2009/04/01 00:00

トクマルシューゴが新作で描いた架空の国とは?

「自分が好きなものを全部出して、自分の中でスタンダードなものを作るために」

 世界が注目した『EXIT』に続く新作ミニ・アルバム『』をドロップしたトクマルシューゴ。ピアノからノコギリまで、100種以上の楽器を繰り、作詞・作曲・編曲・録音の全てを手がけてきた彼が、今回はライヴのメンバーとともにレコーディング。出口(EXIT)の先には、素敵な架空の国が広がっていた。

インタビュー & 文 : 今井智子

INTERVIEW

ー表題曲「Rum Hee」は、バンドでの録音ですね。

トクマルシューゴ(以下 : T) : 前作『EXIT』でやりきれなかったことを、今回やりたいというのがあって。これをやっておかないと次が散漫になると。それでやってみたいこと、例えば外部の人間をいれたり、ドラムを入れてみたりとか、そういう派手な作品を作ってみたいとか、いろいろ目的があって

ーそれは自分に課したテーマですか?

T : だいぶモヤモヤしてたものがあって、前作を作った時には、次の4枚目を作る時になったら一人でアコギで弾き語りでもしようってイメージもあったんですが、それも子供っぽすぎる考え方だなと思って。そういう凝り固まった考え方はやめよう、と。例えば今までやってなかったこともやったり、うるさいのも静かなのも入れたり。自分が本当に自分の好きなものを全部出して、次のアルバムで自分の中でスタンダードなものを作るために。

ー「Rum Hee」は架空の国のイメージだそうですね。

T : 窓から見えた宇宙空間的なところに、烏賊的なものが飛んでる感じ。それがジャケットの緑色の部分なんです。

ー「アラスカ」は?

T : アラスカという言葉の響きが好きというのが強いですね。

ー「INATEMESSA」は意味不明ですが。

T : これは、逆さに読んで行く感じですね。

ー「サメテナイ」? なるほど。それは自分が醒めてないの逆という意味で?

T : いや、逆に読んだら面白かったので。書いてあったんです。

ー詩を書くのに夢日記をつけているそうですが、これもその日記から?

T : そうです。どんな夢見たのかわからないけど、書きなぐってあったんです。

ー資料には「100の楽器を繰る男」と(笑) その中にヴォーカルも含まれるんでしょうか?

T : 本当は、始めた10代の時には、いつか歌の巧い人に歌ってもらうんだと思っていたんですけど、だんだん自分で、これでいいんじゃないかと思って。自分で歌ってますね。歌もの、好きなんですね。

ー「Rum Hee」は先行シングルにもなっている新曲ですが、「VISTA」「TYPEWRITER」「PARACHUTE」は既発曲の新録音。これはどういった意図で?

T : ライヴをやるうちに、元の音源とはだいぶ違う形になってきたので、それを今の形で一度残しておきたいなと思って。これはいい機会だと思って。一人でライヴをやって、一人で演奏したものもあるんですけど、バンドで、他人の力を借りてやったものもあって、それはそれで違うものになった。それで1回手を打つというか。

ー中間報告的な(笑) トクマルさんにとってライヴも大きな意味がありますか?

T : 初めはないと思っていたけど、なんだかんだありましたね。やっぱり人と一緒に演奏して行くうちに、音楽も変わって行くし。

ーそれは不本意じゃないんですか?

T : 全然不本意ではないですね。基本的に全部自分が主導権を握っているので。

ーバンド・マジック的なものは求めない?

T : あまりリハーサルをしないので、ライヴで演奏しているときはありますけど。譜面渡して、「これやって」って。敢えて練習しないでライヴに臨んで、何が起きるかなって言うのを楽しみに(笑)

ー(笑)1月にムーンライダーズの対バンで新宿ロフトに出演していましたが、あの時もリハなしで?

T : 全然リハーサルやってないですね。あの5人編成は初めてだった。

ー緊張感のある演奏が好きなんですね。

T : 自分一人でずっと演奏していたから飽きていて、そういうところに楽しみを見いだしている感じがあります。ホントに酷い時もあるので(笑)

ーお客さんにいい演奏を聴かせようと言うより、自分が楽しく納得出来るかどうかが大事?

T : 初めはそれが基本かなと思うんですけどね。自分たちが楽しんで、それをお客さんに見てもらって、どう感じてもらうか。楽しんでもらえたらいいですね。

ーレコーディングでも同様ですか?

T : 全部自分で作ってしまうし、自分でコントロールするから、完全に僕のものなんですけど。今回、ミックスはZAKさんにお願いしたんですけど、面白かったです。僕も自分のミックスを半年ぐらいかけて作ったんですけど、あの人は1日で作っちゃって。

ーマスタリングはNYですが、立ち会ったんですか?

T : 行かなかったですね。

ースタジオのスピーカーで聴かないと納得いかないのでは、とか思ってしまいますけど。

T : スタジオのスピーカーで聴いちゃうともうそれだけでいいなと思っちゃうんですよ。なので、自分の家の、使い慣れてるもののほうがいい。

ー「Rum Hee」は2つのリミックスがはいっていますが、リミックスは自分で全部コントロールするのと正反対のことですよね。

T : 僕が想像もしなかったことが出てきたりするので、他人はこういうところが好きなんだなとか、こういうところを面白いと思ってくれてるんだとわかる。そういう意味でいいと思います。特にこの2つの作品は、普通のリミックスっぽいリミックスじゃないんで、面白いと思います。

ー10代の頃に2年半ほど渡米されたそうですが、その目的は?

T : 音楽やってて、アメリカってやっぱり面白いなと思って。単純に日本の何十倍も広くて、音楽に深みがあるというか。そこに憧れというか強い意識はあったんですけど、アメリカに染まりたいとかじゃなかったですね。

ー初作『Night Piece』が米インディー・レーベルからリリースされて以後、海外での評価が先行しているようですけど、歌詞は日本語が中心ですね。

T : やはり日本語の歌は好きだし。そこは全然深く考えてないですね。

ー日本語の響きが好き、とか?

T : そういうわけでもないんですけどね。英語の方がカッコいいと思ってるかもしれないけど僕は日本語しか出来ないので、日本語で歌っているというのもあるんですけど。

ー欧米の人にも伝わるように英語で歌おうとか思いませんか?

T : あ〜、ひとの為に音楽作った事がないんですよ、たぶん。聴かそうという気がなかったんでしょうね、初めは。自分のために、自分が聴きたい音楽を作っていたので、単純に日本語になっていた。

ーそれが今も変わらず続いている、と?

T : そうですねえ。

ーくどくて申し訳ないんですけど、海外で音楽をやりたい、みたいな気持ちは?

T : 全然なかったですね。海外でやるって言う考え方はなかった。

ー当時興味があった音楽とかアーティストは?

T : 今とあまり変わらないですけどね。アメリカでしか見れないような、現地のジャズ・ミュージシャンとかブルース・ミュージシャンとか、そういう大御所たち。それで、いろいろ諦めた事もあります。本当にすごい人たちを見ちゃうと、自分が出来る音楽が、だんだん狭まって行っちゃうんですね。出来る事しかやらない。出来ない事を削って行くと、削って行った結果、こうなったっていう感じです。10代の頃はパンクとかすごく好きだったし、流行物も一杯聴いてたし、でも自分では出来ないなと思って、じゃあ何が出来るんだろうなと思って、いろいろ探してたんです。

ージャズも勉強されたんですよね?

T : ジャズもやりましたね。即興って面白いなと思って。即興やる人は全員ジャズが出来るもんだと思って(笑) そしたら全然そうでもなくて。

ー即興に興味があったんですか?

T : そういうのが好きだったというのもあるんですけど、10代の頃プログレも好きで、プログレやる人は長い時間演奏してる。これはもう完全に即興でやってるんだと思ってて。カッコいいなと思って、そういうのが出来るようにと思って学んだんですけど、全然役に立ってないですね。

ー延々ギター・ソロ弾くような姿に憧れたりしてたんですね。

T : そうですね(笑) それで、ピアノをギターで出来ないかなとか思って、ライヴで変な押さえ方してるとか言われたり。

ー(笑) それも自分にしか出来ない事を模索した結果ですか?

T : 本当に、出来るものを探してた感じですね。自分に合うものは何だろうなって。

ー即興好きでプログレ好きで歌ものも好きって、幅広いですね。

T : プログレってすごい長い即興の後に、突然歌が入ってきたりする、あれはたまらない。

ー好きなシンガーはいますか?

T : あまりいないんですけど、心を許せる人が一人だけいて、Pavementのスティーヴン・マルクマス。あの人は何やってもいい。どんなによくない曲でもいい。たまにイラッとするんですけどね、絶対外すと思ったところで音を外す(笑)

ー(笑) 帰国時の気持ちは、いろいろゲットしたなあという充実感と、それとも圧倒されて意気消沈といった気持ちと、どちらだったんでしょう?

T : 後者ですね。本当に、すごいものを見せつけられたなあって言うのが強かった。日本に帰ってきて、ライヴ・ハウスとか行って愕然としましたね。深みの違いと言うか。でも面白いものは、ずっと追いかけてきたんですけど。

ー今は帰国時のような不満はないですか?

T : そうですね。すごいことやってる人たちは一杯いて、その人たちが大きく受け入れられる土壌がないというのもあるんですけど、一般人の身近にすごい人がいないというか、すごい人は遠い存在。アメリカだと、毎日すごい人たちが、その辺でライヴやっていて、すごくいいなあと思う。

ー身近にいてくれたらいいと思う人は?

T : 日本の大御所と呼ばれるような人たちが、その辺のライヴ・ハウスでやってくれたらいい影響になるだろうし、そういう感覚が欲しいなというのはあります。大阪はそういうのが強いですよね。

ーそういう人に自分でもなりたいと思います?

T : いや〜、なってほしい人は沢山いるんです。さんみたいに(笑)

ー今後は、どういう風に音楽をやって行きたいと考えていますか?

T : 今の感じでずっとやっていきたい。望みは特にないです。

RELATED ARTIST




シャンソンシゲル『#1DAD』
GELLERS、トクマルシューゴ&ザ・マジックバンドにドラマーとして参加する新町慎悟のソロ・プロジェクト。ドラムやパーカッション、ギター、鍵盤などの演奏をすべて担当し、4トラックMTRによる多重録音で制作される作品。自身の声を加工して、声を”唄”ではなく”音”のひとつにしたりノイズを加えるなど、非常に実験的なサウンドでありながら、どこか懐かしい温かさや、音作りに対する純粋な楽しさを感じる。




OORUTAICHI『Drifting my folklore』
『Rum Hee』に、リミックスにて参加しているOORUTAICHI。ウリチパン郡ではギタリスト、ボーカリストとして活躍している彼の2002年に発売されたソロ・アルバム。ヴァイナル・レコードで発表され現在では入手困難になっている曲を含めた6曲から構成されており、初期のトラックから最新の曲までを網羅したベスト・アルバム的な内容です。





SAKEROCK『ホニャララ』
トクマルシューゴ&ザ・マジックバンドに参加する田中馨のバンドSAKEROCK。インディーでインストなのに、こんなにも聴きやすくてハッピーな作品は他に類を見ない。快晴の空のように痛快で、熟成された古酒のように芳醇な最高のサウンドが詰まっております。




DEERHOOF『Friend Opportunity』
こちらも『Rum Hee』にリミックスにて参加している、KILL ROCK STARSの中で最もキャリアの長いバンドであるアヴァン・ポップ・バンド"DEERHOOF"。ジャキっと攻めたギターとリズムでキテレツな展開を施すバンドですが、なんといっても日本が誇る女性ボーカル「Satomi」によるメルヘンかつ魔法が使えそうな歌声がフワフワしていて最高です。

LIVE SCHEDULE

  • 4/10 (金) @心斎橋MUSE HALL
  • 4/26 (日) ARABAKI ROCK FEST.09@エコキャンプみちのく
  • 5/8 (金) Rum Hee レコ発記念イベント〜Ver 0.5〜@目黒パーシモンホール 小ホール
  • 5/15 (金) Rum Hee RELEASE TOUR 2009@吉祥寺STAR PINE'S CAFE
  • 5/29 (金) Rum Hee RELEASE TOUR 2009@木屋町UrBANGUILD
  • 5/30 (土) Rum Hee RELEASE TOUR 2009@名古屋KD JAPON
  • 6/25 (木) 『キセルとトクマルシューゴ』@恵比寿LIQUIDROOM

LINK

トクマルシューゴ

カラフルでドリーミーでありながら翳りを帯びた美しい楽曲の数々を収めたデビュー作『』(2004)、セカンド・アルバム『L.S.T.』(2005)の相次ぐ海外リリースによって、一躍世界で最も注目される若手日本人アーティストのひとりとなった東京出身のポップ・マエストロ。100種類以上の楽器/非楽器を操い、レコーディングからミックスまで全てをひとりで行う。そのライヴ形式は、ソロ、トリオ、カルテットなど様々だが、8人編成の「トクマルシューゴ&ザ・マジックバンド」としてのステージには、の田中馨、Harpy/d.v.d.のイトケン、 LOVES.の岩谷啓士郎らも参加しており、そのマジカルなポップ・ワールドがライヴならではのダイナミズムを伴って展開される。2007年10月にサード・アルバム『EXIT』を日本先行でリリース。 2008年夏にはUS盤のリリースも予定されており、イギリス、スウェーデン、韓国等でも順次リリース予定。

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この記事の筆者

[インタヴュー] トクマルシューゴ

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