2009/06/16 00:00

折り返し地点の先に続く道

私が初めてcutman-boocheのライヴを観たのは、愛知の野外フェスティバル「Rock on the Rock」でのこと。晴れた空の下で響くVo.ウリョンのハスキーでソウルフルなヴォーカル。それを支えるテンポの良いリズム隊は、私の心を躍らせた。ファンク、ソウル、ブルースやロックなどのいろんな要素がごった煮になっているのに、決してごちゃごちゃしておらず、自然と体は揺らされた。彼らのオーガニック・サウンドはとても心地良くて、フェスにぴったりなのだ。

彼らがセカンド・フル・アルバム『my way』をリリースした。四つ打ちを取り入れた爽やかなロック・チューン「サイクル」をはじめ、ブルースやソウルをルーツにしたサウンドはそのままに、非常にポップでとっつきやすい作品となっている。ゲスト・プレイヤーに武嶋聡(EGO-WRAPPIN' AND THE GOSSIP OF JAXX)と浜野謙太(SAKEROCK)を迎えて制作された、Coccoの「強く儚い者たち」のカヴァーは、柔らかな質感を醸し出すホーンの音色と、温かみのあるウリョンの声が染みる名作。カヴァー曲でありながらも、すっかり自分達の音に昇華していて、改めて音楽的な振り幅が大きいことを知ることが出来る。

今回、アルバムについて話を伺うとともに、1曲1曲のセルフ・ライナーを書いてもらった。ぜひじっくり読んでみてほしい。

インタビュー&文 : 井上沙織

INTERVIEW

—『my way』を制作する上で、コンセプトはあったのでしょうか? また、ご自身ではどんなアルバムに仕上がったと思いますか?

このアルバムは、僕らにとっての「ターニング・ポイント」になる様なアルバムだと思っています。制作を始めた当初からコンセプト的なものを掲げていたってのは無いんですが、ただ僕ら色んなジャンルを混ぜて音楽やってるから、やっぱり軸とする部分で「歌」を大事に制作しようってのはありました。あとは挑戦を積み重ねる事で今までの作品以上に突抜感みたいなモノは出せたと思ってます。より多くの人に聴いてもらえると思うし共感もしてもらえるんじゃないかな。仕上がってみたら夏にピッタリでしたね(笑)

—特に「サイクル」は、これまでのcutman-boocheのイメージをくつがえす、爽やかなロック・ナンバーですね。この曲が出来上がるまでのエピソードがあれば教えてください。

制作中に一度、福井に合宿に行ったのですが、その時に「サイクル」の元となるデモが出来ました。その時は歌詞も無くてギターのリフとメロディーがぼんやりとあったのですが、これは"みんなの(多くのリスナーに共有してもらえる)曲"になるんじゃないか!? って感触があって、そこから歌詞を乗せて、アレンジも上田禎さんと一緒に作るっていう挑戦をしました。歌詞はパーソナルな部分もあるんですが、みんな色々と悩みを抱えていたり壁にぶつかったりもすると思うんですが、前向いて走ろうってテーマで書きました。今の時代にちょっとでも聴いてくれた人の心の支えとか、不安を取り除けたり、そんな曲になれると思います。

—また、「サイクル」のPVは、"ルックン"という一つ目の人形が出てくるユニークなものですが、どのような経緯で生まれたのでしょうか?

PV「サイクル」のディレクターさんはアメリカ・カリフォルニア在住の牧鉄平さんという方なんです。彼が「サイクル」を聴いた時に簡単な絵コンテを描いてくれたのですが、その時にはもう既に"ルックン"(のキャラクターのみ)が存在してました。「サイクル」の詩の世界観等からあの一つ目のキャラを思いついたみたいで。その人形が僕らを探して旅に出るというストーリーになってます。"ルックン"って名前は僕らが命名させて頂きました(笑)

—Coccoの「強く儚い者たち」をカヴァーすることになったきっかけはあるのでしょうか?

昨年末のCOUNTDOWN JAPANでユニコーンの「雪が降る町」を演奏したのですが、狙い通りライブで凄く盛り上がり、その後も全編通してライブを楽しんでもらえたんです。その経験からも、カバー曲を一曲入れたいねって話をしていて、Vo.ウリョンが個人的な思い入れのあるCoccoさんの「強く儚い者たち」を入れる事にしました。

—今回、セルフ・ライナー・ノーツを書いていただきましたが、自分達の曲を振り返ってみて、新しい発見はありますか?

自分たちの曲を、文章で伝えようとする事で何となく大きく捉えていた曲のテーマや伝えたい事、聴き所が明確になって行くことですね。

—皆さんが野外フェスティバルに出演されているのをよく観ます。ロック系からオーガニック系のものまで、フェスの種類を問わず幅広く出演されていらっしゃいますが、これまでに印象的だったフェスはありますか?

バンド結成当時に目標にしていた「FUJI ROCK FESTIVAL」に初めて出演した時は感無量でした。メンバー全員が力を合わせて、幾つもの壁を乗り越え「FUJI ROCK FESTIVAL」という一つの大きな目標にたどり着いた時の達成感はすさまじかったです。もちろん今はさらに大きなステージに立てる事を目標に頑張ってますが(笑) 思い出したら少し恥ずかしいですね。でも大切なターニング・ポイントになってると思います。

『my way』セルフ・ライナー

「ガンボ soup」by 小宮山純平
アルバムの一曲目を飾るにふさわしい、底抜けに陽気なパーティー・チューン。ラテンとアフリカを融合したようなリズムと、思わず一緒に歌ってしまうポップなサビのメロディーが印象的。昨年秋のツアーから登場SEとしても使用。さあ「my way」の始まり始まり。

「See you letter...[AL Ver.]」by ウリョン
昨年、カットマン・ブーチェ史上一番多い22カ所をツアーで回った時に掲げた言葉、「君の方はどうですか?」。家族、友達、身の回りの大切な人、そして応援して見守ってくれてる皆さんへまだ見ぬこれから出逢う皆さんへ、、、。僕らからの大好きな全ての人たちへ贈る感謝の気持ちを歌にしました。これから何十年経とうが、みんなにこの唄を届けれたらいいなって思います。そんな思い入れの強い曲です。

「ハイウェイの上」 by 林周作
あー、この場所にもビルが建ってしまったんだなと思ったのも束の間、気がつけばそのビルが潰れ、また何かが建つ…。僕の想い出の場所を何度傷つけたら気がすむんだろう。誰が作ったかも分からないルール、正体が分からないものに対しての苛立ち。『この世界の裏では何が起こってるのか教えてくれよ。なぁ、政治家さん。』と聞いても肝心な答えを誤魔化してYesとしか言えない政治家。受験に落ちたり、失恋したり、イジメにあったり。このドブのような世の中にげんなりしてしまう。ハイウェイから見える風景だけはサラサラとしていてドブに浸かった体を洗いながしてくれる。

「サイクル」by ウリョン
時代が目まぐるしく動いている中で、本当に自分と向き合う事が出来ているのか? ふと立ち止まる時。僕らも、みんなも漠然に幸せを求めたりするんだって最近強く思っていて。その幸せを待つのも良いけど、自分から掴みに行く事の大切さを歌にしました。

「Rainbow」by ウリョン
毎年、ある時期の一回になると心が疼く。それは時にもの凄く痛かったり、時にむず痒かったり。ここ十数年くらい、毎年そんな感じが続いてて、その時の事を大学ノートに書き溜めている。本当に沢山の事を歌詞として書いてきた。でもやっぱり心の中は完全には晴れやかではないって思いながら人ごみを歩いてたら自分が七色の街頭に照らされていた。それだけの話。

「5/8」by 小宮山純平
タイトル通り5/8の変拍子で進行していく曲。∞(無限大)にループするギターリフに、ベース、ドラムが加わり様々な景色に移り変わってゆく。心の中を行ったり来たりさまよいながら、自問自答を繰り返す、やり切れない感情。陽気な楽曲アレンジの上に、ウリョンが歌い上げるのはそんな迷宮の果ての「絶望」。

「Gotham」by 小宮山純平
「my way」に収録されている楽曲の中で唯一のインストナンバー。アーバンでダビーな冒頭部分から、後半は一変して疾走とカオス。そして最後に残るのは静寂と虚脱感。この曲はスタジオでセンスとひらめきを頼りにジャムって出来た曲。ちなみにGothamとはニューヨークの異名。

「giant switch」 by 林周作
自分の頭の中に小さなスイッチがたくさんあって、それを押して体を動かしている。 自分が今まで出来なかったり、諦めてしまったりしたのは、そんな小さなスイッチで動いてたからだ。頭ん中でごちゃごちゃ小さいこと考えてないで体でぶつかって大きなスイッチを押してやろう。 カットマンの3人が全速力でぶつかればどんな大きなスイッチも押せる。この衝動と決意を爽快なロックで伝えるナンバー。

「combo!」by 小宮山純平
カットマン・ブーチェのルーツを感じさせる、そのリズムグルーヴはまさにニューオーリンズ。キレ味抜群のカッティングギターと、低く重く響くベース、そして跳ねたビートでうねりまくるドラム。それはまさにカットマンの真骨頂。ウリョンのハスキーなボーカルと、リズム隊2人によるコーラスの掛け合いも必聴!

「強く儚い者たち」 by ウリョン
僕の学生時代の一番嫌な思い出。高校受験。「お前は何になりたいねん! 」って親に言われて「正直何にもなりたくないわ! 」って思いながらただただ何も言えなかった。やりたい事もやらないといけない事も自分で決めたいのに15,6歳では何も見つけれず。時期が来ると有無を言わさず突きつけられる感じ。誰も味方に見えなかった。誰も助けてくれなかった。そして何にも向き合う事が出来ない自分がいた。当時、そんな僕をこの曲は救ってくれました。ようやく歌詞の深い意味を理解する事が出来てどうしてもこの曲を僕らからも伝えたいなと思いました。単純に今の時代に伝えるべきだと思いました。Coccoさんにも聴いてもらいたいなって思っています。

「約束」 by 林周作
大切な人と一つの約束をする。 約束は相手を縛るものではない。だから約束では僕を縛れない。 約束は自分への誓い。 その同じ誓いを二人で共有しているだけである。 そんな儚いものだからこそ守ろうとする。そんな儚いものだからこそ強く握りしめる。 だから、約束したくないのに黙って頷いたり、誰かに合わして約束したものは約束ではない。 そんな想いを強く歌いあげた曲。

「少年時代」 by 林周作
今でも鮮明に覚えている風景がある。今でも鮮明に想い出せる温もりがある。誰もが通り過ぎた少年(少女)時代。今になってふと思い出してその全てが大切だったんだと気づく。丸裸の心で生きていたからこそ、傷ついたり笑ったり、毎日忙しかった。大人になった今だから気づけること、気づけないことがジンワリ染みてくる曲。

「seloris」 by 林周作
友人が結婚をするときに贈った曲。 愛してるという言葉を100万回言っても表現しきれない言葉や想い。あなたならどう伝えますか? 結婚をする時、初めて生み出される二人だけの言葉。他の人には伝わらない。タイミングを外せば当人にも伝わらない奇跡の言葉。その時の感情、感覚、温もり、瞬間。切り取って保存しておけないものだから、その想い出の目次になればなぁと作った曲です。 歳を経て聴いた時に、ふと思い出して手を繋いでほしいなぁ


前作『Permanents』の配信もスタート!

雑多なルーツ・ミュージックを持つ彼らが、原点でもある「ロック」を、そして「生きる」をテーマにしたというファースト・フル・アルバム。メッセージ性の強い楽曲が揃っています。

LIVE SCHEDULE


  • 6月21日(日) @札幌 Sound Lab mole
  • 6月28日(日) @名古屋 club Rock'n'Roll

boosoul 2009 フロアで危機一髪ワンマン・ライブ!

※センターステージでのライブとなります。

  • 7月2日(木) @大阪 心斎橋 club QUATTRO
  • 7月11日(土) @東京 代官山 UNIT

ROAD TO ROKKO SUN!!

  • 7月19日(日) @大阪 服部緑地野外音楽堂

ROCK IN JAPAN FES. 2009

  • 7月31日(金) @茨城 国営ひたち海浜公園

LINK

PROFILE


cutman-booche

Kim Wooyong(Vo,Gu) 林周作(Ba) 小宮山純平(Dr)

2002年に大阪で結成。2004年に浪速のG.Loveと呼ばれた1stミニ・アルバム『cutman-booche』をリリース。それ以降、「音楽の可能性と時代性」の模索をしながら常にその評価を受けてきた。(FUJI ROCK FESTIVALへの2回連続出演をはじめ、数々の野外フェスティバルに出演)

2008年には初めてのフル・アルバム『Permanents』をリリースし、10本以上の野外フェスと全国ツアーに。邦楽シーンでも頭角を現し出したcutman-boocheはウリョンのボーカルと独特なバンド・サウンドを武器に音楽の旅を続ける。


CLOSE UP : JOAN OF ARC

CLOSE UP : mojoco

CLOSE UP : sleepy.ab

CLOSE UP : タカツキ

この記事の筆者
井上 沙織 (さ)

ototoy編集部で日々山盛りの仕事に囲まれながら、素敵な音楽や人との出会いを探しています。

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