないし、負けてもいないし、それこそお店の都合だと思う。このイベントには僕らを出すより、あっち出したほうがわかりやすいとか。変な話、僕らに関係ない話だと思う。
波多野 : ちょっと気になったから脱線したいんだけど、さっき形骸化って話が出たんだけど、俺たちも下向いてチューニングするじゃん。一緒だと思うんだよね。
キシノ : いや、それは違くて、さっきスタイルって言ったのは、例えば垣根を作らずに活動してるヒップホップのユニットってちょっと違うと思うんだ。わりと自由じゃん。リアル・ヒップホップだと、わりと目指すスタイルがあってやっていると思ったのね。その意味で俺は相容れないかもと思った。そういう意味で俺はバンドも嫌いなの。
一ノ瀬 : 要は、We are パンク・ロックとか言っている、そんなにパンクではないバンドみたいなのがイヤなんですか?
キシノ : そういうのを目指してやるのを否定するわけじゃないくて、それを極めるのはすごいと思うし。でもそういうスタイル偏重みたいな姿勢でやっているバンドを否定しないと、俺はバンドをやってられないんだよね。

波多野 : ああ、たしかに。じゃあ、書道みたいなもんだ。がんばってこの道を行くと段になるみたいな。トップになることを目指す、ピラミット構造みたいのって寒くない? みたいな話だよね。それはそうだよね。
キシノ : うちらがバンドやる意味っていうのは、他の人と違うことをやるっていうところに意味があると思っていて。そうでないバンドに対して敵意を向けないと創作できない。そういう意味で、ヒップホップに関しても、新しいヒップホップとかでないと俺は許容できないんだよね。
一ノ瀬 : ちょっと笑えるくらいまで、ヒップホップ・ノリのMCとかをやりますよね。そういう感じを逆に若干おもしろがっている。それがナチュラルですよね。
キシノ : そう。俺ら鎮座(ドープネス)さんと1回やって、まじすげえなって思って。絶対真似できないことをやっているって意味ですごく価値があると思ったの。
一ノ瀬 : 「さっき下向いてチューニングするじゃんって話で思ったんですけど、うちらも演歌って全部一緒だと思っちゃうじゃないですか。でも、向こうからしたら、うちらも全部一緒って思われているかもしれないし、アイドル好きとかは曲毎に全部愛でているわけじゃないですか。そういう、好きな人にしかわからない微妙な差みたいのは、端からみたら全部一緒なんじゃねえかなってのは思う。ヒップホップの人たちが同じように見えちゃうけど、ライヴ・ハウスも端から見れば、未だにPIZZ OF DEATHを好きな人ばっかりって思われているみたいな感じで一緒なんじゃないですかね。
波多野 : 俺たちはそれぞれ絶対的に違うんだよ。さっきジュンヤ君が、the morningsと快速東京と俺らが一緒にされているのがムカつくって言ったのってすごく大事で、一緒にされたら俺もムカつくんだよ。V/ACATIONってthe morningsと同じような単音あるよねって言われたら、お前何聴いてるんだってすげえムカつくよね。それってすごく大事で、そう思ってなきゃやっている意味ないよ。
一ノ瀬 : 自分じゃないところはあまり攻撃できないなってところはあるんですよね。
キシノ : 俺は攻撃しちゃうんだよね(笑)。
いろいろ状況が変わっていく中にいても、止まらずに活動していきたい(キシノ)
一ノ瀬 : 僕は今日に臨むにあたって、パンクって何だろうって考えていたんですけど、たぶんパンクって否定から入ることなんだろうなと思って。パンクの定義とか考えてもどうしようもないんですけど(笑)。たぶんロックは肯定から入るんですよ、それは歌詞の内容の話だけではないと思います。清志郎はあんだけいろいろ否定しているけど、ロックだと思う。僕の中での「パンク・ロック」ていうものに快速東京を当てはめてみると、快速東京はパンク・ロックじゃないなって思ってます。最近ハードコア・バンドってよく書かれるんですけど、本当のハードコア・バンドの人たちの前で、『僕たちハードコア・バンドです』なんて言えない(笑)。全然ハードでもコアでもないと思うし… 。
一同 : 笑
キシノ : でも、ライヴに怒りはないもんね。
一ノ瀬 : 哲丸の歌詞をみると、社会に対して思うことがあって、あいつなりに考えて書いているんだけど、僕はぶっちゃけそんなに考えてなくて、でかい音でギター弾けて気持ちいいなあって。基本的にギター小僧なんで、自分の私的欲求をみたせればよかったんです。それが周りを取り込んで大きくなってきちゃって、最近は若干ビビってますけどね(笑)。さっきLess Than TVが全部フレッシュっていったじゃないですか。パンクってそういうことなんだろうなって。うちは、正直けっこうパクリ倒しているとことかもあるんです。だから、うちのことを鼻持ちならないなって思っているバンドもいると思うんです。
キシノ : 俺はバンドが基本的には嫌いなんだよ。でも楽しいと思ったりするバンドとかもあって、快速東京はそういうバンドだと思うから一緒にやりたいし。上から目線みたいでイヤな言い方だけど(笑)。
一ノ瀬 : さっきの話に出たみたいに、それぞれバンドが思いを持っていて、それがイベントでぶつかるとか、一緒に呼ばれたときに意見がぶつかっておもしろいんですよ。それこそケンカするような話ではないし。例えば、このバンドはそういうスタンスでやっているかとかだけの話ですし。
波多野 : そうだね。
キシノ : イヤなのは、さもオリジナリティがありますみたいな感じでやられる普通のバンド。
一ノ瀬 : ああ。ぶっちゃけ、僕もこんなこといいつつ超むかつくバンドいますよ。機材を2台分くらい運んでくるけどめちゃめちゃ下手とか… (笑)。
キシノ : 何をしたらムカつかれるかわからないな(笑)。
――(笑)。快速東京は、これからどういうふうになっていきたいの?
一ノ瀬 : これが、ないんですよ(笑)。本当に。1枚目を出すときに、次は何をしたらいいんだろうねって言っていたんですけど、直近の目標は海外でライヴをしたいねって。
キシノ : そうだね。うちらもアルバムを出したとき、次何していいかわかんないみたいな話をしたんですよ。音楽は作りつづければいいんだけど、活動の部分で何したらいいのかってことで、西澤君に海外行ったらいいじゃんって言われて、そうかもなって思った。メンバー全員働いていて、それぞれの生活にも変化があるんだけど、そういう中でバンドをずっと続けて行きたいって目標はある。いろいろ状況が変わっていく中にいても、止まらずに活動していきたい。子供がいるから海外に行けないじゃなくて、子供がいる中でも行ける方法を考えたいし、それを言い訳にしたくない。
波多野 : 同じ考えです。ただ音楽をやるだけ。楽しいからやるんだし、やるからにはかっこよくやりたいんです。メンバーみんなと会えて、一緒にライヴができるのが楽しいし。ライヴをやれば友達が来てお酒をおごってくれたりして嬉しいし、CDを出すと友達がライヴに呼んでくれる。いいね、とか褒めてくれる。それが嬉しいから、これからも変わらずやっていきます。
――これまでの周期として、そろそろパンクのリバイバルがあってもおかしくないと思うんですけど、身も蓋もないことも言えば、そういうのってメディアがつくり出してきた幻想って部分もあると思うんですね。取材している僕が言うのもおかしな話だけど、音楽環境やバンドの意識も変わってきているのに、それを取り上げる音楽メディアは意識的に変わろうとしているように見えない。だから、いまパンク特集という形で無理矢理まとめようとしても、読者とかリスナーは敏感に反応して好きなものだけ取捨選択すると思うんです。今日は、それぞれ反論というか自分の意見を率直に言ってくれて、ほんとよかったなと思ってます。
一ノ瀬 : クラブに押されてるっていう意識持った事無いですけどね(笑)。
――そういうことを分かった上で、敢えて言わないことが、今のバンドの素直な反抗ってことなのかもしれないですね。
キシノ : 当時はAIR JAMとかがあって、バンドもある程度まとまってやっていたよね。お客さんも後押ししていて、まとまっていく部分があったけど、今はここの3組でさえパンクじゃないって言ってて、全然違うんだからね。

――リスナーの音楽を知る方法とか聴き方も、単にジャンルとかではなくなっていますからね。
一ノ瀬 : そう。ライヴに来てくれる高校生の子とか、ライヴを見たことないのにPASTAFASTAとかを知っているわけですよ。それって驚きませんか。
キシノ : それすごく希望のある話だね。
一ノ瀬 : みんな自分の好きなものの関連動画とかで掘っているんですよ。彼らが見ているのはテレビとか雑誌じゃないんですよね。いわゆるマスコミとかがやっているまとめ方っていうのを最近の子はあまり見てないかもしれないかもしれないですね。
キシノ : 多分、見ている人は今も見ていて二分化しているんだよね。
一ノ瀬 : 探す方法がmy spaceとかfacebookとかで、辿り着く方法は本当にバラバラなんですよね。
――それじゃあ、最後は年長者のジュンヤ君に感想をいって締めてもらいましょうか(笑)。
キシノ : 今日はすごく楽しかったです。みんな違って、いいんじゃないですか。俺はだいたいのバンドに対してヘイトから入るんですけど、こうやって話して信頼できる人のことはライヴを見たいと思うし、これからもやっていきたいと思います。
This is Punk in Japan!!!
PROFILE
快速東京
福田哲丸 - ボーカル
一ノ瀬雄太 - ギター
藤原一真 - ベース
柳田将司 - ドラム
2008年、多摩美術大学の学生同士で結成。その後、吉祥寺を中心に活動し、2010年にはFUJI ROCK FESTIVALのROOKIE A GO GOステージに出演する。翌年2011年1月に初の正式音源となるアルバム『ミュージックステーション』を発売。
official website
the mornings
キシノジュンヤ(Vo,G)
けものけいか(Dr)
ワタナベシンペイ(Vo,G,Syn)
DJラリー(B)
2003年結成。初期衝動全開、常に事故と隣り合わせの刺激的なライヴ活動を各地で展開中。ポスト・ハードコア~パンクを基調にあらゆる要素をゴチャ混ぜにしつつも、フレーズや歌詞にキャッチーさを残すサウンドが特徴。これまでヒップホップ、インディーロック、パンクなど多様なジャンルのコンピレーションCDに参加。「どこにでも属せて」かつ「どこにも属せない」その天然のクロス・オーヴァーっぷりは驚異的だ。2005年には自主的にUSAツアーを敢行。自主企画をハイペースで開催している。
official website
V/ACATION
2007年、夏の熱狂のほとぼりが冷め切らないボーカル波多野と、ギター松本を中心に結成。遊びの流れのままにはじまったバンド。何回かのメンバー・チェンジを経て、2008年6月ドラム小野寺が加入。同年秋、Less Than TV谷口順と出会い活動が加速。2009年9月ベースがーすーが加入し、現在のライン・ナップとなる。同年10月、台湾ツアーを敢行。友達に会いにいくために、バンドをやっている、というスタンスは結成以来変わらず、東京を中心に活動中。
official website