DJ 敷島(谷川親方)にインタビュー!!
——11月場所が終わったばかりですが、福岡の盛り上がりはどうでした?
集客は去年より若干多かったですね。お客さんの雰囲気は非常によかったです。景気が去年よりも悪い中で動員が増えたのは喜ばしい事なんですけど、その一方で安い席のチケットを購入される方が増えましたね。「どうすれば若い人が相撲を観に来てくれるか」という事はいつも考えています。そこでイヴェントに遊びに来ている人達に相撲の話を聞いてもらいつつ、彼らの相撲に対する感覚を教えてもらっています。そうすると「相撲って観に行くのに1万円くらいはかかるんですよね?」と言われるんですよね。そこで「2000円の自由席もあるんだよ」という事を伝えると、それなら行ってみたいと思ってくれる人もいるんです。そこで誘って来てくれた人達に後日話を聞いたら「生で観たらすごく面白かったです!」という声をもらって。九州場所の担当になってから7年になるんですけど、その間にリピーターになってくれた人もたくさんいるんですよ。だから、自分がDJとして活動しながらお相撲の事を伝えてきたのは、あながち間違いではなかったと最近は思って来ています。
——確かに一度観てもらえれば、お相撲の楽しさを体感してもらえると思います。でも、そこまで連れていくのが難しいですよね。
誰でもチケットが手に入れやすい状況を作っていきたいんです。現在の販売方法だと、どうしても「高い」という意識が先行してしまうんですよね。だから、安いチケットもあるという事を、こちらからアピールしなくてはならない。でもそれをやりすぎるのもよくないんです。やっぱりマス席を埋めなければならない。だからなかなか告知力がついてこない。さっきの話のように、僕らが直にコミュニケーションを取りながら、いろいろなチケットの選択肢がある事を伝えていかなければならない。ネットでチケット購入のページを見てもらっても、うまく伝わらない事が多いんです。券種の多さが分かりづらくしているというのもあると思います。そのひとつひとつを説明するのはとても大変です。そして、親方衆がそれぞれの値段をすべて把握出来ているかと言うと、実はそうでもないんです。だから、まず僕らが自分達の意識を変えていく事が一番重要なんです。
お相撲に興味を持ってくれた人にはどんどん伝えていきたいです。でも、押し付けみたいな売り方をしてはいけませんからね。例えば音楽に関しても、あまり説明的になるのはいやなんですよ。僕は中学生の頃からジャズが好きなんですけど、ジャズが好きな人って、つい知識から入るような聴き方をしがちなんですよね。つまり「チャーリー・パーカーとはこういう人物で、そこをわからないと本当の良さは理解できない」みたいな感じですね。でも僕はそういうのがあまり好きではなくて。余計な知識ばかり先行してしまうと、楽しめるものも楽しめなくなってしまう。いいと思った音楽を聴く。それだけでいいと思うんです。そこで興味を持ったら、自分から勝手に調べていくものですから。自分の思い入れを人に押し付ける必要はないし、興味を持ってくれる人がいてくれたらその良さを伝えればいい。
——親方がDJ敷島として活動しているのも、そういった思いがあるからなのでしょうか?
それも相撲と一緒です。観て興奮してもらえればそれでよくて、難しい事を覚えてもらう必要はないんです。楽しかったかどうかはお客さんが判断する事であって、力士は楽しませる為に相撲を取っている訳ではないんです。勝たなければ番付が落ちてしまう。常に真剣勝負なんです。例えば、舞の海という力士はいろいろな技を繰り出して人気がありましたよね。あれは小さい身体で大きな力士に勝つための技術であって、お客さんを楽しませる為にやっていた訳ではないんです。相撲は本場所が1年間に6場所あります。つまり2か月に1回、結果を出さなければならない勝負の時が来るんですね。それは力士にとってはただ楽しいだけではない。自分達が胸張ってやっている事ですから、真剣にやらないといけない。
僕がDJを始めたばかりの頃は、ただ単に好きな曲をかければいいという意識でやっていたんです。ところが、それでご飯を食べている人達は、如何にお客さんに楽しんでもらえるか、という事を常に考えながら選曲しているんですよね。須永辰緒さんはそれを「編集作業だ」とおっしゃっていました。その作業をお客さんは「観たい」「聴きたい」と思って集まるんですから。レゴ・ブロックに例えると、普通の人はビルしか作れないところを、プロは同じものを使って鶴を作ったりする事が出来る。それがプロとアマの差ですよね。意識の差を感じました。DJを始めてすぐそれに気づく事が出来てよかったと思っています。自分は今、<夜ジャズ>というイヴェントに携わらせてもらっているんですけど、そこでDJをやっているのが辰緒さん、DJ NISHIYAMA君、僕の3人なんです。この3人のスタイルはそれぞれ別のものです。そうじゃないとメリハリがないんですよね。辰緒さんはやっぱり洒落た選曲をされる方なんですよ。NISHIYAMA君は新しい曲をがんがんかけていくんです。そこで僕は、この3人の中でDJをやる時はスタンダードなものをかける、という使命を自分の中で作ったんです。だから、自分の選曲はあまり変わり映えがないです。でもそれがある事によって、二人が引き立つ。それは二人への敬意の表れでもあります。二人がいない時は、僕も辰緒さんみたいな選曲をするんですけどね(笑)。
もちろん相撲においても同じ事が言えます。横綱や大関に対する尊敬の気持ちがなければ、失礼に当たりますからね。彼らは強いからその地位にいる訳ですから。なめてかかれば当然ケチョンケチョンにやられるんですよ。その横綱と大関も下からその地位に昇りつめたんだから、自分達への敬意を感じられる力士に対しては、その気持ちをしっかりと受け止めて、倒すんです。それが横綱や大関というものなんです。僕はそういう世界で生きてきたので、<夜ジャズ>で一緒にやらせてもらっているそのお二人を、横綱と大関のような存在として見ています。その中で自分の職務が全う出来たら楽しいですよね。お相撲の世界にずっといたから、空気を読む事は出来るんです(笑)。
——いつ頃から音楽に夢中になったのでしょうか?
小学校の頃ですね。母親がスナックをやっていたので、ジューク・ボックスがあったんですよ。演歌から洋楽、ポップスが常にありました。そこからいろんな音楽を聴いて、自分の好きなものを探していきました。現役時代の苦しい時も常に音楽だけはそばにありましたね。下っ端の時は持ち込める荷物も限られているから、とりあえずCDプレーヤーと、マイルス・デイヴィスの『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』、佐野元春の『カフェ・ボヘミア』だけを持っていったんです(笑)。入門したての頃は洗濯に行く時くらいしか外出もできないんですよ。でもやっと外出が許されるようになって、神楽坂にCDを買いに行ったら、その店のご主人が「ジャズ好きなの?」と声をかけてくれて。そこで紹介されたのが東京スカパラダイスオーケストラの『スカパラ登場』だったんです。その時は「おー!」と思いましたね。
——周りの力士にも音楽好きの仲間はいましたか?
もちろんいましたけど、やっぱりみんなJポップとかでしたね。インストを聴いてる人はいなかったな(笑)。でも、兄弟子の影響で聴いたものもたくさんありましたよ。苦々しい思い出しかないですけど(笑)。つまりカラオケで歌うための曲ですね。
——(笑) お相撲さんのプライヴェートって見えづらいですものね。
今は20年前とはまったく違いますよ。昔、偉い人達をもてなすような場で、師匠から「何か歌でも歌え」と言われた後輩が、カラオケで筋肉少女隊を歌ったら、案の定、ゴツンとやられてましたね(笑)。でも今の子達はそんな事をあまり気にしなくてもよくなりましたよ。平気な顔でMEGARYUとか歌ってますね(笑)。むしろ今は演歌を歌う人の方が珍しいですよね。その筋肉少女隊を歌った後輩は、老人ホームに行った時も、老人達の前で「踊るダメ人間」を歌ってました。あれはゾッとしましたよ(笑)。職員さん達の引き攣った顔が今でも目に浮かびます。
——(笑) 親方は今、若い力士の指導にもあたっていますよね。今の力士達と、親方が現役の頃を比べると、何か意識に違いを感じる事はありますか?
今の子達の方がすごく楽天的な気はしますね。音楽もたくさん聴いていますよ。だから彼らももっと自分達のそういう面を見せていっていいと思うし、皆さんももっとからかってくれていいんです。「相撲の世界の人達って堅苦しそう」という意識をみなさん持っていると思うんですけど、そんな事はないんですよ。
——でも、この企画を考えて親方に声をかける時は、正直おっかなびっくりでしたよ(笑)。
大丈夫です。タブーみたいなものばかり気にして、怖がらないでほしいんです。そういう意味では、僕よりもむしろ今の若い力士の方がセンスが長けていますから。
——僕らからすれば、谷川親方の存在は、やはり他の方々とは一線を画しているように見えます。
他の親方衆からも、たまに「おい敷島。最近はあれ(といってターン・テーブルを擦る素振り)やってんのか?」とは言われますよ。皆さん認知して下さっているし、寛容に受け止めてもらえていますね。でも、例の大麻事件で騒がれている時には「お前も気をつけろ」と言われる事もありました。ただ純粋に音楽を楽しんでいるだけなのに、一連の報道によって自分達にもそういった目を向けられたのはやはり悔しかったですね。僕ももちろん検査を受けましたよ。何も問題がないのはわかっていますからね。
——さっき「からかっていい」とおっしゃっていましたけど、その落とし所は難しいですよね。お堅いイメージはなくしたいけど、あまり砕けた部分ばかり見せるのも良くないと思っています。
もしあまりに失礼な事があれば、協会もビシッと言いますよ。それは普通の人と同じです。モラルさえあれば問題ない事ですよ。例えばお相撲さんが道を歩いているのを見かけて、いきなり身体を叩いたりしたら、普通に考えて失礼でしょ? それは誰であっても同じ事であって、何も変わらないんです。気楽に考えてくださった方が、こちらも助かります。
——お相撲の熱心なファンとまったくお相撲を知らない人が、もう少し歩み寄れるようになれたらいいですよね。
ミュージシャンにもお相撲が好きな方は大勢いますしね。音楽が好きな人達にもお相撲に興味を持ってほしいし、そのために出来る事があればなんでもしたいと思っていますよ。もっと若い人達にお相撲を楽しんでもらえるように、今後もいろいろ考えていきたいです。
DJ 敷島 PROFILE
DJ敷島こと、谷川親方。 現役時代の四股名は敷島。最高位は幕内西前頭筆頭。横綱貴乃花より、初対戦から2場所連続金星を挙げるという記録を持ち、これからという矢先に心臓疾患で現役を引退。立田川親方の定年退職により、元大関霧島の陸奥部屋に移籍。現在後進の指導に当たりながら、夜な夜なDJをしている。
- blog “敷島こと谷川親方の現場主義!!!” : http://blog.goo.ne.jp/tanetaneshikishiki