2009/05/19 00:00

カジヒデキが新作BLUE BOYS DON'T CRY e.p.をリリースした。コーラスが可愛らしい「passion fruits」、ゲスト・ボーカルにBEAT CRUSADERSのヒダカトオルを迎えたパンキッシュなシンセ・ポップ・チューンの「The Sweetest Love」、ヘアカット100のカヴァー「Favourite Shirts (Boy Meets Girl)」、そして昨年公開された映画「デトロイト・メタル・シティ」の挿入歌「Sally My Love」と、実にカラフルな仕上がり。


彼の作る楽曲は、驚くほどポップでわかりやすく、青々としている。それは彼が「渋谷系」と称されていた頃から変わらない。

passion fruits」のプロモーション・ビデオの撮影中、強盗に襲われるという事件に遭った彼。そのことについて訊ねてみると、もう何も気にしていないかのように、おだやかな声のトーンで「大丈夫です」と言い、第2の故郷でもあるスウェーデンの良さを、目を輝かせながら語ってくれた。

彼が考える「ポップ」とは、何なのか? 話を訊いた。

インタビュー&文 : 井上沙織

INTERVIEW

Embedded Myspace video is no longer suported.


わかりやすくて明るい曲の中に、毒を入れていければいいなと思ったんです

—「passion fruits」のPVをスウェーデンで撮影することになった経緯を教えてください。

K : もともと監督のニルスと仲が良くて、彼に頼めば確実にいいものが出来ると思ったんです。パイナップルが出てくるストーリーは彼のアイデア。YOUTUBEなどを参考にしながら、どういうビデオを作るかを話し合っていくうちに、彼のほうから「着ぐるみはどうかな? 」っていう提案があったんです。僕は、ホット・ドッグの着ぐるみが出てくるプリファブ・スプラウトの「The King of Rock n' Roll」」のPVが面白くて好きなので、それはいいアイデアだなあと。

—なるほど。では、何故パイナップルを選んだのですか?

K : ある日いきなり「こういうのはどうかな? 」って、彼がパイナップルの着ぐるみを着てトランポリンの上でジャンプしている写真を送ってきたんです(笑) 結局それがPVの終盤のシーンになりました。パイナップルの中に入っているのが僕だってわかるのは、たった一瞬。殿様が鯛を一口つまんで「あとはもう下げろ」って言うような贅沢さがありますよね(笑)

—スウェーデンを選んだのは何故なのでしょうか?

K : 90年代頭、エッグ・ストーンというバンドがとにかく好きだったんです。曲もアレンジも良かったんですけど、何より音が好きだったんですよ。彼らは「タンバリン・スタジオ」っていうスタジオを持っていて、カーディガンズもそこで録音していた。その音があまりにも素晴らしいので、95年に彼らに会いに行ったんです。そこで意気投合して、96年からそこを使うようになったんです。それから毎年行っていますね。スタジオがすごくいいんですよ。手に入れることが難しい面白い機材がたくさん揃っていて、日本では録れない音が録れたりするんです。


—あなたの音楽的な背景を聞かせてください。

K : 一番影響が大きかったのはイギリスのニュー・ウェイヴです。中学生の頃に聴きだしてはまって、高校に入ってからはパンクが好きになった。ニュー・ウェイヴから掘っていったらパンクに出会ったんです。セックス・ピストルズやクラッシュみたいなオリジナル・パンクも好きでしたけど、すぐにゴシック・パンクにはまりました。その頃はアメリカのMTVでやっているようなヒット曲も好きだったし、日本だったらYMO等のテクノも好きだった。それと同時にポップなものも好きで、日本のインディーものもよく聴いていました。

—カジさんはポップなイメージがあるので、パンクを通っているとは意外ですね。

K : 自分の中ではポップ・ソングもパンクだと思っています。聴いた人がそう感じてくれなくてもいいんですけど、自分の中ではものをつくるときにはいつもパンクが大きくあるんです。人の作品を聴いていても、その人が実際にパンクを通過していないと共感できないというか、そのアティチュードがない音楽は信じられないですね。

—UKからの影響というのは、大きいのでしょうか?

K : 大きいですね。時代に関わらず、ずーっと好きです。80年代のUKのニュー・ウェイブを好きになって、90年代はブラーみたいなブリティッシュ・ポップや、もちろんパステルズみたいなインディ・ポップだって聴いた。いろんな国に行ったし、もちろんスウェーデンも好きですけど、やっぱりロンドンが一番自分に合っていると思うんです。カルチャー、歴史、ファッション…全部ひっくるめて好きなんですよ。

—では、いつ頃から今のようなポップ・ミュージックを作るようになったのですか?

K : 例えばアズティック・カメラとか、いわゆるネオ・アコースティックのバンドも平行して好きだったんです。本格的にはまりだしたのは20歳過ぎですね。当時やっていたゴシック・バンドを辞めたのが大きな転機で、その時からよりポップなものを演奏するようになりました。ポップにこだわりたいと思うようになったんです。ゴシックの中にもポップな要素はあったんですけど、なかなか伝わらなかった。とは言えストレートなポップ・ソングも苦手なので、わかりやすくて明るい曲の中に毒を入れていければなと思ってやっていました。

当時、情報は今みたいに多くはなかったけど、面白いものはいっぱいあった。ノイズとかインダストリアルとかも聴いたし、アヴァンギャルドなものも好きだったんですよね。そんな中でフリッパーズ・ギターの前身バンドのロリポップ・ソニックをたまたま観る機会があって、彼らを観てからよりネオ・アコースティックの音楽を深く好きになった感じですね。


小山田君が「これから渋谷系って言う言葉がメディアに出るらしい」っていう話をしたんです


—あなたが20歳の頃には渋谷系という言葉はあったのでしょうか?

K : その頃はまだですね。渋谷系って言う言葉が生まれたのはフリッパーズ・ギターが解散した後なんですよね。小山田君がコーネリアスを始めた頃。最初にその言葉が生まれたときのことをよく覚えています。皆で遊んでいるときに、小山田君が「これから渋谷系って言う言葉がメディアに出るらしい」っていう話をしたんですよね。当時HMV渋谷で太田浩さんっていうバイヤーの人がいて、気に入ったアーティストだけをレコメンドするコーナーがあったんですよ。そこでオリジナル・ラブ、ピチカートファイブ、小沢健二君やコーネリアスがレコメンドされていて、更に僕らのバンド、ブリッジのCDも一緒に置いてくれた。それが当時の若者に受けたんですよね。だから渋谷系という言葉は太田さんが作ったといっても過言ではないんです。

—当時を振り返ってみて、どうですか?

K : 面白い時代だったなと思います。僕もフリッパーズ・ギターを好きだったし、自分達がそう呼ばれることが嬉しかった。やっている音楽はそこまで近くないのに、みているところやバックボーンが同じだったと思う。60、70、80年代と、いろんな時代の音楽を聴いて、自分達なりに解釈してオリジナルを作っていくっていう姿勢は皆一緒だったんじゃないかな。

—あなたはシンガー・ソング・ライターとして活躍する一方で、DJもやられていますね。

K : 去年の7月から「BLUE BOYS CLUB」っていうイベントを2ヶ月に一回オーガナイズしています。1年位前までロンドンに住んでいて、インディーの音楽がかかるパーティーやイベントによく行っていました。向こうはライブの合間にDJをやることが当たり前だし、DJのイベントだけど、必ずライブが2〜3バンド入ってて。日本に戻ってきて、そんなことが自分もやりたいなと思って始めました。

—最後に、見た目も楽曲も常にフレッシュな秘訣を教えてください。

K : 自分がこだわりを持っている部分を枯らさないようにしたいと思っています。自分が好きなものや培われたセンスって10代〜20代で確立したと思うんです。特に10代の後半に得たものの影響は大きい。その頃に好きだった音楽や映画って色あせずにずっと残っていますから。

例えば、僕は16歳のときにジャン=リュック・ゴダールの「勝手にしやがれ」と「気狂いピエロ」を観てヌーベル・ヴァーグにすごくはまった。ゴダールとか今でこそ親しみやすいけれど、当時はおしゃれでもなかったし、小難しい感じだった。でも、パンク・ミュージックをはじめて聴いたときの衝撃と一緒で、とんでもないものに出会ったなあと思った。 そんな昔影響を受けたものって今見ても新しい発見があるんです。例えばゴシックの音楽にしても、ここ2〜3年はイギリスを中心にネオ・ゴスみたいな流れがあって、20歳くらいの若い子達が60年代のスウィンギン・ロンドンとゴシックをミックスしている。そうやって面白いものは常に追っていたいし、いつもわくわくしていたい。僕は刺激を求められなくなったら老けちゃうんだと思います。

「渋谷系」「ポップ」「イギリス」に反応したあなたにレコメンド!



LIVE SCHEDULE

BLUE BOYS CLUB SPECIAL

  • 6月12日(金)@原宿 ASTRO HALL
open / start:24:00
LIVE : NEiLS CHiLDREN / PLASTICZOOMS / 他
DJ : カジヒデキ / K.I.N.K (ALPHAVILLE RECORDS) / 他


BLUE BOYS DON'T CRY tour

  • 7月13日(月)@渋谷 CLUB QUATTRO
open / start:18:00 / 19:00
  • 7月15日(水)@心斎橋 CLUB QUATTRO
open / start:18:00 / 19:00
  • 7月17日(金)@名古屋 Electric Lady Land
open / start:18:30 / 19:00


ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2009

  • 7月31日(金)@茨城・国営ひたち海浜公園


LINK


PROFILE


カジヒデキ

97年のデビュー・アルバム『ミニ・スカート』から『LOLLIPOP』まで、11枚のオリジナル・アルバムをリリース。また楽曲提供、プロデュースや継続的に多くのCMソングを手掛ける。スペインのSIESTA RECORDSから“Hideki Spaghetti”名義で新作リリースや、イベント“BLUE BOYS CLUB”の主宰、そして去年公開された「デトロイト・メタル・シティ」への楽曲提供、出演など精力的に活動中。 


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この記事の筆者
井上 沙織 (さ)

ototoy編集部で日々山盛りの仕事に囲まれながら、素敵な音楽や人との出会いを探しています。

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[インタヴュー] カジヒデキ

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