2009/08/08 00:00

マリンバが奏でるメランコリックな世界に迫る

メランコリックで心が懐かしくなるマリンバ。時に優しく、時に激しく響くギター。それに絡みつくドラムという編成の3ピース・バンドcirce。描かれる音楽は、現実か夢かわからない不思議な世界。摩訶不思議な響きや展開がたくさん散りばめられていて、まるで新しい生き物達がそこでバンドをしているかのよう。さらに、ときどき現れる懐かしくて優しいギターの音色は、私の心にポカッと穴を空けて去っていく。奇妙なバンド・・・ circe。これから聴くあなたの耳には、どのように映り、あなたはなにを想像するのだろうか? ギタリストの野内俊裕に、circeを紐解く鍵をきいてみた。

インタビュー&文 : 小林美香子

INTERVIEW

—バンド名の由来は?

野内俊裕(以下Y) : circeは、ギリシャ神話に出てくる魔女の名前です。ギリシャ神話が好きで、神様の名前から一番語感が良いものを選びました。

circeを結成した経緯を教えて下さい。

Y : メンバー全員小学校から一緒で、高校生のときにバンドを組みました。最初はコピー・バンドから始めて、東京に出てきたときに今の楽器編成になりました。

—マリンバを取り入れたのは何故なのでしょうか?

Y : スティーブ・ライヒが好きだったんです。インストでやるって決めてから、すぐに取り入れてみたら、もの凄くはまったんですよ。

—マリンバが入って、苦労したことはなんですか?

Y : 録音ですね。アレンジでそれぞれのパートをきちんと聴こえるように作っても、録音するとマリンバの音が聴こえなかったんです。今回のレコーディングでは、ライヴ・ハウス渋谷屋根裏の伊藤さんにお願いして、マリンバの録音を手伝ってもらったので、ちゃんと聴こえるようになりました。伊藤さんのおかげで、今は昔程大変と思わなくなりましたね。

—アルバム『4pictures』を聴くと、非常にストーリー性を感じることができます。

Y : 4pictures』は最初から4部構成の曲を作ろうと考えていて、起承転結に沿ってイメージをつけていきました。起の「room」は部屋のイメージ。サンプラーの音は、部屋から聴こえてきそうな音をあえて選んでみました。承の「girl」はタイトル通り女の子みたいな、甘くて切ないイメージ。転の「machine」はベルト・コンベアみたいなイメージ(笑)。結でまた「room」になるんです。ざっくり言うと、部屋で色んな物事が起こって、結局また戻ってくる感じ。

—サンプラーの音に、いくつかの環境音を使われていますね?

Y : 歌詞が無い分、想像力を刺激したかったんです。例えばノックやカーテンの開け閉めの音って抽象的だと思うんです。そういう日常の音を随所に取り入れたら、聴く人はcirceを聴きながら、色々と想いを巡らしてくれるかなと。しかも、抽象的な音をいくつも集めたら、サウンドはより具体的になると思っています。

—1曲目の「room」は、マリンバの音がとても印象的でした。

Y : 曲の時間を長くして、マリンバの音をじっくり聴かせたかったんです。インストは、聴く人の想像力をいかに引き出せるか。そこを意識して制作出来る音楽なので、とても好きなんです。

—3曲目「machine」は、他の曲とは打って変わってとても激しいですね。

Y : 昔、ハード・コア・バンドを組んでいたこともあって、もともとこういう曲はずっとやりたかったんですよ。歪んだ音と僕等のようなサウンドを組み合わせてみたかった。実は、渋谷屋根裏の伊藤さんに出会ってから、激しいギターとマリンバを組み合わせることが出来るようになったんです。まだ難しいですけど、このサウンドを確立したいと思っています。

Qurageの森 幸司が主催するレーベル、ZOMBIE FOREVERから出すことになったきっかけは?

Y : 森くんとは、二子玉川pinknoiseで知り合いました。その場所で意気投合して、彼と画家の矢野ミチルさんと3人で「Art tree」という音楽やアートをゆっくり座って楽しめるイベントをはじめました。その繋がりで、彼がレーベルを始める時にZOMBIE FOREVERから出してもらうことになったんです。

circeは、アート・ワークにも力を注いでいますね。

Y : そうですね。自分がアート好きっていうのもあるんですけど、やっぱり何でもカッコいい方がいい。インストで言葉が無い分、見た目や絵の抽象的なイメージが非常に大事だと思うんです。ジャケットは片山高志さんという方に描いてもらいました。元々、『4pictures』を作るきっかけになったのは、彼から「展示会に合うような曲を作って欲しい」と言われたからなんです。

—最後の質問になります。『4pictures』を作って、次にどう繋げていきたいですか?

Y : 4pictures』は色んな人に聴いてもらいたいです。けど2年前に制作したもので、今のcirceを表現するタイムリーなものではないので、次回作は、circeの現在進行形のサウンドを詰め込みたいと思っています。

ZOMBIE FOREVER WORKS

Tokyo Long Letter / Qurage

ZOMBIE FOREVERを主宰する、モッコという一人の男が放出するヘンテコながらも、どこまでも優しい音楽を届けてくれるファースト・アルバム。親近感と危機感の狭間を自由に行き来する怪しい軟体生物の優しい音楽。さかのぼって、最後にもまたさかのぼるというコンセプトのもとオモチャで器用に遊ぶポップな楽曲が目白押し。一遍の物語という完成されたものより、まさに手紙のようなラフな気持ちで全編聴けるのが、本当に気楽で気持ちよいです!

5tracks / 3songs / 1picture / Drawings

"circe(キルケ)"と、山形から上京し「ZOMBIE FOREVER」というインディ・レーベルを立ち上げ海外アーティストのサポートや数々の自主企画を精力的に展開している"Qurage(くらげ)"と、「Ghost&Flowers」というオリジナル・ブランドを手掛け作品展やライブ・ペイントを各地で繰り広げ全国にファンを持つ"矢野ミチル"の3アーティストが合体したコラボレーション・ユニット。独特で空気感のあるギター、ジブリのワン・シーンがふと頭の中に浮かび上がってくるようなマリンバ、自由奔放でいて芯の通ったキュートなドラム。ボーカルは歌詞を聴けば一転、人間の心の裏側を透視したかような奇妙な一面も覗かせる。

PROFILE

circe
2005年、現在のメンバーになりインスト・バンドとして活動を開始。以後東京を中心としたライブ活動、及びソロの音楽家や他ジャンルのアーティストとのコラボレーションも積極的に企画。渋谷7th floorにて企画「Art tree」を隔月主催。様々なジャンルを超え、聴覚・視覚のみならず五感すべてを刺激する唯一無二の感情表現。音・呼吸・仕草のひとつひとつが一枚の絵となって生まれ変わる。

この記事の筆者

[インタヴュー] Circe

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